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第百三十七話 第四章最終話 マカレーナへ帰ってきたぞ

 宿で、前回泊まった時に食べて気に入った生ハムパンが美味しい朝食を食べて、いよいよ今日は旅の最終日になりマカレーナへ到着予定だ。

 マカレーナを出発して一ヶ月以上経ち、長かったような短かったような、どちらも感じる遠征であったが、結果は成功しとても充実していたと思う。


 朝は少しゆっくりめに出発し、山越えがあるのでスピードが遅くなるが夕方になる前にはマカレーナに到着するだろう。

 久しぶりに会う屋敷のみんなの顔を見るのも楽しみだ。

 アマリアさんにぱ◯ぱ◯抱っこをしてもらいたい。ふふふ


 カントスを出発し数キロ進むと緩い山越え道になる。

 山を越えた先が旅の初日にお昼ご飯を食べたオラージャの街で、ここからいよいよガルシア侯爵の領地になる。

 坂ぐらいでは物ともしないセルギウスのパワーなのだが、さすがにカーブはスピードを落とさなければいけないので自転車並みの速度になる。

 それでも普通の馬車は人が歩く速度以下になるので、時々追い越して行く馬車の人たちが、たった一頭で大荷物の馬車が上っていくのを見てびっくりしているに違いない。


---


 山の空気が吸いたくて、私は御者台に乗り移った。

 こんな山道でも石畳でしっかり舗装されているし走りやすい。

 道路工事も土属性魔法が使える魔法使いが活躍しているというし、平民でもなかなかの高給という話だ。


 ん? 木陰に何かたくさんいる。

 察しは付いたけれどね。


「セルギウス、魔物じゃないけれど何かいるね。」


『殺気が出まくりで丸わかりだ。

 あいつら馬鹿じゃ無いのか。』


 予想通り、道の両側にある木陰からガサガサと、世紀末みたいな野盗が大勢出てきた。

 坂道がきつくなりスピードが自転車より遅くなっていたので、あっさり前を取り囲まれてしまった。

 この国は近代化が進んでいるけれど、未だにこういうならず者があちこちいるのは欠点だな。

 吹き飛ばしてもいいが、他の通行人のためにもこの際退治しておいたほうが良かろう。

 ヴェロニカにもこの実態を見てもらった方が良い。

 セルギウスには一旦停止してもらった。


「ヒャッハー!! イヤッホゥゥゥゥゥゥ!!

 馬一頭が大きな馬車を牽いているって情報を聞いて嘘だろと思ったが、本当だったとはな!

 おまえら! 馬も荷物も馬車ごと頂きだ!」


「「「「イェッヒィィィィ!!」」」」


 頭がパイナップルみたいな筋肉大男がボスっぽいやつで、その他モヒカンやらスキンヘッドやらボサボサ長髪の男たちが、特撮ヒーローのザコ戦闘員のように叫んでいる。

 全部で二十人くらいいるだろうか。


 ヴェロニカたち四人がぞろぞろと馬車から出てきた。

 みんな出てこなくても良かったんだけれどなあ。

 やり過ぎないように自重してもらおう。


「おお! すげえ美人が四人もいるぜ!

 こりゃ楽しみが増えたわ。うっへっへ」


 この先どうなるのかも知らず、哀れなやつらだ。


「マヤ、こいつらは見たとおりの盗賊なのか。

 王都からずっと離れた地方へなかなか行くことが無かったから、実情を知らなければいけない。」


「あぁ。この国もまだこのような輩があちこちにいるんだよ。

 こういうふうに幹線道の交通量が少ない地点で、商人の荷馬車や金を持っていそうな貴族を狙っている。

 護衛がいても強力な魔法使いがいないと、数と力でねじ伏せられてしまう。」


「ふぅむ。取り締まりを強化するのもいいが、そもそもならず者が各地で出てくる原因は貧困よりも教育が行き届いていないのかも知れないな。

 仕事はいくらでもあるのだが、ああいうやつらは能無しだからろくに出来ない。

 帰ったら母上と議会に話をせねば。」


 ほほぅ、意外にちゃんと分析するんだな。

 さすが王女様。


「マヤ様。こんなやつらさっさと片付けて、早くお家に帰りたいですわ。」

「あいつらも蜘蛛みたいに凍らしちゃおうかねえ。」

「地衝裂斬じゃあの人たち死んじゃうかなあ。」


 ほらほら。我がチームの女子は血の気が多い。

 野盗たちの命が心配になってくる。


「おいおまえら!

 俺らを無視して何ごちゃごちゃ喋ってんだ!!

 馬鹿にしてんのかコラァ!!」


「うむ、馬鹿そうに見えたから馬鹿にしているぞ。

 お前らごときが相手になる私たちではない。

 ああ臭い臭い。早くお家に帰って風呂に入れよ。」


 ヴェロニカが得意げな表情をして煽る。

 私と出会ったときはあんな感じだったよな。


「はぁぁぁぁ????

 ふざけんなそこの女!!

 裸にひん剥いてその口からアヘアヘ言わしてやるわ!」


 こいつらがヴェロニカに「くっ殺せ」と言わせられるはずがない。

 それならいつか私が女騎士プレイで言わせてみたいぞ。

 いやいや、ヴェロニカと結婚するのはちょっと待ったのはず。


「ハァー 時間の無駄だからもうやっちゃおうよ。」


 エリカさんはそう言いながら野盗の周りに氷結魔法を掛けて冷やし始めた。


「ぐぁ! さ、寒い!! 魔法使いがいたのか!?」


 野盗たちの身体の周りが白くなり霜が着き始めてる。

 凍死しちゃうからやめさせることにする。


「ちょっと待って、エリカさん。

 もっと効率が良い魔法があるから。」


「ん? 何だっけ?」


 エリカさんは魔法を止めてから直ぐに、私は野盗たちにグラヴィティを掛ける。

 そうするとやつらは地面を這いつくばるようにバタバタと倒れた。


「「「「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

「重い… 何しやがった…」


 あいつら自身の体重を徐々に重くしていったので抑えつけているのとは違うが、三倍近くの重さになっていると思う。

 肋骨や内臓を押しつぶさない程度に。


「あっ そうかあ。

 浮かせる方ばかりに使っていたから忘れちゃってたわ。

 あっはっはっはっ」


「エリカさん、今のうちに麻痺の魔法を掛けてよ。」


「OK!」


 エリカさんは身体を麻痺させる【パラライズ】の魔法を野盗たちに掛けた。

 最初からこれを掛ければいいのだが、私はまだこの魔法が使えない。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!

 今度はジンジン痺れるぅぅぅぅ!!」


 今度は全身に、正座して足が痺れたような痛みが走っているはずだ。

 考えるだけでもゾッとする。

 ここでグラヴィティをいったん解除した。


「さてと、このまま置いていっても治ったらまた悪さをするだろうから、こうするんだよ。」


 私は再びグラヴィティを野盗たちに掛けるが、今度は軽くする方である。

 やつら二十数人をボール状にまとめて、宙に浮かせたままにする。

 口も痺れて静かになって来た。


「これをここままオラージャへ連れて行って、警備兵に引き渡すのさ。」


「さすがマヤ様ですわ! スマートですね!」

「パラライズは数時間持つから、痺れだけでも(つら)いわね。ふふふ」

「ざまあないな。マヤもやることが容赦ない。」

「ふえぇぇ。あんなに男たちが固まって、臭いそう。」


 ルナちゃんは馬車からピョコっと顔を出して様子をうかがっていた。

 野盗よりもヴェロニカたちのほうが怖く思っていたりして。


「さあ行こうか。セルギウスよろしく。」


『おう。そろそろ峠で後は下るだけだったな。

 少し腹が減ったからリンゴをくれよ。』


 私は馬車に置いてある箱からリンゴを三個取り出してセルギウスにあげた。


『おおうめぇ。バリバリムシャムシャ…

 リンゴはいつ食ってもうめえな。

 じゃあ出発するからな。』


 野盗集団のボールを上空五メートルくらいのところへ浮かばせたまま、まるで馬車にヘリウムを入れた風船を付けているように運んでいく。

 すれ違う馬車の人たちからは当然ぎょっとした表情で見られた。


---


 お昼頃にオラージャへ到着。

 とうとうガルシア侯爵の領地へ戻ってきた。

 あまり大きくない街なので検問所は無いが、街の入り口に警備兵の詰め所があるので取り次いでもらう。

 パティが詰め所の前にいる守衛に話しかける。


「こんにちは、守衛さん。

 私はガルシア侯爵家のパトリシア・ガルシアと申します。

 峠道で盗賊団を捕まえましてね、引き取って欲しいんですの。」


「は、はい! 領主様のお嬢様でしたか!!

 それで盗賊団はどこに?」


「上にいます。」


「え? あ…あ… えぇぇぇぇぇぇ!!??」


 守衛Aが野盗のボールを見て、びっくりして尻もちをついた。

 詰め所の中にいるもう一人の守衛Bがその声を聞いて飛び出してきた。


「何だ? 何があった!?」


「あれだ…」


 守衛Aは、尻餅をつきながらわなわなと空中に浮かんでる野盗ボールを指さす。


「ぎぇぇぇぇぇぇ!! ば、化け物!?」


 確かにクリーチャーみたいな化け物に見えなくもないな。

 まだ痺れたままでまともに喋れず、変なうめき声をしてるから余計にそうだ。

人間にも見られない野盗が哀れ。


「驚いてないで、早く留置場へ案内して欲しいですわ。

 もうお昼ですからお腹が空きましたの。」


「はい! 直ちに!」


 パティは野盗がどうかより自分の空腹の方が問題なんだな。

 守衛Aは詰め所の裏から馬を引き出し、私たちを先導してオラージャ治安警備隊事務所へ向かった。


---


 街の通行人らに奇異な目で見られなから、十分ほどで警備隊の事務所へ着いた。

 守衛Aは裏に馬を置いてから所長を呼びに行ったようだ。

 一分ほどで所長らしき太った男と三人の警備隊員が事務所の正面から出てきた。


「これはこれはお嬢様!

 盗賊団を引っ捕らえたそうで、ありがとうございます!

 それでやつらはどこに?」


 私は上からゆっくり野盗ボールを下降させ、グラヴィティを解除しドサドサッと事務所前に積み上げた。

 ボールのままでは大きすぎて事務所の入り口から入れない。


「「「「うわわわわわわっ!!」」」」


 四人が驚くのは当然の反応としても、暇そうで頼りなげな田舎の保安官という印象だった。

 私は所長に捕まえたときの経緯を話す。


「麻痺の魔法がかかってますので今は動けませんが、そろそろ魔法が解けるかも知れないので早めに留置所へ入れて下さい。」


「は、はあ…わかりました。

 ですがこの田舎街の牢屋ではぎゅう詰めになってしまいますが…。」


「そうですか。

 私たちはマカレーナへ向かうところですから、お父様に移送させるよう言っておきます。

 今はぎゅう詰めでもいいですから放り込んでおいて下さいまし。」


「承知しました。では早速…

 おまえたち、運ぶぞ!」


「「「はっ!」」」


 四人で野盗たちを運ぼうとしてるが、野盗のほうが体格が良いので重くてモタモタしている。

 仕方ない…、腹ぺこパティには少し待ってもらって手伝おう。


「パティ、ちょっと手伝ってくるよ。」


「仕方ないですわね…」


 私は野盗たちを再びグラビティにかけて、『ハー◯ルーンの◯吹き男』のネズミのように動かし、奥にある留置場の牢屋へ次々と入れていった。

 確かに狭いが、寝転べそうにないだけで十分座れる。

 ぎゅう詰めと聞いたから東京の満員電車みたいなのかと思ったよ。

 まあ、早めにマカレーナの警備隊に引き取ってもらえると良いけれどね。


---


 往路でもオラージャで昼食を取ったので、同じ食堂で鶏肉パエリアを頼んで皆で分け合って食べた。

 ヴェロニカも皆と食べる食事にはすっかり馴染んで、笑顔を見せる機会がとても多くなった。

 若いうちはこうやって楽しくして思い出を作っておいた方が良い。

 ルナちゃんは身分差のせいで最初は少し遠慮気味だったけれど、ヴェロニカを含めてだいぶん打ち解けていった。

 ルナちゃんがいつまで私の元で働いてくれるのかわからないが、家族を失いつらい思いをしてから王宮で働いてきた。

 王宮で友達になったフローラちゃん、モニカちゃん、ロシータちゃんとも離れ、しばらく緊張する日々を送るかも知れないが、私の初めての従者だし大事にしていきたい。


 パエリアだけでは当然足りず、肉団子やベーコンの肉じゃが等を頼んで美味しく食べ、皆も皆も満足げな顔だった。

 さあ、あと二、三時間でマカレーナへ帰れるぞ。

 スサナさんやビビアナ、ジュリアさんどうしてるかなあ。


---


(スサナ視点)


 ふぇー

 今日の午後は特に何も無いので、お屋敷のお掃除ばかりしていますよ。

 今は玄関前をほうきで掃いているけれど…

 お嬢様やマヤさんたちが王都へ行ってからとっくに一ヶ月が過ぎて、予定ではそろそろ帰ってくるはず。

 王都に着いたという手紙はお嬢様からありましたが、受け取ったのが半月前ですからね。

 逆算すると、あの魔獣の馬車はとんでもない速さですよ。

 でもマヤさんたちがいない間に強い魔物が襲ってこなくて良かったあ。

 時々弱い蜂の魔物が来ていたけれど、私の出番はあまり無かったよ。

 マヤさんがたくさん倒してくれたおかげでしょうね。

 あー、早く帰って来ないかな…。


「あれ? 一頭引きなのに大きな馬車はもしや!?」


 門へ続く道から、角が生えた馬と馬車がやってきました。

 あ! 御者台にマヤさんが乗ってる!!


「おーい! おかえりなさーい!!」


 私が手を振ると、マヤさんも手を振ってくれました。

 あの様子だと無事なようですね。良かったあ。

 玄関前に馬車が着きました。

 マヤさんがニコニコして私を見ています。

 やっぱり私に気があるのかな。えへへ


「ふうー スサナさん、ただいま。

 元気そうで良かったよ。」


「マヤさんこそ元気だね。

 だった一ヶ月ほどなのに、すごく久しぶりだねっ」


「そうだねえ。

 いろんなことがあったけれど、また話すね。」


「うん!」


 お、馬車のドアが開いてパトリシアお嬢様が出てこられました。

 エルミラも!


「お嬢様おかえりなさい!」


「スサナさん、ただいま!

 お変わりありませんでしたか?」


「ええ! 何事も無く皆さん元気ですよ。」


「それは良かったですわ。

 早くお父様とお母様にも挨拶しなくっちゃ!

 荷物は…後にしましょ。」


 マヤさんもお嬢様もあの表情だと朗報が多そうですね。

 お話を聞くのが楽しみだなあ。


「スサナ! ただいま! 元気してたか?」


「エルミラー!

 誰も訓練の相手をしてくれる人がいなかったから退屈だったよぉ。

 明日の朝、早速やろうね!」


「うむ。明日からもっと楽しくなるよ。」


「え?」


 どういうことだろう。

 エルミラが新しい技でも覚えたのかな。


「やあやあスサナ、ただいまー」


「エリカさんも何だか楽しいそうですねえ。」


「そりゃもう王都でもいろんなところでも、うっひゃっひゃふふ」


 エリカさんにも良いことあったようですね。

 あの様子じゃたぶんエッチなことかな。

 マヤさんを残してみんなお屋敷の中へ入っていったけれど…

 あれ? まだ人が出てくる。

 メイドさん?


「は、初めまして!

 私、ルナ・ヴィクトリアと申します!

 王宮からマヤ様の専属給仕係を申し受けました。

 先輩! よろしくお願いします!」


「あ…あの、よろしくお願いします…って…

 えぇぇぇぇぇ!!??」


 マヤさんのメイドぉ!?

 先輩って…、あっそうか。

 私も今は給仕服を着てるんだった。

 ということは、マヤさんは無事に叙爵したってことかな。

 あれれ? 

 もう一人、エルミラみたいな格好をした綺麗な女の人がいる…。


「私はヴェロニカだ。君がスサナか。

 エルミラから話を聞いているが、とても強いんだってな。

 戦うのがすごく楽しみだ。

 これからよろしく頼むぞ! ハッハッハッハッ」


「あの…はい…スサナです。よろしくお願いします…」


 え? 誰? えらく態度がでかいんですけれど…

 この人がバカ力でぶんぶん腕を振って握手をしてから、エルミラに着いて中へ入っちゃったし。

 本当に誰?


「じゃあスサナさん。

 私はルナちゃんとセルギウスを連れて馬車置き場へ行ってくるから。」


「あああの……行っちゃった…。」


 誰なのか聞こうかと思ったのに。

 これからいろんなことが起こりそうな予感がするけれど、これで退屈から解放されるのかな。にひひ

 掃除はもういいや。

 エルミラからたくさん土産話を聞こうっと。


【第四章 了】

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