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第百七十四話 神殺しの禁呪

 身体が動かない…

 無理して高度な光属性の魔法を並列処理しながら使ったので、脳みそがオーバーヒートしてしまった。

 馬鹿だな… 俺

 あれだけエリサレスに攻撃しても意気揚々だし、パティまで殺されてしまいそうだし、私は力尽きて動けない。

 何にもならなかった…

 ごめんよパティ。ごめんよみんな…


 ザクッ ザクッ ザクッ


『ふっはっは。まだ治癒が出来るのか。なかなかしぶといな。』


 エリサレスはまた私の左腕を刺す。

 痛すぎて痛みがよくわからない。

 ああ… 日本で交通事故に遭って死んだときもそうだったっけ…

 また死ぬのかな…

 サリ様、また俺を拾ってくれるのだろうか…

 自分の身体を治癒するのに自分の精神が死んでいくなんて、マクロ術式ってやつは楽する故にハードウェアに負担を掛ける、どこかのコンピューターアプリケーションみたいだな…


 パティは側で座り込んで泣いている…

 まだ十三歳の女の子だから怖くて当たり前だろう。

 ん…? エリカ…さん?

 いつの間にかエリカさんがパティの前に立っていた。


「マヤ君… こんなに血まみれになって…」


「エリカ…さん…まで… なんで… ここに… 来るんだ…

 パティを連れて… 帰って… くれ…」


 エリカさんが悲しそうな目で私を見つめる。

 何をしに来たんだ?


『なんだおまえは?

 私が楽しんでいるところに邪魔をするな。』


 エリカさんはボロボロ衣服のエリサレスに構わず、しゃがみこんで私の上半身を起こし、後ろから抱きかかえる。

 何か魔法をかけているようで、朦朧(もうろう)としていた頭がスーッとしてきた。


「今ソーバーの魔法を掛けたわ。幾分スッキリしたはずよ。」


『ずいぶんずうずうしいやつだな。何者だ?』


「私は一介の魔法使い。次の相手は私よ。」


『はあ? おまえみたいな雑魚などお遊びにもならん。失せろ。』


「魔族の弟子だと言ったら?

 お遊び以上には楽しめるかもよ。」


『ほう。少しだけ見てやろう。つまらなかったらすぐ殺してやる。』


 魔族の弟子… その魔族とは勿論魔女アモールのことだ。

 あの魔女なら何か対抗できる魔法を作っていたのかも知れない。

 期待してもいいのだろうか。


「ねえマヤ君。そういうことだからパティちゃんを連れて出来るだけ離れてね。」


「何をする気なんだ?」


「ん… エリサレスがそこにいるし、説明している時間は無いの。

 私が何とかするから… ね」


 エリカさんは小声でそう言った。

 彼女の今まで数が少ない、年上の女性らしい頼りになりそうな言葉だった。

 実際に年上なのは私だが。


「それからね… これを預かって欲しいの。」


 エリカさんは首の後ろに手を回し、いつも身に着けていた緑色のペンダントを外して私の首に着けた。

 確か魔女アモールからもらった物だと聞いたが、詳しいことは知らない。


「私だと思って肌身離さず持っていてね。

 机の引き出しに入れたまま忘れちゃだめよ。

 それじゃあ… やってやるか!」


「エリカさん!? うわぁぁぁぁぁ!!!!」


「きゃぁぁぁぁ!!!!」


 彼女はグラヴィティと風魔法を使って強引に私とパティをジュリアさんたちがいるところまで吹き飛ばした。


「何をする気だぁぁぁぁ!! やめろぉぉぉぉ!!!!」」



(エリカ視点)


 マヤ君とパティちゃんには軽い痺れの魔法も掛けておいた。

 これで数分は動けないわ。

 さて…


「待たせて悪かったわね。」


『神を待たせるとは、おまえは度胸があるのか、厚かましいのか。

 待つ方の私もどうかしているが、マヤとの戦いでこれほどの刺激を受けたのは久しぶりだったせいかねえ。ふっふっ』


 エリサレスを倒すのはこれしかない。

 神殺しの禁呪、【デウスインテルフェクトル】…

 人間が使うのは初めてだから、私はどうなるかわからない。

 あのババァ、人間が使うと命の保証は無いと言っていた。

 でもね… あのままだったらマヤ君は死んじゃう。

 マヤ君が死んで私が生きているなんて、私は耐えられない。

 マヤ君が生きていたほうが私は幸せよ。

 ……どうしてだろうね。

 ちょっと前までの私なら、こんなことを考えるなんてあり得なかった。

 マヤ君と出会ってから男を愛することを初めて知った。

 自己犠牲なんて愚かなことだと思っていたけれど、今ならわかる。

 二年足らずだったけれど、人生で一番楽しかったなあ。

 この時があったこそ、私の人生に悔いは無いわ。

 大好きよ… マヤ君…


---


 今から八年前、私がピチピチプリプリの十八歳だった頃は、男気が無い…いや誰一人と人間がいない魔女アモールの館で魔法の修行をしていた。

 ああ、今もピチピチギャルだからね。


 ある日、お師匠様が出かけている隙に館の書斎へこっそり入って、面白い魔法書が無いか探していた。

 書斎といっても全体的には図書館並みに広く、その一角にお師匠様の小部屋があってそこへ入ってみたかったの。

 いつもはお師匠様がよくいるから入ることは出来ても勝手なことは出来ないし、いないときは魔法で鍵を掛けられている。

 ところがお師匠様に内緒でアンロックの上級魔法を会得し、ついに小部屋の扉を開けることが出来た。


 カチャ


「やったわ… 九十五回目でやっと開いた…」


 上級魔法といえどお師匠様がかけたマジックキーは厳重だから解読にそれだけ回数がかかってしまった。

 中級魔法だと恐らく数万回かそれ以上かかるので開けることは実質不可能だ。


「前から気になっていたのよねえ。

 本棚の一番上の左隅にある黒くて小汚い魔法書。

 よっと…」


 私はグラヴィティで浮いて難なくその魔法書を取り出すことが出来た。

 そのままお師匠様のデスクに座って読んでみることにした。


「うわあ、すごく古そう。紙もボロボロ。

 気をつけて開かないと破れそうね。

 えーっと、なになに…

 読めるけれど、これお師匠様の字?

 今より下手くそなんだけれど。ぷぷぷー」


『この本を開く者は、生涯後悔することを覚悟すべし。

 神を滅ぼす究極の呪文が記されている。

 使う者は命を失うと思え。』


「…………ギャハハハハハハッ!!

 お師匠様ったら、痛々しすぎて腹が痛いわ!

 キャハハハッ!!」


 それでも神を滅ぼすって面白そうで読みふけってしまい、手持ちのメモ帳に大事な詠唱部分を書き写しておいた。

 だが時間を忘れて読んでいたのがまずかった。


 ギィ…


『私の部屋へ勝手に入って… 何してるの…』


「ギャー!! お師匠さまあ!!??」


 今日は帰ってこないと思ってたのに、何でえ!?

 またお仕置きされる…


『ああそれ… 昔作った神殺しの禁呪ね…

 おまえ… いや人間が使ったら命の保証は無い。

 魔族でも使える者はほとんどいないだろう。

 もっとも、神と戦う機会などおまえにはあり得ないがな。』


「おおおお師匠様は戦ったことがあるんですか?」


『その魔法を作ったときだから、遠い昔ね。

 で、それをどこまで読んだの?』


「全部です…」


『はぁ… おまえは頭だけはいいからもう学習してしまったんだろうけれど、神以外で使おうとしてもロックして発動しないようになっている。

 まあ、無駄なことをしたというわけだ…

 さてと… おまえにお仕置きをしないといけないね。

 それからさっさと私の机から降りなさい。』


「はわわわわわっ ひいぃぃぃぃぃ!!!!」


 あれから私はお師匠様に魔法で裸にひん剥かれ、亀甲縛りにされて館の玄関先に吊るされてしまった。

 もっとも魔族から見れば人間の裸なんて動物と同じ感覚だとわかっていたから、今更恥ずかしいとは思わなくなった。

 だが身動き出来なく晒されているのは恥ずかしいことなので、使用人のサキュバスやセルギウスにまでニヤニヤと笑われてしまった。

 幸いお客は来なかったし、吊されたのは夕食までだったからお師匠様にしてはそんなに怒っていなかったのかな。


 小部屋のマジックキーはもっと厳重なものにされてしまい、アンロックの上級魔法を三百回くらい掛けても開かなくなっていた。

 え? やってみたからわかったんだよ。


---


「エリサレス。とくと味わうがいいわ!」


『こざかしい。黙って見てるわけにはいかん。

 こちらも抵抗させてもらうぞ。はぁぁぁぁぁぁ!!』


 私は【デウスインテルフェクトル】の詠唱を開始した。

 両手を挙げ、エネルギーを集中させる。


「ディオス インプロス クイーンノク ムンド アパルウェント エヴァネシェーレ ヴォーロ

 慈悲無き邪神よ 我は一刻もとく汝に消えなむ 

 幾億万より遙か彼方 無間地獄に堕つべきなり

 かくてまた蘇るがなかるべく

 ヴァーレ! エリサレス!!」


『その呪文はっ!! まさかあの大戦の時の!!??

 魔族の師匠というのは、アモールのことかあああああ!!!!』


「そうよ。」


 挙げた手と手の間に緑色の光る球が発生し、一定の大きさになると形が崩れエリサレスを取り囲んだ。


『ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』



(マヤ視点)


「くそっ 身体がまったく動かない!」


「私もです! 魔法も封じられています!」


 私とパティは魔法でエリカさんに飛ばされ、ヴェロニカとジュリアさんがいる場所に落とされた。

 エリカさんが何か呪文の詠唱をしているのが聞こえ、両手を挙げた上にはバスケットボールと同じくらいの光る玉が出来ていた。


「エリカさん!! 死ぬつもりだ!!

 くそっ くそっ 動け! 動けぇぇぇぇ!!」


「ジュリア! なんとかならんのか!?」


「マヤさん! わたス、解除の魔法を掛けてみまス!」


 ヴェロニカが煽るとジュリアさんは私に寄り添い、エリカさんが掛けた麻痺と魔法封じの仕掛け魔法を解除しようとした。

 だが…


「ダメでス! とても特殊でわたスのような未熟者には解けません!!

 うわぁぁぁぁぁん!!」


「ごめんよ。泣かないでジュリアさん。

 未熟なのは私だ。

 ぐぉぉぉぉぉぉぉ!! エリカぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 俺の身体よ!! 動けぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「マヤ! 少し動いたぞ!

 私がおまえを負ぶって連れて行ってやるからな!!」


 ヴェロニカが私をもりっと背負い、全速力で走り出した。

 こんな時、体力バカである彼女の存在はありがたい。

 最初からこうすれば良かったのに、エリカさんも私も抜けているな…

 エリカさんらしいよ… はは…

 しかしエリカさんは魔法の発動を終え、エリサレスは緑色の炎に包まれていた。


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