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第百十七話 セレスへ再び

2023.11.24 軽微な修正を行いました。

 峠道に現れた破滅の女神アーテルシアが去り、再びセレスへ向かっている馬車の中。

 セレスへ到着するまで、事情をよく知らないヴェロニカとルナちゃんに説明することと、今後のことについて皆と話し合った。


「さっきの黒服の女が破滅の神と言っていたが……

 まさか神が本当にいて、マヤが女神サリ様の使いだったとは……」


「あーいや、そんな大層なものじゃないし自覚も無い。

 女王陛下やシルビアさんにはもう言ってあるんだよ」


「え? 母上にも!? いつのまに?」


「それは…… 個人的な会談があってね。その時に」


 やばいやばい。

 二人ともベッドの上か私室で話したはずだ。

 あの関係は墓場まで持っていかないといろいろ人間関係が崩壊してしまう。


「うう…… マヤ様…… それより大丈夫ですか?

 あいつに何かされてるようでしたが……

 怖いです…… ぅぅぅ……」


 ルナちゃんは私にしがみ付きながらそう言った。


「大丈夫だよ。ここで死んでたまるか」


 彼女は私の正体がどうかよりも、恐怖と不安のほうが大きいようだ。

 そうか…… 

 ルナちゃんの家族は三年前、魔物に殺されてしまったんだ。

 その敵である魔物の親分が、さっき目の前にいたということになる。

 神相手だから完全には倒せるかわからないが、もう魔物を出させないように()らしめないといけない。

 

 一気に世界が滅ぶのではなく、何十年もじわじわと魔物が現れては嫌がらせのように襲ってくるのは、あのアーテルシアが陰湿な性格なのだろう。

 私は勿論、皆も強くならなければいけない。

 気の長いことになりそうだが、そういうことも馬車の中の六人で話した。


「マヤ様、私も魔法をもっと勉強してサポートしますわ!」


「ありがとう、パティ。

 魔法の修行となると、魔法が使えるみんなでアスモディアへ行く必要があるね」


「ねぇぇ どうしてもあのババアのところへ行くの?」


「この前、アスモディアへいらっしゃいと言ってたでしょ。

 前回もその前もそんなに悪い印象は無かったよ。

 エリカさんが修行していた時と少し変わったんじゃないの?」


「何百年も生きている魔女がそんな急に……

 それに私でも八年かかって修行をしたんだから、ちょっとやそっとやってもどうにならないと思うよ」


 エリカさんはよほど魔女のところへ行きたくないんだろうけれど、アーテルシアを退治する何らかの鍵があると思う。

 確かに、にわか勉強では意味が無い。

 アーテルシアの弱点を見つけ、それに対する魔法を集中的に強化する方法しかないのだが、そんなことが上手くいくのだろうか。

 そもそもアスモディアへ行く前にもう一度アーテルシアと遭遇しなければならず、その時どうやって弱点を見つけるのか雲を掴むような話だ。


 ぱんつとお尻を見られて、泣いて退散したのも弱点なのか?

 それにつけ込むのも作戦と力が必要だし、周りに女の子がいたらドン引きされるだろう。


 剣術においても、ローサさんが修行していたヒノモトの国へ行かねばならないだろう。

 それにはオイゲンさんとテオドールさんに頼んでいる飛行機が完成してからだ。

 時間が掛かるが、その間にアーテルシアによる被害が広がらなければ良いが。

 マカレーナへ帰ったら侯爵も交えて作戦会議だ。


---


 それから順調に進み、アーテルシアの一件についてはそれほど長い足止めにはならなかったので、予定通りお昼過ぎにセレスへ到着した。

 いきなりラミレス侯爵家へお邪魔しても迷惑なので、食事をしてから向かうことにした。


 セレスの市街地内にある【ミラドール・デ・ガザ】という大きめな大衆食堂へ入ってみた。

 百人以上は余裕で座れるお店で、お昼時は過ぎていたが家族連れもあって大変賑わっていた。

 何だか日本のファミレスを思い出すなあ。


 ヴェロニカがまとめて頼んでくれるのはいいが、肉料理ばかり頼んでいたからエスカリパーダという茄子やパプリカ、玉ねぎなどを使った焼き野菜料理、トマトと茄子のニンニク煮込み野菜料理も頼み、皆にも好評だった。

 それにしても肉、肉、肉。

 体育会系女子が二人いて、周りを気にせず遠慮が無いからとんでもない食欲だ。

 パティもいつものようにガツガツ食べてるから、私たちのグループは周りの客にジロジロ見られているような気がする。

 彼らはこんな場所にまさか自分の国の王女がいるなんて思いもしていないだろう。

 エリカさんは相変わらず貴族令嬢らしく静々と、ルナちゃんも普通に行儀良く食べているけれど、ヴェロニカやパティみたいな高貴な女性の豪快な食べっぷりにびっくりしていた。


 会計はまたヴェロニカがみんな払ってくれた。

 ファミレスだから銀貨一枚と銅貨数枚だったけれど、身分が一番上なのを自覚してか気前が良い。

 ここでも釣りはいらんと言っていたが、会計係の人はあまり勝手な判断は出来ないということなので、ヴェロニカは少々不満げだったがここは素直にと私が横から言ったので、退いてくれた。

 そして店から出ると……


『そろそろ俺にも何か食わしてくれよ』


 忘れてた。

 セルギウスを邪魔にならない場所で路駐させたまま、馬車の番をさせていた。

 移動するのも何なので、お腹いっぱいのみんなには馬車の中で休んでもらって、私は積んでいたリンゴなどを次々とセルギウスの口に放り込んだ。


『ああうめぇぇ やっぱリンゴはいつ食ってもうめぇなあ!』


 セルギウスが大きな声でそんなことを言うもんだから、ファミレスに出入りしている客がびっくりしていた。

 そのうち店長みたいな髭のおっさんが出てきて、そんなところで商売の邪魔だと怒られてしまった。

 すみません…… でも店長さん、喋る馬にはびっくりしないの?


---


 時間の頃合いがいいので、私たちはラミレス侯爵家へ向かった。

 五分も掛からない、目と鼻の先である。

 門番にも話が行っているようで、私の顔も覚えてくれていたからあっさり入れた。

 馬車を預けてからセルギウスにはアスモディアへ帰ってもらう。


 お屋敷の戸が案内で先導した門番によって開けられると、覚えがあるメイドさんが二人。

 アナベルさんとロレンサさんだ!

 二人にはお風呂での「おもてなし」でいろいろ洗ってもらったもんなあ。むひひ


「マヤ様! お久しぶりでございます!」


「まままマヤ様! こんなに早く再会出来るなんて感激です!」


 二人に熱く両手を握られる。

 それを見たパティとルナちゃんは私をジト目で見る。


「マヤ様…… 私が知らないところで何をされてたんでしょうか?」


 パティがゾッとするような口調で問い詰める。怖い……

 何をされていたかというと、二人が全裸で私の身体をシャコシャコ丁寧に洗ってもらって、ロレンサさんの胸が背中にぺったんぺったん当たって、アナベルさんが滑ってぱっくり開いてしまったのを見ちゃったんです、はい。


「ああっ 失礼しました!

 皆様、応接室までご案内しますので……」


 私たち六人はアナベルさんに付いていって、応接室まで移動する。

 私が三人掛けの席の真ん中で、右にはドカッとヴェロニカが脚を組んで座り、左にはパティがちょこんと座る。

 何気に上座下座の順になっていてちょっと可笑しかった。

 エリカさんはヴェロニカの奥にある横の席に座り、従者組のエルミラさんとルナちゃんは私たちの後ろで立って控えている。


 ロレンサさんがラミレス侯爵を呼びに行っている間、アナベルさんがお茶を出してくれている。

 ルナちゃんたちにも勧められたが、公式の場ということで従者の立場を(わきま)え、断っていた。

 そして待つこと十分……

 ラミレス侯、ロドリゴさん、セシリアさんが現れた。

 呼びに行ったロレンサさんもお付きとして、アナベルさんと部屋の脇に控えている。


「おお、マヤ殿。久しぶりだな。王都からご苦労だった。

 そうか、モーリ男爵になったんだったな」


「ラミレス侯、ご無沙汰しております。

 マヤでかまいませんよ」


「マヤ様……」


 セシリアさんが緊張してか、顔を赤くして照れている様子だ。

 毎度もらう手紙の熱の入れようはすごかったが、いざ会う時は緊張しすぎて言葉が出ないというやつだな。わかるよ、うん。


「セシリアさん、元気そうだね」


 セシリアさんは余計に緊張してますます顔が赤くなり、言葉が出ないようだ。


「ラミレス侯爵、セシリア様。

 お初にお目にかかります。

 私はレイナルド・ガルシアの娘、パトリシア・ガルシアと申します」


 パティはカーテシーで挨拶をした。

 美しいカーテシーの姿を見ていると、さっきまで肉を大食らいしていたとは思えない。


「君がガルシア侯の娘さんか!

 実は君がもっと小さな頃に会っているんだよ。

 もう十年以上前になるかなあ。

 こんなに綺麗になって、立派なレディになったもんだなあ。ハッハッハッ」


「恐れ入ります」


「それで…、そこの従者のお嬢さんはなんだね? 不躾(ぶしつけ)に思うが」


「あ…… いや、彼女は……」


 しまった! ヴェロニカが付いてくるのは突発だったから手紙にはヴェロニカのことを書いていなかった!

 いや突発じゃないんだが、何故か私だけ知らなかったんだよ。


「ラミレス侯、私の顔を見忘れたか。(うつ)け者が。

 去年、王宮で会ったばかりではないか」


「なにぃ? 王宮? ……は ……は ……ははは」


 ラミレス侯爵の手と声が震えている。

 どうやら気づいてしまったようだ。悪いことしたな…

 それにしてもヴェロニカのはどこかで聞いたようなセリフだな。

 暴れん坊して成敗するんじゃないぞ!


「姫さまあぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 ラミレス侯爵は華麗にジャンピング土下座し、セシリアさんもつられて土下座した。

 あーぁ……


「王女殿下とはつゆ知らず、平に! 平にご容赦ををををを!!」


 ラミレス侯爵が額を床に擦りつけ、薄い頭が目立って少々惨めだ。

 そろそろ許してあげてくれないかな。

 元々真面目そうな人だし……


「もう良い。貴様の土下座を見に来たのではない。(おもて)を上げよ」


「ははっ」


 ラミレス侯爵とセシリアさんは顔を上げた。

 最初に会った時のヴェロニカだったら悪態をついたかもしれないが、今のヴェロニカは素直でだいぶん丸くなったと思う。

 特にエルミラさんと友達になれたことは、彼女にとってすごく影響があったのだろう。

 これでもっとおしとやかになってくれたらなあ。


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