第百二十三話 お暇なルナちゃん
(今回は全てルナ視点です。)
今日はこのお屋敷のセシリア様がセレスの街を案内して下さるんですって。
マヤ様は魔物の探索に出かけてしまうので、ご一緒できないのが残念です…。
お出かけの時間まで、まだ余裕があります。
私がお借りしている部屋…、従者がこんなに素敵な部屋を使って良いのでしょうか。
いつも王宮でお部屋の掃除やシーツのセットをしていて、まるで職場に戻ったような感じで落ち着きません。
それで退屈なのでお掃除をと思ったのですが、このお屋敷の係はとても優秀のようで埃一つ落ちていなく、非の打ち所が無いんですよ。
はぁ~ することがありません…。
王宮に入ってからずっと修行と仕事一筋で、遊ぶという感覚を私は持ち合わせていません。
お休みの日に時々フローラちゃんたちと買い物へ出かけることはあったけれど、四人揃ってどころか二人一緒に休める機会もなかなか無くて、私一人だけが休みの日はお買い物も一人だけで、本当につまらなかったです。
食べ物やお金の心配が無かったから、王宮で働けたことには感謝していますよ。
それでマヤ様と出会い、マヤ様の従者となってかなり自由に動けるという話ですから、私に運が向いてきたのかなと思いました。
もっとも、王宮を出発して旅の三日目ですから実感が湧きませんけれど…。
コンコン
「はい!」
あら、こちらの給仕さんかしら。もうお掃除に入りに来たのかな。
「失礼します。
ベッドのシーツとタオルを取り替えに参りました。」
ふわふわとして可愛らしい、私と同じくらいの歳の給仕さんが来ました。
でも…、私より一回り胸が大きそう…。
「シーツを換えるのは自分でやります。
そこへ置いてくれますか?」
「あ、あの…ルナ様はお客様ですから、そういうわけには…。」
「私も給仕係ですからそのくらい出来ますし、今は暇でしょうがないんですよ。」
「えっと…じゃあ、二人で一緒にやるのはどうでしょう?
その方が早いですし、元々王宮の給仕さんと伺いましたからお手本を見せて頂きたいです…。」
う… こんなに完璧にベッドメイキングをしてあって、私より上手いんじゃないかと思うのですが…。
ヘマをしたら恥ずかしい…。
「あのぅ、あなたのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「はい、ロレンサと申します。」
「それではロレンサさん、よろしくお願いします。」
二人で協力して作業をすることにしました。
まず掛け布団のシーツ剥がし、枕カバーを外します。
それからベッドのシーツを剥がします。
これだけだったら一人でも楽勝です。
ベッドへシーツの取り付け。
一人だと重労働で、ベッドが特別に大きいから尚更です。
シーツはちゃんと裏表があって、際の縫い目があるほうが裏ですね。
折り目の位置をベッドの真ん中に合わせて、シーツに空気を入れながら引っ張って広げて、マットレスを包み込むようにベッドの下へ挟み込みます。
ここら辺を二人でやると楽なんですよね。
枕カバーを着けます。
袋状になっているので、枕の端がきちんとカバーの隅まで入るように気を付けます。
それで枕を定位置に置きます。
掛け布団のシーツも袋状になっていて、掛け布団の端がちゃんとシーツの隅にまで入っているか気を付けて、掛け布団をシーツのラインに沿うように入れます。
出来たら、ベッドの上にふわっと掛け布団を置きます。
あとはフットスロー(外国では土足でベッドへ寝転ぶ習慣がある場合があり、その足置き場にする帯状の布。日本では実質ファッション。)を掛け布団の上に掛けて完成。
ふぅ~ さすがに二人でやると早いわね。
ロレンサさん、ボーッとした感じの子なのに作業が完璧でびっくり。
そう言えば雰囲気がフローラちゃんと似ている。
「すごいわロレンサさん。
私よりお上手ね。王宮の給仕係も出来そうよ。」
「いえ… 私はお掃除やお洗濯だけが得意で、他は苦手なんです。
お茶は入れても美味しくないし…。」
「そうだ! 今、お茶を一緒に飲みましょう!
私が入れますから。」
「あ…いけません。給仕長に怒られてしまいます…。」
「二人で作業した分、少し時間を得したでしょ。
すぐだから大丈夫よ。」
私は王宮から餞別として頂いた魔道具のケトルであっという間にお湯を沸かし、部屋に備え付けてあったティーカップにお湯を注いでカップを温める。
お湯をいったん捨てて、再びお湯を入れて持参のカモミールのティーバッグを入れ、蓋をする。
一分半を過ぎたらティーバッグを引き上げ、雫を切って出来上がりっと。
「さあ、ロレンサさん。どうぞ。」
「そ、それでは頂きます…。ゴク…
…お、美味しいです!
ティーバッグなのにどうしてこんなに味がしっかりしてるんでしょう。」
「ちゃんと入れ方がありますから、今私がやったとおりに出来ればどうってことないですよ。」
「さすが王宮の教育ですね。
うちの給仕長は厳しいばかりで、見て覚えなさいとか言われてきちんと教えてくれないんです…。」
「それは良くないわね。
教育は大事よ。それでも王宮での勉強は、それはそれで厳しかったわ。」
まだまともにお金を貰えていない王宮の奉公時代…、嫌なことを思い出しちゃった。
その時があったから今の私があるわけなんだけれど、もう二度とごめんだわ。
「ルナさん…、素敵。それに可愛いし。」
「え、あの…、ありがとうございます…。」
突然なんだろう?
可愛い子に可愛いと言われるなんてちょっと嬉しいけれど。
「ルナさんはマヤ様の従者ですよね?
あああ~ 羨ましいです。」
「ええ、マヤ様は素晴らしい方です。でもエッチ…いえ何でもありません。」
「マヤ様はエッチ… うふふ…存じております。」
え? え? どうしてロレンサさんが知ってるの?
マヤ様と何かあったの? あわわわわ
「それよりあの… ルナさん。私たちお友達になりませんか?
私、あまりお友達がいなくて寂しいんです。
時々マカレーナへお手紙出しますから。」
あらら マヤ様がエッチなことをはぐらかされちゃった。
友達かあ。距離があってあまり会えないと余計に寂しくならないかな。
「それはかまいませんよ。
私もあまりたくさん友達がいないから…。えへへ
でもいいんですか?
遠いからお手紙ばかりになるけれど…。」
「セシリア様も、マヤ様にたくさんお手紙を書かれているんですよ。
マヤ様に対する熱いお気持ちがよくわかりますわ。」
「ああ… 私にはそんなに熱くなくても…普通でいいですよ…あはは」
斯くして、ロレンサさんと私は友達になりました。
彼女、マヤ様のことを何か知ってるのかしら?
マヤ様に聞いてもはぐらかされそう…。
でも主人のプライベートを暴くのは良くないわ。
悪い子ではなさそうだし…、そうね。
マヤ様のことだからこちらから聞かなくとも、きっとボロを出すでしょう。うふふ
「ああああいけません! 給仕長に怒られてしまいますう!
それではルナさん! 失礼します!」
うふふ。あの子、ちょっと要領が良くなさそうだし、エッチがどうかなんて心配ないわよね。