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第百三十話 今日はお姉ちゃんの妹になるよ

(ルナ視点)


 このイレーネという子をお風呂に入れてあげることになりました。

 それにしてもマヤ様はあちこちで問題を拾ってくるんですね。

 イレーネちゃん…、何だか私の妹を思い出します。

 あの子が魔物にやられたのはイレーネちゃんぐらいの歳だった。

 ……ダメ。思い出すとつらくなるよ。


「初めまして。イレーネちゃんっていうんだね。

 私ルナっていうの。よろしくね。」


 私は中腰になってイレーネちゃんに声を掛けた。

 この子はまだ緊張していて、おどおどとしてる。

 すごーく優しくしてあげないとね。


「ルナ…お姉ちゃん?」


「うん…」


 あぁ…お姉ちゃんなんて呼ばれると…グス…涙が出る。

 妹と姿が重なってしまうよ。


「ルナお姉ちゃんどうしたの?」


「ううん、何でもないわ。

 さあ、汚れてるからお風呂へ入りに行きましょう。」



(マヤ視点)


 さて、イレーネちゃんはルナちゃんに任せたし、アルタスの村がどこにあるのか調べないとなあ。

 ロドリゴさんに聞けば地図を出してくれるかも知れない。

 ラミレス侯爵の執務室かな?

 早速行ってみる。


 コンコン


「失礼します。」


「入りたまえ。」


 ラミレス侯爵がデスクで事務仕事をしており、ロドリゴさんは本棚の前で資料を参照していた。


「おお、マヤ殿か。今日はどうだったかね?」


「はい、北西の丘陵地にガルーダの残りが数羽おりましたので退治しました。

 デモンズゲートは見つからなかったです。」


 サリ様に言われたとおり、アーテルシアがまた現れたことについては伏せた。

 あれからアーテルシアが私を追って現れる可能性が非常に高くなったので、私の存在が原因にもなるから性格が良いラミレス侯爵でもあまりいい顔はされないだろう。

 セレスは明後日ぐらいには()つつもりだから、私狙いであれば黙っていても影響は無い。

 問題はマカレーナに帰ってから、アーテルシアが頻繁に現れるようならマカレーナと周辺の住民に迷惑がかかる。

 ガルシア侯爵とじっくり相談するべきだろうか。


「あんな遠くまで行ってきたのか。

 それはご苦労だった。

 今晩もゆっくり休んでいって欲しい。」


「あと魔物に襲われた遭難者を川で救助しまして、子供なんですが…

 その子が住んでいるアルタスという村の場所がわからなくて、いったんここへ連れてきたんですよ。」


「なんと…アルタスは確か国境に近い村…」


 私は侯爵に事の経緯を詳しく話した。


「ふぅむ、わかった。

 セシリアとローサが承知しているなら良かろう。

 私の領地は広くてな。

 ここからアルタスまで百キロ近くあるから、確かに君の移動速度でも着く頃には暗くなってしまうだろう。

 今晩は泊めてあげなさい。

 ロドリゴ! 領地の地図を持って来てくれないか。」


「はい、閣下。」


 大丈夫と思ったけれど、侯爵が承知してくれて良かった。

 ロドリゴさんは、棚から手持ち出来るサイズの地図を一枚持って来てくれた。

 そう言えば前にも地図を頂いていたんだけれど、マカレーナへ持ち帰ったまますっかり忘れていた。

 持って来ていたらその日のうちに連れて帰ってあげられたのに…。

 ロドリゴさんはデスクの上に地図を広げて見せてくれた。


「マヤ様、アルタスはここからずっと西にあります。

 閣下がおっしゃったように、百キロ近くありますね。」


「そうすると、イレーネちゃんを助けた河原があるあたりは…ここか。

 アルタスから五十キロ以上離れている。

 アルタスでガルーダに捕まって、ガルーダに何らかがあってイレーネちゃんを川へ落としてしまった場所が巣の近くだったとしても、彼女を見つけた河原まで十キロ近く流されて来たということか。

 あの子はなんて体力と精神力があるんだろう。」


「私はずっと昔だが、一度だけアルタスの村へ行ったことがあるのを思い出した。

 農業で暮らしていて、平地のセレスより気候が厳しく決して豊かな土地では無い。

 大変な畑仕事もあって身体も心も強いのだろう。

 しかしこんな小さな子が畑仕事をしなくてはいけない状況だとは、今日は平日だし学校へは行けているのだろうか。

 私のほうが行き届いていなかったのかもしれない。

 至急調査して改めなければいけないな。」


「では閣下。

 領地内各地にある小さな村へ調査団を派遣しましょう。」


「うむ。少し無理をしてでも人を割いて構わん。

 なるべく早めに調査結果が欲しい。」


「承知しました。」


「ラミレス侯爵、アルタスの村についてはイレーネちゃんを送り届けた時に私が調査したいと思いますが、いかがでしょうか?」


「おお、やってくれるかね?」


「はい。」


 イレーネちゃんの話から、領地内の実態調査の話になってしまった。

 各地の村と領地中央との繋がりが乏しくなれば貧困にも繋がる。

 日本でも、地方と都市部の違いで地域格差が出ていた。

 これから領地内全てで暮らしが良くなればいいね。



(ルナ視点)


 私の準備も出来たので、イレーネちゃんとお風呂です。

 脱衣所に来ましたが…、うん。

 棚にイレーネちゃんの着替えがもう用意してある!

 セシリア様が用意してくれたのかな。

 私は畳んである服を広げてみた。


「きゃあ可愛い! ピンクのワンピース!

 イレーネちゃん、お風呂上がったらこれを着るんだよ!」


「ええ? すごい!

 こんな高そうなの着ていいの?」


「勿論よ。きっと似合うわ。」


 私はイレーネちゃんのまだ湿っている服を脱がせてから、私も服を脱ぐ。


「わあ! お姉ちゃんのおっぱい、お母さんより大きい!」


「あぁ…あははは。

 イレーネちゃんも大きくなったら、どうなるかな。あははは…」


 無邪気な子からストレートに言われると、ちょっと恥ずかしいです…。

 あっ… 子供用の下着もあるんですが、これもセシリア様のお古?

 うーん… 使った感じには見えないですが…。


---


 お風呂です!

 まだ時間が早いので、もしかしたら一番風呂かな。


「すごーい! こんな広いお風呂、初めて見たー!」


「私もびっくりしたわ。

 王宮のお風呂より広いからね。」


「王宮? お姉ちゃんどうして?」


「ふふふ。私ね、ついこの前まで王宮で働いていたの。

 それで今度から、あなたを助けてくれたマヤ様にお仕えすることになったのよ。」


「へぇ~ すごーい! お姉ちゃんお姫様と一緒だったの?」


「あ~いや、お姫様のお世話はしていなかったけれどね。

 近くで見たことあるだけだよ。あっ…」


「ふぅ~ん。私も見たいなあ。」


 王女殿下がすぐそこにいらっしゃるのをすっかり忘れていたわ。

 私たちにすっかり溶け込んで、お姫様だという意識がありませんでした。

 女の子はお姫様に憧れるものだから、王宮と聞けばお姫様だもんね。


「さあ、身体と髪の毛を洗ってあげるわ。」


 何か真ん中に溝がある変な形の椅子が置いてあったのでそれはやめて、普通の椅子にイレーネちゃんを座らせた。

 私はイレーネちゃんの小さな身体をタオルでシャコシャコと洗う。

 子供は肌が綺麗ね。

 傷が全く無いのはマヤ様の魔法のせいかしら。

 回復魔法ってすごいなあ。


「石鹸がすごくいいニオ~イ!」


「そうでしょう。

 私も子供の頃は小さい村に住んでいたから、王宮で初めて働いたときはびっくりしたよ。」


「そうなの? 私も王宮でお仕事出来るかなあ。」


「もうちょっと大きくなったらね。

 十二歳になって、それから三年勉強しないといけないから大変よ。

 それからお仕事している時でも難しい勉強をするの。

 厳しいオバサン先生がいて怖いよ~ うふふ。」


「ふ~ん。私、あまり村で勉強をしていないの。

 先生が少なくて…、学校へ行くのは一週間に二回だけかな。」


「そっかぁ~ 先生がいないのかあ~」

 そういうことでこんな小さな子が昼間から畑仕事をしていたのね。

 これはマヤ様を通してラミレス侯爵へ報告してもらったほうがいいわね。


「じゃ、髪の毛を洗いましょ。」


 昨日も使わせてもらったけれど、このシャンプーすごく甘い匂いがするのよね。

 んん~ ローズマリーにバニラの香りが混じってるのかな。

 イレーネちゃんの肩より少し長めな髪の毛を丁寧に洗う。

 この子、お風呂へ入る前はボサボサでよくわからなかったけれど、髪の毛が柔らかい。

 若いっていいわねえ~

 やだ、私はまだ十六だから。


「なあに? 髪の毛の石鹸、すごく美味しそうな匂いだよ。」


「そうね~ 美味しそうだね。

 だからイレーネちゃんを食べちゃうぞ~」


「きゃはははははっ」


 私はガバッと手を上げ、さらにイレーネちゃんの頭をシャコシャコと洗った。

 お風呂で妹とこうやってふざけ合っていたなあ。懐かしい。

 シャンプーを流して、同じ香りのトリートメントを着ける。

 本当に()(ぐし)の通りが良いわね。羨ましい…

 トリートメントを流して終わり!


「イレーネちゃん、私は身体を洗うから先にお風呂へ入ってなさい。」


「今度は私がルナお姉ちゃんを洗ってあげるよ。」


「いいの?」


「私に任せて!」


 イレーネちゃんは小さな手で一生懸命私の身体をタオルで洗っている。

 決して上手ではないけれど、とても心がこもっているのがわかる。

 妹と洗いっこをしていたのを思い出すなあ…

 だめ… 涙が止まらない…


「グス… うう… ううう…」


「お姉ちゃん、どうして泣いているの?

 さっき玄関でもすごく悲しそうな顔だったよ。」


「ごめんね… お姉ちゃんの妹、魔物に殺されちゃってね。

 イレーネちゃんと同じくらいの歳だったから、思い出しちゃったの…」


「そうなの… 悲しいね…

 そうだ! 今日はお姉ちゃんの妹になるよ!」


「…ホント?」


「うん!」


「ありがとう~ グス… うえぇぇぇぇぇん!」


 私は泣きながらイレーネちゃんを抱きしめた。

 こんなに嬉しい事があっていいのかな。

 マヤ様に着いてきて良かった…


「あははははっ お姉ちゃんのおっぱいやわらか~い!」


「うう… う… あははははっ」


 明るくていい子…

 明日、お別れがつらくなるなあ~


---


 お風呂から上がったらセシリア様のお部屋へ来るように言われたので、お邪魔しています。

 セシリア様は軽めの白いワンピースに着替えられてますね。

 わぁ~ すごい! 白とピンクのお部屋!

 ぬいぐるみもいっぱいある!

 あのクマさんのぬいぐるみ可愛い!


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!

 お姫様のお部屋みた~い!」


「いらっしゃい、ルナ様、イレーネちゃん…

 きゃぁぁぁぁぁぁ! 可愛いぃぃぃぃぃぃ!!」


 セシリア様は、ピンクのワンピースを着たイレーネちゃんを見て、身体をくねらせて(もだ)えてます。

 イレーネちゃんは汚れがすっかり落ちて、お目々ぱっちりで将来絶対美人になると確信できるほど見ちがえている。

 今日は服を買って頂いた時といい、セシリア様の叫びと悶えを見ることが多いですね。

 あっ… このパターンだとイレーネちゃんが着せ替えのおもちゃになっちゃうかも。


「あらやだ…

 そんなことをしている場合じゃないわね。

 ルナ様とイレーネちゃんの髪の毛をブラシで解かしながら魔法で乾かします。」


「え? いいんですか?

 セシリア様はもうお風呂へ入られたんですか?」


「ええ。私はお部屋にお風呂がありますから。」


 なるほど。王宮のお部屋といっしょかあ。

 そういえばセシリア様からも良い香りがする。

 くんくん… オレンジの匂いがほのかにするわね。

 オレンジのシャンプーとトリートメントは王都でよく使われていたから、それと同じ物かな。

 それにしても、お風呂上がりのセシリア様も綺麗だなあ。

 男性というのを忘れちゃうよ。


「じゃあイレーネちゃんから髪の毛を乾かすわね。

 ここへ座って頂戴。」


 セシリア様は豪華で大きな鏡台の前にイレーネちゃんを座らせた。

 そしてブラシで髪の毛を()きながら、時々空気を入れて手櫛で乾かしていた。

 あれが髪の毛を乾かしている魔法かあ。便利だなあ。


「わぁ、綺麗なほうのお姉ちゃんの手が温かい!」


 綺麗なほうのお姉ちゃん…

 確かにセシリア様は綺麗ですけれど、子供のストレートな言葉はちょっとショック…


「まあ綺麗なお姉ちゃんだなんて、うふふ」


 またセシリア様が両手を頬に当てて悶えてます。

 今晩はたぶんずっとこれでしょうね。


「ああ! ごめんなさい。

 ルナお姉ちゃんは、可愛い方のお姉ちゃんだよ!」


「ありがとう…」


 子供に気を遣わせちゃって… うう…


「さあ、乾きましたわ。

 ……びっくりです。こんなにつやつやで綺麗な髪の毛。

 若いって羨ましいですわ~」


 私と同じ事をおっしゃってます。

 確かに、横から見ているだけでも、髪の毛が灯りの反射で綺麗です。

 本当に可愛い…。


「次はルナ様の番ですね。

 いつもはツインテールだから、髪を下ろしていると大人っぽいですね。」


「ええ、お仕事の時は髪の毛が邪魔なので…あはは」


 私、大人っぽいのかな。

 お風呂と寝るとき以外はずっとツインテールでやっていたから、気にしたことなかったな。

 セシリア様がブラシで髪の毛を解かしながら右手で温めてくれている。

 セシリア様は手が熱くないのかな。


「わぁ~不思議ですね。

 これなら髪の毛が乾くのが早くて楽ですよね!」


「私、こんな生活魔法しか使えなくて…

 マヤ様やエリカ様のような、みんなのためにお役に立てられる素晴らしい魔法使いの方が羨ましいですわ。」


「生活魔法も素敵ですよ。

 こうしてもらっていると心も温かくなって来ますよ。」


「ルナ様…、ありがとうございます…」


「そうだよ、綺麗なほうのお姉ちゃん。ううん、セシリア様!」


「ああああああああああっ なんて可愛い子なのかしら!

 そうですわっ まだお食事まで時間がありますから…」


 あっ 始まりそうだ…


---


「きゃーーー!! 可愛いですわ可愛いですわ可愛いですわ!!」


「すごぉぉぉぉい!! 私、お姫様になってる!!」


 察しの通りでした。

 イレーネちゃんは、セシリア様にふわふわの白いパーティードレスを着せられて大きな姿見を向かいに大はしゃぎです。

 ああ、次は肩出しで上が黒、スカートが薄い黒から白へグラデーションになっているちょっと大人のドレスです。

 頭にはティアラまで…。

 う… 可愛いです。可愛すぎます。


「あー! あー! あー!

 可愛いです! ああああああああああっ!!」


 セシリア様がご自分のベッドの上で悶えて転げ回っています。

 やっぱり変わった方ですね…。

 その次は真っ赤なゴシック調のドレスを着せています。

 それにしてもセシリア様は、子供の時のドレスをいくつお持ちなんでしょう。

 結局お食事のお呼びがかかるまで、イレーネちゃんは十着も着せ替えられたのでした。


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