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第百四十一話 馬車のお店ラウテンバッハにて

 午前中の訓練が終わり、昼食を済ませてから午後はオイゲンさんとテオドールさんが働いている馬車工場へ一人で向かった。

 特注で作ってもらっている飛行機の進捗状況を見に行くためだ。


「いらっしゃいませ。」


「こんにちは。マヤ・モーリです。」


 いつもの受付のお姉さんだ。

 ブロンドでロングヘアーをまとめてあり、お目々ぱっちり顔立ちがはっきりした綺麗な女性である。

 それなのに化粧が濃くて余計にケバくなってしまっているが、私はそういう女性も好きだ。


「あらっ! マヤ様!

 いつ王都からお戻りだったんですか?」


「昨日帰ってきたばかりだったんですよ。

 おかげさまで馬車も壊れることなく快適でした。」


「まあ、それはようございました。

 早速見に行かれますね。

 オイゲンさんとテオドールさんはおりますので。」


「ありがとうございます。」


 私は工場へ向かう。

 中へ進むと…おお! 飛行機の骨組みが出来てる!

 しっかり作られていて想像以上だ。

 若いときに模型飛行機を作ったことがあって、それを何とか思い出して図を渡したのが良かった。

 それが形になって現実になりつつあるのが嬉しい。


「よぉ兄ちゃん! 帰ってきたのか!

 馬車は乗り心地良かったろ!?」


 最初に声を掛けてきたのは、飛行機の骨組みの下にいたオイゲンさんだった。

 製作中だったのかな。


「ええ。スピードを出しても壊れなかったし、とても快適でしたよ。」


「そうだろうそうだろう。

 金も掛けてるし、軽くて頑丈に作ったからな。

 また整備するから馬車を持って来てくれや。」


「わかりました。」


「おーい! テオドール!!

 マヤさんが来てるぞ!」


「おお! 今行く!」


 オイゲンさんが、向こうで馬車を作っているテオドールさんを呼ぶ。

 無理言って、忙しい中でここまで作ってくれたことに、二人にはとても有り難く思う。


「どんなもんだマヤさん。

 あんたの図案をもう少し描き直してこれが出来たんだが。


「すごいですよ! あまりにも上出来でびっくりしました!」


 私の素人設計図をわざわざ描き直してもらって、とても精巧に組んでいる。

 翼の形も飛行機そのもので、グラヴィティを使わなくても風魔法だけで飛べるんじゃないかと思ってしまう。


「そうか。それは良かった!

 それで言いにくいんだが、ブロイゼンから取り寄せた軽銀という高価で軽い金属を使っているせいで、材料費が足らないくらいなんだよ。

 高級馬車にも使っていてな。

 おまえさんが乗ってきた馬車にも使ってるんだよ。」


 けいぎん? 軽銀ってなんだ?

 当然名前の銀より軽く、そしてありふれた鉄より軽い…。

 見た目で思いつくのは…、まさかアルミニウム!?

 この世界にはアルミの精製と加工技術もあったのか!

 ブロイゼンの技術力が気になるから、ますます行ってみたくなった。


「お金のことならならご心配なく。

 白金貨を二百枚分を聖貨で持って来ました。」


 私はメダルを入れるケースのような箱に入っている聖貨を二人に見せた。


「うぉぉぉぉぉぉ!!

 聖貨なんて何十年生きて初めて見たよ! なあテオドール!」


「うむ、俺もだ。

 いったいどうやって稼いだんだ?」


「これは王宮からの報奨金なんですよ。

 それも四人分の報奨金が聖貨三枚で、仲間の厚意で多くを譲ってもらったんです。」


「そりゃあおまえさん、余程仲間に信頼されて好かれているってことだよ。

 大事にしねえとなあ。」


「勿論です。命を(なげう)ってでも守りたい人たちです。」


「だがあまり無茶すんじゃねえぞ。

 おまえさんがいなくなって仲間を悲しませるのは良くない。

 闘いは大変かも知れないが、まあなるべく皆が笑顔になっていける選択をするんだな。」


「ありがとうございます、オイゲンさん。」


 今の私の発言は大人げなく軽率だった。

 さすが一回り多く歳を取ってる人の言葉は違うね。


 その後、骨組みの細かい所を見せてもらって、もっと補強して欲しいところを注文したり、内装などの打ち合わせを仕切れなかったところも話しておいた。

 まだお金が、聖貨の一枚や二枚は掛かるかも知れない。

 場合によっては女王に頭を下げて何とかしてもらうしかないのか。

 そういうのは出来るだけ避けて、功績を収めてまた報奨金を稼ぎたい。


 親玉がアーテルシアとわかった以上、私を狙ってやって来て仮にマカレーナ近郊で倒すことが出来たらその飛行機は不要になってしまう。

 それに越したことはないが、アーテルシアの強さを無視した仮定なので無意味だ。

 どの道アーテルシアを倒すにはアスモディアへ行って魔女アモールに会う必要があるから、時間を掛けずに移動するにはやはり飛行機の完成を待たなければいけない。


---


 工場内のことは今日の所、これでおしまい。

 受付のお姉さんに支払いをしようと思ったのだが…。


「せ、聖貨!!??

 なんて神々しい…。初めて見ました…。

 それなのですが、このままではお受け取りが出来かねます…。」


「え? どうしてですか?」


「両替が必要になりますし、この金額だと銀行へ預けに行くにも護衛が必要になるんですが、生憎今日は護衛が出来る係がおりませんので…。

 そうですわ!

 これから私と銀行へご一緒して頂けませんか?」


「つまり私が護衛役と。」


「はい。マヤ様ならば護衛はお一人でよろしいですよね。

 お時間の都合はいかがでしょう?」


「大丈夫ですよ。」


「やったぁ! あらいやだ、オホホホホ…

 こんな若い殿方と二人で出かけられるなんて、つい嬉しくて。」


「ふふ。そうでしたか。」


「では準備して受付の代わりの者を呼んできますので、少々お待ち下さいませ。」


 まさか受付のお姉さんとお出かけとはなあ。

 デートではないが、綺麗なお姉さんと一緒に歩くというのは私も嬉しい。

 化粧が濃いけれど、アマリアさんより少しだけ若いくらいかな。


---


 準備が済み、銀行はさほど遠くないので通りを歩いて行く。

 お姉さんはビジネススーツ、タイトスカートでスタイルが良く格好いい。

 そう言えばお姉さんのお名前を知らない。

 歩きながらで聞いてみるか。


「あの、お名前をお伺いしてよろしいですか?」


「え? はい。

 私はアンネマリー・ヘルツェンバインと申します。

 アンネとお呼びください。ふふふ」


 謎の笑いだったが、何となくエリカさんと同じ匂いを感じた。

 名字が思いっきりドイツ名だね。


「アンネさんもブロイゼンの方だったんですね。」


「ええ。十年前にオイゲンさんたちと一緒にブロイゼンからマカレーナへ来て、工場と直営のお店を始めたんです。

 その時から領主様にはご(ひい)()して頂いてますよ。」


「へぇー、そうだったんですか。

 ガルシア侯爵は、いち早くブロイゼンの技術力に目を付けられたんですね。

 私もブロイゼンの高い技術力に興味が出てきたので、いつか行ってみたいですよ。」


「それは是非! ブロイゼンは世界一の技術力ですよ。

 それでも田舎だとまだ馬車が主力ですが、都市間移動は油で動いて二本の長い鉄を敷いて走らせる乗り物があるんです。

 油で動いて…馬車だけが動く乗り物もあるんですよ。

 貴族やお金持ちしか乗っていませんけれどね。」


「すごい! 早く見てみたいですね!」


 まさか蒸気機関を通り越して内燃機関の自動車や鉄道がこの世界にあるとは思わなかった。

 地球で言うと二十世紀初めぐらいの技術力か…。

 飛行機を珍しがっているということは、空を飛ぶことは不可能なわけか。


「船も油で動くものがあるんですか?」


「ええ、勿論よ。

 マカレーナに一番近いナバルティアの港にブロイゼンの船が時々入っているわ。

 そこから私たちの工場で使う材料も運んでいるの。」


「イスパルや他の外国でそういう便利な乗り物があると聞かないんですが、何かあるんでしょうか?」


「それはブロイゼンの王様や他の多くの技術者が、外国へ技術が流出してしまうのをとても嫌がってるの。

 戦争こそ無いけれど、やっぱり世界で優位に立っていたい理由からね。

 だからうちのお店も馬車しか作らせてくれないの。

 でも品質は良くて高く売れますから、それだけでも有難いわよ。」


「なるほど。そういうことだったんですか。」


 短い道のりながらも、とても有意義な話が聞けた。

 ナバルティアだったらここから百二十キロくらいだから、飛んでいけばすぐ行ける。

 船が入る日と時間が調べられたら見に行きたい。


 銀行へ着くと早速聖貨二枚をお店の口座に入れようとしたら、銀行受付のお姉さんがびっくりして、銀行の頭取と店長が飛んでくる始末。

 徽章を見せて私の名前を言ったらわかってくれたので、無事に入金出来た。

 もう用が済んだのでもう帰ろう。


「マヤ様、申し訳ございません。

 領収書といいますか、預かり金証明書をお渡ししたいのでお店までまたご一緒して頂けますか?

 出かける前にお渡しするべきでしたが…。」


 忘れていた。それが無いといろいろまずい。

 気のせいかお姉さんが私と一緒にいたいが為、意図的にやっていた気がしないでもないが、それは私が自意識過剰か。


 私たちは再び馬車のお店へ歩いて戻った。


---


(パティ視点)


 今日は午前中にカタリーナ様と大聖堂へ参りまして、マルセリナ様へご挨拶してきました。

 魔物がほとんどやって来ませんから、大聖堂でのお仕事を滞らせてはいけないのでマルセリナ様はあまりお屋敷へはいらっしゃらなくなったようです。

 その帰り、カタリーナ様とお店でお昼ご飯とお買い物に行ってきました。

 今はそれも終わり、馬車に乗ってお屋敷へ帰るところです。

 やっぱり慣れたマカレーナにいたほうが気分が楽ですわね。

 そうそう、カタリーナ様にもおっぱいプリンを見せて差し上げました。

 カタリーナ様も可愛いとおっしゃってくださり、ホッとしました。

 皆さん、気持ち悪いとおっしゃる方が多いので心配してましたが、カタリーナ様と私は気が合うんですね。うふふ


「あら、パトリシア様。

 あそこを歩いてらっしゃるのはマヤ様ではないかしら。

 隣に見慣れない女性がいらっしゃいますね。」


「なんですって!?」


 私は馬車の窓から顔を覗かせると、確かに歩道にマヤ様と一緒に知らない綺麗な女性が前から歩いているのが見えます。

 まさか浮気ですの!?

 これは問い詰めなければいけませんわ!


「すみません! 馬車をそこで停めてください!」


 私は御者さんに言って馬車を停めてもらい、カタリーナ様とマヤ様の方へ駆けつけました。



(マヤ視点)


 あれ? こっちへ走ってくるのはパティとカタリーナさん?

 何かあったのかな?


「マヤ様! 何してらっしゃるんですか!?」


「やあパティ。どこかへ行ってきたのかな?」


「そんなことどうでもいいですわ!

 そちらの綺麗な女性はどなたですの?」


「え? 馬車のお店で受付をやっておられるお姉さんだよ。」


「まあ! お店の女性にまで口説いているんですのね!?」


「あの… パティは勘違いしてるよ。

 お店で空飛ぶ乗り物を作ってもらっているからお金を払おうとしたけれど、大金をお店で持って置けないから、銀行へ行くのに私が護衛で付いて行ってるだけだよ。」


「え? あ… ああああああっ すすすすすみません!

 私の早とちりでした…。」


 パティはアンネさんに向かってペコペコと頭を下げている。

 私には謝っていない。何故なのか。


「あら、そちらのお嬢様はバルラモン家のお嬢様ではありませんか?

 伯爵にはいつもご贔屓にして頂いております。

 馬車のお店ラウテンバッハの者です。」


「ラウテンバッハ…ああ!

 確かに(わたくし)も一度お店へお邪魔した時に、受付をしてらした方ですね!

 私も気づかず大変失礼をしてしまいました!」


 カタリーナさんもペコペコ謝っている。

 バルラモン伯爵もお店の常連だったのか。

 しかし一度だけなのにアンネさんはよく覚えているなあ。

 さすが接客業の鏡だ。


「ということは、あなたはガルシア家のお嬢様でいらっしゃいますか?

 領主様にはいつもお世話になっております。」


「い、いえ…こちらこそお世話になっています…。」


 パティは顔を赤くしながらちんまりと沈んでいる。

 若気の至りを恥じているんだな。

 若い内はいろいろあるさ。

 若くなくてもいろいろあったのは私だ。


「マヤ様、とても可愛らしいお嬢様が恋人なんですね。

 ちょっと妬いちゃいます。」


 アンネさんがそう言うと、私の肘に手を絡ませてきた。

 おお、おっぱいが当たってる!?

 は? え? なんで?


「マヤ様…、鼻の下が伸びてますわよ。

 後でゆっくり、お話をしましょうね。」


「ねえアンネさん、なんで!? あれれ?」


「うふふふふ…

 マヤ様はお嬢様にとても愛されてらっしゃるんですね。

 失礼しました。冗談ですよ。

 私には夫がおりますから、本気で浮気は出来ません。うふふ」


 ですよねえ。って旦那さんいたのかい。

 大人の余裕か知らんが、勘弁して欲しいな。


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