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第百四十六話 女神サリ様と大司祭マルセリナ様

 ガルシア侯爵の屋敷、いつものダイニングルームにて。

 サリ様と私、マルセリナ様の他に、食事はしないがガルシア侯爵がサリ様と話があればしてみたいと同席し、ルナちゃん、ビビアナ、ジュリアさんが給仕服姿で側に控えている。

 テーブルにはタコスばかり大皿にてんこ盛りにされている。


『これ、マヤさんの星にあるメキシコで食べたタコスじゃない!

 懐かしいわねえ。

 この世界でも食べられるんだあ。不思議よねえ。』


 サリ様はメキシコにまで行っていたのかよ。

 この前はイタリアでパスタを食べたって言っていたし、地球にもちょくちょく降りていたんだな。


「そのタコスはあてしとジュリアとルナが作ったニャ。

 神様のお口に合うかどうか…えへへ」


『どれ、ひとつ…ムシャムシャ

 おお! イケるじゃないこのタコスも!』


「すごいじゃないか三人とも!

 ルナちゃんも早速料理修業に励んでいるんだねえ。」


「私は野菜を切っただけですから…あはは」


 そう言えばルナちゃんもサリ様は初見のはずだけれど、妙に落ち着いているなあ。

 私からは教えてないけれど、たぶんビビアナたちとおしゃべりしていただろうからわかっていると思うが…

 ルナちゃんは私の後ろにいるので聞いてみる。


「ルナちゃん、あそこにいらっしゃるのは女神のサリ様なんだけれど…

 知ってた?」


「ええ、ビビアナさんから聞きました。

 でもマヤ様と一緒にいると何でもありなので、あまり驚いていないですよ。」


 ルナちゃんは苦笑いをしながらそう応えた。

 なるほどそうだよねえ。

 諸悪の根源でもあり、ルナちゃんの(かたき)でもあるアーテルシアも道中で現れたくらいだから、ある意味大変な思いをさせていると考える。

 早くアーテルシアを退治して幸せにしてあげたい。

 …………ルナちゃんの幸せってなんだろう。


「まあ美味しい。少し辛いですけれど初めて食べましたわ。」


 マルセリナ様はお上品に小さな口で食べている。

 まるで美術彫刻のような、芸術的とも言える容姿でタコスを食べている様は眺めているだけでもうっとりさせる。

 サリ様は…、まるでパティのようにムシャムシャバリバリ食べていた。

 パスタのお店では静々と食べていたのに、なんでだろうねえ。

 侯爵は話しかけることすら出来ず、唖然としている。


「うーん、これはホント美味しいわね。

 いくらでもいけるわ! ムシャムシャ」


 もう神の威厳の欠片も無いな。

 遠慮はしないぞとたかが外れたように見える。


「あのぉ、サリ様。

 それで私たちの国といいますか、世界はこれからどうなるんでしょう?」


 ガルシア侯爵が恐る恐るサリ様に質問をした。

 侯爵にしてはえらく抽象的な質問だが、いくつも質問すると疲弊されてしまいそうだ。


「そんなこと、アーテルシア次第よ。

 アーテルシアがいつどこに現れるのか、どれくらい強いのかもわからないの。

 もしかしたら私より強いかも知れないのよ。

 私も可能な限りは協力するけれど、マヤさんたちにも強くなってもらって何とかするしかないわね。」


「そ…そうなんですか…」


 ガルシア侯爵はがっくりした表情だ。

 領地の(おさ)としてはいろいろ悩みが尽きないのだろう。

 責任者という立場は大変だね。


「ラウテンバッハに頼んである飛行機というものが出来次第、アスモディアへ行ってみようと思っています。

 あそこならばアーテルシアを退治するヒントがありそうなんですよ。」


「おー、そうかね。完成はいつごろになるんだい?」


「まだ骨組み状態なので、テスト飛行と調整も兼ねると最短であと半年はかかると思います。」


「そうかあ、半年か。

 少しずつしか出来ないが、資金協力は可能だから足りなければ言ってくれ。」


「ありがとうございます!」


 よーし、費用の心配は減ったけれど、ガルシア侯爵に負担は掛けたくない。

 女王にもいずれ頼まないといけなくなりそうだが、何か交換条件でも出されそうで不安しか無い。


『あーそうそう。マヤさんに言っておかなくちゃね。

 調べたら、やっぱり第六ブロックの神だったわ。

 父親が死神で、母親が不和と争いの女神だったから、あのひねくれた性格になるのも無理ないわね。』


「ということは素でそういう神だから、悔い改めさせるなんて考えない方が良さそうですね。」


『そうそう。殺すか封印するかのどちらかしかないわ。

 封印をするなら私が出来る。

 ただ弱らせないと無理だからどちらにしても闘いは避けられないわ。』


「人間が神を殺すなんて出来るのですか…?」


『神の歴史では何度もあったから不可能ではないわ。

 勿論相当の覚悟は必要ね。』


 アーテルシアを殺すか封印をする…

 私に出来るのだろうか?

 いずれにしてもこれで目的がはっきりしてきた。


「なるほどなあ。

 マヤ君にはいろいろ託すことになるのか。

 飛行機のこと以外にも私に何か出来ることがあったら遠慮無く言って欲しい。」


 ガルシア侯爵は、両肘を付いて口元で両手を組んでいるゲ◯ドウポーズでそう言った。

 同じ髭面だから何となく雰囲気が似ている。


「わかりました。

 マカレーナはバリアが掛けてあるので一先ず安心してよろしいでしょうが、領地の他の街に魔物が現れた時の対策を強化しておいて下さい。

 あとは王宮と各領主様との連絡を綿密にお願いします。」


「うむ、承知した。」


 ラフエルのような街は無防備だから、マカレーナの騎士団を割いて警備に当たってくれれば助かる。

 騎士団であれば大猪の数頭くらいなら倒せるはずだ。


「あの…大事なお話の後に恐縮でございますが、(わたくし)は子供の頃からサリ様を崇拝して参りまして、これから先はどういうふうに拝んでいけば良いのでしょうか?」


 マルセリナ様がサリ様へ質問しているが、確かに神様が目の前にいるのに、大聖堂へ帰ったらいつものように女神像を拝むというのも不思議な感じがするかも知れないなあ。

 そこらへんの話は私も聞いてみたい。


『あー、うーんとね。今まで通りで良いんじゃないかしら。

 あなたたちが拝んでいるところは天界から覗いているから、本当にちゃんといい子にしていたら願いを叶えてあげられるかも知れないわね、たぶん。』


「はあああああっ ありがとうございます!

 二十数年サリ様を崇拝し、まさかこんな有難いお言葉を頂戴することが叶うなんて、夢のようですわ!」


 またたぶんって言った。

 すごい適当なことを言ってるし、きっと寝転びながら煎餅をバリボリ食べて私とエリカさんがエッチなことをしているのを覗いているような神様だから、この世界で無数の信者の願い事など聞いているどうかも怪しい。


『あと私は聖堂や教会には原則行かないからね。

 皆に神とわかるといろいろ面倒だから、地上に降りたときは一般の人に溶け込んで行動しているの。』


「そうなんですか…、それは残念です…」


 マルセリナ様はがっかりしていたが、そりゃそうだろうな。

 中には度しがたい信仰心がある人もいるから隠しておくにこしたことはない。


『今日のことはマヤさんがいるから特別よ。

 普段は何かあったらマヤさんに言ってね。』


「えっ? 私にですか?」


『マヤさんは私の公認だから、まあ言わば神の使いね。

 だからマヤさんを通してもらえれば何とかしてくれるわ。』


「えぇぇぇぇぇ!?」


「ああああっ やはりマヤ様を選んで正解でした!

 (わたくし)、マヤ様を生涯の伴侶とすることをサリ様に誓います!」


『はい、誓われました。うふふふ』


「ありゃっ!? あの、ちょっとちょっと!!

 今の言葉、突然結婚式になってませんかね!?

 しかも神様本人の目の前で!!」


「おおいっ! うちの娘と一番最初に結婚するんじゃないのかね!?

 まあ書類を書かないといくら神様に誓っても結婚したことにはならないが…」


「そうですよねっ うんうん。」


 マルセリナ様とは結婚するつもりだけれど、まさか今すぐだなんで考えもしなかった。

 この国でも結婚するときはちゃんと役所へ届け出をする必要がある。


「それならあてしもマヤさんと生涯の伴侶を誓うニャ!」


「わたスも! マヤさんと生涯の伴侶を誓いまス!」


「あああああのあの私もマヤ様とずっと一緒にいたいです!」


『はいはーい! みんな誓いを受けたわよ!』


「ええええええ!!??」


 ビビアナもジュリアさんも…

 ルナちゃんも微妙な言葉だったけれどやっぱりその気があったの?

 みんな大好きだけれど、混乱してきた…ああ…


「まったく… マヤ君には一体何人の嫁が出来るのかね…」


 そんなこんなでいつものように大騒ぎでオチになってしまうのであった。

 あれほどあったタコスがいつの間にか全部無くなっている。

 サリ様が全部食べちゃったのか…

 良かったな、みんな。

 これでサリ様から何か叶えてもらえるのか知らんけれど。


---


『ふぅぅ お腹いっぱいになったら眠くなっちゃった。

 どこかお部屋を案内してくれるかしら。』


「じゃあジュリアさん、空いている部屋を案内してあげてくれるかな?」


「はい、かスこまりまスた!」


 サリ様は眠くなったようで、ジュリアさんに案内を頼んだ。

 ルナちゃんはまだ屋敷になれていないからね。


「すみません、私も今晩はこちらに泊めさせて頂けますか?」


「わかりました。

 前にお使いになっていた部屋をまたご利用下さい。」


 マルセリナ様は、侯爵に泊まることを聞いて許可を得ていた。

 魔物がほとんど来なくなっていたようだから最近は大聖堂へ帰っていたけれど、今晩は疲れたのかな?


「申ス訳ありません!

 今晩は前にマルセリナ様がお使いになられていた部屋の一つだけスか空いていないでス!」


「ありゃあ! そうだっけか。

 ああ、王女殿下がいらっしゃったから部屋が足りないのか。

 狭い屋敷ですみません…」


「仕方ないです… 今晩は帰ります…」


 確かにガルシア家の屋敷は、ガルベス家やインファンテ家は勿論、ラミレス家の屋敷よりずっと小さいので客間として使える部屋数は限られている。

 私にはこれくらいがちょうど良くて動きやすいから良いけれどね。


『じゃあマルセリナさん…だっけか。

 私が使わせてもらう部屋で一緒に寝ましょうか。』


「え? えぇぇぇぇぇ!?」


---


(マルセリナ視点)


 ど、どうしましょう…

 いつも私が使わせてもらっていたお部屋へ、サリ様と一緒に案内されてしまいました…。

 神様ですよ? 神様と同じベッドで…、同じお布団の中でご一緒するなんて…

 あわわわわわわわ… そそそそそそんな大それたことを…


『あら、可愛いパジャマを用意してくれたのね。

 早速着替えましょ、マルセリナさん。』


「え? あの…」


 ベッドの上には、ピンク色のパジャマが二着用意されていました。

 サリ様はスルッと白いワンピースを脱いで…

 あややややややや… 神様の下着姿を見てしまいました!

 絶対に(ばち)が当たりますぅっ


『うん? なに目を塞いでいるの?

 女同士なんだから気にしないで良いのに。』


「そそそそそそんな!

 私などが拝見するなんて、大変失礼なことですっ」


『ん? 何もならないからあなたもさっさと着替えなさい。』


 私はそろっと手を下ろして目を開けました。

 上下真っ白な下着… それにしてもなんて刺激的なデザインなんでしょう…

 女の私が見てもドキドキします…


『ああこれ? 王都の高級ランジェリーショップで買ったの。いいでしょう。

 ここらへんがギリギリ透けちゃってるのがすごくセクシーなのよね。

 そうそう、あの時そのお店でマヤさんやパトリシアさんたちと偶然出会ったわね。

 みんなすごいランジェリーを買ってたみたいよ。あっはっは

 マヤさんも格好いいぱんつを買っていたわね。』


「マ…マヤ様もですか… きゃっ」


『んん? あなたはあの時マヤさんとお互いにしっかりお話をして、マヤさんのアレを見たんでしょ?

 ぱんつぐらいで恥ずかしがることないわ。』


「ええ? どうしてあのことをご存じなのですか!?」


『愛の女神である私は、使いであるマヤさんのことなど全てお見通しよ。』


 うう… あれを全部ご覧になっていたなんて…恥ずかしい。

 でも女神様に見守られていたと考えると…

 やっぱりマヤ様と契りを結ぶことは間違いないということですのね!

 これで安心しました!

 女神様の前で失礼ですが、私も早く着替えないと…


『まあ! 前にも見たけれど、色白ですごく素敵な身体ね!

 私より綺麗じゃないかしら。』


「はわわわわわわっ

 サリ様より綺麗だなんて絶対にあり得ません!」


 そうですよ。

 サリ様はあんなにお綺麗なのに…

 でもサリ様がそうおっしゃってくれるのだから、否定をしてはいけませんね。


『そんなことないわよ。

 あなたは愛と美の女神であるこのサリ様の(しもべ)として十分な資格があるわ。

 綺麗だけじゃなくてとても純粋で誠実だし、誇っても良いよ。』


「はあああああっ ありがとうございます!」


 サリ様が(わたくし)をお認めになった。

サリ様が(わたくし)をお認めになった。

サリ様が(わたくし)をお認めになった。


 もう(わたくし)、どうにかなってしまいそうです。

 あの時大聖堂でも感じた大いなる力はまるで(わたくし)を呼び寄せたようでした。

 本当に来て良かった…


---


 サリ様と私はピンクのワンピースのパジャマに着替えて、ベッドに入りました。

 は… は… は…

 お食事をした後は眠気があったのに、今晩は眠れそうにないかも知れません…

 神様が私のすぐ隣で布団の中にお入りになってるんですよ?

 すごい… すごいなんてものじゃありません。

 はああ… でも良い香り… これがサリ様の香り…

 女の(わたくし)でもおかしくなってしまいそうです。


『はわぁ… もう眠いから、おやすみなさい…』


 あ… サリ様は瞬間的に眠ってしまわれました。

 サリ様の寝顔が…とても可愛いです。

 ちょっと手を握ってもよろしいかしら…

 はわわわわっ 暖かくてスベスベです…

 女神様と手を繋いだ…

 こんな幸福なことってあるのかしら?

 いいえ。先程マヤ様に抱かれて空を飛んだときも、とても幸せでした。

 だから比べちゃいけませんわ。


 …………サリ様の素敵な寝顔を眺めていたら落ち着いて、眠くなってきました…

 おやすみなさい…


---


 翌朝… うーん…

 サリ様の寝顔を見ながら横向きでそのまま寝てしまいました。

 朝の寝顔もさぞ美しいのでしょう。

 あら? お顔が見えませんね…

 は… はあぁぁぁ!?

 サリ様のパジャマが(めく)れて太股と下着が目の前に!!??

 ということは、サリ様のお顔はお布団の中で(わたくし)の下半身へ向いてる?

 はわわわわっ 恥ずかしいっ


『うーん…』


 ああっ サリ様が寝返りを… ぶっ

 私の顔がサリ様の股間と太股に挟まれてしまいました!

 むぐっ むぐぐぐぐっ

 サリ様の股間の香りが(いん)()で… 

 (わたくし)とあろう者が、何だか欲情してしまいそうですっ

 愛の女神ゆえに、これほど性欲をくすぐるものなのでしょうか。

 私の考えを改めなければいけないのかも知れませんね…


 はあっ はあっ

 何とかサリ様の脚を動かすことが出来ました。

 サリ様は寝相がずいぶんお悪いですのね。

 このことは絶対に秘密にしなければいけませんわ。


『うーん… ああああ… あら… 真っ暗…

 まだ夜かしら…』


「サリ様! おはようございます!

 もう朝ですからお布団から出ましょう!」


 私は掛け布団を(めく)ってサリ様のお顔を出しました。

 まぁ… 寝起きのお顔も素敵ですね… うっとり


『ああ… マルセリナさん、おはよう…

 いつの間にか身体が…反対向きになっちゃってるわね…』


「おはようございます、サリ様。

 さあお顔を洗って今日も元気にやっていきましょう!」


「マルセリナさんは…修道女だから…しっかりしているわね…

 私はもう一眠り…」


「ああっ サリ様!」


 二度寝されてしまいました…

 ううう… 神様なのに… これでいいんでしょうか…


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