第十四話 第二夫人ローサさん
2022.9.12 微修正しました。
2025.8.9 加筆修正しました。
第二夫人のローサさんは子育て中心で私とあまり接点が無かったが、息子のアベル君が大きくなってきたので乳母やメイドさんたちが余裕ある時に任せて、午前の訓練に少しずつ参加するようになった。
普段は物静かな方で優しそうな印象ではあるが、スサナさんとエルミラさんよりずっと強いというから驚きだ。
子供の頃から元々強かったのが、十代の早いうちに東の国で数年間剣の修行をしてから侯爵直属兵となり、そのまま結婚されたそう。
日本刀そっくりの剣を使い、格闘術よりも剣術中心の戦いをする。
その刀は何故か『白百合』という日本語名がついている。
さすがにFカップもあるとチェストサポーターのようなものを着けているが、もし無かったら胸の谷間が気になってすぐ負けるかも知れない。
いやいや、胸の保護が大事ですよね。
私の力は元々が強い力を秘めていて、徐々に解放されていくと女神様から聞いたが、剣の能力はあまり備わっていないようだ。
だが、刀を一本借りて手合わせすることになった。
この刀は『桃花』というらしいが、この日本刀に似た刀はみんな花の名前がついてるそうだ。
徐々に力が解放されているので負けない戦いは出来るかも知れないが、やってみないとわからない。
「ではマヤ様、始めましょうか」
ローサさんは刀を抜かないで構えてるが、あれはまるで居合抜きだ!
昔、達人の抜刀術を見学をさせてもらったことがあったが、刀を抜いた瞬間が全く見えない。
現実でこんなことがあるのかと、とても驚いたことがあったのを思い出した。
まずい、本当に隙が無い。
少しでも気を抜いたら一瞬でやられてしまう。
こちらでわざと隙を見せるフリをするか……
と誘ったが、ローサさんは騙されなかった。
次の瞬間、ローサさんは刀を抜いて斬りかかってきたが、いかん、とんでもなく速い。
力業で強引に防ぐことが出来たが、次の攻撃から刀の雨のような攻撃で全くつけ込む隙が無い。
――カキンカキンカキンカキンカキン
合わせた刀が鳴り続ける。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
ローサさんが下がったので、私も下がった。
私はただ速いだけで、技術的にはローサさんのほうが遙かに上だ。
正に付け焼き刃では駄目ということだ。
「マヤ様、驚きました。これほどまで私と互角だなんて、今まで私の師匠だけでしたよ」
「いやあ…… 合わせるだけの力業でした。技術はまだまだです」
そんな師匠って何者なんだろう。とんでもない人だな。
「ありゃー!? マヤさんやるなあ!」
「うーむ…… マヤ君がローサ様とほぼ互角とはね……」
スサナさんとエルミラさんがそう言いながら、パチパチパチと拍手している。
ちょっと照れるなあ。
「今後ともよろしくお願いします」
「ええ、喜んで。私からも是非お願いします」
と、ローサさんはにっこり微笑んで応えた。
か、可愛い…… ガルシア侯爵はこの顔に惚れたんだろうなあ。
金髪のくせ毛ボブヘアーに碧眼の彼女は確かに美しく、強い女性は憧れる。
アベル君を妊娠してから今まで二年近く、あまり刀を握っていなかったはずだ。
鈍っていてこれならば調子を取り戻したら今の私では絶対に負ける。
この後、基本的な構えや剣術型を教えてもらって、また手合わせしたり、スサナさんとエルミラさんと二人まとめて相手をしているところを見学した。
あの強い二人が同時相手でも余裕なんて、格好良すぎる。
私もああいうふうになれるのだろうか。
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この日の夕食で、ガルシア侯爵に声をかけられた。
「マヤ君、ローサと互角以上だったそうじゃないか。すごいよ!
私なんてローサに何度も挑んではボロボロに負けてね…… それで強い彼女に惚れてしまって何度も求婚してやっと結婚できたんだ。
君が私よりローサと早く出会わなくて良かったよ。
ローサのほうが君に惚れちゃうかもしれないからなあ。はっはっはっは!」
ローサさんの顔はほんのり赤くなり照れていた。
ありゃ? それはもしかして私に対して?
まさかね。
パティはビビアナが作ったタコスが好物になったきっかけで、夕食の片付けの最中など二人で何か話しているのをよく見かけるようになった。
仲良しなのは良いことだ。
「あ、マヤさんだニャ。
今パティにメニューのリクエストを聞いていたニャ。
マヤさんも何か食べたい物あるかニャ?」
「そうだなあ。お米を使った料理で、パエリア以外で何かあるかな?」
「ピラフやオムライスも出来るニャ」
「おお、是非それを食べたい!」
「じゃあ今度作ってみるニャ」
「カレーライスって辛い料理も作れそう?」
「それは何だニャ? 外国の料理はわからないニャ」
ビビアナは知らないらしい。残念……
「カレーライス…… 私も知らないです。マヤ様は私たちより美味しい物をたくさん召し上がっておられたのですね。羨ましいですわあ~」
「私の故郷は料理に妥協しない土地柄だったから、いろんな国の料理を自分達の口に合うよう改良して広めていったんだよ。パエリアやチュロスも食べたことがあるからね」
「まあそうなんですの? マヤ様の国へ行ってみたいですわあ~」
食べ物の話になると興味津々になるパティ。
日本のチュロスといっても、ミ◯ター◯ーナツの商品なんだけれどね。
この世界で食べている料理は十分に美味しいし私の口に合うけれど、日本で食べていたメニューも時々恋しくなる。
でもピラフとオムライスが作れるならば、とてもありがたい。
白飯はこの国の種類の米だといまいち私の口に合わない。
私は日本で山間部で育ったコシヒカリをよく食べていたから、甘みが強いお米に慣れているので妥協が出来ないのだ。
いつか東の国へ行った時にどんな物を食べてるのが見てみたい。
あ! ローサさんに聞いてみるのが一番早いじゃないか。
丁度ローサさんがまだ食堂の隅の椅子でアベル君をあやしながら休んでいたので、話しかけてみた。
「ローサ様、東の国ではどんな物を食べられていたんですか?」
「そうですねえ。豆から作った白いプリンみたいなものや、同じ豆から作ったスープ、焼いたお魚が多かったわね。とても健康的な食事でしたよ」
その豆の料理って、豆腐と味噌汁ではなかろうか。
ますます東の国に興味が湧いてきた。
将来の旅先候補にしたい。
「そういえばマヤ様は東の国の方にそっくりですね。そちらのご出身なのですか?」
「何と言いますか、そこの出身ではないですが、文化がよく似ている遠い国です」
今のところ私の身の上は適当に誤魔化しておこう。
アベル君はローサさんの胸をモミモミと触っていた。羨ましい……