第百六十一話 エステラちゃんからのプレゼント
2023.5.17 微修正を行いました。
話が弾み、お茶会がそろそろ終わりそうで終わらない。
学校の出来事や、パーティーの愚痴など彼女らが話すので私は聞き手が中心だ。
お茶もたくさん飲んだのでトイレに行きたくなる。
「ちょっと用を足してくるね」
部屋を出て長い廊下を歩く。
トイレは前も行ったことがあるので一人で出てきたんだが、さてどこだったかな……
おお、ここだ。
建物の角にある、八畳間くらいの広いトイレ。
普通の洋室にみたいな部屋に洋式トイレがあって、何だか落ち着かない。
とても清潔にしてある。
「ふぅ……」
スッキリした。
ちゃんと水洗トイレになっているので水を流す。
この世界の高級トイレも魔道具になっていて、魔法使いが時々魔力を流し込んで使う。
もしかしてここはレイナちゃんが魔力を込めているのかなと思うと、ドキッとする。
トイレを出て部屋へ戻ろうとすると、向こうから歩いてくるのは……
「エステラちゃん」
「私もお手洗いに…… うふふ」
彼女が小悪魔的に笑う。
また何かをしようとしているのかな?
「マヤ様、ちょっとこちらへ来て下さいまし」
「おおい、どうしたんだい」
エステラちゃんは私の手を引っ張り、十メートルほど先にある部屋へ連れて行かれた。
「ここは……?」
「誰も使っていない空室です。レイナの物置にもなってるわ」
確かに箱がいくつか積んであり、ちょっとしたドレスのクローゼットにもなっている。
豪商の家であり伯爵令嬢のレイナちゃんにしてはドレスの数がずいぶん少なめなので、きっと仮置き場なのだろう。
エステラちゃんは私の手を引っ張りながら、部屋のドアを閉めた。
「ねえマヤ様……」
エステラちゃんは両手を私の後ろ首にまわし、勢いよく口づけをした。
――不器用だが、はむはむしたり吸い付いたりしている。
前に読んだという恋愛物語の知識だと思うが、微笑ましい。
この子はどうしても私に取り入ってもらいたいようで、色仕掛けやキスで一生懸命になっているんだろうか。
「んん…… ふぅ……」
これは…… 彼女は舌も使ってきているが、やはり不器用に動かしているだけだ。
いつもこの子のペースに乗っていても嘗められるだけなので、ここは大人のキスで反撃をしよう。
「はふっ ん!? んんん!?」
私の舌でエステラちゃんの舌の周りを回すように動かしたり、唇の裏を舐めまわしたり、彼女の舌先をつついたり吸ったりもした。
するとエステラちゃんは力が抜けてガクッと倒れそうになったので、彼女の腰を支えた。
この辺でやめておくか…
「んふっ ふぅぅ……」
エステラちゃんは半泣きになり、トロンとした目で私を見つめる。
こんな若い子にやり過ぎただろうか。
ディープキスはある意味裸になって行為をするより衝撃的で、食べ物を食べたり普段自分しかいじくらない口に他人が体内へ入り込むことは、下半身とは感覚が違う。
精神的にも効果絶大で、心を許した相手ならば女の子の方がキスを好む。
「グスン…… マヤ様…… すごいんですね……」
「ごめん…… 刺激が強すぎたかな」
「すみません。お手洗いへ行ってきます……」
エステラちゃんは半泣きのまま先に部屋を退出して行った。
ぱんつを見せたり、薄暗い場所だけれど胸を開けさせて触らせたりいたずらが過ぎたから少し懲らしめるつもりだったけれど、思った以上にショックだったようで心配になってきた。
おっと、早くレイナちゃんの部屋へ戻ろう。
う◯ちをしにいったのかと思われてしまう。
(エステラ視点)
トイレの洗面台。私は鏡を見つめる。
グスン…… 酷い顔ね。
まだドキドキしてる…… 本当にびっくりした。
私、調子に乗ってたのかな。
大人の恋って想像を超えてた。
マヤ様は他の女の人ともあんなことをしているのね。
もしこの前の夜、裸になったときにあんなキスをされていたら、おかしくなって最後まで行っていたのかも知れない。
私のことを大事に思ってくれてるのかな。
それだけ感情のコントロールが私なんかよりずっと上手なのね。
たった四つ年上なのに……
私、今まで何をやっていたんだろう。
ああああ! 余計に恥ずかしくなってきた…… ううう……
どうしよう。マヤ様のことがもっと好きになってしまった。
部屋に戻ったら目を合わせられない……
ううん、いつも通りにしていたらマヤ様もきっとそうしてくれるわ。
マヤ様はお優しいから……
よし、戻ろう。
(マヤ視点)
ギイッとドアが開く。
お、エステラちゃんが戻ってきた。
いつも通りの表情に戻ってる。ああ良かった。
もしあのまま帰っちゃったりしてたらどうしようかと思ったよ。
「マヤ様、どうかしたんですか?
エステラちゃんをジッと見つめて……」
「あいや、何でもないよレイナちゃん。
エステラちゃんは綺麗な顔をしているなと思って」
「そうするとマヤ様は、私とレティシアちゃんが子供っぽい顔と思っておられますか?
わかってますぅ!
エステラちゃんは大人っぽくて綺麗な顔ですから」
レティシアちゃんはコクコクコクと頷いて、エステラちゃんはニコッと無言で微笑んだ。
レイナちゃん、思い込んでしまうタイプの子なのかね。
「まあ可愛いのは若さの特権だよ。今しか無いんだから。
背伸びしなくていいから今を楽しむ方がいいんじゃないかな。」
「あら、マヤ様。私はもうオバサンになりつつあるってことなの?」
「エステラちゃんは全然オバサンじゃないよ。
お姉さんの期間が長いと考えた方がいいんじゃないかな」
女王は四十一歳なのに童顔で肌が妙にぷりぷりしているからオバサンには見えないけれど、きっと乳液でも塗りたくって若作りをしているのだろう。
「マヤ様は本当に女性を立てることが上手なのね。ふふふ」
「はぅぅ…… 私はマヤ様の周りの女性で、何番目なのかな……」
レティシアちゃんがぷるぷるしながらそう言う。
この子たちにも説明が必要かな。
「好きな女性に何番目だなんて考えてないよ。
ガルシア侯爵の令嬢だけは、世話になっている侯爵の義理もあって一番に結婚しないといけないだろうなと思っているだけさ。
そもそも男爵風情が何人も娶るなんて聞いたこともないから、本当に誰と結婚出来るかもわからない。
近頃は魔物が減りだんだん平和になって来ているから、武勲を立てて陞爵をさせてもらえる機会があるかどうか。
勿論このまま魔物がいなくなって平和であるほうがいい」
「大丈夫ですよ。
貴族階級で結婚できる人数が決まっているという法律がこの国には無いですから。
どちらかと言えば経済力でしょう。
貴族の女はお金がかかりますからね。
あ、私は贅沢しなくてもいいですから。
それより何か商売を考えた方が良いかしら。うふふふ」
エステラちゃんは私と結婚する気満々だな。
半分衝動的だったが、やっぱりあんなキスをしなきゃ良かったかなあ。
思い込んだら一直線の女の子が多いけれど、この国の女性の性格なんだろうか。
地球でもスペインの女性は情熱的で一途と聞いたことがあるから似ている。
パティも知らない女性に対して過敏に反応しているし、馬車店のアンネマリーさんと一緒に歩いている時がそうだった。
この三人をもっと早くパティに紹介しておくべきだったなあ。
そんな話をしながら、もう夕方になってしまった。
「マヤ様、このままお夕食を召し上がって行かれませんか?」
私たち明日も学校がお休みだから三人でまたお泊まりするんです。
パジャマパーティーも出来ますよ」
「ごめんねレイナちゃん。
今日の夕食は訳あって王宮で取ることにしているんだ。
また今度出来たら良いね」
「そうですか…… 王宮のことなら仕方がないですね」
残念だけれど今回は身重のシルビアさんを優先にしたい。
今は彼女との時間を大切にすべきだと思う。
「マヤ様、これプレゼントです。
帰ったら一人で見て下さい。
私だと思って大事にして下さいね。うふふふふふ」
エステラちゃんは手渡しせず、手に忍ばせていた物をぎゅっと私のズボンのポケットに突っ込んだ。
あの笑いが非常に怪しい。
レイナちゃんとレティシアちゃんはそれを見て不思議な顔をしていた。
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「それじゃあみんな、また会おうね。元気で」
レイナちゃんたち三人は玄関先で私を見送ってくれ、薄暗くなった空へ向かって私は飛び立った。
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王宮へ帰り着き、自室へ戻った。
そうそう。さっきエステラちゃんからもらったプレゼントって何だろう。
一人で見て下さいと言ってたが、今は部屋に私一人だ。
フローラちゃんはまだ来ない。よし。
何となく布っぽいけれど、ズボンからそれを取り出してみた。
お? おおおおおお??
なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
これはお茶会でエステラちゃんが履いて見せていたおぱんつ!!
薄いパープルで総レースのTバックだ。
あの後にトイレで脱いで、あれからノーパンだったのか?
でもお泊まりだから替えのぱんつは準備しているだろう。
なんて子なんだ!
私だと思ってというのはそういうことか……
――汚れてはいない。
ちょっと匂いを嗅いでもいいのかな。
クンクン……
ほぼ無臭だがほんのりミルクっぽい香りがする。
女の子の匂い…確かにエステラちゃんの匂いだ。
匂いが少ないのは、たぶんお茶会へ出かける直前に履いたぱんつなのだろう。
スゥーハァー
はぁぁ…… 良い匂い。
きっとエステラちゃんは今頃心の中でほくそ笑んでいるに違いない。
あの子にはまたやられたよ。
コンコン「マヤ様! おかえりですか?」
「あああ、ちょっと待ってくれるかな!?」
ヤバい。もうフローラちゃんが来た。
窓から入ってきたのに何で帰ってきたのがわかるんだ?
王宮のメイドネットワークはすごすぎる。
どこにぱんつを仕舞おうか。
掃除すると見つかったり、持ち帰るのを忘れてしまうような場所には置けない。
ああ、私のリュックの奥に入れてしまおう。
「もういいよぉ!」
ガチャッとドアが開くとフローラちゃんが入ってきた。
もしモニカちゃんだったらノックの後にいきなり入ってくる可能性がある。
フローラちゃんで良かったな……
「おかえりなさいませ、マヤ様。どうかされたんですか?」
「うん、ちょっとズボンとパンツがズレてて履き直してたんだ。ははは……」
「私はマヤ様が裸でも一向に構いませんし、これからお風呂なのですから直す必要はないですよ」
「ああ…… そうだったね……」
「じゃあ今からお風呂の準備をしますから、少々お待ち下さい」
その後は淡々とお風呂と着替えが済んだ。
フローラちゃんもだいぶん私に慣れてきたな。
私がぱんつを脱いでいるときは無言で顔が赤くなっているが。
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そしてシルビアさんと個室で夕食。
今回の滞在で彼女とは最後の食事になる。
「マヤ様、たまのことですからインファンテ家でごゆっくりなさっても良かったんですよ」
「いや、シルビアさんとなるべく一緒にいたいんです。
大事な身体だから……
本当はずっと王宮に滞在したいくらいなんです」
「まあ…… マヤ様ったら。ありがとうございます」
シルビアさんはポッと顔を赤くして微笑んだ。
いいなぁ……
さっきのエステラちゃんみたいに、私がシルビアさんに恋をしているという気持ちが高ぶってドキドキしてくる。
私の子供を産んでくれる女性…… 夢みたいだ。
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食事を終えて、シルビアさんが話しかける。
「最後の晩ですから、陛下のお相手をして差し上げて下さい」
「わかりました。
でも寝るのはシルビアさんと一緒ですから、部屋で待っていて下さいね」
「はい…… うふふ」
シルビアさんはにっこり微笑んだ。
女王への夜伽は嫌いではないけれど、義務感で行為をするというのはお一人様行為の延長のようなものだ。
勿論女王はそれを承知しているし、お互い様である。
恋愛感情は無いけれど、女王からは母性愛を感じ何だか安心する気持ちになることがある。
私自身、無意識に求めているのだろうか。
今晩の女王の下着は、なんとエステラちゃんと全く同じ、薄いパープルで総レースのTバックだった。
どうせレイナちゃんのお母さんが王宮へ持ち込んで買ったものだろうが、偶然にもほどがある!
そのぱんつを脱がして手に取ったときは、非常に複雑な気分になった。
親子ほどの年の差で同じデザインのぱんつって……
エステラちゃんにはちょっと早いし、女王は年相応のものを履きやがれと。