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第百二十八話 女神様は部長だった/懐かしの味

 セレスから十キロほど離れた荒野の丘陵地で、そこらは木々が疎らに生えている。

 そこへアーテルシアが突然現れ、女神サリ様もやって来て私たちは一戦した。

 アーテルシアは撤退したが、またいつどこで遭遇するのだろうか。

 ……こんな場所で私はパンツを降ろしたのか。

 落ち着いてみたら、すごく阿呆なことをしていたんだなと凹んでくる。

 いろいろ疑問が湧いて来たので、せっかくだからサリ様に聞いてみよう。


「サリ様、ああいう悪さをする神様って、神様連合みたいなのがあって罰を与えることって出来ないんですか?」


『確かに、天界神連合【神々の集い】というのがあるけれど、六十四もの宇宙があってそれに相当するように神も数え切れないくらいいるの。

 その中には私のような愛と美の女神がいたり、アーテルシアのような破壊や破滅の神、貧乏の神みたいな厄災を(つかさど)る神だってたくさんいるわ。

 でも、そういう神でも必要な神として存在しているの。

 わかりやすく言うと、生物が進化するのは環境にいろいろな(さまた)げや障害があってこそだからというのはわかるわよね?

 人間だって何百年、何千年経って障害を乗り越えれば精神的な進化もある。

 だから連合としては原則として干渉することをしないのよ。

 そういう厄災の神が邪魔だったら、個々の神で対応するか、その世界にいる人間…というか知的生命体の手で何とかしろということになっているわ。』


 アホっぽい神様だけれど、説明がすごくわかりやすい。

 しかし【神々の集い】ってネーミングがそのままだな。

 地球の生物進化を辿(たど)っても、何億年もあまり進化していない生き物もいれば、いろんな環境に応じて、つまり何らかの障害を経て進化してきた生き物もたくさんいる。

 まだ続きがあるようだ。


『勿論、その星の生物を滅亡させるとか星を破壊するなんて暴挙を行うやつがいたら、神々が揃って阻止することになっているの。

 アーテルシアはそのグレーゾーンにいるわけよ。

 人をあまり(あや)めていないつもりみたいだけれど、あいつが送り込んだ魔物が勝手にやっていることまで気にしていないようだわ。』


 私が考えていたことだが、サリ様もそうか。

 魔物を出すだけ出して、後はやりたいようにやらせて笑っているだけなのか。

 やっていることが子供のおもちゃと変わらない。

 魔物が出なくなるだけでもかなり状況が改善するから、アーテルシアの暇つぶしとやらを何とかしたらいいのか。


「それでサリ様は神々の集いの中でどういった立場なんですか?

 アーテルシアが言ってましたが、五百何十年前はもう有名だったと。」


『えっへん! よくぞ聞いてくれました。

 六十四ある宇宙を十六に分けたブロックに分けた内の一つ、第六ブロック第二管理部の部長なの!』


(第六ブロックにある四つの宇宙の一つにネイティシスがあって、もう一つの宇宙に地球があるんだけれど、それがホントに良く似てるからマヤさんの魂を間違えて地球に落としちゃったのよ。

 マヤさんには絶対言えないわね。)


 ブロック最高責任者じゃなくて、何か微妙な立場だな。

 一応部長さんなんだ。

 中間管理職は面倒臭いからなあ。わかるよ。


「銀河系だけでも大変な星の数なのに、四つも宇宙の面倒を見ているなんてすごいですね。」


『文明を持った知的生命体がいる星なんて実際は僅かなのよ。

 だから管理は目が回るほど大変というわけではないわ。

 神もたくさんいるしね。』


「アーテルシアのことはご存じないとおっしゃってましたが、同じ建物のトイレに行こうとしていたということは、同じ第六ブロックの神と考えてよろしいのですか?」


『そうね。天界へ帰って調べないとわからないけれど、その可能性は大いにある!』


 現時点での結論はアーテルシアの素性を調べたり、遭遇したらなだめるしかない。

 まさかアーテルシアが一日だけおいて出てくるなんて思いもしなかった。

 今回もサリ様が出てこなければ、あのような攻撃はしてこなかったのかも知れない。

 恥を忍んでお尻まで出したというのに… うぅ…


「ねえねえ、二人で話していることがちんぷんかんぷんなんだけれど、ウチュウとかギンガってなあに?

 マヤ君が別の世界から来たってのは知っているけれど、神様と対等に話せる知識ってすごいね。」


「あああ、エリカさんごめんごめん。

 俺のいた世界では魔法が使えない代わりに、技術がとても発達しているんだ。

 その辺はまたゆっくり話すよ。」


「ふーん、そう。

 ゆっくりするんだったら、私はマヤ君といちゃラブしたほうがいいなあ。ぐへへ」


「ちょっとちょっと、神様の前でなんてこというんだ!」


『あらあ、お構いなく。

 あなたたちのいちゃラブは暇つぶしでよく知っているから。

 すごいわねえ、二人とも。あんなことまでいろいろと。』


「ああ! やっぱり覗いていたんですか!

 なんて神様だ!」


『だから私は愛の女神って言ったでしょう?

 愛の営みを温かく見守っているのよ。』


「さっきひまつぶしって言ったばかりですよね!?」


「ああ… マヤ君と私の愛が女神様にも認められているってことね…

 ああああああ素敵ぃ~」


 エリカさんは身体をくねらせて喜びのダンスを踊っている。

 まったく… この二人には参るなあ。

 闘いの後の緊張を(ほぐ)してくれているのか?

 そこまで気が利いているようには見えないが。


『ねえ、せっかく地上に降りてきたし、お腹が空いたから何か食べたいわ。』


「まだお昼には少し早いですよ。」


『地上に降りるのに、神でも結構な力を使うのよ。

 人間でいうと持久走で千五百メートルを走った時のエネルギーと同じくらいね。』


「へぇ~ そりゃ大変なんですね。」


 といいつつ、実は菓子パンの半分くらいしかカロリーを消費していない。

 腹が減った理由にはならんよ、サリ様。まあいいけれどね。


「で、こんな荒野の真ん中だから何も無いですよ。

 ここの山を越えてもセレスへ帰っても同じくらいの距離だから、セレスへ帰りますか。」


『それでいいわ。』


「サリ様は飛べるんですか? 無理なら背負いますが。」


『大丈夫よ。それ!』


 サリ様は瞬時に直径五十センチくらいの光の玉となって、ふよふよと浮いている。

 あの身体から分子変換してるのか、どういう理屈でこうなっているのかわからない物体だ。

 ちょっとつついてみよう。ふにゅ


『マヤさん何するんですか! そこは私のお尻です!』


「え!? そこお尻なの? それはごめんなさい。」


 ふわっとしていてお尻どころかあまり何かに触った感覚が無いのだが。

 玉がしゃべるのもなんか変だし。


「マヤ君、神様のお尻を触るだなんて度胸あるわねえ。」


『そうよ。私のお尻はアーテルシアより絶対綺麗よ。』


「なんか違うような…。じゃあ、セレスへ帰りますよ。」


 私たちはそのまま三人で飛んでセレスへ戻った。


---


 セレスの飲食街。目立つので路地裏へ降り立った。

 サリ様も降りた同時に元の姿に戻る。

 お店が開店する時間にはまだ早いかなあ。

 ん? 何か覚えがあるような良い匂いがする!


 路地裏から表通りへ出ると、一見民家風の小さなお店の前に出た。

 Sette bello…セッテベロ!

 直訳すると七人のナイスガイみたいな言葉だが、イタリアの有名な古い列車の名前だ。

 こんな所でイタリアの言葉を見るなんて夢にも思わなかった。

 刀の名前で日本語が使われているし、ガルベス家ではエレオノールさんのフランス料理が食べられた。

 あっ オイゲンさんとテオドールさんはドイツっぽい名前だし、地球の言葉があちこちで見られて嬉しい。


「サリ様、エリカさん。このお店にしましょう。」


『ええ、いいわ。』


「おっ ルクレツィアのお店じゃない。いいねえ。」


「ルクレツィアのパスタなら、インファンテ家でパスタのパエリアを食べたっけ。」


「マヤ君ってあちこちで美味しい物ばかり食べてるよね。

 女の子もきっとあちこちで食べてるんだわ。ううう…」


 否定できないのがアレだが、当然黙っておく。

 お店のドアが開いていたので、勝手に入ってみた。

 お客さんが誰もいない。やっぱり早すぎたかな。


「ごめんくださ~い。お店はもうやってますかあ?」


「ボンジョールノ! 大丈夫ですよ~

 お好きな席に座ってお待ちくださいヨー!」


 奥の厨房のほうから声が聞こえた。

 まだ仕込んでいる最中なのかな。

 私たちは窓際の席に座った。

 メニューを見ると…、文字しか書いていないけれどイタリア語っぽい。

 なになに…

 Bolognese , Carbonara , Genovese , Pomodoro , Aglio olio e Peperoncino , Vongole , Lasagna...

 おお! パスタは知ってるメニューがたくさんだ!

 日本で食べていた好物はミートスパゲッティだけれど、トマトソースたっぷりのものはこの中だとポモドーロだろう。


「二人とも、トマトソースのパスタはどうかな?

 この国の人だと特に口に合うだろうし。」


「そうね。私はマヤ君の好きな物でいいよ。んふふ」


『私もそれにします。』


「じゃあ決まりだ。すみませ~ん! 注文をお願いしま~す!」


「はーい!!」


 シュババババババ! っと風のように店員さんがやってきた。

 コックコートを着ていて、金髪の軽そうなイケオジって感じの人だ。


「おー! 今日の一番のお客さんは、至高のベラドンナとセクシーで美人なシニョリーナ、強そうなバンビーノですねえ!」


 お坊ちゃんか… そんなにガキに見えるのかね?


『至高の美女、当然ね。ふふん』


「セクシーで美人はマヤ君だけのためだよ。にゅっふっふ」


「ああ、すみません…ははは

 ポモドーロを三つお願いします。」


「美女二人も一緒でうらやまっしいネー!

 はーい! ポモドーロ三つ! アッチェッタート!」


 ノリがいい店員さんは注文を受けるとシュババババッと厨房へ戻った。

 飲食系バラエティ番組があったら出てきそうだよ。

 その至高の美女とやらが女神様だとは、店員さんはまったくわからないだろう。


『うん、あの店員さんはわかってますね。

 お店に神の祝福を授けましょう。』


「ええ?」


 サリ様が右手首を軽く振ると、暖かくて心地よい魔力が店内にパァァっと広がった。

 神様が個人的にそんな大サービスしていいの?

 やっぱり普段の態度は大事ってことなのかね。


『これでこのお店は商売繁盛、病魔退散、家内安全、安心よ。』


「はぁ… それはこの店にとって何よりですね。」


 そして待つこと十数分、金髪イケオジ店員さんがウキウキの調子でやってきた。

 んん? 一人でやってるんだろか?

 いや、厨房の奥でチラッと女の人が見えるから、奥さんかな?


「はーい! ポモドーロ三つでぇ~す!

 ボナペティート!!」


 ポモドーロがテーブルに置かれると、店員さんはシュバババッと厨房へ去って行った。

 中の方では忙しいのかねえ。


「うーん! この食欲がそそるトマトソースの香り、美味しそうねえ。」


『私、これに似たものをたぶん食べたことあるわ!

 百年くらい前だけれど、あなたがいた地球のイタリア王国時代かしらね!』


「神様だけあって、リアルに歴史の移り変わりを体験出来ますね。」


『ふっふーん、すごいでしょう。』


 冷めないうちに早く食べよう。

 ……うん!! このトマトソースは舌に染みこむような芳醇さと、気持ち細めのスパゲッティーが本場らしくアルデンテにはこだわらない少しだけ柔らかめのゆで加減で、絶妙な歯ごたえを味わえる。

 懐かしい味でもあるが、とんでもなくうまい!


 サリ様とエリカさんはうまいこと静々と食べている。

 さすが神様と一応の貴族令嬢だ。

 パティだったらソースが飛び散るから必ず前掛けが必須だろう。


「とても美味しいわ。マヤ君に任せて良かった。」


『うーん、このトマトソース味ね。思い出したわ。

 本当に美味しい。祝福を授けた甲斐があるわ。』


「二人の口に合ったようで良かった。

 またいつか寄ってみよう。他のメニューも食べてみたいし。」


 そうして私たち三人はとても満足して食事を終えた。

 そろそろお昼時のようで、お客がちらほら増えだしていた。

 お会計を済ませる。


「おー! もうお帰りですかあ?

 素敵なベラドンナとセクシーなシニョリーナとお別れなのは残念でぇ~す。

 ああ! いつまでも見ていたいその美しさ。虜になっちゃいまぁ~す!

 どうかどうか、また来て下さいねぇ!

 ああ! ああ! やっぱりまだ帰らないでぇ~!」


 私たちが帰ろうとすると、厨房の奥からズカズカと恰幅(かっぷく)が良いお母ちゃん風で、コックコートを着ている女性が現れた。


「アンタ! この忙しいのにまた女の子に絡んで!

 すみませんねえ。この人、女の子が大好きでまったくもう恥ずかしい!

 どうもありがとうございます。

 またおいでくださいね。」


「おー! アモーレごめんよお!

 それではお姉さんたち~ グラッツェ! グラッツェ!」


 イケオジはお母ちゃんに首根っこ掴まれて厨房へ戻っていった。


「ねえサリ様。あれって神の祝福が効いているんですか?」


『大丈夫でしょう、すごく仲が良さそうじゃない。

 日本の言葉でも()()()()()ってあるようにね。

 それにしても、美しさって罪ね…ポッ』


「大丈夫よマヤ君。

 いくらイケメンに言い寄られても、私の心と身体はマヤ君だけの物よ。

 うっひっひっひ。」


「はぁ~」


 サリ様はもちろんエリカさんも頼りになる女性だけれど、こういうノリだと楽しいのか疲れるのか。

 サリ様が地上に降りてきて会えたのは二度目だけれど、良く言って気さく、だが正直言ってまさかのアホの子だよ…。

 本当に俺、この先やっていけるのだろうか?


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