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第百五十四話 王宮メイド、フローラちゃんの事情

 王宮滞在三日目。

 女王に聞いた飛行機を作る資金が調達できるかの確認と、アリアドナサルダでもらえるデザイン料の計算が終わるまですることが無いので、魔女により結界が張られているマドリガルタの外を偵察する。

 マドリガルタ周辺といっても、半径百キロほどの範囲にある森の近くで魔素探査をすることを繰り返しあちこち飛び回るので、かなりの移動距離になる。

 これを二日か三日掛けてやろうと思う。

 昼は王宮へ帰って、シルビアさんと食事をする。

 彼女との時間は大切にしておきたい。


 結界が張られているマドリガルタとマカレーナにいたらアーテルシアが私を探そうとしても近づけないので、危険ではあるがこの機会にまた遭遇するかも知れない。

 だがアーテルシアは出てくることはなく、森に大ムカデやゴブリンの残敵を多少見つけて処分をしたぐらいである。

 この世界の生態系を守るためにも、僅かな魔物でも殲滅(せんめつ)させておくことは大事だ。


 三日目は魔物退治をしただけで終わった。

 暗くなる前に帰宅すると、フローラちゃんから手紙を受け取った。

 レイナちゃんからである。

 明日、インファンテ家で夕食のお誘いと、三日後の学校が休みの日にお茶会をしましょうという内容だった。

 お茶会はエステラちゃんとレティシアちゃんも来るらしい。

 前回も思ったことだが、十代半ばの可愛い女の子たちとお茶会が出来るなんて、おっさんからして夢みたいな環境だ。

 楽しみにすることにしよう。


 夕食とベッドはシルビアさんとともに。

 産まれるときは私もまた会いに行きたいという話になったが、周りの目から見て夫でない私がいつも側にいると不自然になるので無理はしない方が良いと、女王から言われたらしい。


「産まれる日に一緒にいられないなんて、(つら)いなあ… 」


「マヤ様、仕方がありません。

 あの時快楽だけに溺れた私たちへの罰だと思いましょう。

 安心して下さい。陛下がついて下さるようですから。」


「ううん、でも予定日の近い日にはこっそりマドリガルタへ行きますよ。

 王宮でなくどこか宿を取りますから。」


 まだ先の話なので一先ずそういうことにして、その晩はシルビアさんとベッドでゆっくりとたくさん愛し合った。

 結婚はしていないけれど、『シルビアさんが私の奥さん』という実感が少しずつ湧いて来ている。

 シルビアさん、好きだ。


---


 四日目。この日も別の地域で魔物探索を続ける。

 飛翔系魔物はもう見かけることが無く、狩り尽くされた感じだ。

 騎士団や私設討伐隊の活躍もあってのことだ

 従って森林にしぶとく潜んでいる魔物を探すことになる。

 ゴブリンも人里に出てきて畑の物を盗んだりして生き延びていたが、それが仇となり討伐も早かった。

 今まではアーテルシアがあちこちにデモンズゲートを出して魔物を送り込んでいたということになるが、あれから魔物が減っているので三ヶ月間はこの世界に出てきていないのか。

 嵐の前の静けさのようで、近々何か起こりそうだから怖い。


 結局、大ムカデや二メートルくらいの大サソリ、蜘蛛とミジンコが合体したような魔物もおり、節足動物系の魔物ばかりを各地の森で退治した。

 少数であったが外敵に強く餌が豊富な森なので生き残れたのだろう。

 この世界での魔物の定義は、知性が無いのに魔力を持っている生き物だ。

 だからデモンズゲートを伝ってきた魔物の発生源となった異世界は、そういう生き物がいる世界である。

 魔法を使わないのに何故魔力を持っているのかは不明だ。

 その異世界のエネルギーの根源だからとも考えられ、もし魔法が使える知的生命体がいたとしたらこの世界より遥かにとんでもない魔法の世界なのかも知れない。


---


 インファンテ家で夕食をご馳走になることになったので、魔物退治を早めに切り上げて王宮へ戻った。

 誰もいない部屋で早めに風呂へ入り、湯船にゆっくり浸かっている時。


「マヤ様!? お風呂にお入りになってますか?」


 浴室の()りガラスドアを隔てて、フローラちゃんの声が聞こえる。


「ああごめん。急ぎだったから自分で準備しちゃったよ。」


「大変申し訳ございません。

 お帰りになられたのが気づきませんで、お手間を掛けました。」


「いいよ。私の都合だから無理しないで。」


「はい…、それではお上がりになるまで部屋でお待ちしております。」


 そう言ってフローラちゃんは部屋へ戻っていった。

 それではお背中を流します、じゃないのね。

 ルナちゃんみたいにかぼちゃパンツ姿になって洗ってくれると、ちょっと期待してしまった私が馬鹿だった。

 マカレーナへ帰ってからルナちゃんも洗ってくれることは無かったけれど、いつか王都へ一緒に連れて行ったらまた洗ってくれるのかなあ。


 脱衣所で身体を拭き、用意してあるバスローブを着て部屋へ戻る。

 フローラちゃんがテーブルに着替えを用意してくれ、律儀にビシッと立って待っている。

 私はソファーに腰掛けた。

 日本人体系だから脚を組んでも様にならないので普通に、である。


「やあ ありがとう、フローラちゃん。

 今日は魔物退治の後に夕食会だからバタバタしててね。

 一時間ほどしたら出かけるよ。」


「かしこまりました。

 マヤ様は貴族になられても、周りの方のように偉ぶらないのですね。

 パトリシア様がお好きになられるのもわかります。」


「うん。私の柄じゃ無いし、たまたま貴族になっただけで偉ぶるのも格好悪いしね。」


 急にフローラちゃんがそういうことを言うからびっくりした。

 私にちょっと慣れてくれたのかな。


「貴族特権ってどうしてあるんでしょうね。

 貴族の方は産まれながらお金をたくさん持っていて、何も努力をしていないのに平民に対して偉そうにしているんでしょうね。

 ああ、勿論パトリシア様のようなお優しくて才能ある方もいらっしゃいますから一括(ひとくく)りにはしておりません。」


「そう言うからには、君は相当貴族に対して不満を持っているようだね。

 何かあったのかな?」


「王宮で働くようになってから貴族の方と接することが多くなりまして、まるで奴隷のような扱いをされる方が多くいらっしゃいました。

 この国はとっくの昔に奴隷制度はなくなっていますのに…。

 怒鳴られるのは当たり前で、八つ当たりでお皿を投げつけられたこともあります。

 お給金が良いから我慢していますが、あのような人たちのためにはプライドを持って仕事をすることが出来ません。」


「なるほど。普段の態度が悪いやつらがいるんだね。

 女王陛下の前ではいい顔をして見えないところではやりたい放題か。

 何とも人間が小さい人たちだ。

 そのことは女王陛下に言っておくから、どこのどいつか教えてね。」


「ありがとうございます!

 マヤ様は私たちの気持ちをよくご存じなんですね。」


「昔ね、大きな宿で働いていたんだ。

 時々だけれど理不尽な要求をする客がいたり傍若無人な態度の客がいて苦労させられたよ。」


「そうだったんですね!

 道理でマヤ様の振るまいがそれらしくて、どうしてかなと思ってました。」


 それからフローラちゃんに問題の貴族の名をメモ用紙に書き出してもらった。

 ずいぶんたくさんいるな…。

 フローラちゃんの記憶力は素晴らしい。

 その中にサバス・オリベラ侯爵という聞いたような名が…

 そうか、前に闘技場でガルベス公爵の横にいたあいつか。(第八十二話参照)

 意外にガルベス公爵の名は無かった。

 勿論インファンテ家や、レティシアちゃん、エステラちゃんの家も無かった。

 良い家と付き合えるのがわかって良かったよ。

 そろそろお風呂上がりの火照りが無くなってきたので服を着よう。


「あの… フローラちゃん。

 服を着ようと思うんだけれど、もし嫌だったら無理しなくてもいいんだよ。」


「いいえ、マヤ様のような立派な方にはプライドを持って尽くしたいです!

 どうか私にお任せ下さい! ふんふん!」


 やる気満々の彼女だから断るのもどうかと思うし、お言葉に甘える。

 私はバスローブを脱いで全裸になった。

 フローラちゃんはしゃがんで、黒いビキニパンツを広げてくれるが、顔がトマトのように真っ赤になっているのは最初の日から毎日変わらない。


「もしかしてパティ…いや、パトリシア嬢にもこうやって着替えてたのかな?」


 ふと口に出てしまったが、私は何を彼女に聞いているんだ。

 変態に思われないだろうか。


「は、はい。

 まだお若いですからお慣れになられていなくて、とても恥ずかしがっておられました。

 脱いでも大変お美しい方でした。

 あら、私ったらこんなことを言っては…」


 パティが夕食前にモジモジしていたことがあったけれど、そういうことだったか。

 着替えのシーンを妄想してしまったじゃないか。


「あの、すみません…。下着を履きましょうか。」


「ああ、ごめんごめん! そうだった。」


 いかんいかん。

 私はビキニパンツを履かせてもらう途中で話しかけてしまった。

 脚を通してビキニパンツを上げ、フローラちゃんの真っ赤なトマト顔が私の股間のほうへ見上げた時に、彼女の鼻からツーッと鼻血がまた出てしまった。

 一昨日、昨日は淡々と済んだのにっ

 あっ パティのエッチな妄想をしたせいか、分身君が半分元気になっている!


「あううぅぅ… ふがふが… ずみ゛ま゛ぜん…」


 私は急いでビキニパンツを履いて、また高級ティッシュでフローラちゃんの鼻血を拭いてあげた。

 やっぱり分身君が元気になっているのは見慣れていないせいなのか。


「いつもすみません。

 子供を産んでいる女性はみんな大きくなったお◯◯チ◯を受け入れていると思うと、すごくドキドキしてしまうんです…

 いえ、子供を産んでいない子でも…

 私もいつかその時が来るんでしょうか…」


 マルセリナ様のように性教育不足ではないようだが、おチ◯◯◯に何故か特別な思い込みがあるのかもしれないな。

 なぜそうなのかわからないが。


「フローラちゃんにもいつか大好きな男性が出来るだろう。

 その男性が君の身体のことをよく考えてくれるならば、ちゃんと受け入れられるように女の人の身体は出来ているから心配ないよ。」


「それは一体どうしてなのでしょうか?

 私に教えて頂けますか?」


 え…、そこまでは知らなかったのか…

 さてその質問にどうやって答えようか。


「女性は大好きな男性のことを思って愛し合うと、その男性を受け入れる場所から潤滑する液がたくさん出るようになるんだ。

 だから大丈夫だよ。」


「え!? 私…今…」


「どうしたの?」


 フローラちゃんは顔を赤くしたまま、モジモジしている。


「その… マヤ様がおっしゃる液が出ているかも知れません…

 何でしょうかこれは… 初めてです…」


「え… えぇぇぇぇぇ!?」


「私、大好きな男性ってマヤ様のことなのでしょうか?

 教えて下さい!」


「それは…その… 身体の反応のこともあるけれど、まず自分の気持ちが一番優先なんじゃないかな…うん。」


 確かに女性でもエッチなことを考えていたらそういうふうに反応しちゃう人がいるのは知っている。

 まさかフローラちゃんみたいな真面目な子がそうなるなんて思いもしなかった。

 ある意味性の目覚めの一つかもしれないが、十六歳で全く初めてということは無いと思う。

 はっきり自覚したのが初めてと考えたほうが良いのだろうか。

 どうでも良いが、私はまだビキニパンツしか履いていないぞ。


「マヤ様のことは尊敬しておりますが、愛しているという気持ちは…わかりません。

 ルナは言ってました。

 あの子もマヤ様のことを尊敬しているし、大好きだって。

 マヤ様はご存じですか?」


「彼女の気持ちは聞いたよ。

 私もルナちゃんのことは好きだ。

 お互いに気持ちは伝えてる。

 でも今のところは恋人同士でなく、主人と従者という立場から変わっていないよ。

 ルナちゃんを恋人にしたいから従者にしたわけじゃないんだ。

 仕事っぷりは優秀だし、私のことをよく思ってくれるとてもいい子だからさ。」


「それをお伺いして安心しました。

 私がいつかマヤ様の(もと)でお世話をさせて頂く時に、マヤ様が私をどう扱って下さるのかも気になっておりました。

 私、マヤ様のことを少し好きになりました。

 これからもよろしくお願いしますね。うふふ」


「あ… ああ、よろしくね。」


 結局潤滑液の話はどうなったのだ。

 そんなことを聞き返すのも無粋だが、湿っているからぱんつを脱ぐのでここを見て下さい、なんて展開になるのかと考えてしまった。

 真面目なフローラちゃんがそんなことをするわけがないのはわかっているが、普通のメイドと思っていた彼女の発言がちょっとずれていただけに。


「おっと、早く服を着ないと夕食会に遅れちゃう!

 フローラちゃん、お願いよ。」


「あっ ああ! そうでしたね!」


 私はブラウスとズボン、そして貴族のジャケットを着るのをフローラちゃんに手伝ってもらい、窓から直接飛んでインファンテ家の屋敷へ向かった。


「行ってらっしゃいませ!」


 今日はフローラちゃんと僅かながら正面切って話し合えたのが収穫だったな。

 いつか従者になるのだから、パティは高評価だったけれど私自身がどんな子かを知りたかったから良い機会だった。

 エリカさんの世話をしていたモニカちゃんと、エルミラさんの世話をしていたロシータちゃんも良い評価だったみたいだけれど、実際どんな子だろう。


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