第百五十八話 第一王子アウグスト
モニカちゃんと愛し合うなんて思いも寄らず。
結局お風呂から上がってもそのままベッドの上で楽しんだ。
事が終わり、ベッドの上で二人して大の字になってピロートーク。
「マヤ様のこと好きになっちゃった。
私、惚れっぽいんです。
すぐ男の人を好きになって、関係したら飽きられてポイばかり。
私ってそんなにつまらない女ですか?」
「うーん、君のことはまだよく知らないけれど、雰囲気として感じただけならば明るくていい子だなと思ったよ。
仕事はきちんとしてくれているし、お茶とサンドイッチは美味しかった。
それにあのエリカさんとお互い好きになっている子なら大丈夫かなって。」
「わあ、すごく嬉しいです。
貴族なのに私のことを見てくれているんですね。」
「君は男運が無い…というよりたまたま周りに良い人間が付かなかったんじゃないかな。
男の方は身体目当てで言葉巧みに近づいて最初から君に興味が無かったんだよ。
貴族も、誰も彼もが平民を見下しているわけじゃないさ。
私が仕えているガルシア侯爵家はそんなことないし、皆が家族のように和気あいあいやっているよ。
エリカさんもその中の一人だから分け隔てなく接してくれたんだよ。」
「そっかあ…
私がバカで人を見る目が無かっただけなのかな。あはは…」
モニカちゃんは起き上がり、寝ている私に軽くキスをした。
そしてソファーの上に畳んである給仕服と、一緒に置いてある下着を着けた。
「マヤ様見て。」
これがロベルタ・ロサリオのランジェリーですよ。似合うかな。」
確かにモニカちゃんは私がデザインしたぱんつを履いていた。
ブラはそれに合わせて別の人がデザインした物だろう。
上下濃いピンクで、レースをあしらっていない。
ぱんつは腰の紐が二本あるハーフバック、ブラはシームレスだ。
彼女はくるっと回って見せてくれた。
「とても良く似合うよ。まるで妖精だ。」
お世辞抜きで本当にそう見えた。
ウェーブがかかった美しい金髪がキラキラしてとても幻想的だ。
日本の男が金髪の女性に弱いだけかも知れないが。
白く美しい肌、若くてぷりぷりしたあの身体をさっきまで抱いていたなんて信じられないほどだ。
「妖精だって。そんなこと言われたの初めて! あっはっはっ」
「本当だよ。君は自分で思っているより綺麗だよ。
今は化粧をしていないけれど、顔立ちがはっきりしているから十分美人さんだね。
若いんだし、化粧はしないほうがいいと思うよ。」
「て… 照れちゃうじゃないですか…」
モニカちゃんは顔を赤くしながら給仕服をいそいそと着ている。
可愛い…。女の子の着替えを見るのもまた楽しいな。
「マヤ様。もうすぐ夕食ですから早く服を着ましょう。
裸で私を見つめていると何か変態みたいですよ。」
「へいへい。」
だんだん私に対して言動に遠慮が無くなってきたな。
モニカちゃんは引き出しから新しいパンツとシャツを取り出し履かせようとしているが、手のひらで私のボールをふわふわと持ち上げて遊ぶのはやめてくれ。
「にひひ。じゃあパンツを履きましょうね。」
その後は淡々と服を着るのを手伝ってくれ、ズボンとブラウスを着て終了。
若い使用人とエッチなことをした直後に自分の子供を宿しているシルビアさんと食事をするというのは少々罪悪感がある。
いや、気にするのはよそう。
この国は一夫多妻が合法なのだ。
せっかくサリ様に与えてもらった素敵ライフを楽しもう。
「ねえマヤ様。
どうしていつも夕食はシルビア様とご一緒なのは、何か訳があるんですか?」
うわっ どうしてこの子は私がシルビアさんのことを考えているのがわかるんだ。
それっぽく理由を作って誤魔化しておこう。
「ああ、今回は私が一人で来ているもんだから、女王陛下の計らいで前回いろいろお世話になって話す機会も多かったシルビアさんを寄越してくれたんだよ。」
「そうなんですかあ。
シルビア様とはあまり話したことがないけれど、綺麗で格好いいしお優しいしみんなの憧れなんですよ。
それなのにどうしてご結婚をされないんだろう。」
「うーん、どうしてだろうねえ。」
最後の言葉で背筋が凍った。
シルビアさんとは近いタイミングで結婚することになりそうだから、疑惑を持たれないように事を進めないといけない。
「じゃあ今日の私の仕事はこれで終わりですから、おやすみなさい!
あ、これ洗っておきますからね。
フローラが帰ってくるなら明日のお昼ぐらいだろうから、朝また来ますね!
では失礼します!」
モニカちゃんは私の臭くなった服や下着を持って、嫌な顔一つせずぺこりとお辞儀をして部屋を退室した。
……あんないい子が悪い男たちに引っ掛かっていたなんて悔しいな。
そいつらに鉄槌を食らわしてやりたい。
だがそんな子とエッチなことをしてしまった私はこのままだと悪い男と同じだ。
早く屋敷を建てて安定収入が得られるようになったら、みんなとのんびり暮らしたいなあ。
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いつものようにシルビアさんと個室で食事。
今日の魔物退治のことを彼女に報告する。
食事中にゴキブリの話をするのもどうかと思ったが、シルビアさんはちゃんと聞いてくれた。
素晴らしい女性だな。
「お疲れ様でした。それにしても…うふふ」
「笑わないで下さいよ。本当に大変だったんですから。」
「それは失礼しました。
でもあの小さな街でサインまで書かれたなんて、すっかり有名人ですね。」
「顔をあまり知られていないからあまり有名人という実感が無いんですけれどね。
私が前にいた世界では、レンズを向けて見た物が電気の力で鏡のような道具に自分以外の人や物が写せて音も出るから、それが全世界の家庭にあるのですぐに顔が知れ渡るんですよ。」
テレビのことを話してみたが、こういう説明しか思いつかなかった。
シルビアさんには私の事情をすでに話している。
私にとって有名人という基準は地球でのことだから、この世界ではずいぶん緩い。
スマホカメラでいちいち撮ることもないのでうっとおしくない。
「まあ、そんなすごいことが出来るんですのね。
じゃあ悪いことをしても全世界に知れ渡るから、悪者は逃げ隠れ出来なくなりますね。」
「そうです。察しが良いですね。」
そんな話をしながらシルビアさんとの食事を楽しんだ。
私が女王の寝室の区画にあるあの部屋で滞在し夜伽をしていると、一部のメイドたちの間で噂になってることも話した。
「メイドに掃除をさせていますから、そのくらいのことは想定していますよ。
陛下の部屋にマヤ様の私物をお忘れになったことは無いですし、私も点検をしています。
夜はマヤ様と私以外に入って来られませんから大丈夫です。」
そういうことらしい。しっかりしてるな。
後で私も女王からお呼びがあることを聞いた。
寝室ではなく執務室で。
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女王陛下の執務室へシルビアさんと向かう。
そこには女王と、なんと珍しく第一王子のアウグスト殿下がいらっしゃり、お互い紹介があった。
「やあ、マヤさん。ようやく会うことが出来ましたね。
アウグストです。」
「お初にお目にかかります。マヤ・モーリです。」
私たちはお互い握手をした。
第一印象は金髪のさわやか好青年といった感じで、顔はヴェロニカに似ており精悍でいい男である。ウホ
ヴェロニカが王子を尊敬する理由がわかった気がする。
「次々と仕事が舞い込んでくるものだから忙しすぎてお会いできる機会がありませんでしたが、今日は一段落したところです。
この国の救世主にやっと挨拶をすることが出来て嬉しいです。」
「救世主だなんてとんでもないです。
私も陛下やいろんな人に助けてもらってばかりで。」
私は頭を掻いて照れ隠しをした。
実際、やることはやっているけれどあまり使命感があって行動しているとは思っていなくて、それよりずっと普段の生活が楽しい。
「マヤさん。空飛ぶ乗り物を作る費用の件、何とかなったわ。
今それをお渡しします。」
「そうですか! ありがとうございます!」
「アウグストの尽力のおかげね。私は何もしていないわ。オホホホ」
よしやった!
しかし女王はアウグスト王子に投げただけか…
それでも女王がいないとどうにもならなかったから感謝しかない。
「私もその空飛ぶ乗り物に興味が湧いてきましてね。
それで魔物が完全に滅ぼすことに手助けになるのならば安いものですよ。
国庫から何とかひねり出しましたので、どうぞ受け取って下さい。」
アウグスト王子は女王のデスクの下にある金庫からケースを取り出し、私はそれを受け取った。
「聖貨が五枚あります。
魔物討伐の費用として計上していますが、それで足りるでしょうか?」
「ご、五枚! こんなに頂いてよろしいのですか?」
「たった百人の兵士を一年間運用すれば無くなる金額ですよ。問題ありません。
とりあえず当面の費用として使って下さい。
もし足りなくなればまた考えますので、その時はおっしゃって下さい。」
「はい…、大事に使います…。」
どうしよう。五億円相当のお金をもらっちゃったよ。
黙って無駄遣いしようにも、現状の生活で満足しているので欲しい物があまり無い。
それこそお金で買えない、この世界で出会えた素敵な人たちが私にとって一番の財産だ。
未だに銀行の口座を作っていないので、マカレーナへ帰ったら銀行へ預けておこう。
「マヤさん、あなたはご自分が考えておられる以上に大変な功績を収めておいでです。
あなたがいなければ魔女が王都に結界を張ることもなかった。
辺境地の教員不足の件でも助かりました。
時間はかかりますが徐々に改善させていきますので。
母上はあなたを高く評価をしており、信頼しています。
それにあのヴェロニカがなついている方ならば、私もあなたを信用しますよ。
きっとうまくお金を運用して下さると思ってますから。」
「そうですよ。
そんなあなたをぞんざいに扱ってはいけませんからね。オホホホ」
ずいぶん信用されているな。
だがこれで給料分以上の仕事をしろと遠回しに言われている気がする。
「恐縮です…。
それで報告を忘れていましたが、この三日間マドリガルタ周辺半径百キロにある山地を探索しまして、残っていた魔物はほぼ全滅したと思われます。
新たにデモンズゲートから魔物が送り込まれない限りは近郊の街へも魔物が現れることがないでしょう。
確定ではないので、防衛体制はそのままの状態にしておいて下さい。」
私は続いて、攻略した地域の詳細も話した。
アルデアの山地で倒した白い巨大ゴキブリのことも…。
「まあ、何から何まで…
私たちはマヤさんに何をして差し上げれば良いのかしら。」
「母上。ヴェロニカと結婚したら大きな屋敷を建てて上げたらいいじゃないですか。」
「そうね。それも良いかもね。オホホホ」
ああ…、こうなってしまったらヴェロニカとの結婚は逃れられないな。
彼女といつ結婚するかのタイミングなんて当然何も考えていないし、そもそもデートすら一度もしていない。
うーん、それはマルセリナ様やシルビアさんとも同じことか。
とにかくそっちのほうは頭がパンクしている。
一夫多妻制というのは大変だな。
「それでは、私はまだ少しすることが残っているので失礼しますよ。
今度はあなたとゆっくりお話をしてみたいです。
おやすみなさい。」
「おやすみなさいませ。良い夜をお過ごし下さい。」
「おやすみ、アウグスト。無理をしないでね。」
アウグスト王子は挨拶して、執務室を退室していった。
王子に無理をさせているのはあんたじゃ!
「シルビア、マヤさん。
今晩もあなたたちだけでおやすみなさい。
私は明日で良いわ。
今回はそれで最後になるのかしらね。
しっかり楽しみましょう。うふふ」
「あ…、はい…」
シルビアさんはにこにこして、私と一緒に退室した。
そして今晩はシルビアさんの部屋で眠ることにし、寝るにはまだ時間が早いのでいろいろ話をして就寝時間まで過ごした。
私の部屋ではモニカちゃんの残り香があるので、シルビアさんが気を悪くしてしまったらいけない。
それからは勿論ベッドの上で熱い熱い夜を過ごした。