第百十六話 破滅の神アーテルシア
2023.11.22 軽微な修正を行いました。
マカレーナへ帰る旅の二日目。
朝になって目が覚めると、元気な分身君はエリカさんに遊ばれていた。
ますます性欲が強くなっているのではなかろうか。
朝食を取るために宿の食堂へ降りたら、ルナちゃんとパティも丁度一緒に降りてきた。
パティは何だか恥ずかしげにもじもじとしている様子。
ルナちゃんはまさかパティにまで、私と同様のお着替えや身体を洗う手伝いをしたのではなかろうか。
パティの髪の毛はいつもより綺麗にセットされている。
間違いなくルナちゃんがやったんだろう。
二人が良い関係になってくれればいいんだが。
宿をチェックアウトし、馬車置き場前でセルギウスを呼んで馬車に繋げる。
エリカさんはセキュリティ魔法を外す。
おかげで馬車も荷物も無事だ。
掛けた者以外が触ろうとすると電気みたいな痺れが来るそうだ。
勿論そのことは前もって宿に言っている。
だが、馬車を置き場から出した時、奥にコソドロっぽい風貌の男が倒れていた。
死んでいないようなので、縄で縛って宿のおっちゃんに街の騎士団へ突き出すように言っておいた。
今日の目的地は、ラミレス侯爵が収めている領地の中心都市、セレス。
ナバルからは百二十キロほどなので、セルギウスの脚ならばお昼過ぎには着くだろう。
セシリアさん宛てには叙爵式が終了した時に手紙を出しており、返事まで来ていたので相変わらずズラズラと長い文章で自分の気持ちを表し、今か今かと待ち受けているようだ。
一時間ほど走り、平野部から山間部へ入り、緩い峠道でスピードを落として進んでいるときだった。
他の馬車や人の通りは無い、寂しい道だ。
そこでセルギウスは停まる。
『おい! 強い魔力が急にここへ湧いてくるようだぞ!』
セルギウスが叫ぶので私は外へ出た。
近づいているのではない。湧いてくるのだ。
「これは…… どこかで感じたことがあるこの波動……
デモンズゲート!?」
エンデルーシアの北の山で、デモンズゲートが発生した時と同じ感覚だ!
その時はブラックボールが出てきて、エリカさんの身体に穴を開けた。
ヴェロニカも慌てて外へ出てきた。
「マヤ! どうした!?」
「ヴェロニカ! 飛びきり危険なやつだ!
守り切れないから馬車の中に居てくれ!!」
「え!? あぁ……」
私があまりに強い言い方だったものだから、ヴェロニカはびっくりして馬車の中へ戻った。
代わりにエリカさんが出てきた。
エリカさんが着ている服は女神装備のはずだから大丈夫だろう。
「デモンズゲートだって!?
確かにこの感じ…… まずいわ!」
エリカさんは精神を集中し、魔力の出力が上がっているので何か魔法を掛けているようだ。
「強力な魔法障壁と圧力障壁を掛けておいたわ。
これで何とかなるならいいけれど……」
見た目は何も見えないが、セルギウスや私たちの正面に、魔力と物理的な壁の二重障壁が出来上がっている。
それでもエリカさんは自信が無さそうだ。
『気を付けろ おまえら!
次元の割れ目みたいなものが出てきた!』
何も無いところに黒い穴が突然現れ、それが広がって人が一人通れるような縦に長い穴が出来上がった。
間違いなくデモンズゲートである。
馬車の中を覗く。
ルナちゃんは怖くて座席でブルブルうずくまっており、他の三人は前の窓から覗いている。
「パティはルナちゃんを、エルミラさんはヴェロニカを守って欲しい。
パティとエルミラさんの服は特殊なんだ」
「はいっ わかりました!」
「わかった!」
パティとエルミラさんが返事をする。
ヴェロニカが服について気になっているようだ。
「君たちは一体……!?」
「ヴェロニカ、また後で話すよ。
デモンズゲートから何か出てくる!」
馬車の前に戻ると、デモンズゲートの奥から誰か一人歩いて来ている。
デモンズゲートの中がどういうことになっているのかわからないが、音を立てずにだんだんとこちらへ向かってくる感じだ。
なんと、セルギウスとあろうものが震えている。
『まずい…… 桁違いの強さだ。
逃げる隙が無い。勿論戦って勝つのは到底無理だ……』
「はわわわわ…… 魔族でもあんなのは知らない……
お師匠様の全開パワーは私もよく知らないが、この前のお師匠様より強いわ」
魔女アモールより強いのか!?
確かに先日の魔女は全開パワーではないだろうが、結界を張ったときはとんでもない魔力を放っていた。
あれより強いのか?
デモンズゲートから見えた人影が、私たちがいる地へ降り立った。
漆黒のドレスに、真っ黒の前髪パッツンロングヘアー、血色が悪そうに見えるほどの白い顔、目つきがきついがとても美しい顔の女性だ。
見た目は二十歳前後だろうか。
背丈よりも長い、死神の鎌を杖のように持っている。
おっ パックリ開いたドレスの胸元から見える谷間からすると、Eカップ以上はありそう。
こんな相手にも邪な目線で見る私だった。
『見つけた…… ふふふ……』
「あ…… あなたは…… 何者?」
エリカさんは恐る恐る尋ねたが、黒服の美女は聞いちゃいない。
美女はジロッと私を睨みながら嘲笑する。
『おまえか? 次々と私の僕を倒し、ゲートを塞いでいるのは』
「俺がそうだが、それがどうかしたのか?」
『そう、おまえか…… ふふふ。
私は破滅の神、アーテルシア』
「神だって!? この世界へ何の目的で!?」
『私の暇つぶし…… いや、趣味だ。
生かさず殺さず…… 面白いから楽しむだけ……
ああ、死んでしまったのもいたな……』
「趣味や暇つぶしで人々を恐怖に曝されてたまるか!」
アーテルシア…どこかで聞いたような。
そうか、ギリシャ神話の神々にアーテという狂気や愚考を司る女神がいたはず。
その名前に似ている。
『おまえの名はなんだ?』
「俺は……」
「名前を言っちゃダメ!!」
エリカさんが止めた。
そういえば、名前を言うと敵に支配されてしまう可能性がある設定が、アニメを見ていたらあったのを思い出した。
『おまえの意思など関係ない。それっ』
アーテルシアは鎌を振り回すと、私の口が麻痺したように自由が利かなくなってしまった。
息をするのも苦しい。
「がっ ぐああああ!
お、俺の名は…… マヤ…… マヤ・モーリだ…… グギギギギ……」
『ほう、マヤ・モーリとな』
「ぐっ はぁ はぁ はぁ……」
名前を言ったら楽になった…。
本当に苦しくて死ぬかと思ったよ。
私自身も「生かさず殺さず」に嵌められたということか…。
エリカさんの魔力障壁が全然効かなかったぞ。
『わかったか。その気になればおまえなどいつでも始末できる。
だがそれでは興が冷める。ふっふっふ』
「く…… どうしたらそんなことをやめてくれるんだ?」
『ならばもっと強くなってみればいい。
サリの力があるんだろう?』
「サリ様を知ってるのか!?」
『神だから知っていて当然だろう?
ああ、向こうは私のことを知らないかもしれないがな。
まあいい。今日はおまえの顔を見に来ただけだ。
趣味だからな。いつもこの世界を覗いているわけではない。
私はこれで帰るが…… 次はいつになるかな。
楽しみにしているぞ……』
アーテルシアは一方的に喋って、デモンズゲートのほうへ歩いていった。
「あっ」
『ヒヒヒーーン!! エリカのバカ!』
エリカさんが一声を出すと、圧力障壁の魔法【エアーコンプレッションウォール】が解けてしまい、アーテルシアのほうへ強風が吹いてしまった。
このパターンはいつかのマカレーナ女学院であったぞ!
アーテルシアのスカートが捲れてしまい、しかもあっさり前へコケてしまった。
その姿は女神サリ様がコケてぱんつ丸出しになった時と同じ!
うつ伏せでお尻だけ突き上がった姿勢になり、黒いTバックと真っ白なお尻、真っ白な太股が晒されている。
むしゃぶりつきたくなるような綺麗なお尻…… すごくエッチだ。
アーテルシアも下界へ降りてぱんつを買いに行っているのか?
「おいおいおい!
なんでこのタイミングで圧力障壁を解除するの!?
バカなの?
ぶっ殺されちゃうかもしれないよ!?」
「い、いやあ……
怖くておしっこちびっちゃいそうだったから、気が抜けて……」
「はぁ……」
『ぐ、ぐぬぬぬ……』
アーテルシアは上半身を起こして振り返ると、強烈な眼光で私たちを睨んだ。
もしかして今日は世界の終わりの火になるかも知れなくなるのを覚悟した。
「「ひぃぃぃぃぃぃ!!」」
『お、覚えていろよ! うぇぇぇぇぇぇん!!』
あれ? あれれれれ?
アーテルシアは泣きながら走ってデモンズゲートへ入って帰っちゃった……
なんだこれ?
アーテルシアが闇の中へ消えると、デモンズゲートはシュルシュルと小さくなって消えた。
「ふうぅぅぅ 助かった……
一時はどうなるかと思ったわ」
「次どうすんの! 絶対仕返しに来るぞ!」
「もうなるようになれよ!
ぱんつ見られて泣くようじゃ、すぐに大量虐殺するようなことはしないでしょう。たぶん……」
なるようになれと無責任なことを言うエリカさん。
おしっこチビってもいいから魔法解除するなって言ったらキレてしまいそうだが。
「だけどこれで魔物とデモンズゲートが発生する根源がはっきりした。
目的はアーテルシアを退治することだ。
どうやって退治するかは追々考えるが……
サリ様やアモールの知恵を借りることになりそうだ」
「えぇぇ やっぱりアスモディアへ行かないといけないの?
嫌だなぁ……」
こうしてエリカさんと二人で話し合っているが、埒が明かない。
馬車の中にいる四人にも説明が必要だし、道を進みながら馬車で話をしよう。
(女神サリ視点)
え? え? ちょっと待って!?
何か様子がおかしいから久しぶりに覗いてみたけれど、何あのアーテルシアって?
知らないわよあんな神。
なのになんで私のことを知ってるの?
気持ち悪いわ……
でもやっとマヤさんにやってもらう目的がはっきりしたわ!
確かにマヤさんの今の力でも抑えつけることは無理ね……
神のいたずら…… にしては悪質だし、神が相手なら私も動かないといけない。
神の年齢なら、七十年も前から歪みが出てきたのも納得できる……
それにしても…… ぷふーっ
神が転んでエロいぱんつ丸出しって笑っちゃうわね。あっはっはっ
ハッ!? それって私じゃん!