第百六十九話 アーテルシアの心
私が魔法で水を引いて凍らせた地面でアーテルシアを困らせるつもりだったが私自身が滑ってしまい、アーテルシアの腕を掴んだままだったのでその拍子でアーテルシアが私に被さりキスをしてしまった。
アーテルシアはびっくりしたのかキスをしたまま硬直してしまい、私が唇をペロペロしたら正気になって上半身だけ起こし、私の腰の上で馬乗り状態になった。
キスの影響なのかアーテルシアは愛を知り邪気が消え、もしかしたら戦わなくてすむのではないか。
今はそういう状況である。
(パティ、エリカ、ジュリア視点)
「……アーテルシアの様子が変ですわ。
むむむぅ! 早くマヤ様から離れなさい!」
「バカな! アーテルシアから邪気が発していない!?
今まで感じていた悪寒のようなものも感じないね…
マヤ君のキスって邪気を解除する力まであるの?」
「私も邪気を感ズません!
まるでサリ様みたいな良い神様みたいでス!」
「マヤ君は何も行動を起こしていないし、アーテルシアも攻撃の意思は無さそうね。
みんな、二人のところへ行ってみるよ!」
「「はい!」」
(ヴェロニカ視点)
アーテルシアはマヤの上に乗っかったまま、攻撃する素振りが無いな。
ニヤニヤして何をしゃべっているんだ?
……ん? パトリシアたちがマヤたちのほうへ行った…
危険は無いのか?
私も行ってみるか。
(マヤ視点)
『んん… マヤ、私の股の間で一瞬何か動いたが、何かいるのか?』
「何もいない。あるのは私自身だけだ。」
『そうか…』
どうもアーテルシアの股間が、スカート越しではなく私のズボンの股間にぱんつが直接当たっているようで、私の分身君が元気になってしまっていた。
アーテルシアはキスが初めてということは、処女で知識や経験が無いから今がどうなっているのかわからないのかも知れない。
六百年近く処女だなんて、性格が悪すぎて男神ですら近づくこともなかったんだな。
アーテルシアは私の腰から離れて立ち上がる。
立ち上がった瞬間、アーテルシアの黒いぱんつの股間部分がチラッと見えた。
僅かにズレたところから大事なところが見えたのか見えなかったのか微妙だったが、ぱんつはエッチなものを履いているのであれば性欲はそれなりにありそうなので、お一人様プレイで楽しんでいるんだろうか。
他にも大事な部分はどうなってるんだろうと妄想が膨らんでしまったので、今晩のおかずにしようと思う。
『マヤ…、心臓がキュッと締まるようなこの感覚…
苦しいのに不思議と心地良い気がする。
これが愛だというのか?
私はマヤのことが好きなのか?』
私も立ち上がり、答えた。
まだ様子がはっきりしないので、刺激する返答はやめておこう。
愛を語るのはマルセリナ様やサリ様の仕事だろうが、及ばずながらアーテルシアが満足出来そうなことを言ってあげたい。
「私のことが好きになってくれるのならば、歓迎だよ。
男女が愛するというのは、いつも一緒にいたいとか、触れ合いたい、お互いが助け合って仲良くして行きたいということだ。」
『私とマヤは一緒にいてもいいのか?』
「魔物を送り込んでもう悪いことをしないと、人や物を傷つけないと誓えるならかまわない。」
『わかった。もうやめると誓おう。』
なんと。アーテルシアが異様なほど素直に悪さをしないと誓ってくれた。
そうするために解決する問題がいろいろ出来たが、とにかくこれ以上被害が出るよりずっと良い。
悪さをする理由が暇つぶしなのだから、他に面白いことがあれば良いのだろう。
(マヤ様! マヤ様ったら!)
(おお、パティ。念話で話しかけてきたんだね。
あっ みんなこっちへ来たんだ。)
(アーテルシアと一緒にいるってどういうことですか!?
一緒に住むってことですか!?)
(そういうことになるねえ。
神様の寿命って長いからもしかしたら私が死ぬまで面倒を見ることになりそうだけれど、この世界のたくさんの人たちが傷つくことが無くなれば安いことさ。)
(それはわかりますが、さっきまで邪気を放っていた邪神を受け入れるなんて危険ですわ。
マヤ様って子猫を拾ってきたみたいに、周りに女の人がどんどん増えてきてますからだんだん私のことも構ってもらえなくなりそうなので心配なんです!)
(アーテルシアとはちゃんと話すよ。
あと、ちゃんとパティのことも考えるさ。
何せパティはこの世界で一番先に出会って一番最初に好きになった女性だ。
そのことを忘れるはずがないよ。)
(まあ! マヤ様ったら… 嬉しいです!)
十メートルくらい距離を取って立っているパティを横目で見ると、一人でクネクネと照れている。
その姿が念話で離していることを知らないエリカさんたちには不気味に写っていることだろう。
『マヤ、何を考えてるのだ?』
「うん、これから先のことをいろいろとね。
トイレに閉じ込めたサリ様を解放してあげてくれないか?」
『わかった。今から封印を解除する。』
アーテルシアは右手の人差し指と中指を額に当て、目を瞑って念じている。
天界へ帰らなくてもリモートで出来るなんて、なんて強大な力なんだ。
『終わったぞ。おまえはサリと連絡が取れるんだろう? やってみろ。』
「もう終わったの? よし。」
私は目を瞑って精神を集中した。
パティと念話をする時とは少し勝手が違って精神力がかなりいる。
(おーい、サリ様! サリさまあ! 聞こえますかあ?
元気ですかあ? 生きてますか? 返事して下さいよお?)
(…………あれえ? マヤさん……?
いくらあなたを呼んでもダメだったのに、なんでぇ……?)
(いろいろあって、アーテルシアが改心したんですよ。
それでトイレの封印を今解いてもらったんです。)
(はええ……?? わけがわからないわ…
アーテルシアに三ヶ月もトイレに閉じ込められて… お腹空いた… 退屈だった…)
(とにかくトイレから出てご飯を食べて下さい。
話はまた後でしましょう。)
(わかったわ… じゃあね…)
三ヶ月も食事をしないで生きていられるなんて、神様はすごいなあ。
その前にトイレに閉じ込められていたら二日三日で気が変になるよ。
『どうだ? サリとは話せたか?』
「話せたよ。お腹空いたってね。」
『三ヶ月くらいでは飲まず食わずでも神は死なん。
百年食べなくて死ななかった神もいる。私は遠慮したいがな。』
「サリ様に復讐されないか?」
『あいつは元々敵だ。攻撃してきたら叩きのめすだけだ。
私はおまえが好きになったから言うとおりにしたに過ぎない。』
そういうことか。
これはサリ様と後でよく話をしておかなければならないな。
せっかくアーテルシアが大人しくなったのだから、サリ様が攻撃をして怒らせたらまた元通りだ。
『それでマヤ…、少し話がある。こっちへ来い。』
「ああ。」
私は言うとおりに、アーテルシアの目の前まで歩いて近づいた。
キスの前ならば自殺行為であるが、今は殺気も邪気も感じない。
今はアーテルシアの気が変わらないように、したいようにさせて満足させるのが私の中の作戦だ。
アーテルシアは私のすぐ側に寄り、小声にして耳打ちで話しかけてきた。
(さっき私はおまえとキスをした。つ…次はアレをしたい…)
(アレとはなんだ?)
(男女の交わりに決まっているだろう。
私は六百年近くキスの経験が無かったが今日になっておまえが初めてだ。
従って男に抱かれたことも無い。
男の身体には興味があったが誰も相手にしてくれなかった。
だがおまえは初めて会ったときからたくさん相手にしてくれた。
嬉しかったんだよ。)
(それにしてもキスから急に情熱的な行為をするのは早いのではないか?)
(男女の交わりというものがあるのを初めて知って何百年間も思い描いてきたことだ。
おまえが好きだ。この熱き想いがあればこそ、おまえにこの身体を捧げることに何のためらいも無い。)
(そうか… わかった。それでどうしたらいいんだ?)
(そこの教会は人がみんな逃げて誰もいない。そこでいい。)
教会か… 教会でエッチなことをするのか?
なんて罰当たりな… って、神様がサリ様だから罰っていうのも変だな。
そもそも人がエッチなことをしているのを覗く神様だ。
この際気にすることは無いだろう。
「あそこにいる四人に席を外してもらうから、ちょっと話をしてくる。」
私は少し離れたところで私たちの様子をうかがっていたパティたちのほうへ歩いて行った。
「あのぅ、みんな。
アーテルシアとこれからのことについて話をしようと思うんだけれど、アーテルシアは誰にも話を聞かれたくないそうだ。
だから先にエンリケ男爵の屋敷へ行っててくれないだろうか?」
「危険です! いくら邪気が無くなっていても、本当に安全なのか確証がないじゃないですか!」
「そうだぞマヤ。急に優しく近づいて相手を信じ込ませてから殺すのは暗殺の常套手段だ。
絶対にダメだ!」
「…………。」
「マヤさん、皆さんの言うとおりでスよ。
私たツはここで待っていまスから、お二人でゆっくり話スてきて下さい。」
「いやあ、それが…」
エリカさんだけ無表情で黙っているのは何だろうか。
まさか魔法で話を聞いちゃいないだろうな?
『さっきからおまえたちはごちゃごちゃうるさいぞ!!
マヤは殺さん!! 話すだけだ!!
だからさっさと失せろ!!』
「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」」」」
アーテルシアがものすごい剣幕で怒鳴る。
するとジュリアさんはパティを載せて、エリカさんはヴェロニカを載せて一目散に飛び去っていった。
そんなに驚かさなくてもいいのに、本当に邪気が消えたのかどうか心配になってきた。
『さあ邪魔者はいなくなった。教会へ行って二人で楽しもうぞ。ふふふ』
私とアーテルシアは、戦場になっていた教会の前の通りから教会の中へ入った。
まさかこんな展開になるなんて、妄想が好きな私ですら考えつかなかった。
それはアーテルシアも同じだろう。
神とエッチなことをするなんて、全宇宙の歴史で他に今まであったのだろうか。