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第百五十六話 王宮メイド、モニカちゃんの事情 其の一

 王宮滞在五日目。

 ゆうべは女王と運動をした後、寝る前はシルビアさんがせがむのでまた運動をしてしまった。

 シルビアさんも性欲が強いのはわかっていたが、個人差で妊娠初期は性欲が強くなる人もいるそうだ。

 今度会ったときにもし彼女の性欲が無くなっていて、素っ気なかったら寂しいな。


 朝になり、半分目覚めているがまだベッドの中だ。

 さすがに二人も運動の相手をしていると分身君は朝の起立をしていない。


 コンコン「おはようございまあす!!」


 あれ? フローラちゃんの声ではない。

 これは確か…


「マヤ様、おはようございまあああす!!」


「うう… ええ… あれ…? モニカちゃん?」


 モニカちゃんが、朝食のサンドイッチを乗せたお盆を片手に持ち、ドアからドバッと入ってくる。


「もうお目覚めでしたかあ。

 今日はあたし…いや、私がお世話をしますねっ」


「フローラちゃんはどうしたの?」


「フローラは、ご実家のお母様が少し具合が悪くなったからとお父様から連絡があって、昨日の夕方にお家へ帰ったんですよ。

 大事(だいじ)は無いとのことだけれど、念のためだから一晩か二晩で帰ってくるそうです。」


「そりゃいかんなあ。

 何事も無ければいいけれど…。」


 モニカちゃんは、三ヶ月前の王宮滞在の時にエリカさんの世話をしていた王宮給仕係だ。

 ルナちゃんたちと同期で四人仲良し。

 薄い金髪でウェーブの長い髪で、見た目はギャルそのものだ。

 エリカさんとは熱烈いちゃラブをしている疑惑がある。

 ルナちゃんほどではないが、おっぱいは大きめで嬉しい。


「さあさあちゃっちゃと起きて、トイレ行って顔を洗って下さい。」


 モニカちゃんは両手を腰に当てて仁王立ちし、煽っている。

 いきなり私の扱いが適当なんだけれど、ルナちゃんやエリカさんが何か言ったのかね。

 布団を引っ剥がさないだけましであるが。

 私はもそもそと起き上がり、言われたとおりトイレを済ませ顔を洗う。

 その間、モニカちゃんは魔道具のポットでお茶を沸かしていた。


「マヤ様、今朝は情熱の赤いハイビスカスティーを入れてみました。

 これで頭をスッキリさせて下さいね。」


「うん、ありがとう。」


 私は椅子に掛け、テーブルに用意されたハイビスカスティーと野菜たっぷりのサンドイッチを頂く。

 ハイビスカスティーは初めて飲むけれど、かなり酸っぱい。

 これは寝覚めに効くね。

 情熱の赤とは、モニカちゃんのことを表しているのだろうか。


「そのサンドイッチ、私が作ったんですよ。いかがですか?」


「レタスがたくさんでシャキシャキしてて美味しいよ。

 まるでコンビニのサンドイッチみたいだ。」


「ん? コンビニってなんですか?」


「ああ、私が生まれた国のお店で売っていたサンドイッチに良く似ていてね。

 懐かしくて嬉しいよ。」


 おっとっと、私が異世界から来た人間ということはまだ一部の人にしか話していない。

 彼女を雇ったときに話す機会があるだろう。


「へぇー、そうなんですか。

 だったらお店で売ってるのと同じくらい美味しいってことですよね。

 良かった。うっふっふっふ」


 ああ、ギャルもいいもんだな。明るくていい子そう。

 日本ではギャルとリアルで話すことなんて無かったからな。

 さすがに王宮メイドだけあって言葉づかいは並以上であるが、前回滞在で皆と食事をしていた時は彼女もルナちゃんらと側に控えていたので、私の様子も知った上でだろう。


「エリカ様はお元気ですか?」


「相変わらずだよ。

 ガルシア家のお屋敷にある地下室で、魔法の研究に没頭していることが多いけれどね。

 たまにそこで私も魔法の勉強をしたりね。」


「そうですかあ。また会いたいなあ。」


「遠くない日にまた連れて行くさ。」


「やったあ!」


 エリカさんとは余っ程仲良しなんだねえ。

 三ヶ月前は別れ際に抱き合って泣くほどだったからね。

 食事を終えたので、今日も朝から魔物探索に出かけることにする。

 さて、着替えをしなければ…。


「あの、着替えをしようと思うんだけれど…」


「承知しました! お手伝いします! ふんふん!」


 彼女はやる気満々で鼻息が荒い。

 やっぱり王宮メイドさんのお着替えサービスからは逃れられないのか。


「ふんふんっ

 私も男性のお着替えを手伝うのは初めてなんですよ。

 ふんふんっ」


 やや興奮気味でそう言いながら、パジャマの上着を脱がせてくれた。

 ギャルだから近づくと香水の匂いがするのかと思ったけれど、女の子っぽいほのかな香りがするだけだった。

 メイドが香水の匂いをまき散らしていたらお客には匂いが苦手な人もいるから着けないほうがいいのだろう。

 ルナちゃんもフローラちゃんも着けていなかったからね。


「モニカちゃん。

 一つ聞きたいんだけれど男性のお客には男性の給仕係がついてるの?」


「あー、そうですねえ。

 若い男性の給仕係もおりますけれど、多くはベテランのおばちゃんやおばあちゃんが付いてますよ。

 でも中にはどうしようもない貴族や外国人客がいて、それでも手を出してくるんですよ。

 酷い話ですよね。

 マヤ様は陛下の命令で私たちがお世話していますが、ルナから安全で無害な方だと聞いて安心していますよ。うっふっふっふ」


 モニカちゃんはそう言いながら下着のシャツを脱がしている。

 男や高齢女性にまで手を出すやつがこの世界にもいるんだなあ。

 ルナちゃんはみんなに私のことをどういうふうに話しているんだろうか。

 ヘタレや(ぼく)(ねん)(じん)とでも思われているのか、気になるなあ。


「わあ! 綺麗な胸板ですね!

 お腹も六つに分かれてるのにガチじゃないから少しぷにっとしててセクシー!」


「え… こういうのがいいの?」


 ここに来て五日間で太ったのか?

 いや、変わっていないはずだ。

 マカレーナでは毎朝の訓練でたくさんの運動をしているけれど、食事は美味しいしジュリアさんが美味しいお菓子をよく作ってくれるので、つい食べ過ぎちゃうからねえ。


「だってぇ、騎士団の人たちはマッチョが多いけれど汗臭そうだし、(おとこ)って感じが強すぎて苦手なんですよねえ。」


 おい、全宇宙のマッチョ男性に謝りなさい。

 確かに兵士の詰め所は匂うし、兵士食堂もいろいろ混ざって独特の匂いになってたな。


「マヤ様、胸をちょっと触らせてもらっていいですか?」


「ほえ? ま、まあいいけれど…。」


 この子は遠慮が無いなあ。

 女の子から胸を触らせて下さいと言うのは珍しいけれど、エリカさんとも最初はこうだったかもしれないなあ。

 あの人のおっぱいデカいし綺麗だし。

 モニカちゃんは両手のひらで私の胸をゆっくりペタッと触る。

 むほほっ ぞわぞわぞわっと身体中に何かが走る感覚が来た。

 彼女の指は仕事柄でやや荒れ気味だけれど、せめて綺麗に見せようと透明マニキュアを着けているのがいじらしい。


「すごーい! 思っていたより柔らかいんだ。」


「力を入れると硬くなるよ。」


 私は胸に力を入れる。

 マッチョの人みたいにピクピクとなるほど筋肉は付いていない。


「あっはっはっ ホントだ! 硬くなったあ!」


 ……何をやってるんだか。

 まあ若い女の子に喜んでもらえれば、これも一興である。


「あー、面白かった。

 おっと、早く下も着替えなければいけませんね。

 新しいシャツとパンツはどこですか?」


「そうだねえ、そこのタンスの一番下に入ってるから。」


 持って来た下着は今履いているので終わりだから、洗ってくれた物を使う。

 モニカちゃんはゴソゴソとタンスから適当にシャツとパンツを取り出した。


「おお! このパンツはちょっとエロい!

 しかも今大人気ロベルタ・ロサリオのブランドじゃないですか!

 さすがマヤ様は良い物を買われてますねえ。

 ちょっと高いですけれど、私も奮発して上下三着買ったんですよ。

 見たいですか?」


「タダで見せてくれるものなら。」


「あっはっはっ 冗談ですってばっ」


「私も冗談だよ。ふふ」


「やだあ、マヤ様ったら。あっはっはっ」


 モニカちゃんが手にしているのは、マカレーナを出発した初日に履いていたボクサーパンツで、股間とお尻の割れ目以外はメッシュになっている。

 私がロベルタ・ロサリオだなんて知らないようだから、エリカさんは私が下着のデザインをやってることを言ってないのだな。

 それならそれで良かった。面倒だから黙っとこ。


 でも本当は冗談じゃなくて、ロレナさんやレイナちゃんみたいにスカートを(めく)って見せてもらえることを期待してしまった。

 となるとやはり、ルナちゃんみたいにお風呂で洗ってくれることは無いのかな。

 ルナちゃんが大サービスし過ぎていたんだと認識をしたほうが良さそうだ。

 だがパンツのお着替えはするんだねえ。


「じゃあズボンとパンツを脱がしますからね。」


 モニカちゃんはパジャマのズボンをズルリとずらし、私はズボンを足から脱いだ。

 すると彼女は顔を赤くして恥ずかしがる様子もなく、ジッと私の股間を見ている。


「このビキニパンツもアリアドナサルダなんですね。

 さすが下着もおしゃれなマヤ様ですっ

 さっ これも脱いじゃいましょう。」


「ああ、よろしく…。」


 ズボンに続いてパンツも躊躇(ためら)いなく下ろし、分身君がぽろんと現れた。

 足からパンツを外し、私はギャルメイドの前で全裸になっている。

 こうして堂々としている私もどうかしているよなあ…。


「ふおおおお… かっこいい…」


 分身君を格好いいと言う女性は前世も含めて初めてだ。

 しかしこの反応、男性経験があるのはほぼ確定だろうなあ。

 ルナちゃんから遠回しにそれっぽい話を聞いたことがあったから驚くことは無かったが、恋人でなくても知ってる女の子が経験済みとわかると何だか悔しいと思うのは私だけだろうか。


「これが格好いいの? 不思議な子だなあ。」


「え? だって色が綺麗だしすごく形が整っているじゃないですか。

 大きくも小さくもなくて、程良い感じですよ。」


「ああ… そうかい。ありがとう…」


 プロのお姉さんに評価された気分だ…

 まあ分身君が高評価なのは喜んでおこう。

 彼女の素性は気になるけれど、聞くのは野暮だから黙って見過ごすことにする。


「それではパンツを履きましょう。」


 それから淡々と着替えが進み、いつもの革ジャン・カーゴパンツの姿になる。

 これで準備OKだ。早速出かけよう。


「じゃあ暗くなる前に戻ってくるからね。」


「かしこまりました! 行ってらっしゃいませ。

 パンツは洗っておきますからねぇ。」


 私が窓を開けて飛び出そうとすると…


「ええ? そこから出るんですか?

 ああそうか。マヤ様は飛べるんでしたよね。」


「うん。だから窓の鍵は開けておいてね。

 じゃあ行ってきます!」


「いってらっしゃああい!!」


 私は窓から飛び上がり、モニカちゃんは手を振って見送ってくれた。

 お互い好印象は持てただろうか。

 フローラちゃんは一晩か二晩は実家にいるからもしかしたら今日の夕方には帰ってくるかも知れないけれど、モニカちゃんとはもうちょっと話してみたかったな。

 いずれ私の(もと)で働いてもらうかもしれないので、そのあたりをどう考えているのか直接聞いてみる機会を、帰る前に作っておきたい。


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