第百六十二話 マカレーナへ帰る日の朝
王宮滞在最終日の朝。
ゆうべは女王へのお務めが終わった後、自室でシャワーを浴びてからシルビアさんの部屋へ行き、何もしないで仲良く一緒に寝た。
朝になって二人で早起きし、ベッドの上で軽くウォーミングアップ。
それでもしばらく会えないとなるとつい燃え上がってしまい、汗をたくさん掻いてしまった。
最後は座ってお互い両手を繋ぎ、優しくキス。
シルビアさんはこれから女王の世話があるので、ここでお別れである。
お腹が大きくなれば徐々に仕事が減り産休にしてくれるそうだ。
執事代行は、なんとエルミラさんの世話をしていたロシータちゃんがなることに先日決まったらしい。
あまり話したことがないけれど、そんなに優秀な子だったのか…
間もなく引き継ぎのための研修が始まるとのことだ。
あの子に私たちのことが知られてしまわないだろうか。
「じゃあシルビアさん、来月になると思うけれど…お元気で。
勿論お腹の子も大事に…」
「はい、マヤ様もお気を付けて…」
別れ際にそれ以上の言葉はいらなかった。
絶対の信頼と敬愛があるからだ。
最後に握手をして部屋を退出した。
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自室に戻ると、さっき着た服をまた脱いでリュックに仕舞い、洗ってくれた新しい下着と服を用意する。
お風呂に入っておきたいが、その前にベッドのシーツが綺麗なままなので折角だけれど、使ったように見せかけるため崩しておく。
コンコン「おはようございます。」
「どうぞ。」
ギリギリのタイミングだった。
シャツとパンツ姿だけれどもう構うことは無い。
「おはようございます、マヤ様。」
「おはようございまああす!」
「おはよう。あれ? モニカちゃんも?」
モニカちゃんは給仕服ではなく、白いひらひらミニのブリーツスカートとピンクのカーディガンという白ギャルそのままの様相だった。
本来おっさんなどまともに相手にしてくれないギャルだが、身体を若くしてくれたサリ様のおかげだろう。
「今日は休みなんですよぉ。
でもマヤ様が帰る日だからフローラに付いて来ちゃった。
仕事でないとここへは入れさせてくれないけれど、フローラと一緒ならって特別にね。」
「モニカちゃん、言葉づかいが失礼よ。」
「ああ、私はいいんだ。フローラちゃんも良かったらいつも通りの言葉で良いよ。」
「そんなわけには…」
「さっすがマヤ様。
で、なんでシャツとパンツだけなんですかぁ?」
「これから朝風呂へ入ろうかと思ってね。」
「ではマヤ様、私が準備しますね。」
フローラちゃんは手に持っているサンドイッチを載せたお盆をテーブルに置いて、お風呂場へ向かった。
私とモニカちゃんはベッドの上に座るが、ミニスカからスラッと伸びる太股が眩しい。
モニカちゃんは私の手をギュッと握って寄り添う。。
私も昔、二十歳そこそこの時はそんなことをしてた時があったなあ。
「ねえマヤ様、気を付けて帰ってね。
今度は私が専属でお世話が出来たらいいなあ。
給仕長に言っとこうかな。」
「フローラちゃんも頑張ってるしいい子だから、私は代わりばんこがいいな。」
「マヤ様ったら欲張りねえ。
いくら貴族になったからといっても、後でしっぺ返しが来るかもね。」
「肝に銘じておくよ…」
「そろそろお風呂の準備が終わる頃かな。マヤさまっ」
名前をふいに呼ばれたので顔を向けたら、モニカちゃんは私の頬を両手で押さえて濃厚なキスを始めた。
舌をレロレロ動かしている。相変わらずうまい…
こんな若い子なのに悪い男に騙されて教え込まれたんだなと考えると辛い。
「はぁ… くふぅ… ふぅ…」
唇を離すと唾液が糸を引く…なんてことはリアルではなかなか無い。
ものの三十秒ほどだったがとても長く感じた。
「ごちそうさま。うふふ」
「フローラちゃんが戻ってきたらどうするんだい。」
「え? これからもっとすごいことが始まるのに。」
何だそれ… 怖い。
モニカちゃんが立ち上がった後、フローラちゃんが風呂場から戻ってきた。
「マヤ様、お風呂の準備が出来ました。下着を脱ぎましょう。」
私も立ち上がり、いつものようにフローラちゃんの前へ。
「きゃっ!」
フローラちゃんが下を向いたら叫んだ。
え? あ… しまったぁぁぁぁぁぁ!!
分身君があのキスでいつの間にか元気になっていたのに気づかず、パンツがテントになっていた。
もっとすごいことって、モニカちゃんはそれを知ってて黙っていたんだな?
「んふふ。さあフローラ、構わずにマヤ様の下着を脱がして差し上げなさい。」
「は、はい。」
フローラちゃんはいつもどおりにシャツを脱がしてから、しゃがんでパンツを脱がそうとする。
それなりに時間が経ってるのになかなか元気が収まらない。
パンツのゴムを掴んで下ろそうとするが、分身君が引っ掛かってしまった。
フローラちゃんは気を取り直し、前のゴムも捲るように下ろすと分身君が跳ねるように勢いよく登場した。
「は… はわわ… はわわわわっ」
フローラちゃんは目を白黒させながら分身君を見つめている。
こんな状態になっているのを見るの、初めてかも知れないな…
すると彼女の鼻から鼻血がツーッと垂れた。
「モニカちゃん、テイッシュテイッシュ!」
「あらら! フローラったら!」
モニカちゃんは部屋に備え付けのテイッシュ箱を持って来て、ティッシュで鼻血を拭いて上げてからもう一枚で鼻の穴に挿した。
前も鼻血が出ていたけれど、フローラちゃんは鼻血が出やすい体質か…
「ありがふぉお、モひカちゃん…」
「わかった? フローラ。殿方は女の子にドキドキするとこうなるんだよ。
マヤ様のベッドで少し横になってたら?」
「ふぁい…」
モニカちゃんはドヤ顔で言っているが、自慢するようなことでもないぞ。
フローラちゃんはベッドで横になり、私は自分で脱ぎかけのパンツを取って風呂場へ向かった。
さすがに今はモニカちゃんも一緒に入ってこないよね。
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シルビアさんと朝の運動をして掻いた汗を流し、バスローブを着て風呂場を出た。
二人ともベッドに座っている。
「フローラちゃん、もう大丈夫なのかい?」
「はい… 私の経験不足で大変失礼しました…」
元気になってしまった私の方が悪いんだから、失礼なのはこっちだよ。
分身君はすでにショボンとしている。
「フローラちゃんは悪くないよ。びっくりさせてごめんね。ははは…」
「そうそう。そんなに簡単にポンポンと元気になるマヤ様がいけないんだー」
まったくこの子はぁぁぁ!
元気にさせた張本人なのに、エステラちゃんとは少し違うタイプの小悪魔だな。
この先も気を付けないといけない。
「じゃあマヤ様に着せるのは私がやるからねー」
「いえ、私の仕事だからそういうわけにはいかないわ。」
「じゃあ二人でやろうよ。」
「わかった…」
フローラちゃんは後ろへ回りバスローブを脱がせてくれた。
モニカちゃんはパンツを用意して、しゃがんで片脚立て膝の体勢になる。
ぱんつがまる見え… あっ
まさかまさか!?
モニカちゃんまで薄いパープルの同じぱんつを履いているなんて!?
ギャルには似合うぱんつだよな…ってそうじゃない。
偶然にしては出来すぎている。
「きゃっ モニカちゃんったら!」
モニカちゃんはまた私のボールを手のひらに乗せてふわふわと遊んでいる。
このシチュエーション、さえないDT君がヤンキービッチの女の子二人にもてあそばれている漫画に似ている。
「モニカちゃん… それ、アリアドナサルダで買ったの?」
「やだあ、マヤ様のエッチい!
そう。アリアドナサルダで買ったんだー
新製品で店員さんがやたらと推してくるから買ってみたんだけれど、似合う?」
「ん…似合うと…思う。」
「やったあ!」
そういうことか。
同じ物をセールスで推しまくられて三人ともつい買ってしまったというやつか。
女王のぱんつはロレナさんが直接売りに来たんだろうな。
だからって色まで同じなんて…まあいいや。
「あの… 今のお話、モニカちゃんが履いている下着のことですか?
私からも見えるんだけれど…マヤ様に見られても気にならないの?」
「ぱんつぐらい、仕事が終わってみんなの部屋へ遊びに行ったときにいつも見えてるでしょ。
それと同じだよ。」
「マヤ様とはもうそれほど仲良くなったのね。」
「マヤ様のことを信用しているんだよ。
私は男の人に騙されたりすぐ捨てられていたから疑心暗鬼になっていたけれど、ルナの話をいろいろ聞いたり実際こうしてお世話をしていたら、この男すごい!と思った。
だから周りの女の人に人気があったり、陛下がいらっしゃるこの区画に滞在出来るんだなあって。」
「そうかあ、そうよね。
私と二人でも…裸になられても乱暴をされないですからね。
パトリシア様のお話を聞かなければ殿方のお世話は絶対無理でした。
裸…………きゃっ モニカちゃん!
早く下着を履かせてあげて!」
「あらら! 忘れてたあ!!」
やっと気づいたか…。
嬉しいことを話していたから静観していたけれど、全裸でこの子たちの話が終わるのを待っているのは間抜けだったな。
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それから淡々と服まで着終わり、出発の服装に整った。
いつもの女神革ジャンとカーゴパンツである。
「少し遅くなりましたけれど、朝食をお召し上がり下さい。
今からお茶を入れますので。」
用意してくれたサンドイッチは、玉子たっぷりサンドと、フルーツと生クリームのサンドだった。
それにしても一人で食べるには量が多いが…
「これ、フローラと私が作ったんだよ。三人で食べようかと思って。
玉子がフローラでー、フルーツが私!」
「へぇー、美味しそうだね。」
「モチのロンよ。」
フローラちゃんがカップを三つ分用意してくれて、皆で席に着いた。
「今朝はペパーミントティーにしてみました。
旅の安全を祈って、頭をシャキッとですね。うふふ」
「ありがとう、フローラちゃん。早速頂こうか。
うーん、良い香りだ。どれ…ゴク……スッとしてシャキッとくるよ。」
「マヤ様はよくボーッとしているから、このお茶が一番だね。あっはっはっ」
「モニカちゃんったら失礼よ。うふふふふ」
フローラちゃんにも笑われてしまったし、私はそんなにボーッとしているのだろうか。
たぶん考え事をしている時だろうなあ。
サンドイッチを美味しく頂いたら、いよいよ出発だ。
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窓から出ず、王宮の玄関先から飛び立つことにした。
フローラちゃんとモニカちゃんも見送りをしてくれる。
「じゃあ二人とも、たぶん一ヶ月後ぐらいにまた来るから。」
「はい、どうかご無事で!」
「今度お土産よろしくねぃ!」
「わかったよ。」
私はゆっくり浮かび上がり、二人が見えなくなるまで手を振った。
さて、マドリガルタを出る前に、リーナの顔を見に行かないとな。
エレオノールさんにも会いたいけれど、手紙は出しておいたのでまた今度だ。
西の方へ数分飛ぶとガルベス公爵の大きな屋敷が見えた。
リーナの部屋は確か…
おっ 庭に面している二階のあの部屋だ。
窓をそろっと覗いてみると… いたいた。
あれ? なんでエレオノールさんも一緒にいるの? ラッキー!!
窓をコンコンと叩いてみる。
リーナがこっちを振り向き、びっくりして窓際へやってきて窓を開けてくれた。
「おおおお!! マヤ!! どうしたんじゃ!?
おおそうか、その格好はもう帰るんだったのう。」
「うん、たぶん来月にまた来るからね。」
「マヤ様…、お手紙頂きました。
嬉しいです。またご一緒しましょう。」
コックコートのエレオノールさんは顔を赤くして照れていた。
ああ! いいなあ! 可愛いなあ!
職人の女性は格好良くて憧れるし、時にこういう表情をしているとより綺麗で可愛く見えたりする。
「なんじゃおまえたち? デートでもするのか?」
「またエレオノールさんの美味しい料理を食べたいって話だよ。」
「そうかそうか。エレオノールの料理はいつも美味しいからな。」
リーナが言っていたことは半分当たりだ。
エレオノールさんと二人きりで話をしながら彼女の料理を食べたいことを伝えてある。
OKをもらえて良かったあ! 嬉しい!
「ところで、どうしてエレオノールさんが今リーナ嬢の部屋に?」
「時々なんですが、お嬢様に栄養学や料理の歴史をお教えしているんです。」
「そうかあ、たまたまでラッキーだったんですね。
リーナも栄養学だなんてすごいね。」
「そうじゃ。淑女の嗜みというやつじゃな。えっへん。」
「じゃあリーナ、エレオノールさん、もう出発しないといけない。
出発の挨拶をしに会いに来ただけだから、ごめんね。」
「そうかあ、残念だのう。」
「マヤ様、どうかお気を付けて。
またいらした時はエトワールの美味しい料理をご馳走します。」
「楽しみにしてます。それでは!」
「マヤーーーー!! バイバーーーーイ!!」
窓辺で手を振るリーナ嬢とエレオノールさん。
私もまた手を振りながらゆっくりと屋敷を離れた。
一生懸命手を振るリーナは子供らしくて可愛い。
がらにも無く少し目が潤んでしまった。
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スピードを上げる前に取りあえずゴーグルを装着する。
重力制御のグラヴィティ、推進力とさらに浮かせるための風魔法、他にも空気抵抗制御や呼吸をしやすくする魔法を並列発動させながら飛ぶので魔力の燃費は悪いが、それより精神的な負担がやや大きい。
飛行機が完成すればグラヴィティと風魔法だけで済む。
大きな物だから魔力消費はもっとたくさんになるかもしれないが、二種類の魔法だけになるので精神的には楽になるかも知れない。
テスト飛行するまではどうなるのかわからないが。
時速約三百キロで二時間半飛び、あと少しでマカレーナへ到着する。
行きより三十分早く着いて、ひかりからのぞみまで格が上がったぞ。
着陸するため、スピードを時速五十キロくらいまでに減速した時だった。
うぉぉぉぇぇぇ!!
なんだこの悪寒は!?
この感じ方は前にも感じたことがある。
まさか、デモンズゲートが発生!?
ここはまだサリ様の結界の外だから、ありえることだ。
辺りをしばらく周回してみたがデモンズゲートらしきものが視界に無く、それどころか悪寒もだんだん無くなってきた。
気のせいだったのか?
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一週間ぶりのガルシア家にはちょうどお昼前に着いた。
玄関先にヴェロニカとスサナさん、エルミラさんがいる!
午前中の訓練が終わったところだな。
「おーい! ただいま!!」
「あっ マヤさんだ! おかえりー!!」
「マヤ! 予定通り帰って来られたな!」
「マヤ君、良かった無事で…」
僅か一週間ぶりなのに、大切な人たちの顔を見たらホッとする。
今日からまたマカレーナでの生活だ。