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第百二十六話 ルナちゃんパスタを食べる

(今回は全てルナ視点です。)


 お買い物に夢中になり過ぎちゃって、お昼ご飯の時間が遅くなりました。

 お腹減ったなあ~

 どんなお店に連れて行って下さるんでしょう。


「今日はこの街のお店でイスパルでも珍しい、ルクレツィア国の料理で()()()というものを召し上がって頂きたいと思いますの。」


「パスタ!? 聞いたことがありますわ!

 白くて長い食べ物で、いろんなものを混ぜて召し上がるのですね。

 残念ながらマカレーナにはルクレツィアの料理店がございませんの…。」


 食いしん坊のパトリシア様はこういう話に飛びつきますね。

 まだ経験が無いパスタを召し上がってる様子が容易に想像できます。


「私は食べたことがありますよ。

 王宮でのまかない料理ですが、トマトソースをたくさん使ってイスパル風にアレンジしてありました。

 とても美味しくて、粉のチーズをかけると味がまろやかになるんです。」


「まあ! さすが王宮の給仕さんですね!

 まかない料理でもさぞ美味しいことでしょう。」


「パーティーがあった時にたまたま余った食材で、運良く王宮の一流料理人がついでに作ったときだけですけれどね。

 いつもは厨房のおばちゃんがサッと作る料理ばかりですよ。」


 馬車の中でそんな話をしながら、セシリア様が紹介するお店へ向かいました。


---


 馬車が小さなお店の前に到着し、私たちはそこで降りました。


「このお店なんです。

【セッテベロ】という名前でルクレツィアの言葉なんですが、七人の美女とか七人の幸運な人みたいな意味だそうですよ。」


「まあ! まるでマヤ様や私たちのことみたいですわ!」


 パトリシア様は誰と誰のことをおっしゃっているんだろう…。

 私は中に入っていないよね。あはは…

 セシリア様が戸を開けた途端…


「ボンジョールノ! 美しいお嬢さん!

 おー!! セシリア様いらっしゃーい!

 今日は可愛いバンビーナお二人も! 嬉しいですねえ~

 ささっ どうぞお席に!」


 なんか今日は変わった店員さんが多いですね…。

 お客さんがいなくてガラガラだったからお昼のピークタイムがとうに過ぎたようで、軽薄そうな三十過ぎのおじさんが暇そうにしていました。

金髪でコックコートを着ていて、見た目は格好いいけれど。

 一人でやってるのかな?

 奥の方でカチャカチャと洗い物の音がするから、他にどなたかいらっしゃるようですね。


 私たちは窓際の席へ座って、メニューを見た。

 ペペロンチーノ、カルボナーラ、ジェノベーゼ、ペスカトーレ、ボロネーゼ…

 それぞれに少し説明が書いてありますが、どんなものか想像が出来ません。


「お察しの通り、マスターはルクレツィアの方なんですよ。

 私が選びますので、三人で三種類頼んで、みんなで分けましょう。

 足りなければまた追加すれば良いですから。」


「まあ! それはいいですわね!!」


 パトリシア様は目をキラキラ輝かせて、もう食べることしか頭にないようです。

 ご主人であるマヤ様の将来の奥方様ですから、パトリシア様もご主人様同然。

 なかなか大変なことになりそうですね。


「マスター! 注文よろしいかしら?」


「はーい! セシリア様!」


 セシリア様があのマスターを呼ぶと、ニコニコ顔で駆け寄って来られました。


「人気メニューで、まずボロネーゼ、ペペロンチーノ、ラザニアを頂けるかしら。

 三人で分けますので取り皿もお願いしますね。」


「はーい! グラッツェミッレ!

 バンビーノのために頑張って作るから、少々お待ちくださいねぇ~!」


 やたら元気なマスターね。

 セシリア様が通われているお店だからきっと美味しいのでしょう。うふふ


---


 待つこと十数分。


「はーい! お待たせしましたぁ!!

 ボロネーゼとペペロンチーノ、ラザニアでございますぅ!!

 ボナペティート!!」


「☆わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!☆」


 パトリシア様は目が星になって両手を組んで感激しておられます。

 うーん、良い匂い!!

 王宮で食べた物とはまたずいぶん感じが違うのね。

 これが本場ルクレツィアのパスタかあ。


 テーブルに置かれた三種類のパスタ。

 どれも見た目が違っていて、私も食欲がそそります。


「では私が取り分けますね。」


「お待ちくださいルナ様。

 今日はお客様なのですから、堂々とお座りになってお待ちください。」


「ありがとうございます…」


 うう… セシリア様、めちゃくちゃいい人ですぅ。ウルウル

 この方が本当に女性だったら、マヤ様のお嫁さんになればいいのに。

 セシリア様はそれぞれの取り皿に、丁寧に三種類のパスタを取り分けて下さいました。

 そうだ! このメニューならパトリシア様にはあれが必要!


「マスター! 前掛けを一枚お願いできますか?」


「はーい! 承知しましたあ!

 ……はいどうぞ!」


 はやっ 一瞬にして前掛けを持って来て下さいました。

 ガラガラとはいえ、このマスターやりますね。


「さあパトリシア様、これをお着けください。」


 私はパトリシア様にスッと白い前掛けを差し出しました。


「これ… お子様の前掛けじゃないですか…。

 うちの弟たちも着けてる…」


「パトリシア様が召し上がる勢いだと、大事な服に必ずパスタのソースが着いてしまいます。

 このラザニアやボロネーゼは特にです。」


「あ… う… わかりました…。」


 パトリシア様は渋々と前掛けを着けています。


「ルナ様さすがですわ!

 王宮の給仕さんはお気づきの点が的確で早いですのね!」


「ああ、いやあ。

 パトリシア様のお食事の様子はずっと見てましたから…」


「むむむ…」


 パトリシア様が前掛けをお着けになったようですが…


「ぷぷぷっ 可愛い… ぷぷっ」


「まあパトリシア様! とても可愛らしいですよ。ぷっ」


「むむむ… 可愛いと言われて笑われるのは釈然としませんわね。」


「さあ、お食事が冷めますわ。頂きましょう。」


 私たちは簡単なお祈りをして、早速パスタを頂きました。

 まずはラザニアを… パイみたいな… 何これ! 美味しい!

 モチモチしてて、チーズがなんて美味しいの!

 ああ、幸せ~~ うーん!


「むふー! むふー! むふー!」


 ああ、やっぱりパトリシア様はいつもの調子以上の勢いで召し上がっておられます。

 パトリシア様もラザニアですね。わかりますよ。

 前掛けをお願いして良かったです。


 次はペペロンチーノ…

 ニンニクの香ばしさと、後から来る唐辛子のピリッとした辛み。

 非常にシンプルなメニューですが、パスタの食感を十分に楽しめますね。

 マスターのゆで加減はさすがです。

 王宮の料理人よりずっと上手です。

 本場ルクレツィア出身だけありますね。


「ルナ様、美味しいでしょ。

 私、このペペロンチーノに目がありませんの。

 ニンニクと唐辛子の荒々しいマッチング、まるでマスターの夜の生活を表しているようですわぁ~ ハァハァ

 奥様が羨ましい…」


 あああ~…セシリア様ったら…。

 パトリシア様が食事に夢中になってるからいいものの、教育上悪い発言ですよ。

 ほんとにマヤ様の周りは変わった方が多いですね。


 最後はボロネーゼ。

 (ひき)(にく)を贅沢に使っていて、トマトソースの芳醇な味わい…

 それらが、平べったいパスタに絡んで至高の歯ごたえ…

 ラザニアと比べろと言われても出来ません。


「むふー! むふー! むふー!」


 パトリシア様もボロネーゼを召し上がって…相変わらずですね。

 これはお代わりが必要でしょうか。


「マスター!

 ラザニアとペペロンチーノのお代わりと、カルボナーラをお願いしますわ。」


「はーい! 承知しました!」


 セシリア様がお代わりを頼んでくださいましたけれど…

 さすが男性なのでしょうか。

 もうぺろりとお皿が何も無い状態になっています。

 ああ…、パトリシア様まで平らげてしまいました。

 皆さん食欲旺盛ですね。

 あら、ラザニアがすぐに来ました。


「ラザニアはお二人ともお気に召したようですから、お二人で召し上がって下さい。

 私はペペロンチーノを食べますので。

 カルボナーラは三人で頂きましょう。」


「はい!」


 ラザニアのお代わりをパトリシア様と分けて頂きました。

 パトリシア様のあの至福な笑顔、マヤ様にも見せているかどうかですね。

 ラザニアって私にも作れるかしら…。

 この皮を作ればイスパル風ソースで何とか出来るかも!

 そうしたらパトリシア様にはラザニアさえ食べさせておけばご機嫌が取れる。

 うん、これだ。


「はーい! カルボナーラでっすぅぅぅぅ!」

(※本場の生クリームを使用しないカルボナーラをご参考に)


 あはは… テンション高いマスターですね。

 セシリア様に取り分けて頂きました。

 これがカルボナーラですか…。

 わあっ なにこれ。

 卵とチーズがとろっとして、ニンニクの香りと豚肉の…これは熟成させた(ほほ)(にく)

 脂身が口の中でとろけるぅ~ うぅ~ん


「はぁ はぁ はぁ」


「パトリシア様、どうなさいました?」


「危険ですわ…。ルクレツィアの料理は美味しすぎますの…。

 マカレーナへ帰れませんわ…。」


「ダメですよ。

 だったらマカレーナに何とかしてお店を作れませんか?」


「それもそうですわね…。うーん…

 それかビビアナに料理の勉強をさせましょうか…。」


 ええ~ 冗談半分で言ったのに本気で考えちゃってますよ。

 貴族様の財力ってすごいのね。

 セシリア様は静々とカルボナーラとペペロンチーノを召し上がっています。

 食べ方も美しいし、全く男性には見えませんね。


---


 そうして私たちはお腹いっぱいにパスタを食べることが出来て大満足でした。

 もう一日くらいセレスに滞在するかもしれないけれど、明日も食べたいなあ。

 マヤ様はまた探索に出かけられるのでしょうから、ご一緒は無理か…。

 残念です…。

 お会計で、セシリア様がまた全部お支払いになられました。

 私、こんなに甘えさせてもらっていいのかしら…。


「素敵なバンビーナ~

 こんなにたくさん私の料理を美味しく召し上がってもらって、ワタシとても嬉しいヨォ~!

 料理人冥利に尽きるわぁ~!」


「マスター、美味しい料理をありがとうございます。

 私、この前まで王宮で働いていたんですけれど、こんなに美味しい料理を作れる人なんてなかなかいませんよ。」


「おおー! そうだったんですかぁ!

 感激ですう! 自信がつきましたあ!!」


「マスター、この子達は王都からマカレーナへ帰る途中なんです。

 マスターの美味しい料理はこの子達の思い出になったと思いますよ。」


「あらあ! それは残念!

 またセレスへ寄られたときはいつでもこのお店に来てちょうだいネ~!」

 ありがとう~! グラッツェ! グラッツェ!」


「ああ! 愛しのパスタよ! またいつか会える日まで…」


 パトリシア様は何をおっしゃってるんでしょう…

 マスターは最後までテンション高かったなあ。

 ちょっと変だけど面白い人だった。うふふ

 いつかマヤ様と二人っきりで行けたらいいのになあ。


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