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第百九話 リーナがむっちゅう~♥

 マドリガルタ東の街、噴水公園のベンチにて。

 私を真ん中に、リーナ嬢とパティが並んで座っている。

 爽やかな風が吹き、ここでお弁当を広げて食べたら良いなと思うが、ガルベス家で昼食を用意してくれるというので、休憩だけをしている。


「のうマヤ。

 あのような者たちが庶民の街にはたくさんおるのか?」


「たくさんはいないよ。

 女王陛下の統制が上手くいっているから、あのようなならず者は少ない方だと思うよ。

 街の外にいるならず者は大きな武器を持っていてもっと危ないから、私も何度か退治したことがあるんだ。」


「☆ふぉぉぉ!☆ やっぱりマヤは強いんじゃのう!」


「そうよ。マヤ様はとっても強いの。

 悪党なんてけちょんけちょんのぎったんぎったんよ。」


 おいおい、どこで覚えたかわからない言葉を使ってる貴族令嬢がここにもいた。


「あははははっ けちょんけちょんのぎったんぎったん! あはははっ」


 リーナ嬢はまたいらない言葉を覚えてしまった。

 子供はそういう言葉をすぐ覚えて使うからなあ。


「パティ、リーナにあんまり変な言葉を覚えさせたらダメだってば。

 リーナ、その言葉は使わないようにね。

 二人とも、きちんとした貴族レディになるには言葉からだよ。

 あまり(かしこ)まる必要は無いけれど、なるべく綺麗な言葉を使うように意識してね。」


「「はぁ~い。」」


「マヤ様ったら、お母様より優しく言うのね。うふふ

 お母様がマヤ様みたいに優しかったらなあ~」


「アマリア様はそんなにキツいかなあ。

 もう亡くなった私の母親は、怒ると雷が落ちたように怖かったよ。

 でも何かよく出来たら、ちゃんと褒めてくれるから好きだったんだ。」


「こんな素敵なマヤ様なんですから、きっとお母様は素晴らしい方なんでしょうね。」


「マヤの母上はもうおらんのか…。寂しくはないかや?」


「時々思い出すと寂しくなるけれど、でも覚えていればいつも一緒にいるってことさ。

 それにパティ達、大好きな人がいっぱい出来た。

 リーナとも友達になれたし、今はとても幸せだよ。」


「そうか、マヤは幸せか!」


 リーナはとてもご機嫌良さそうな笑顔で私を見つめている。


「そうじゃ! マヤ、こっちを向け!」


 私がリーナに顔の正面を向けると、リーナは両手を私の頬に当てて…


 むっちゅう~♥


 なんとリーナは私に熱烈な吸い付きキスをした。

 子供の挨拶のようなキスでいやらしさはないのだけれど、十歳の美少女にキスをされたという事実だけで衝撃的だった。


「な、な、な、なんてことを!」


 パティは目の前でリーナと私がキスをしているのを見てパニックになる。

 たかが子供のキス…と思えど、もしパティが他の男児とキスをしていたらあまり平静ではいられないかも知れないな。


「なんじゃ? おかしいのか?

 (わらわ)はお父様とお母様、マルコともキスをしておるぞ。

 おお、マルコとは四つ下の(わらわ)の弟じゃ。

 お祖父様は口が臭いからせん。あっはっはっ

 それならパティにも…。」


「私にも???」


 リーナはパティに寄って、同じく両手をパティの頬に当てて…


 むっちゅう~♥


「むぐぐっ ……… ちゅぱぁっ」


 あ、あぁぁ…、リーナがパティにキスしちゃった。

 キスをしていたのは三つ数えるほどの時間で、パティは最初びっくりした様子ではあったが、その後は意外にも落ち着いているように見える。

 パティも弟たちとキスをしてるのかな。それなら微笑ましい。


 それにしてもリーナ嬢のご家族がそういうことならば、家庭円満なのだな。

 ガルベス公爵自身はともかく、ガルベス家全体が悪徳貴族とは思えない。

 後で話をすることになっているから、それとなく探ることが出来れば良いが。



(パトリシア視点)


 ??? こ、この子…、マヤ様や私とキスして…

 女の子とキスをしたのは今までカタリーナ様とだけだったのに。ふふ

 今頃何をされてるのかなあ。

 帰って早く会いたいですわ。


「リーナ、私たちをご家族みたいに思ってくれているのは嬉しいけれど、お友達とはそんな簡単にキスをしてはいけないのよ。

 愛している気持ちが強くないといけないわ。」


「何故じゃ? お父様もお母様もみんな(わらわ)は愛しているぞ。」


 この子はまだ恋愛についてわからないようね。

 年上の立場として教えてあげなくっちゃ。


「いい? 家族以外で愛しているという気持ちが強いということを言葉に表すと、【恋をする】ということなの。

 恋という言葉は知っているかしら?」


「聞いたことはあるが、よくわからんのじゃ…。」


「好きな人がいて恋をすると、心臓がドキドキして、キュンと締まるの。

 リーナはそういう経験をしたことがあるの?」


「ない…。」


「そうね…。私はマヤ様に恋をしているわ。

 マヤ様と一緒にいると、心臓がドキドキしてキュンとするわ。

 私はマヤ様のことが好きよ。

 大大大好きよ。」


「え? う、うぅ…」


 この子、少し動揺しているようね

 十歳はもう恋をしていい頃よ。

 荒療治だけれど、こうするしかないわ。


「マヤ様、ちょっと失礼しますね。」


「あのう、パティ?」


 むっちゅう~♥


 私はリーナの前でマヤ様とキスをしました。

 やり返すみたいで意地悪だけれど、この子はきっとマヤ様に恋をしているわ。

 それが自分自身ではまだわかっていない。

 また恋敵が増えるのは悔しいけれど、リーナはとてもいい子だし、学校へ通えていないのならば男の子でも女の子でも恋をする気持ちが芽生える機会に恵まれないと思う。


「あぁ… ああああああ…

 嫌じゃぁぁぁぁぁぁぁ~ うわぁぁぁぁぁぁぁん!」


 あぁ… リーナが大泣きしてしまいました…。

 まさかここまで純粋な子だとは思いもせず、私は自分自身が恥ずかしくなりました。


「うーん、パティ。

 子供相手にやり過ぎたんじゃないかな…。」


「すみません…。」


 マヤ様に怒られてしまいました…。

 それならば逆にこの状況を利用するしかないわ。

 あ、リーナが泣き止みそう。


「グスン… グスン…」


「リーナもマヤ様にキスをしたでしょう。

 私もさっきは今のあなたと同じ気持ちだったのよ。

 それはあなたがマヤ様のことが大好きで、心のどこかできっと恋をしている。」


「グスン… そうか?」


 はぁ… 私ったら何を言ってるんだろう。

 いくら小さな子とはいえ恋敵を助長することになるなんて…。

 しかもガルシア家より圧倒的に強いガルベス家の孫娘よ。

 下手をすればマヤ様を取られてしまうかも知れない。

 まさかマヤ様に限ってそんなことは…。

 でもマヤ様は優柔不断の気があるし…、んもう!


「恋をするというのは、いつも心の中に好きな人がいて、いつも一緒にいたくて、離れると気になって仕方がなくて、会うと抱きしめたくなるの。

 そして好きな人が別の人に恋をしていると、その人に好きな人が取られてしまうと思って、すごく悔しくて悲しくなるのよ。」


「うーん…、(わらわ)にはまだよくわからぬ…。

 でも何だかマヤが離れてしまうような気がして悲しかった。

 そうか…、パティも悲しかったか…。

 悪いことをしてしまった。ごめんなさい…」


 ああああ~ 余計に落ち込んでしまいましたわ。

 これでは泥沼です。どうしましょう…。


「リーナ。君は悪くないよ。

 私はパティのことも好きだけれど、君とも離れることはないよ。

 もうすぐマカレーナへ帰るけれど、またすぐ会いに行くさ。

 リーナは私のことが好きなのかい?」


「うん大好き! マヤと一緒だとすごく楽しい!」


 リーナは急にケロッとして、マヤ様に頭を撫でられています。

 マヤ様のフォローはさすが…というか、リーナはやっぱり単純明快なのね。

 私が深く考えすぎたのかしら。うふふ


「そうかあ。私もリーナのことが好きだし、楽しいよ。

 それじゃあそろそろ、また飛ぼうかな。」


「うん!」


 リーナったら、無邪気にとはいえマヤ様の腕にしがみ付いてる!

 ぐぬぬ…。



(マヤ視点)


 再び私は二人と手を繋いで飛んだ。

 少し街の外へ出て、リーナが大好きなオレンジがたくさんなっている、シルビアさんちのオレンジ畑へ行ってみることにした。


---


 オレンジ畑街道の上空。

 前にセルギウスがヴェロニカを乗せて、荒野で黒い幽霊の魔物を退治したときに通った道だ。


「☆ふわぁぁぁぁぁぁ!!☆

 オレンジじゃ~! オレンジがいっぱいじゃ~!!

 (わらわ)があれを全部食べるのに、何年かかるかのう!

 あっはっはっ」


「一日十個食べても、一億万年かかるよ!」


「いちおくまんねん!?

 マヤはおかしなことを言うやつじゃのう!

 あははははっ」


「マヤ様は冗談のセンスが変ですね。うふふ」


 調子がいいところで、街道に誰も歩いていないから超低空飛行をしてみる。

 路面から一メートル上だから、けっこうすれすれだ。

 時速三十キロでもスリルは味わえそう。


「きゃーっはははははははっ 速いぞぉぉぉぉ!!」


「あわわわわわっ マヤ様怖いですぅ!! ひぃぃぃぃ!!」


 もしパティを遊園地に連れて行ったら、ジェットコースターは苦手だろうな。

 程々にして、また二十メートル上空へ戻った。


「何じゃもう終わりか…。つまらんのう。」


「ほっ… 私は二度とごめんですわ…」


 もう先に荒野が見え始めてきたので、そろそろ戻ることにしよう。

 ??……魔力!?


「マヤ様!! 感じましたか!?」


「ああ! 少数だが魔物がいる!」


「何じゃ!? 魔物か!?」


 遠くに見えたのは…、ガルーダだ! 三体いる。

 魔力探査を掛けても、この近辺にデモンズゲートがある気配が無い。

 前に倒しきれなかった残りなのか。

 さて、二人を抱えながら倒すには魔法しか無いな…。


「マヤ様、ここは私にお任せ下さい!」


 ガルーダがこちらに気づいて、急接近してきた。

 パティがやってくれると言うなら、お手並み拝見といこう。

 彼女は片手を前に出し、もう魔力を集中させている。


「むうぅぅぅぅ… やあ!!」


 あれはライトニングアロー!!

 しかも無数の光の矢を放ち、ガルーダ三体に突き刺さり一気に倒した。

 ガルーダは地面へ落ちていく。


「パティ、すごいじゃないか!

 いつの間にそこまでマスターしたんだい?」


「うふふ。マルセリナ様に魔法書を借りて、夜は王宮の部屋で勉強していましたの。」


「ほほぉ、さすがだねえ。

 私は部屋でゴロゴロしていただけだよ。」


 本当は女王の相手をして忙しかっただなんて、口が裂けても言えない。

 墓場まで持って行く事案である。


「☆うわあああああ!☆ パティかっこいい!!」


「うふふ、ありがと。でもお祖父様には内緒よ。

 危ないからってきっと怒られるわ。」


「うん! わかった!」


 明日は帰る前日だけれど、半日はまた偵察しないといけないな。

 忙しくなりそうだ。

 昼食の時間が迫ってきたので、このままガルベス公爵の屋敷へ帰る。


「じゃあリーナ、これでもう帰るから空の景色をしっかり目に焼き付けておくんだよ。」


「マヤ、景色が目玉焼きなんだって!?

 また面白いことを言うのう! あっはっはっ」


 ……何故か言葉が通じなかった。まあいいか。

 私たちはオレンジ畑の真上を通過し、一直線でガルベス公爵の屋敷へ戻った。


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