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第百六十八話 邪神アーテルシアの変化

 アーテルシアとの戦いは膠着(こうちゃく)状態に陥っていた。

 ラフエルの街にいた魔物は、ヴェロニカとエリカさんたちが恐らくみんな退治してしまっている。

 もう時間稼ぎをする理由は無いが、焦りは禁物だ。

 ガルシア侯爵が手配してくれている騎士団の到着までまだ数時間はかかる。

 それまでには決着を付けたい。


 私は一度構えた八重桜を(さや)に仕舞い、地面に置いた。

 アーテルシアは戦いにだんだん飽きてきているようだ。

 それでイライラさせてもし気が変わり、パティたちに手を出されたら困る。

 素手で戦うか、魔法も使うか。

 触ることが出来たらスカートの中に入れさせてくれると言うならば、必然的に素手で攻撃もしなければならない。

 だがスカートの中に入れてやるって本当なのか?


『ほう。刀を使わぬか。

 体術戦か魔法戦か、どちらも使うか、好きにするがいい。

 だが触らせぬぞ。ふふふ』


 私はゆっくり歩いてアーテルシアに近づく。

 アーテルシアは余裕の表情でニヤニヤと私を見ていた。

 そしてあと二メートルほどのところで立ち止まる。

 目の前でこんなにじっくりアーテルシアを見るのは初めてだ。

 吸い込まれそうなほどの黒いドレス、それに反して真っ白な顔はキツいがハッとするほど美しい。

 前は胸元がパックリ開いているドレスで遠目からでもはっきりわかる豊乳だったが、今日はハイネックで首元まで隠れている。

 それでもはっきりとわかる豊乳で、触ると言うなら胸も良いのだろうかと邪な考えが浮かぶが、ぶち切れるかまた泣いて逃げてくれるか。

 是非後者であってほしいが試す勇気はない。


『なにジロジロ見ているんだ? 

 そんなに私の姿が美しいのか? ふふふ』


「その通りだ。強者に相応(ふさわ)しい鋭い眼光、スッと伸びた鼻筋、吸い付きたくなるような真っ赤な口紅の唇、ふくよかでツンと上がった形の良い胸、贅肉が全く無い細い腰、すらっとした長い脚、どれも最高で非の打ち所がない。」


 実際その通りなのだが、私の太股を刺して大怪我をさせた相手を褒めるのも複雑な気分だ。

 だが機嫌をとるには、少し単純なアーテルシアには有効かも知れない。


『そ、そんなに見ているのか… まあいい。

 自称で愛と美の女神とほざいているバカよりずっと綺麗だろう。ふふふふ』


 少し照れている顔がちょっと可愛いと思ってしまった自分が情けない。

 どうして綺麗な女性には弱いのだろう。

 もし男神だったら張り裂けそうな怒りがこみ上げてくるだろうに。



(パティ、エリカ、ジュリア視点)


「マヤ様はアーテルシアと何をお話になってるんでしょう?」


 遠くて聞きづらいのですが、戦いの最中なのに二人とも微笑んでいる表情だから気になりますね。

 何か取引でもされているんでしょうか。


「魔法で聞いてたんだけれど…

 あれはマヤ君が、アーテルシアは綺麗だ、非の打ち所がないと褒めてるんだよ。」


「まあ! マヤ様は女の人をよく褒めてますが、まさか邪神にまで!?」


「たぶん何か考えがあってだろうよ。

 いくらマヤ君でも好きな相手はちゃんと選んでいるよ。」


「エリカ様はマヤ様のことをとても信頼してるのですね。」


「そりゃマヤ君のあんなところやそんなところ隅々まで知っているからねえ。むっひっひ」


「はわわっ エ、エリカ様は下品です!」


 マヤさんのあんなところやそんなところ、私もよく知っていまス…

 私はマヤさんに一生ついて行くと誓いまスた。

 お(めかけ)でもいいんでス。絶対信ズていまスよ。




(マヤ視点)


 私は柔道の右自然体の構えでアーテルシアを睨む。

 アーテルシアのほうは先ほどと変わらず余裕の表情だ。

 ズズッと近づき、腕を掴むつもりで飛びかかった。

 だがアーテルシアはスッと避ける。

 私もかなりのスピードで動いたのだが向こうはさらに高速の動きで、何度も掴もうとするたびにサッと避けられてしまう。

 刀で戦ってたときより速くなっている。まるで鬼ごっこだ。


『ふっふっふっ なかなか楽しいねえ。

 もっと本気でやらないと到底捕まらないぞ。』


 アーテルシアはそう煽りながら、デスサイズの柄の先で私の足を払った。


「うわっ!」


 私は尻餅をついた。つまらない攻撃に引っかかって格好悪い…

 そのままアーテルシアが今度は刃先でどんどん突いてくるので転げながら逃げる。


『ハッハッハッ! どうしたどうした!』


 ズサッ ズサッ ズサッ


 私はグラヴィティと風魔法を自分自身に強くかけて飛び上がり、アーテルシアから距離を取って着地した。

 そのまま跳ね返るようにアーテルシアに向かって、手刀による真空派の連続攻撃を食らわす。

 だがアーテルシアは圧縮空気の壁でそれを防いだ。


『さっきのお返しだ!』


 アーテルシアは圧縮空気の壁を解除し私に向けて爆発させる。

 エリカさんや私がやったことと同じだが、威力が桁違いに大きい。

 私は察しがついていたので、風魔法の空気操作を展開して強風を左右に流し(かわ)すことが出来た。

 理屈は高速で飛行する時の風よけと同じだ。


 圧縮空気が全部私の方向へ向いたわけではなく、アーテルシア自身にも弱い風が行きスカートがふわりと(めく)れ、ローライズの黒いぱんつと美しい白い脚がしっかり見えた。

 アーテルシアは気づいていないのか知ってて余裕の表情なのかわからないが、今日はサービスがいいな。

 アーテルシアもこっそりどこかの店でぱんつを買っているのだろうか?


『さすがだな、マヤ。もっと私を楽しませておくれ。』


「欲張りだねえ。まだ欲しいのかい?」


『出し惜しみはするなよ。そろそろ全力でやって欲しいものだ。』


「とっておきは一番後のお楽しみだよ。」


 正直言うと、決め手になるとっておきらしい技なんて持っていない。

 今までも全力ではないが八割以上の力を出して戦っていた。

 恐らくアーテルシアはまだ一割以下の力しか出していないと思う。

 特攻するつもりで百パーセントを超えるエネルギーを爆発させても、勝てないかも知れない。


 飛行機が完成したらアスモディアとヒノモトへ修行しにいくつもりだったが、アーテルシアが現れるタイミングが早すぎた。

 私に眠っている力があったとしても、何がきっかけになるのかわからない。

 この前みたいに何かフェイントをついて退散させるしかなさそうだ。

 それにはアーテルシアの胸かお尻を触ってどうにかなるかに()けるしかない。

 失敗して怒らせたら終わりだ。

 とにかく腕を掴むだけでも出来たら良い。

 こちらから何らかのアクションを起こさなければ何も進まない。


 私は再びアーテルシアにゆっくり歩いて近づいた。

 五メートルほど開けて立ち止まる。

 私は魔法のウォーターボールとグラヴィティ応用し、半径数百メートルの空気中から小さな水玉を作って私とアーテルシアの周りに集めた。


『何のつもりだ。私は水浴びをする気分ではないな。』


「水浴びではないな。どうなるのかお楽しみだ。」


 私が言い終えた瞬間にウォーターボールで地面を水浸しにし、私自身は僅かにグラヴィティで水面に足がつかない程度に浮いた。

 そして高位氷結魔法フリージングヘルで瞬間的にアーテルシアの足下を凍らせ自由を奪った。

 どこかのアニメでも見たような戦法を応用したのだ。


『なっ しまったぁぁ!!』


 アーテルシアが叫んでいる間に、浮いたまま強力な風魔法で猛ダッシュしてアーテルシアの左腕を掴むことに成功した。

 押し倒そうとも考えたが、反撃されると私の命が無さそうなのでやめた。


「どうだ。触ることが出来たぞ。」


『ま… まさか本当に、私の身体に人間が触ることを許してしまうとは…』


「触れたら、スカートの中に入れてくれるんじゃなかったのか?」


『触られるなんて考えもしなかったから、嘘に決まっておろう。

 約束を守る義務もない。知らんわ。』


「え… えええ… チッ」


 私は舌打ちをし、嫌そうな顔をした。

 まあ邪神が正直に約束を守るというのも考えてみればおかしな話だ。


『さあ手を離せ。』


 アーテルシアが力強く私の腕を離そうとしたが、その勢いで私の足下がツルッと滑る。

 しまったあ! 私はうっかり氷の上に直接立っていた。

 私はアーテルシアの腕を掴んだまま後ろに倒れ、私の方が押し倒された。


 むっちゅううぅぅぅぅ♥


 アーテルシアが私に覆い被さる格好で、キスをされてしまった。

 唇が最初に触れた瞬間はゴッツンコ状態でよくわからなかったが、アーテルシアは何が起こっているのか理解していないのか私の上から退()かず唇も離さない。

 意外に唇は温かくムチッとしていて潤いがある。

 死神の類いだから、ゾンビのような冷たい感触かと想像していた。


 アーテルシアの呼吸でかすかに鼻息を感じ、薔薇に近い独特な甘い香りがする。

 まともに嗅ぐと眠ってしまいそうだ。

 そして、柔らかくて豊かな胸の感触が私の胸に感じる。

 いつの間にか掴んでいた手が離れ、両手でアーテルシアの腰を抱いていた。

 か細い腰で、まるでチークダンスを踊っているときのよう。

 サリ様とはせいぜい握手をしたくらいしか触っていないのに、邪神と密着してしまった。

 私が悪に染まってしまいそうな気分になる。



(パティ、エリカ、ジュリア視点)


「「「あああああああああああああああああ!!!!!」」」


「マヤ様ったらなんてことを!!

 邪神とキキキキキスぅ!? 許しませんわ!!」


「あちゃあ… でもわざとじゃないんだよ。

 後で私たちがいっぱいキスをして浄化してあげないとね。」


「そうですよ、パトリシア様。愛のないキスなんて数に入りません。

 私たちの愛があるキスでマヤ様を元気にして差し上げましょう!」


「でも… ううう…」



(ヴェロニカ視点)


「な… な… な… あいつは邪神となんてことをしているんだ!

 こんなことならばもっと早くキスをしておくべきだった!

 でもどうやったらキスが出来るんだ?

 訓練ばかりで何もしてこなかった私も問題なのか… うう…」



(マヤ視点)


 アーテルシアは目を開いたまま微動だにしない。

 何秒たったのか、何分たったのかわからない。

 氷の上なのでいい加減、背中が冷たい。

 もう少しこの感じを楽しみたいのだが、そうもいかない。

 何か反応させようと、私は舌先を出してアーテルシアの唇の中をペロペロした。


『むむっ んっ…』


 あれ? そのままペロペロを受け入れている。

 もう少し続けてみる。


『ん… ん… …………ぷはぁ!』


 アーテルシアが起き上がり、私の腰の上で馬乗りの状態になった。

 ロングスカートから両膝が覗いており、とてもセクシーだ。

 この体勢はちょっとまずい。反応してしまいそうである。


『初めて…』


「ん?」


『ファーストキスだったんだぞ! 六百年近く生きて、初めてだったんだぞ!』


「それは光栄なことだ。神様とキスをしたのは初めてだ。」


『よりにもよって人間と… どうしてくれるんだ。』


「どうしようもない。キスをしたのは事実だ。

 お互い何か義務があるわけじゃないんだろう?」


『何もない…。だがこの胸の高鳴りと身体の火照りはなんだ?』


 確かにアーテルシアの顔は、ついさっき顔を離したときと比べて真っ赤になっている。

 すっかり邪気が失せたように表情には険しさが無く、可愛らしくさえ思う。

 元々容姿がエステラちゃんとよく似ている。

 まさか私とのキスによって邪険が取れた?

 それならもう戦わなくていいのか?


『マヤ、これは何だ? 胸がドキドキしているぞ。』


「それは愛だよ。あんたは愛に目覚めたんだ。」


「これが愛なのか!? サリが言う愛なのか?」


「そうだ。」


「そうなのか… うふふ」


 アーテルシアが微笑んだ。うわっ めちゃくちゃ可愛い!

 見た目が十代後半で、前髪パッツンのロングヘアー美少女は私のドンピシャ好みである。

 そんな子が私の腰の上で馬乗りになっているのだ、というのは置いておいてアーテルシアの魔力も邪気が無くなっているのがはっきりわかった。

 もう戦わなくてすむ! やったぞ!


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