第百十二話 黒いセクシーぱんつから現れたのは?
朝起きると、今日も分身君はとても元気だ。
ゆうべは大暴れで頑張っていたのに、どうして君は何事も無かったかのように調子よく踏ん反り返っているんだい?
若さだけではなく、分身君も女神パワーの恩恵があるのだろうか。
朝のお世話に来たルナちゃんに元気な分身君を見られてもいつものようにあしらわれ、朝食を食べにいつもの部屋へ向かった。
「エリカさん。昨日言い忘れてたけれど、午前中はデモンズゲート探索に付き合ってもらっても大丈夫かな?
ガルーダが三体いたんだよ。」
「えー、うーん、まあいいわ。行きましょ。」
ちょっと迷ったのは何かしたいことでもあったのかな。
でも安全のためには極力二人体制の方が良い。
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準備を整えて、王宮玄関前。
なんだかんだでいつもの女神革ジャンとカーゴパンツだ。
しぱらくするとエリカさんがやってきたが…。は?
上着は昭和の婦警さんに良く似た紺色のスーツと、太股がしっかり見える同じ色のミニスカだ。
そんなものが売られていたのか…。
髪の毛は飛んだときにワシャワシャしないよう簡単に後ろでまとめてある。
「その服初めて見たけれど、サリ様が来たときに買ったの?」
「そうよ。いいでしょ。
だから女神様のご加護で防御力アップされてるの。
私はパンツスタイルよりこっちのほうが性に合ってるわ。」
生地がしっかりした服なのでちょっとコスプレしてみました!って感じには見えないし、程良い肉付きの脚は誰もが振り返りそうな美しさだ。
「ミニスカじゃ下からぱんつが見えるけれど、いいの?」
「今履いているのは昨日アドリアナサルタで見つけた新製品、ボクサーパンツというものだよ。
黒で目立たないし、ローライズでなかなか格好良くて履き心地がいいんだ。
後で見せてあげよう。にひひ」
「あ、あぁ…。」
それってたぶん、私がラフ画で描いてレイナちゃんのお母さんに渡したものだ。
まだ一週間も経っていないのに、もう製品化されたのか?
あの人のぱんつに対する情熱は凄すぎるよ…。
エリカさんよりは、エルミラさんやヴェロニカのような体育会系の女性に似合うと思ってデザイン画を渡したんだが、実物がどうなってるか気になるな…。
私のデザインだということは、エリカさんがまたからかいそうだから黙っておこう。
「でもこうして二人で探索に出かけるのも久しぶりねえ。」
「もうおぶらないよ。」
「んーもうっ わかってるわよ。
マヤ君の広い背中、首筋の香り、楽しめないのは残念ね。」
「今までそんなことを思っておぶられてたのか。」
「あなたも背中でわたしのおっぱいの感触と、お尻と太股の触り心地を楽しんでいたんでしょう?」
「あの作業着みたいな上着とズボンじゃ、実際感触はよくわからないよ。」
「あぁ…、そう…。」
何だか触られるのが嬉しかったように、今はがっかりしているようだ。
本来おっさんが二十代半ばのセクシーな女性にエッチな目線で見られるのはありえないから喜ぶべきことなのかもしれない。
だが、この若くなった身体は女性を引き寄せてしまう体質になっている気がする。
街を歩く女性に振り向かれることは無いと、エルミラさんと一緒に歩いている時と比べてすでに確証済みだ。
やっぱりサリ様の仕業なんだろうか。
急に力が解けてパティやエリカさんらに知らんぷりされたらショックだ。
今度サリ様に会えたときに覚えていたら聞いてみよう。
「じゃあマドリガルタの南の方を中心に探索するから、よろしく。」
私たちはそのまま飛んで、オレンジ畑の先にある荒野へ向かった。
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荒野の入り口に到着し、地面に降り立った。
後ろには広大なオレンジ畑があるが、なぜこんな荒野の近くにオレンジ畑があるのかというと、土壌改良と用水路を隈無く引いた賜物なのだ。
こんな凄い技術を持っているのは、たぶん土魔法が使える優秀な魔法使いがいたからに違いないだろう。
「せっかくここまで来たけれど、何も感じないわねえ。」
「この前退治したのは、やっぱり残敵だったのかなあ。
もう少し先へ行ってみよう。」
私たちはさらに南へ進み、前にヴェロニカと骸骨巨人を倒した所からさらに先へ行ってみた。
「ここも感じない…え?」
「どうしたの?」
「見逃しそうな小さな魔力を一瞬感じた。
マヤ君も気を付けて探してみてよ。」
「わかった。」
私は神経をぐっと集中させて魔力探索を掛けた。
……あった!
暗い星が瞬くような魔力を感じた。
魔力の質まではわからない。
現地へ行くしかない。
「俺は今感じた。そこへ行ってみよう。」
「そうなの? 私は感じなかったな…。
あなたの魔力探査もずいぶん精度が上がったのね。」
「あまり意識したことが無かったけれど、慣れなのかねえ。」
私たちは百メートルほど進んだが、今にも消えそうな魔力は感じるのに、魔物もデモンズゲートも見当たりそうに無い。
「うーん、おっかしいなあ。
何かあるはずなんだけれどなあ。」
「ねえマヤ君。あそこに何か黒い物が落ちてるよ。」
「あっ 本当だ。何か布みたいだよね。」
そこまで歩いて行くと…、黒いレースのハンカチ?
いや…、黒いぱんつ!?
ぱんつから魔力が出ているの? 何これ!?
それはサイドが紐のように細い、レースの黒いぱんつだった。
「ねえちょっと! なんでこんなところにぱんつが落ちてるのよ!?」
「この黒いぱんつから魔力が出てる。
それにどこかで見たような気がするんだが…。」
「呆れた…。あなたはぱんつマイスターね。
ああそうだ。忘れないうちに、私のボクサーパンツを見せてあげよう。」
ほれ。」
エリカさんはペロッとスカートを捲ると、確かに私がデザイン画で描いたローライズで黒い無地のボクサーパンツを履いていた。
目の前まで近づいて見てみると、ちゃんと男性モノより薄手の生地で作られている。
これなら履き心地もいいだろう。
「ちょ…ちょっと恥ずかしいじゃない。」
「何を今更言ってるんだよ。」
エリカさんはスカートを元に戻してしまった。
匂いでも嗅がれると思ったのだろうか。
そんなことより、落ちているぱんつを手に取ってみた。
両手で持って前に掲げてみたが、まるでさっき空から落ちてきたかのように綺麗で、汚れていないようだ。
「マヤ君。その姿、端から見たらただの変態よ。」
「得体の知れない物なんだから観察は必要でしょう。」
しかしこのエッチなデザインのぱんつ、本当にどっかで見たような気がするんだが、どこで見たんだろう。
エリカさんも一緒にいたような覚えがある…。
うーん、思い出せない。
するとぱんつから出ている魔力が急に大きくなった。
「ああ…、ああああああああ… この魔力… そんなバカな!?
ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「エリカさんどうしたの!?
あっ!? この覚えのある強大な魔力は!!」
エッチな黒いパンツは私の手から離れ宙に浮き、バチバチバチッとプラズマ放電のような現象が起こり、パンツを中心に黒い煙のようなものが人の形を徐々に形成している。
そして放電がゆっくり消えて、黒い煙が女性の姿になった。
エリカの師匠、アスモディアの魔女アモールである。
ぱんつから最初に転移してくるなんて、なんてでたらめなんだ。
エリカさんは尻もちをついて、また大股広げてぱんつ丸出しになっているが、ボクサーパンツなのでそんなにエッチではない。
魔女の格好は前と同じ胸がぱっくり開いた魔女ドレスで、深いスリットのスカートだからさっきのぱんつのサイドが見えている。
『あら…? あなたたち…、ここは王宮なの?
周りを見たらそうじゃないようだけれど。』
「ババ…お師匠様こそ、どうしてこんな荒野のまっただ中へ?」
『あぁ…、ちょっと座標を間違えたのかしら…。
あなたたちがマドリガルタの王宮にいると聞いて、そこに合わせたつもりだったんだけれどね…。
私も歳かしら…。』
魔女は齢七百歳以上で見た目は四十歳前だけれど、本当に魔法使いの婆さんになる歳っていったい何歳になるんだろうか。
私たちのことはマカレーナで聞いたのか?
向こうもびっくりしたろうなあ。
「今日も魂だけ転移されて来られたんですか?」
『そうよ…。本当の転移魔法はとても面倒だからねえ…。』
「それで今日の目的は?
私たち、たまたまデモンズゲートと魔物を探しに出かけて魔力探査をしていたら、アモール様の魔力を見つけたのですよ。」
『魔力探査ねえ…。
このマドリガルタ一帯で…、魔法使い以外の魔力は一つも感じないわ…。』
「え…、そうなんですか?」
『私の検知では…、この百キロ内くらいの範囲に魔物はいないってことよ…。
わざわざ探査魔法を使わなくてもわかるの…。
だからあなたたち…、無駄足だったわね…。』
「そ、そうなんですか。ははは…。」
何から何まででたらめな魔女だ。
まあ明日マカレーナへ帰るにはこれで安心だけれど、魔女が面倒事を起こさなければいいが…。
『エリカ…、私にぱんつを買ってくれないかしら…。』
「あのお師匠様…、今なんと?」
『だから…私にぱんつを買ってちょうだい。
人間の国のお金を持ってないから…。
あと…、お腹が空いたわ…。』
「……はぁ、わかりました…。」
新事実判明!!
女神様も人間の国へぱんつを買いに来るくらいだから、魔女もやっぱりぱんつを買いに来るのか!
まさか本当に自ら買いに来るとは思わなかった。
『マヤ…、あなたも私のぱんつを選ぶのに付き合いなさい…。』
「は…? はい…。
でも魂だけなのに下着をアスモディアまでお持ち帰りできるのですか?」
『……面倒だけれど、ちょっとした物なら転移魔法で何とかするわ…。
だからここに来たのよ…。』
「左様ですか…。」
ある意味大変なことになってしまったけれど、ここは素直に聞いておかないと面倒なことになってはいけない。
後のことを考えて魔女の機嫌を取っておこう。
魔女も私たちも空へ浮かび、マドリガルタへ戻った。