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第百七十三話 苛烈なる死闘

 武術に長け、魔法防御力も常識外れなほど強力な、争いの女神エリサレス。

 首の骨を折られ死にかけたが、自動で発動するマクロ術式のフルリカバリーで回復することが出来た。

 だが、サリ様が来るまでの時間稼ぎすら()(すべ)が無い状況だ。

 一体どうすれば良いのだろうか…


『何をしている。どうせサリが来るんだろう?

 あいつが来るまでまで本気でやらないとすぐ死ぬぞ。

 もう少し楽しませておくれよ。このままでは興が醒める。』


「ふふ… 俺はサリ様が来るまでの余興かよ。」


『おまえは人間にしてはなかなか強いからな。

 サリが来るまで生きていたらアーテルシアについては見逃してやろう。

 到底無理な話だがな。あっはっはっ』


 本当かどうかわからないが、少しだけ生き延びる希望が見えた。

 私の魔力量は先日エリカさんに計ってもらったら30万弱だったのが40万以上に増えていたが、それを使い切るつもりで戦っていこう。

 目を閉じ、精神を集中させて魔力の出力をぐっと上げる。


「はぁぁぁぁぁぁ…」


 右手の平を前に掲げ、普段より強力なライトニングアローを発射させた。

 無数の光の矢が、エリサレスに目掛けて突き刺さる。


 キュンキュンキュンキュンッ ババババババババッッ


『ぬうううっ!』


 エリサレスは魔法障壁で耐えているようだが、光の矢をさらに強力にし続けて討つ。


『はっはっは… これがどうしたというのだ…』


「少しは効いているように見えるけれどな!」


 私は光の矢の出力をもっと上げ、方向をねじ曲げて後ろから左右から全方向でエリサリスを攻撃する。


『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


 エリサレスが叫んでいる。

 ダメージがあったか?

 中途半端ではすぐに反撃されるので、魔力を使い切るつもりで光の矢を続けて発射させ徹底的に叩く。

 光属性の魔法は威力が大きいが、燃費が良くないので急激な魔力消費は少し頭がくらくらしてくる。

 気を保ち、ずっと発射を続けた。


 五分も続けただろうか。

 光の矢が固まって光の玉のような物の中にエリサレスがいるはずだが、何もしてこないので様子がわからない。

 そろそろ攻撃を止めるか…


 攻撃を止めると光の矢の玉もフッと消える。

 そこにはボロボロになった服のエリサレスが平然と立っていた。

 そして私をギロッと睨む。


「バ、バカな…」


『痛かったぞ… 痛かったぞ!!

 人間のくせにここまでやるとは、おまえはやはり危険だ!』


 エリサレスは般若の顔のようになり激怒している。

 ダメージはそれなりにあったようなので、新たな攻撃をしてくる前にこちらからまた仕掛けることにする。

 私は再び精神を集中させ、魔力の出力を高めて手のひらに出現した光の刃であるライトニングカッターを連続してエリサレスに浴びせる。


 ヒューン ヒューン ヒューン ザザザザザザッッ

 ライトニングカッターはエリサレスの全身に突き刺さる。


『ぐうぅぅぅぅぅぅ!! それがどうしたぁぁぁぁ!!!!』


 それでもエリサレスには致命的なダメージを与えられず、腕をクロスし防御態勢になっていたが、腕をバッと広げライトニングカッターの光の塊を撥ね除けた。

 だが続けてライトニングカッターを放ち続け、それを変形させて太い光のリングをエリサレスに巻き付けた。


『ぐうううう… おのれえ!!!!』



 身動き出来なくし、再びライトニングアローで全方向の苛烈な攻撃を始めた。

 ここまでやってもエリサレスは倒せないだろうが、攻撃は最大の防御だとある少年漫画のセリフを思い出したので、それに習うとしよう。


「くぉぉぉぉぉぉぉ!!」



(エリカ、パティ、ジュリア視点)


「マヤ様の力ってこんなにすごかったんですか?

 これなら勝てるのではありませんか?」


「いや、エリサレスはダメージを受けているが力は衰えていないよ。

 あいつの魔力を感じてごらん。」


「な… 魔力が衰えているどころか、増大してきています…

 マヤ様!! 攻撃の手を止めた瞬間にやられてしまいますわ!!」


「はわわ… わたスたちが助けてあげられないでしょうか…」


「いくら私たちの魔力量が上がっても、マヤ君の二十分の一ぐらいしかないのよ。

 悔しいけれど、攻撃しても焼け石に水だわ…」



(ヴェロニカ視点)


 マヤの魔法攻撃はなんて破壊力なんだ。

 それでもエリサレスは耐えしのいだ。

 私など、とても入り込む余地がない。

 悔しすぎて自分に腹が立つ…

 サリ様が来るまでマヤを見守ることしか出来ないのか。



(マヤ視点)


 ヒュンヒュンヒュンヒュンババババババババ…


「はぁ… はぁ… はぁ…」


 強化させたライトニングアローでの再攻撃からとっくに十分以上が過ぎた…

 もう三十分やってる気もするが、魔法に集中しているため時間の感覚がわからない。

 気絶させるだけでもいい。

 精神力と魔力量が持たない…


「ぬううううううっ でぃええええええぃ!!!!」


 ズババババババババババババァァァァンッッ


 いかん… 目眩がしてくる。

 ダメだ… 魔力量はまだ大丈夫だが、気が持たない…

 脳の回転をフルブーストしていると負担が大きすぎる。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!! マヤさまぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 あ… 空が見える… パティの声が聞こえる…

 私は地面に倒れた。

 エリサレスが急速に走って近づいて来るのがわかった。

 ダメだったか…

 エリサレスは軽い火傷(やけど)のようなダメージしか負っていなく、スカートはボロボロ、右胸はおっぱい丸出しの姿だった。

 私の太股を踏みつけ、三叉鉾を持ってニヤリと笑みを浮かべる。


『痛かったぞ… うん?

 一息に殺してやりたいがこのままでは腹の虫が治まらん。

 礼をしてやらねばな。』


 エリサレスは鉾を振り上げ、私の右肩と腕の付け根をザクザクと突き刺す。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


『いい声だな。もっとだ。』


「がぁぁぁぁぁぁ!!!! かっ ぐあっ」


 さらに突き刺し、私の右腕は身体から離れた。

 だが自動的に発動するフルリカバリーですぐに腕がくっついた。


『ふふふっ 面白いな。

 これならいくらでも痛みが味わえるな。

 さてどこまで持つか。

 おまえの気力が尽きるか、魔力が尽きて治療が出来なくなるか。

 次は左腕だ!』


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 エリサレスは私の左腕をザクザクと突き刺し、また腕が身体から離れた。

 もう起き上がる気力も無い。

 マクロ術式のフルリカバリーを発動するだけで精神力に相当の負担がかかる。

 左腕はすぐに元に戻ったが、これ以上やられるとフルリカバリーが発動しても完全に元に戻らないかも知れない。


『まだまだ終わらないぞ。ハッハッハッ!』


 エリサレスは踏みつけていた太股から足を外し、今度は両太股をザクザクと刺す。


「うぐぁぁ…………」


 もう叫ぶ気力も無くなりかけている。

 あたりは私の血でまみれていた。

 太股の傷もフルリカバリーで何とか回復をしたが、こうも何回もやられてキツい痛みを感じ自分で治すのを繰り返していると、気が変になってきそうだ。


『さて、次はどこを刺してやろうか…』


「マヤさまぁぁぁぁぁぁ!!!!

 やめて下さい! エリサレス様!!

 どうかマヤ様を許して下さい…… ううう…」


 パティが駆け寄って、エリサレスの前に(ひざまず)き土下座した。

 エリサレスは彼女をギロッと睨む。


「やめるんだ… パティ。

 みんなここからすぐ離れるんだ…

 神に刃向かうことは無理な話だったんだよ…」


『小娘よ。マヤの言うとおりだぞ。

 邪魔するならおまえも殺す。

 ん? おまえはマヤのなんだ? 恋人か?』


「恋人です… フィアンセです!」


『そうか。いいことを思いついた。

 この娘を先に痛めつけてマヤの悲痛な顔を眺めるのも面白いな。』


 パティの顔が青ざめたのがわかった。

 そんな非道なことを… あんまりだ…


「や… やめてくれ… エリサレス…さま…

 それだけは絶対にやめてくれ… やめて下さい…

 お願い… しま…す… 何でも… する…」


『ハッハッハッ! マヤ!

 おまえはこの娘に相当入れ込んでいるようだな。

 だがアーテルシアに愛を教え邪神として使い物にならなくした罪は重い。

 その罪は償ってもらう。

 私たち邪神は世に必要な神だ。

 サリのような頭がお花畑の神ばかりでは世が堕落してしまう。

 邪神は数が少ないから一人でも減れば問題なのだ。

 天界でも存在が認められている。

 つまりおまえたちが言う、必要悪というやつだ。』


 前にサリ様から少し聞いたことだ。

 だが邪神を倒していけないのではない。

 私の力がまだ足りなかったのだ…


「だったら俺は死んで償う…

 その娘だけは助けてくれ…」


「ダメです! マヤ様はこの世に必要な方です!

 だったら私を殺して下さい!」


「パティ… 何てことを言うんだ…」


『おぅおぅ。なんと愛らしい。気に食わんな!』


 ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ

 エリサレスは私の腹や脚を突き刺し、またフルリカバリーで回復した。

 ああ… 意識が朦朧(もうろう)とする…

 気を失ったら治すことはもう出来ない…


「いやぁぁあぁあぁあぁ… やめて下さい… ぅぅぅ…」




(エリカ視点。パティが飛び出す時に戻る)


「いやぁぁぁぁぁぁ!!

 マヤ様がっ マヤ様がぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「待つんだパティ!!」


「パトリシアさまっ!!」


 パティちゃんがマヤ君とエリサレスの所まで行ってしまった。

 あのままでは二人ともやられてしまう。

 絶対に死なせない。

 アーテルシアが現れたときから覚悟をしていたけれど、一か八かで()()を使う時が来たようね。

 あーあ……


「ねえジュリアちゃん。

 アスモディアのお師匠様に教えてもらった秘術があるの。

 それでエリサレスに勝てるかも知れないわ。」


「本当でスか!!? マヤさんは助かるんでスか?」


「うん。」


「マヤぁぁぁぁぁ!! 今行くぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 向こうにいたヴェロニカ王女も目の色変えてマヤ君の所へ駆けだしていった。

 んんー! もう! 王族なんだからあの()も死なせちゃいけないんだよ。


「待ちなさい! 王女殿下!!」


「なんだエリカ!! あのままマヤを見過ごせと言うのか!?

 私はもう我慢が出来ん!!

 勝ち目が無くても手傷くらい負わせてやりたいのだ!」


 相変わらずヴェロニカ王女は、イキるだけはいっちょ前ね。

 エリサレスの強さは次元が違うのよ…

 でも命に代えてもマヤ君を守りたいという気持ち、ちょっと()いちゃうわ…


「そんなことをしても無駄死にですよ。

 取っておきの、魔族の秘術があるんです。

 それを使えば勝てるかも知れません。」


「なに!? 勝てる方法があるというのか?

 何故それを早く使わなかったんだ?」


「取っておきと申し上げましたでしょう。

 私にも負担がかかるんです。」


「そ、そうか… 悪かった。

 だが無理はしないでくれ。

 おまえも大事な仲間だから誰一人失いたくない。

 同じくマヤを愛する女としてもだ。」


「ありがとうございます、ヴェロニカ様。

 私はもっと人生を楽しみたいですから、無理はしませんよ。

 マヤ君みたいなイイ男、あなたたちばかりに占有されるわけにはいきませんからね。」


 なんだあ。ヴェロニカ王女って恋愛について私に敵意を持っているのかと思っていたけれど、案外気に掛けてくれていたのね。

 私がマヤ君にほっぺスリスリしちゃってると、ギロりと睨むしさあ。

 パティちゃんやジュリアちゃんもいるし、マカレーナにいる子たちもみんなマヤ君が大好きだし、ここは私が本腰を入れなくちゃね。


「じゃあヴェロニカ様、ジュリアちゃん。行ってくるね。」


「エリカさん… 無理はなさらないで下さいね。」


 ジュリアちゃんがうるうると私を見つめる。

 ああ… 可愛いなあ。

 素直で私のつまらない話でもよく聞いてくれるし、友達がいない私にとって心に花が添えられたようだった。

 ニャーニャーうるさいビビアナと仲良くしなよ。

 私はジュリアちゃんの頭を撫で撫でしたら、泣き出してしまった。


「うう… うぇぇぇん…」


「泣くんじゃないよ。まるで私が死にに行くみたいじゃないか。」


「エリカ… マヤとパトリシアを助けてやってくれ。」


「はい。」


 ヴェロニカ王女が手を差し出したので、握手をした。

 この()の手… 王女なのに堅くて豆だらけね。

 毎朝マヤ君たちと武術の稽古をしてて楽しそうだった。

 私がマヤ君と外で魔法の勉強をしているときは、よく屋敷の窓や庭の木陰から覗いていたのを知ってたよ。

 お互いマヤ君のことが気になっていたんだねえ。

 でも稽古をしていないときはずっと屋敷にいたり、ふらっとお忍びで外へ出かけたりしていたけれど、何をしていたのか謎なのよねえ。ふふふ

 私は握手の手を外し、グラヴィティでマヤ君たちがいる所へ向かった。


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[一言] エリカ・・・お前死ぬんか・・・? と思わせておいて・・・?
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