第百六十七話 死神の鎌
ラフエルの小さな教会の前で、アーテルシアと私の戦いが始まろうとしている。
アーテルシアの武器は大鎌が付いている長い杖、というより槍の刃先が鎌になっているような死神の鎌だ。
一対一となり私は八重桜で戦うことになるが、アーテルシアがどう出てくるのか予想が付かない。
私は八重桜を手に掛けたまま動けなかった。
最初に出遭った時にコケてぱんつを見せてしまった時のようなドジっ娘とは思えない威厳を感じる。
『どうした? 何故出てこぬ。
力を… お前たちの言う魔法は使わないでおいてやるぞ。』
アーテルシアは死神の鎌をまるでバトンガールのように片手でぶんぶん回している。
大きな鎌で重そうなのに、指の力がとんでもないやつだ。
槍使いのエルミラさんでも出来るかどうか分からない。
鎌の回転が止まった。
その瞬間に私はダッシュをして刀を抜き、斬りかかる。
「雨燕」
カキーン
ヴェロニカと戦ったときに使った瞬殺技をアーテルシアの喉元に向けたが、あっさりデスサイズの柄先で防がれてしまった。(第八十四話参照)
そこで止めず、私は刀で連続的に斬りかかる。
カキーンカキーンカキーンカキーンカキーン
私の攻撃を全てデスサイズで器用に防いでいる。
絶対刀とは相性が悪いはずなのに、私がスローモーションで動いているように討っている所へ的確に鎌の柄で止めているのだ。
埒があかないので、後ろへ飛んで距離を取り体勢を立て直す。
『ふうーん、人間にしてはなかなかやるな。
こういうのはどうだ?』
アーテルシアは鎌をブンッと横へ振った。
いかん! 真空波だ!
私は後ろにいたヴェロニカに飛びかかり、抱きつきながら地面に倒して低い体勢になり、難を逃れることが出来た。
「ヴェロニカ… 済まないが離れていてくれないか?」
「わかった… 足手まといとはざまあないな。
さっきの攻撃も見切れなかった。
私では勝つことが出来ない。」
ヴェロニカは私から離れ、どこかへ隠れたようだ。
エリカさんたちも先程より距離を取り、魔法障壁を掛けている。
それでアーテルシアの攻撃が防げるかどうかはわからない。
『ふん、そうしてろそうしてろ。
おまえ以外の人間など興味が無い。』
アーテルシアはデスサイズを地に立て、嘲笑しながらそう言う。
こいつに温情があるはずもないが、仲間を攻撃しないのであれば助かる。
『そろそろ私も行かせてもらおうか。』
いよいよアーテルシアが本気を出すのか。
ヤツは両手でデスサイズを槍のように構えると、鎌が変形する。
あれは薙刀!?
それにしては刃の部分が大きく刃先が鋭利だ。
『それ!』
シュダダダダダダダッッ
アーテルシアは私に向かって駆け寄り、連続で足元を払う攻撃をしてきた。
まずい。長い薙刀相手では刀だと間合いが長く直接攻撃が出来ない上に、足元がおぼつかない。
踏ん張れないので魔法剣が思うように使えそうになく、私は躱すだけで精一杯だ。
『ほらほらどうした!?
もっと速くしてやろうか? ハッハッハッ!』
シュダダダダダダダダダダッッ
アーテルシアの攻撃が突きに変わり、動きが速くなる。
それならこうだ!
『ぬっ! 小賢しいことをしてくれるな。』
アーテルシアの攻撃が止まる。
私はアーテルシアの薙刀にグラヴィティを掛けて十倍ほどの重さにした。
だがそんな重さになってもアーテルシアは薙刀を落とさず当たり前のように手に持ち続けている。
なんてバカ力なのだ。
『こんな魔法を使ってもすぐ解くまでだ。』
ブンと音が鳴ったかと思うと、アーテルシアはまた薙刀をバトンのように片手でグルグル回している。
マジックディスペルか…
『もっと楽しませておくれよ。ふっふっふ』
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴウウウウウンッッ
アーテルシアは先程よりさらに速い突きで攻撃をしてきた。
とっくに人間の常識を外れた動きで、音速の域をはるかに超える。
私は瞬時にエアーコンプレッションウォールの魔法でいつもより高圧縮の空気の壁を作った。
『そんなものか通じるか!』
「そうかな?」
私は圧力隔壁を解き、アーテルシアへ向けて空気泡を放つ。
ボバァァァァァンッッッッッ
『うわぁぁぁぁぁぁ!!!!』
アーテルシアは後ろへ吹っ飛び、教会の玄関先へ倒れた。
スカートは大きく捲れ、脚を広げて黒いTバックがまる見えだ。
もうパックリ。なんてエッチな格好なんだろう。
まさかあの時と同じ目に遭うなんて思わなかったろうが、やり過ぎたか?
(エリカ視点)
「うわちゃあ! マヤ君ったら何も私の真似をしなくてもいいでしょ!
また泣いて逃げるとでも思ってんの?」
「エリカ様。一体何をやらかしたんですか?」
パティちゃんは私をジト目で睨んでる。
この子が睨んでも可愛いから怖くないんだよねえ。ひひひ
「いやあ、初めてアーテルシアと遭遇したときにうっかりエアーコンプレッションウォールをそのまま解いちゃってねえ。
アーテルシアがコケてTバックのお尻丸出しになっちゃったんだよ。」
「エリカ様… 呆れました。はぁ…」
「はわわ… マヤさん、邪神の下着までもう先に見てスまったんでスか?」
「それがねえ、ジュリアちゃん。
サリ様の下着まで二度も見ちゃったのよ。
あの子は本当にぱんつには縁があるんだねえ。」
「マヤさんは怖い物知らずなのでスね…」
「わ… 私はエリカさんと違ってマヤ様に一度も見せてませんからねっ」
「おやあ? それは意外ね。
あなたにその意志がなくても、とっくに見られてると思ってたよ。」
「私はエリカ様みたいに抜けていませんから。」
(マヤ視点)
エリカさんたち、何をゴチャゴチャ言い合ってるんだ?
こんな状態でアーテルシアを刺激しないで欲しいよ。
ん? アーテルシアがもぞもぞと起き上がりだした。
『くっ 忘れていたぞ…
あの時と同じ魔法で同じ屈辱を味わうとはな。
おまえはそんなに私の下着が見たいのか?』
「見せてもらえるのならば見たい。
とても綺麗でセクシーだ。」
『そうか。では私に少しでも触ることが出来たらスカートの中に入れてやる。』
この邪神…、変態かな。
出来るものなら入ってみたいが、何か罠のような気がする。
もしスカートの中がデモンズゲートになったとしたら、大変なことになる。
(ジュリア視点)
「アーテルシアがとんでもない事を言ってまス!
私のスカートの中ならいくらでも入って頂いても良いのに…」
「ジュリアさん、何をおっしゃってるんですか。
マヤ様はそんな変態じゃありません!」
「申ス訳ございません…」
実は知ってるんでス。
私が淫らな女だということは自覚していまスが、マヤさんはそれを承知でとてもエッチなプレイをスて下さるなんて感激スてしまいまスた。
私のあんなところまでペロペロしちゃうなんて…嬉スかった。ふふふ
「パティちゃんは… ううん、いいのよ。うっふっふ」
「何ですかあ? エリカ様?」
パトリシア様はエリカ様をまたジト目で睨んでらっしゃいまスが、あなた様はまだ若いですから知らないほうが純粋な恋が出来るんですよ。
(マヤ視点)
大変な敵を相手にしているのに、あの子たちは緊張感が無いな。
さて、触れるかどうかはともかく、次はどうやって攻撃したらいいのか。
アーテルシアは体制を整えておらず薙刀を構えていない。今か?
私は直ぐさま八重桜を構え、アーテルシアに向かって高速で突進する。
「雷電閃光斬」
刀に魔法で高電圧の電気を帯びさせて雨燕のごとく敵を一気に攻め、電気で通常攻撃よりダメージを与える。
『また同じような技を使うか。』
紙一重で躱されてしまったが、後ろに回ることが出来た。
そのまま後ろから斬りつける。
『ナメるなあ!!』
アーテルシアは後ろを向いたまま薙刀の柄で雷電閃光斬を受け止めた。
あまりの高電圧なので柄の当たった部分がバチィッと音を立てて光る。
後ろ向きで受け止めるとは、私の動きが見切られているのか…
それにしても、私は両手で力一杯押しているのにアーテルシアは薙刀を片手で薙刀を持って持ちこたえている、とんでもない力だ。
『えええいっ!』
力で強引に振り払われてしまった。
電気を使った攻撃も何の役にも立たないとは…
あの薙刀もダメージが無く、神の武器なのか。
(ヴェロニカ視点)
マヤ… おまえはでたらめな強さの神相手に対等に戦えるとは、なんてすごい男なのだ。
私は建物の陰で震えているばかりだ。
何か役に立てることは無いのか… くっ
(マヤ視点)
カキーンカキーンカキーンカキーンカキーン
アーテルシアと私はまた討ち合いをしている。
どれだけ時間が経ったのだろうか、膠着 状態が続いていた。
そろそろ疲労が増してくる。
『ふんっ しぶといヤツだがこうでなくては面白くない。
普通の人間ならばとっくに刺されて死んでいるからな。ハッハッハッ!』
「あんたの暇つぶしに付き合えて光栄だね。
こっちは命がけだけれどな!」
『そろそろ退屈になったわ。それっ!!』
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アーテルシアはまだ本気を出し切っていなかったように、薙刀の刃先を私の右太股にあっさりと突き刺した。
刃をすぐ抜き、嘲笑の表情で私が苦しんでいるのを眺めている。
ぐぅ… 痛みが… 出血が酷い…
私は立ち続けることが出来ず、地べたにへたり込んだ。
サリ様の力が付与されたカーゴパンツの防御も効かなかった…
「マヤさまあっ!!」
向こうでパティが叫んでいる。
「みんな来るな! 来たら必ず死ぬ!!」
パティたちはこちらへ駆け寄って来かけたが、私の言葉で立ち止まった。
早くフルリカバリーを掛けなければ…
『待ってやるからさっさと治せ。
無様な姿だな。ハッハッハッ!』
「そりゃどうも。」
完全に弄んでいやがる。
私は言われたとおりさっさとフルリカバリーを掛けて太股の怪我を完治させた。
『おまえもまだ本気を出していないんだろう?
魔法もどんどん使っていいんだぞ?
そうすれば私も魔法を使ってやるぞ。ハッハッハッ!』
そんなことをしたら泥沼になるだけではないか。
私はスクッと立ち上がり、八重桜を構えた。
動脈が傷ついていたのか出血が多かったのだが、フルリカバリーは造血促進効果があるので身体が軽くなった。
『また討ち合いはつまらん。
もっと面白い攻撃をしてこい。』
「面白い? また尻でも見せたらいいのか?」
『おまえは死に目に遭ってる時によくそんなふざけたことが言えるな。』
「あんたもスカートの中へ入ってもいいなんて、よく言えたもんだよ。」
『お互い馬鹿げたことが好きなのだな。ハッハッハッ!』
なんで邪神とそんなことで気が合うんだよ。
戦いが始まってから状況が全く変わっていない。
戦って勝つか、どうにかしてまた退散させる方法は無いものか。