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第十二話 魔法使いエリカ

2023.10.16 加筆修正しました。

2025.8.9 一部加筆しました。

 ある日の午後、前にスサナさんと行った西の街へ一人で散策しに行ってみた。

 小腹が空いてきたのでふらっと酒場に入ってみたが、時間が早いのか客は少なめだ。

 隅のテーブルで、いかにも魔法使いのようなとんがり帽子を被った若い女が座っている。

 腰まで伸びる長い髪の毛、先はくせ毛、そして燃えるような赤い色がとても目立つ美人だ。

 胸元が大きく開いた上着から、堂々と胸の谷間が覗いていた。

 この国は服の胸元を開けている女性が多いが、私はどうしてもそこへ目が行ってしまうんだよなあ。

 歳は二十代半ばだろうか。

 片膝を立てた態度が悪い座り方をしているので、ミニスカからセクシーな太股の裏と黒いぱんつが丸見えである。

 あのぱんつ、ちょっと透けててヤバくないか?

 彼女はふてくされている表情をして、一人でやけ酒をしているように見えた。

 絡まれると面倒くさそうだからすぐに目をそらし、彼女と離れた席に着いた。

 屋敷へ帰ったら夕食があるので、店のおばちゃんにビールとつまみだけを頼む。

 こっちにも枝豆があるんだ。好物なんだよなあ。

 ビールはフルーティーな味だが、日本と同じようにそれで一杯やれるなんて最高に有り難い。


 あっ さっきの女が私に気づいたのか?

 ジロっと私に視線を向けて席から急に立ち上がり、ズカズカとこっちへやって来た。

 うわぁぁ…… 嫌だなあ。


「ちょっとあんた! ナニ私をジロジロ見てたのさ!」


「ああ…… いやその」


 やだ怖い。

 泥酔おっさんはともかく、酔っ払い女に絡まれるのは日本から数えても人生初めてだよ。


「絶対に私のぱんつを見てたよね!?

 まったく男ったら、私を嫌らしい目で見るやつばかり。

 いくら私がセクシーだからって限度があるわ!」


 このお姉さん、セクシーなのは事実なんだけれど、自分で言っちゃうのか。

 余程たくさんの男に嫌らしい目で見られたのか知らないが、今のパンチラは無防備すぎるから視界に入りやすいし、普通ならギョッと見てしまう。

 むしろヤバい人に見えたから、子供がママに見ちゃいけませんって怒られるような雰囲気だ。


「まあ…… 悪かったよ」


「ふんっ そんなことよりさあ。

 さっきあんた【魅了】の魔法を使ったでしょ。

 闇属性魔法なんて使える人は滅多にいないのに、いったい何者なの?」


 怒ってたくせに、ぱんつ見られたことがそんなことで済むのかよ。

 言ってることがめちゃくちゃだな。

 それで魅了? 闇属性魔法? 俺が? はあ?


「いや、魅了の魔法なんて知らないし、闇属性どころか魔法すら使えないんですが」


「そんなはずないわ。私は闇属性魔法が使える。

 あんたが発動した軽い魅了魔法を感知して、私の方が魔力が強いから(はじ)いたんだよ。

 だから私には効かない。何なのあんた?」


「そう言われてもなあ……」


「じゃあ両手を出しなさい。私が魔法で見るから」


「ええ? 何でだよ!」


「つべこべ言わずに早く!」


 面倒なことに巻き込まれてしまったな……

 私は渋々と両手の平を差し出す

 うーん…… アマリアさんやマルセリナ様と同じ術を使うのか。

 彼女は私の手を握り、念じ始めた。

 またエッチなことを考えているのを読まれなければいいが……


 二、三分してから術が終わる。

 すると彼女は興奮し、目をキラキラさせながら私に顔を近づけ、話しかける。

 初対面でそんなに顔を近づけるな。あと酒臭い。


「すごいわ! あんた本当に何なの?

 今は確かに魔法は使えなさそうだけれど、ずっと奥底にとても大きな魔力を感じる! 

 底に大きな袋があって、袋の口が開きかけて漏れてるような……」


「え? あっ ああ……」


 アマリアさんと似たようなことを言ってるが、やはりそうなのか。

 私は何も言えず、固まってしまう。


「私の名前はロハス男爵家の長女、エリカ・ロハス。

 討伐隊エストラダの魔法使いで、闇と光、水と風、召喚の魔法が使えるわ。よろしくね!」


 出会って数分なのに、いきなり自己紹介をしてきた。

 そのアピールは何だが若い男に目をつけたお局様のような空気を感じ、身震いする。

 胸はEカップぐらいあるし、もっと若い男にもウケそうだと思うがそういう目でしか見られなかったんだろうな。

 そんなお姉さんが貴族とは意外だった。

 私は平民だから、一応言葉遣いには気をつけておこう。


「私はマヤ・モーリと申します。

 旅をしていて、今はガルシア侯爵のお屋敷にてお世話になっております」


 しまった!

 怪しい女相手に住処をバカ正直に喋るんじゃなかったと、直後に思った。


「なんですって!

 あっ 確かにその胸の徽章(きしょう)はガルシア家の紋章だね!

 そう、アマリアさんのところで…… へぇ~ 奇遇ね」


「アマリア様をご存じなのですか?」


「アマリアさんとは歳が違うけれど、私が飛び級だったから学校の同期だったの。

 彼女も成績優秀な魔法使いだったから、昔はよく競り合ったものだわ。

 懐かしいねえ~」


 なんとまあ、世間は狭いってこのことだね。

 アマリアさんとライバルで、アニメによくあるエピソードで二人とも目をバチバチさせながら魔法をぶっ放してたんだろうか。

 なんと恐ろしい。


「それで私から魅了の魔法が出たとして、きっかけとか原因……

 それから発動したタイミングで何か思いつくことってあるんですか?」


「そうね……

 闇属性の蓋が開いて魔力が漏れて魔法を使う燃料があるのはいいとして、それでなぜ発動したのかその時の条件は………

 ああそうだ! 魅了が発動した時に私の胸とぱんつを見ていたでしょ!

 それでエッチなことを考えていたから闇魔法の紐が解けて無意識に発動したんだわ!」


「えっ えええ?

 なんでエッチなことを考えて闇魔法なのか、意味がわからないんだけど……」


 むっつりスケベな妄想が魅了の魔法を発動させたんだって?

 そんな無意識に出来るものなのか?

 そもそも魅了の術式なんて勉強した覚えが無いし……

 あっ サリ様が何かのきっかけで力が一つ一つ解放されると言っていたな。

 ということは、前々世以前から俺の頭の中に魅了の魔法が元々刻み込まれていたということか?

 それでエリカさんのパンチラがきっかけで魔法が勝手に発動したと。

 いや、エリカさんは魔法を(はじ)いて掛からなかったけれど、その前にエッチな出来事といえばアマリアさんとのことが!

 あれも俺のせいだって?


「そうか…… それでアマリアさんの様子が変だったのか……」


 おっと、また口を滑らせてしまった。

 あの情事のことはアマリアさんの名誉のために黙っておかなければ。


「えっ? なになに?

 アッハッハッハッ やっぱりあんたアマリアさんにも魅了を掛けてたんだ!

 ぷー! 可笑し過ぎて腹が痛いわ! アッハッハッハッ」


 笑いすぎだろ……

 でもアマリアさんのぱ◯ぱ◯は最高に幸せだったな。


「ふぅ…… あの人はおっぱいがすごく大きいからねえ。

 あんたが興奮するのも無理ないわ。

 どれ、もう一回ぱんつ見てみる?」


 エリカさんは突然スカートをバッと(めく)った。

 さっきは遠くて、レースで半分透けてる黒のぱんつが目の前に。

 しゅ…… しゅごい。なんか見えてしまった……

 だがすぐ隠されてしまった。残念。


「はっはっは、やっぱり魅了の魔法が発動されたよ。

 でもね、本当の魅了はこんなものじゃない。

 完全に精神支配して虜に出来るんだよ。

 元々は魔族のインキュバスやサキュバスが使う魔法なんだ。

 あんたの魅了ではちょっと発情するくらいで、後にも残らないし相手の精神に害は無いと思うよ。

 なんだったら私にかけられてみるかい?」


「遠慮しておきます……」


 発情か……

 アマリアさんとのことを思い出すと…… うへへ。

 待てよ。パティと最初に出会った時にも魅了がかかっていないだろうか?

 そういえば馬車の中で鏡を見ていた時、彼女の様子が少し変だった。

 あれも魅了だったのか?

 ならば俺は十二歳の子にドキドキして、無意識に魅了を掛けていた……

 魅了が発動したきっかけがパティの成長著しい容姿だったとすれば、俺自身が想像以上にむっつりスケベだということを自覚すべきなのか。


「またエッチなことを考えていたでしょ。

 いつまでもそれでは問題だから、ちょっとおでこを出してくれるかな」


 え…… 今の妄想でも魅了が発動していたのか。俺って……

 私は言われるとおりにして、エリカさんは自分の手を私のおでこに当てた。


「ちょっと細工をしてみたけれど、これで勝手に魅了が発動しなくなると思うわ。

 でもあんたは面白い! すごく興味を持ったよ!」


「いやぁははは……」


 彼女はベタベタと腕を絡ませしつこそうだったので、お屋敷に早く帰らなければいけないという理由をつけて、酒場を出たらそのまま帰った。

 はぁ…… 思わぬトラブルに出遭ったけれど、現在の私のことが少しわかったのは収穫だった。


---


 お屋敷へ帰って玄関へ入ろうとしたら、後から馬車がやって来る。

 パティもちょうど学校から帰って来たところだった。


「やあパティ、おかえりなさい」


「あら! マヤ様もお出かけだったのですか?」


「うん、ちょっと街へ散策にね」


 彼女が馬車から降りた途端に私の方へ駆け寄り、腕を絡ませてくっついてきた。

 あれ? エッチなことは考えていないし、もう魅了は発動しないんじゃなかったの?

 それよりそんなにくっついたら柔らかい感触が……


「クンクン…… ちょっと女の人のニオイがするんですけれど……」


「え? ああ…… 

 酔っ払いの変な女の人に絡まれただけだから、何もないよ」


「へぇー そうなんですか? ふーん」


 パティはジト目で私を疑っている。

 この子は案外焼き餅焼きなのだな。

 一夫多妻制が認められていると言われたが、彼女自身はそうしたくないのではないか。


---


 あれから数日後の朝。

 ガルシア家の皆と朝食を取っている時に、門番からフェルナンドさんへ報告があったらしい。


「お食事中に失礼ですが、緊急の報告がございます。

 先ほど馬車に乗ってやって来た貴族の女性が『頼もう』と申し、旦那様と奥様に取り次いで欲しいということです。

 名はエリカ・ロハスと」


「エリカですって!? あの子……」


「エリカ・ロハスといえば、ロハス男爵令嬢で君と同級生の有名な魔法使いじゃないか。

 一体どうしたんだ?」


「旦那様、奥様。まずお話を聞いてみてはいかがでしょうか」


「いいわ。ここでかまわないから呼んできてちょうだい」


「かしこまりました、奥様」


 フェルナンドさんはエリカさんを呼びに行ってしまった。

あわわ、どうしよう。

 うっかり私の住処を喋ったから本当に来ちゃったよ……

 

「マヤ様、昨日は何かあったんですか?」


 パティがジト目で見つめてくる。

 浮気に不信感を持ってる嫁のようだ。

 しばらくするとフェルナンドさんに案内されたエリカさんが、食事中の部屋に入ってきた。


「侯爵閣下、お初にお目にかかります。久しぶりね、アマリアさん」


 エリカさんはカーテシ-で挨拶した。

 今日はミニスカでなく、貴族の青いドレスを着ている。

 忘れていたが、この人も貴族令嬢なのだ。


「エリカさん、いったいどうしたの? こんな朝早くに」


「侯爵閣下、アマリアさん。

 今日はお願いがあって馳せ参じました。

 昨日偶然マヤさんにお会いしまして、不思議な力を感じて調べたら、闇属性の魔法に目覚め始めてきているのがわかりました。

 私は彼に非常に興味を持ちまして、彼の闇属性魔法を引き出そうと考えたのです」


「なんと、マヤ殿が闇属性魔法に!」


「闇属性から始めに目覚めるなんて普通に考えてあり得ないこと。

 マヤ様はいったい……」


「さすがですわ、マヤ様!」


 ガルシア夫妻は冷や汗を掻いて驚き、パティは目がキラキラしている。

 闇属性魔法が使えるってそんなにすごいことなのか?


「それで今まで所属していた討伐隊を昨日で脱退しました。

 彼の魔法教育と侯爵閣下直属の兵として雇って頂きたいと、是非お願いしたく存じます」


 え? えええ!? 俺の教育係??

 ううむ…… 展開があまりにも急でついていけない。

 俺はどうなってしまうのか。


「わかった!

 近頃は魔物が強くなってきていることなので、エリカ殿には言うとおりガルシア家直属の討伐兵となり、エルミラたちとマヤ殿で共にやってくれ。

 並びにマヤ殿の魔法教育係に任ずる!」


「承知いたしました。閣下!」


 まさしく鶴の一声というか、的確な判断と決断の早さは領主として尊敬できるところであろうが、当の私にとっていきなりすぎる。

 しかしエリカ先生か…… 先行きが不安になってくる。


「そういうことで、今日からよろしくね。マ・ヤ・く・ん」


 あ、あぁぁぁ…… ガクッ



(女神サリ視点)


 この魔法使いのお姉さんも私が見つけてきて、マヤさんにとってキーになる最重要人物の一人になりそうなの。

 マヤさんってむっつりオーラが強すぎて闇属性魔力に干渉して、一番先に難しいはずの闇の魔法に目覚めるなんて笑っちゃうわ。

 あっはっはっはっ ひー可笑しい。



第一章【了】




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