第百六十話 不穏なお茶会
インファンテ家、レイナちゃんの部屋にて。
エステラちゃんが来てから一足遅くレティシアちゃんがやって来た。
「こんにちはぁ!
はわわわっ マヤ様お久しぶりですぅ!
あれ? レイナちゃんどうしたの?」
レイナちゃんはエステラちゃんが揶揄い、拗ねてテーブルに突っ伏してしまっている。
ここは年長者としてフォローをしてあげないと。
「レイナごめんってば。冗談よ。
いつもあなたが試着のお手伝いをしているのは知ってるから。」
「レイナちゃんのおかげでデザインを直す箇所がわかったよ。
だからすごく助かっているんだ。
五センチくらいハイライズにしたほうが良くてね。
それをロレナさんに伝えて欲しいな。」
返事が無い。ただの貴族令嬢のようだ。
どうしよう。せっかくのお茶会が寂しくなる。
「私、レイナちゃんが好きなマドレーヌを作って持ってきましたよ。
何があったかよくわからないけれど、みんなで食べましょう。」
あら、レイナちゃんがピクッと反応した。
食べ物で釣る作戦か。
「あと、うちの料理人に作ってもらったオレンジのタルトも持って来ましたよ。」
「私はマカロンを持ってきたわ。
起きないとレイナの分も食べちゃうわよ。」
「ダメェ!! 私も食べたいですぅ!!」
エステラちゃんの言葉でレイナちゃんはガバッと起き上がり、マカロンを取り出して食べるフリをしているエステラちゃんを半泣きになって制止した。
私の声には反応してくれず、お菓子に負けてしまった。悔しい。
付き合いが長そうだし、この子たちはレイナちゃんの扱いがわかっているのだろう。
あまり天気が良くなかったので、庭ではなくそのままレイナちゃんの部屋でお茶会をすることになる。
気分を直したレイナちゃんは、ローズヒップとハイビスカスをブレンドしたハーブティーを入れてくれた。
これがお菓子に合うらしい。
それからレイナちゃんお手製のバタークッキーも加わり、テーブルの上はお菓子で賑やかになった。
「ううぅぅん、レティひアちゃんのマドレーヌはいちゅもおいひいですね。にゅふふ」
「レイナったら、口の中にいれてしゃべるのはお行儀悪いわよ。」
お菓子を美味しそうに頬張っている姿はまるでパティのようだ。
女の子は笑顔になるのが一番良い。
こうやって貴族令嬢の美少女たちとお茶を飲むなんて夢のようだけれど、男友達と馬鹿なこと言いながらワイワイすることが懐かしく思えた。
「うん。確かにレティシアちゃんのマドレーヌは美味しいね。
しっとりしてて舌触りが滑らかだから、口の中でとろけてあっという間に食べてしまったよ。」
「はわわわわっ マヤ様にもそんなに褒めて頂けるなんて、感激ですぅ!」
「エステラちゃんのマカロンも美味しいよ。
こんなに色とりどりで作るの大変だったでしょう。」
「こ、これはさっきお店で買ってきた物ですからっ
私はお菓子作れないんです…」
「そうなのか…ははは」
エステラちゃんは悔しさ半分の恥ずかしさで顔を赤くしていた。
そういえば前回お茶会で食べたクッキーはレイナちゃん、出発するときにもらったクッキーはレティシアちゃんだったから、エステラちゃんから頂いたものは先日真夜中に部屋へお邪魔した時に飲んだオレンジブロッサムティーだけだったな。
「マヤ様、今日の私のクッキーはいかがですか?」
「そうだねえ。前より甘みが抑えてあって、バターが濃厚だからとても美味しいよ。」
「良かったぁ。マヤ様のお口に合わせてみたんですよ。」
「レイナったら、マヤ様には一生懸命なのよねえ。ふふふっ」
「私はマヤ様に振り向いてもらいたいですから頑張ってるんです!」
「はわわわわっ わ、私もですぅ!」
「ぐぬぬぅ…」
そんな感じでお菓子を美味しく頂きながらわいわいとやっていたが、三人の子が中心になって私をネタに話しており、私自身からはなかなか会話に入り込めない。
何か聞かれれば答えるぐらいのものだ。
スケコマシみたいな男が中心になって女の子たちにしょうもない自慢話をするよりはましだと思うが、もっとトークが上手になりたいよ。
「はうぅ… 今日お会いできたばかりなのに、明日はもうお帰りなんですか?」
レティシアちゃんがそう聞いてきたので、他の二人にはもう言ってあるがこの先は定期的にマドリガルタへ通うことに決めたことを話すと、不安げな顔がパアッと笑顔に変わり、目がキラキラしている。
この子たちはみんなすぐ顔に出るのでわかりやすくて可愛い。
だからトランプゲームは出来そうにないな。
この国にはチェスに似たゲームはあるが、トランプが無い。
そうか、私が作って売ったら儲かるかも知れないな。
「わあっ 毎月お会いできるんですね!
マヤ様に召し上がって頂くために、もっと美味しいお菓子が作れるように頑張ります!」
「レティシアもレイナもマヤ様のことが大好きなのね。妬いちゃうわあ。」
おいおいエステラちゃん。
君が一番積極的で、男性に慣れていないくせにぱんつとブラだけになってまで私を口説き落とそうとしていたんだぞ。
今日のこの子、どうも二人に噛みついているな。仲良くしなきゃ。
「そ、そうです! 私はマヤ様のことが大好きですよ!」
「あわわわわ… わた、私も大好きですよ…」
レイナちゃんははっきり言っちゃったけれど、レティシアちゃんは恥ずかしいのか自信なさげな言い方だった。
エステラちゃん、二人を煽って何かしようとしていないか?
「レイナはマヤ様に下着を見せることが出来たでしょ。
レティシアはどうなの?
私は今ここでも見せられるわよ。
前にお庭でお茶会をしたときも見せたから大丈夫でしょ。」
「そ、そんな。あの時は見せたんじゃなくて偶然なので…」
レティシアちゃんが困っている。
今度はぱんつを見せようだなんて、素晴らし…いや、けしからん。
「あのエステラちゃん、下着が見たいから好きになるわけじゃないから。
私はレティシアちゃんの、慎ましやかだけれどパッと開くと可愛くて綺麗なピンク色のカーネーション花のようなところが気に入っているんだよ。」
「ま、マヤ様ったら…ポッ」
レティシアちゃんは顔を赤くして両手で頬を押さえている。
だがエステラちゃんはそこでニヤッとした。
「そうね。レティシアの下着はピンクが多いものね。
あの時の下着もピンクだったかしら。
それでマヤ様も覚えてて…うふふ」
「レティシアちゃん! 断じて違うぞ!
君の中身のことを言ったんだよ。
エステラちゃん。そんなに二人のことを揶揄って、どうかしたの?」
「…………私がマヤ様のことを一番好き。二人に負けたくない。」
エステラちゃんは拗ねた顔をして、他の二人は彼女を黙って見つめている。
パジャマパーティーの後といい、先日の深夜のことといい、エステラちゃんは自分をアピールすることに意固地になっているのか。
さてどうやってこの場をまとめようか。
「好きだとか好かれたいのは競争じゃないんだよ。
この三人の中で誰かを選んだり三人全員娶るほど私は偉い人間じゃない。
今やっと給仕を一人雇うことで精一杯なんだ。
まだ君たちは学生だし、私自身の将来もまだわからない。
他の好きな女性もみんなが幸せにしてあげられる自信が無いんだ…。
だから慌てなくて良いんだよ。」
エステラちゃんは真顔でこう答える。
「マヤ様はわかっておられません。
私たちがいくら女学校に通っていても、貴族社会ですからパーティーがあれば男たちが寄ってきます。
中には素敵だなと思う殿方もいらっしゃいますが、結局私たちにツバを付けているだけで他の女性に目を向けています。
そうでなければ家を狙って政略結婚をしようとしているどうしようもない男たちです。
どうしてそんな男たちを好きになれましょうか。
だから私たちはマヤ様に出会い、強くて誠実で女だからって見下さない振る舞いにとても感激しました。
そんな殿方を振り向かせたい気持ちになるのは当たり前のことです。」
最近はタメ口だったエステラちゃんが敬語で毅然と話してくるあたり、真剣なんだな。
冗談を言わない方が良さそうだ。
「でも三人の中で私のことが一番好きと言っていたけれど、それはどういうことなの?」
「それは競争じゃないんです。
レイナと…特にレティシアにはもっとはっきりマヤ様のことを愛してると言ってもらいたいからの、言葉の綾です。」
「エステラちゃん…。」
「はわわわわっ マヤ様を愛してるって…ポポポムッ」
レイナちゃんはエステラちゃんを暖かく見つめて微笑み、レティシアちゃんはさっきよりもっと顔を赤くして噴火しそうな勢いだ。
やっぱり三人は仲良しなんだねえ。
「エステラちゃんの気持ちはわかったよ。
でも君たちは学業優先で卒業までまだ二、三年はあるのかな。
卒業するころには君たちの心も成長しているだろうし、私も何か変わっているかも知れない。
それまでは時々お茶会でおしゃべりしたり楽しむことが出来ればいいんじゃないかな。」
「そうですね。私たちは焦っていたのかも知れませんね。
でも私はマヤ様一筋ですよ。うふふ」
レイナちゃんがそう言ってくれるが、そんなに私がいいのかなあ。
中身はただのむっつりスケベおじさんなのに。
「じゃあみんな。
マヤ様のことがどれだけ好きなのか自分たちのスカートの中を見せようよ!」
「は? エステラちゃん何を言って…」
三人が私の前でぞろぞろと並ぶ。
そして両手でスカートの裾を掴んだ。
「「「はいっ!」」」
三人は一斉にスカートの裾を、お腹が見えるくらい大きく上げた。
レイナちゃんはさっきも見た、薄手の生地を使ったピンクのボクサーパンツ。
ひぃぃぃぃ!!
動いて下にずれたのか、見えそうでギリギリ見えないようになっている。
これは絶対ハイライズに直してもらわないとダメだ。
後で彼女がずれていることに気づいたら、きっと顔から火を噴くだろう。
エステラちゃんは…、総レースで薄いパープルの…腰紐が細いから後ろを向いたらTバックの可能性大だ。
相変わらず歳の割にセクシーランジェリーが好みのようだが、最初から勝負下着で私に見せるつもりで履いてきたようにしか思えない。
レティシアちゃんは、ホッと安心するごく普通のピンク色の綿パンだった。
とても初々しくて可愛い。
どうも私の前でぱんつを見せる周りの女性は大人のぱんつを履いていることが多いから新鮮だな。
綿パンを履いているのはビビアナとエルミラさんぐらいだ。
三人揃ってスカートをたくし上げてぱんつを見せてくれている姿は壮観である。
だがそろそろ下ろしてもらわないとこっちが恥ずかしい。
「あの…、もう大丈夫だから…スカートを下ろしてくれないかな。」
三人ともパサッとスカートを下ろしたが、みんなの表情はエステラちゃんが堂々としているだけで他の二人はトマトのように赤かった。
「さあマヤ様! 誰の下着が一番気に入りました?」
「競争じゃないんでしょう?」
「いいですからそんなことは。さあさあ!」
「ええ… じゃあ、強いて言うならレティシアちゃんかな…」
「なんですって!? レティシア見せなさい!」
「きゃっ! 何するの!?」
エステラちゃんはババッとレティシアちゃんのスカートを捲って中を覗き込んだ。
良い匂いがしそうだ。羨ましい。
ありゃりゃ、レイナちゃんまで気になってチラ見している。
「ふーん、マヤ様はこういうのが良いんだ。」
「エステラちゃん、恥ずかしいよぉ。」
「コホン…、レティシアちゃんらしい可愛い下着ですね。
私も見習わなければいけません。」
うむ。レイナちゃんも綿パンが似合うと思うぞ。
三人の中で一番白い肌の彼女には、ピンクより敢えて白の方が合ってるかな。
はぁ…それにしても大変なお茶会になってしまった。
そろそろお茶会の流れを元に戻そう。
「レイナちゃん、喉が渇いたよ。
お茶を入れ直してくれるだろうか。」
「あ、はい! かしこまりました!」
レイナちゃんは魔法でお湯を沸かし、新しいカップに今度はジャスミンティーを入れてくれた。
良い香りで。日本でもよく飲んだな。
沖縄で言うさんぴん茶も飲んだことがあり、懐かしい。
「うーん、レイナちゃんが入れてくれるお茶はいつも美味しいね。」
「ありがとうございます。うふふ」
「ぐぬぬ。私も美味しいお茶の入れ方をもっと勉強しなければいけないわ。」
「皆さん、私が持ってきたオレンジタルトがまだ残ってますし、食べましょう。」
そういうわけでまだたくさんある甘いお菓子を皆で頬張って、笑顔でお茶会が続いた。
美味しい食べ物を皆で食べることは心を豊かにし、楽しくしてくれる良薬だ。
これからもこの三人とお茶会を積極的にしていきたい。