第十七話 マルセリナ様と勉強会
2025.12.2 一部、加筆修正しました。
今日はパティが通うマカレーナ女学院が休みの日。
パティとエリカさん、私の三人で歩いて屋敷から近所の大聖堂へ向かう。
パティと違いエリカさんはあまり信心深くないので、必要最低限しか教会へ行ったことが無いという。
だからマルセリナ様と直接対面するのは初めてらしい。
大聖堂へ行く目的はマルセリナ様が所持しているフルリカバリーの魔法書を、私が勉強するために貸してもらえるのかどうかを尋ねること。
大聖堂へ到着し、パティが神父さんを見つけて話をすると、今回はマルセリナ様の書斎へ通された。
パティが一連の用件を話し、話はエリカさんへ変わる。
「まあ、あなたが高名なエリカ・ロハス様なのですね。初めまして」
「お初にお目にかかります、マルセリナ様」
エリカさんはマルセリナ様に、私が光属性の高位魔法が使えるという将来性を話した。
その高位魔法であるフルリカバリーの魔法書を貸してもらえないかと頼んで見たが……
「わかりました。この書斎にあるフルリカバリーの魔法書は貴重な書物なのでお貸しすることは出来かねますが、私がここでお教えすることは可能です」
「ありがとうございます。それで、いつからでしょうか?」
「そうですね…… マヤ様には早速明日からこの部屋で勉強して頂こうかと思います。お昼過ぎの小一時間ほど、毎日通ってもらうことは出来ますか?」
「わかりました。よろしくお願いします」
なんとマルセリナ様から直々(じきじき)にご指導頂けるなんて思いもしなかった。
恐らくお昼休みの中で時間を作ってくれたのだろう。
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大聖堂から屋敷までの帰り道。
エリカさんがいつものように私を冷やかす。
「ねえねえ、マルセリナ様って近くで見たらめちゃくちゃ綺麗じゃない。明日から毎日会えるんだよねえ。マヤ君惚れちゃダメだよぉ いっひっひ」
「確かに綺麗な方だけれど、そんな偉い人と滅多に相思相愛になれるもんじゃないさ」
「でもマルセリナ様が自らお勉強を教えて下さるなんて大変素晴らしいことですよ。いいなあ。私も学校を休んでご一緒したいですわ」
「パティは勉強が好きなんだねえ。私はどちらかと言えば勉強は苦手なんだ」
「魔法を使うにはどうしても勉強は必要ですから、しっかりやって頂きませんとね。頑張って下さい。うふふ」
「私も有名な魔法使いなんだよお。人に教えてあげるなんて滅多にしないよお。帰って早く私と楽しく勉強しましょうよぉぉ」
エリカさんはそう言いながら、私の腕に絡みつき頬ずりしてくる。
綺麗な女性にそうされるのは嬉しいはずなのに、どうしてこの人からは鬱陶しく感じるのだろうか。
「やめて下さいエリカ様! マヤ様を毒牙に掛けるなんて私が許しませんから!」
今度はパティが反対側の腕に絡みついて、エリカさんに怒っている。
パティから毒牙という言葉が出るとは、エリカさんからのちょっかいをどこまで見られているのだろうか。
「えぇぇ 毒牙なんて酷いぃ。私はマヤ君を癒やす一輪の花なのだよ」
エリカさんはブレないな。さっきからぶりっ子みたいなしゃべり方をしてるし。
一輪の花でもエリカさんの場合は花に隠れていた虫に刺されそうだ。
そんな調子でワイワイ言いながら屋敷に帰り着いた。
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翌日のお昼過ぎ、マルセリナ様の書斎でフルリカバリーの勉強が始まった。
基本的に魔法書を使っての勉強であるが、マルセリナ様なりに回復魔法の基礎からスモールリカバリー、ミディアムリカバリーの順で改めて習う。
学習の途中で、マルセリナ様は私にこう尋ねてきた。
「マヤ様、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」
「その…… 若い殿方は…… 女性のことをいつもお考えなのでしょうか?」
「え? それはどういうことでしょう?」
「私、こうやって若い殿方とプライベートで二人きりなるのは初めてなので、このような質問をしたんです。先日【マジックエクスプロレーション】であなたの手を握ったときに…… なんと言いますか、ドキドキしましたので……」
んんっ?
あの時、エッチなことを考えず頭をからっぽにしていたはずだったのにどうしてだろう?
私の性根がバレたのだろうか。
「確かに…… マルセリナ様の手がとても綺麗で、お顔も美しくて緊張してしまいました。それで私もドキドキしてしまったんです」
と、無難に答えておいた。
「まあ。マヤ様からそのようなことをおっしゃられるとは嬉しいですわ。私の容姿を褒められたことは何度かありますが、人前での社交事例的な言葉でしょう。男性から個人的に、しかも手が綺麗だなんて言われたのは初めてでとても嬉しいです」
マルセリナ様の顔は白い肌がほんのりピンク色に染まり、照れている様子。
うーん、これはどうしたものか。
「その…… 宜しければ勉強の通いが終わっても、時々遊びにいらして下さいね」
「いいんですか? とても光栄です」
まさか私が、聖女様のような方に気に入られるとは思ってもみなかった。
男性慣れはしていないだろうし、ずっと純潔を守ってきたと思われる。
昔の聖女様とはそんなものだとは思っていたが、この世界の聖職者は結婚したりするんだろうか?
思いきって聞いてみる。
「マルセリナ様、サリ教の教会の方は結婚が可能なのか、それで結婚されてる方はいらっしゃるんですか?
「はい、サリ教の聖職者は結婚が可能です。ただ他の方とは違い、浮気したり離婚するとけじめのために重い罪になります。教会内の神父と修道女でご結婚なさる方もいらっしゃいますが、特に外の方からは神聖な空気を遠慮してか、なかなか異性にご縁が無い場合が多いんです。それで結婚されない方も多いので、私も……」
「うーむ…… そうだったんですか……」
マルセリナ様は素直に事情を話してくれた。
この場ではこれ以上踏み込まず、勉強を再開した。
本が見やすいよう隣に座って勉強しているので、彼女の横顔を見ると化粧をしていないのに白雪のような美しい肌につい見とれてしまう。
こんな綺麗な肌を保つのに、スキンケアはどうやっているんだろうと思いつつ。
私の様子に気づいた彼女は、にっこり微笑んだ。
まさに天使のようである。
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屋敷に帰ると庭のテーブルで本を読んでいる、淫魔みたいなエリカさんがいた。
マルセリナ様とまるで反対なのが可笑しい。
「何ニヤニヤしながら帰ってきてるんだい? ま、まさかマルセリナ様にまで手を出していないだろうね?」
「そんなことあるわけないじゃないかぁ ハッハッハッ」
と、笑って誤魔化した。
まさか教会内でエッチな展開があるわけなかろうが、マルセリナ様の美しい銀髪と顔を眺められるだけでも幸福に思う。
あわよくば、マルセリナ様がつまづいて私に抱きつくということがないかなと、妄想が捗る。
明日も楽しみだなあ。




