第百七話 ガルベス公爵邸へお出かけ準備
夜が明け、目が覚める。広いベッドで一人寂しく。
ゆうべはなかなか刺激的だったが、十五の女の子に『据え膳食わぬは男の恥』を実行してはいけないからね。
顔を洗ったりしてパジャマから貴族ジャケットに着替えてしばらくしたら、おばちゃんメイドが朝食の案内ということで、私はそちらに向かった。
昨日夕食を取った同じ場所で、インファンテ家とエステラちゃんら同じメンバーで朝食を取る。
「マヤ様、おはようございます。
ゆうべはよく眠れましたでしょうか?
私、久しぶりに不思議なくらいぐっすり寝られましたよ。」
「おはようございます。
私もです。まるで魔法を掛けられたみたい。」
「そ、そうか。
おはよう、レイナちゃん、レティシアちゃん。」
エステラちゃんの眠り魔法のせいだ。
ほんとに気づかなかったんだな…。
麻酔ほど強力では無いと思うが。
「マヤ様、おはようございます。うふふ
男の子の勉強になりました。うふふ」
「お、おはよう…。」
レイナちゃんとレティシアちゃんはハテナ顔をして、エステラちゃんはまた小悪魔の笑みをしている。
伯爵と夫人、妹のアイナちゃんも挨拶して席に着き、朝食を頂く。
みんな仕事や学校へ行かなければならないからゆっくりおしゃべりする暇は無く、少し慌ただしかった。
私だけ半分ニートみたいな生活をしているから恐縮である。
「ではな、モーリ男爵。
またマドリガルタへ来ることがあったら是非声を掛けてくれたまえ。
歓迎するからな。」
「マヤ様、良いアイディアがありましたらまた教えて下さいまし。
マカレーナの店長へ伝えてもらってもよろしいですよ。うっふっふ」
「はい、承知しました。お元気で!」
伯爵夫妻は先に席を立ち、それぞれの仕事場へ向かった。
私はそのまま学校へ行くレイナちゃんたちと食堂を退出し、玄関まで行く。
玄関前には、セルギウスが愛しのロサードちゃんが馬車を繋げて待機していた。
「じゃあマヤ様、明後日みんなでお見送りに行きますからね!」
レイナちゃんたち三人と妹のアイナちゃんもカスティーリャ女学院の生徒なので、四人は馬車に乗り込んで出発していった。
さて、お昼前にガルベス家へ訪問しなければいけないので、私も早く帰ろう。
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王宮に帰り、私の部屋へ。
部屋にはすでにルナちゃんが待機していた。
「あら、おかえりなさい!」
「ただいま。」
考えてみれば、マカレーナへ帰っても部屋でのプライベートは無いのだろうか。
もしベッドの下にエッチな本を隠していても、すぐ見つかりそうだ。
ちなみにこの世界には写真が無いから、エッチな絵本があるぞ。
前にマカレーナで散策した時に本屋で見つけたんだが、立ち読みしたら粗末な絵だったのでそっと閉じた。
もっと良い絵があるかもしれないが、春画を見た方が一億まん倍ましだった。
「あのう、頂き物のこのシルクのパジャマを洗っておいてくれるかな?」
「え? はい。丁寧に洗っておきますね。
でも新しいものをもう洗うんですか?
……くんくん……マヤ様……。」
ルナちゃんはパジャマの匂いを嗅いでいる。
ほんとにこの子は匂いフェチなのか?
そして、ジト目ですごく残念そうな顔をして私を見る。
お風呂場で一回しか出していないのに、なんであの匂いがわかるの?
まさか毎回私のぱんつを嗅いでいるのか?
「ち、違うぞ。
我慢出来なくて一人で処理をしたんだ…。」
「それにしては、女の子の匂いが少ししますけれど…。」
「貴族のご令嬢が三人も集まったんだ。
お茶会をしただけでも匂いは移るんじゃないのかな。ははは」
たぶんパジャマにはエステラちゃんの汗がべったりなんだろうから非常に見苦しい言い訳なんだろうけれど、もうどうしようもない。思いつかん。
「それよりもうすぐガルベス公爵のところへ行くんだ。
シャワーを浴びるからね。」
「じゃあお背中流しますからね!」
あ…あぁ…。
ルナちゃんは「絶対私が洗う!」と言わんばかりに勢いよく給仕服を先に脱いでカボチャパンツ姿になり、それから一気に私の服も脱がされた。
だいたい彼女は私の従者なのに、私の方が彼女の所有物になっている気がする。
お風呂場でいつものようにシャコシャコと身体の隅々まで洗われ、洗車された愛車のようにピカピカに綺麗になった。
そしてバスローブを着せられ、その間にガルベス公爵行きの服を準備してくれている。
「まさかマヤ様があのガルベス公爵と繋がりが出来るなんて思ってもみませんでした。
反女王派で、経済力も半端ないですからね。」
「尋ねるだけだから、繋がりが出来たとは言えないよ。
何か失敗したら取り返しがつかないことになるかもなあ。」
「何のんきに大変なことをサラッと言ってるんですか。
今日はマヤ様の人生が掛かってるとも言えるくらいなんですよ。」
「まあ孫娘の遊び相手をするだけのことだから、彼女を怪我させたり気を悪くさせなければ大丈夫だよ。」
ルナちゃんは釈然としない顔をして、トランクスを履かせてくれ、準備してくれた別の貴族ジャケット一式を着せてくれた。
パティも一緒に行くので連絡を取らなければいけないが…。
そういうときは便利な念話だ。
(おーい、パティ。おはよう。聞こえるかい?)
(え? あっ マヤ様!? ちょ、ちょっと待って下さい!)
んー、何だろう。もしかしてトイレだったかな。
確かに用を足してる最中に携帯が鳴っても困る。
数分してからまたやってみよう。
「マヤ様、何ぶつぶつ一人で喋ってるんですか? 何か変ですよ。」
「あー、いや。パトリシア嬢と念話をしようと思ってね。
たぶんお花摘みの最中だと思うから、また後でやってみるんだ。」
「マヤ様はまた変な想像をしてませんか?
女の子のプライベートまで想像するなんてエッチにも程があります。」
「ルナちゃんの中の私はいったいどんな人間なんだよ…。」
「マヤ様はお優しくてとても強いですが、とてもエッチなんです。
いいえ、お互い愛し合ってエッチなのはいいことだと思います。
マヤ様のエッチは頭の中で考えすぎなんです。」
「そうかぁ。私はルナちゃんのことが好きだよ。
今度お風呂でエッチなことをしてもいいのかな?」
「そ、それはマヤ様が本当に愛して下さるなら吝かではないですが…
って、誤魔化さないでくださーい!」
ルナちゃんはチョロい。だがそこも可愛い。
さて、そろそろパティにもう一度念話をしてみよう。
(おーい、パティ。もういいかな?)
(コホン、もう大丈夫ですよ。)
(九時にガルベス家から迎えの馬車が来るけれど、もう準備できたかな?)
(はい、いつでも大丈夫ですよ。マヤ様も?)
(うん。準備OKだ。じゃあ九時前に玄関前でよろしくね。)
(はーい。)
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そして九時前の玄関前。
パティはすでに降りて待っていた。
飛んだらぱんつが見えるからリーナ嬢にはニッカポッカでも履いてもらえるようお願いしていたが、なんとパティまでニッカポッカを履いていた。
ちなみにとび職の人が履いてるだぼだぼのズボンもニッカポッカなんだが、それとは違うぞ。
子供服に見られる、ふくらはぎが露出しているズボンだ。
パティは白いブラウスにえんじ色のベスト、同じくえんじ色のニッカポッカというずいぶん派手なコーディネートだけれど、身体は大人のように立派なのに童顔だから似合う。
「おお、パティ。すごく可愛いよ。」
「うふ、ありがとうございます。
マヤ様に気に入ってもらって良かったです。
この前買ってきたんですよ。」
「ずいぶん買い物してるようだけれど、持って帰られるのかな。」
「滅多に来られない王都だからついたくさん買い物をしてしまいましたが、馬車にはちゃんと乗る量ですから心配いりませんよ。うふふ」
エリカさんやエルミラさんを連れて買い物へ行って帰ってきたのを見かけたときは尋常では無い荷物量だったが、都合が良いアイテム収納ボックスなんて無いのだから本当に大丈夫かね。
そうしているうちにパカパカと玄関前に、サラブレッドのようなブラウンの美しい馬が牽いている豪華な馬車がやってきた。
恐ろしいほどに九時ぴったり来たが、ガルベス公爵は時間に厳しい人なのだろうかと推測する。
御者に勧められて早速馬車に乗り込み、ガルベス公爵の屋敷まで向かった。
この馬車、座席がふわふわで背もたれも腰に負担が掛からない人間工学的な作りだから、最高に乗り心地が良い。
振動が少なく、サスペンションの性能もオイゲンさん達が作ったものに引けを取らない。
一介の男爵に…ああパティは侯爵令嬢だけれど、これほどの高級馬車を迎えに寄越すとは、力を見せつけているのか、私を高く評価しているのか、私をガルベス公爵側へ引き込もうとしている一貫のことなのかと憶測する。
前にシルビアさんから聞いた話では、ガルベス公爵の屋敷はマドリガルタの西にあり、力を誇示するような広大な敷地で屋敷もとても大きく、王宮よりすごいという話だ。
そんな所へ招待されるなんて私は少し緊張してきたが、パティはケロッとしている。
さすが真のセレブといったところか。
二十分ほどでガルベス公爵の屋敷の、凱旋門か!と思うような大きな門前に到着する。
勿論門番がおり、検問はなくそのままスルーして入場した。
ガルシア侯爵家を始め貴族のお屋敷には何件かお邪魔をしたけれど、確かにこれほど広大な庭があるなんてびっくりした。
屋敷までの道は馬車の交通量が多く、人を乗せた馬車や荷馬車とも時々すれ違う。
屋敷そのものが街一つになっているようだ。
敷地内の庭は植物園のようにきちんと手入れされている林、何かの主でもいそうな大きな池もある。
池の畔にガゼボがあり、広い花園があってとても綺麗だ。
そして花園の先は芝生の庭があり、とても大きな洋風建築の屋敷…、屋敷なんてものじゃない。
ルー◯ル美術館の何倍もありそうな横幅がある建物が見えた。
確かに王宮の比ではないな。
大きな扉がある玄関前で馬車は停まり、ここで降りた。
そこには待ちかねたように、リーナ嬢とお付きのメイドが五人もいた。
「おー、待っておったぞ。マヤ、パトリシア!
ささ、中へ入るがよい!」
リーナ嬢は、言われたとおりニッカポッカのズボンで、大好きなオレンジの色。
上は白いブラウスにサスペンダー。
どこをどう見ても可愛らしい幼女の格好だ。
「リーナ様、今日はよろしくお願いします。
楽しく過ごせたら良いですね。」
「リーナ様、今日はごお招き頂いてありがとうございます。
ガルシア家といたしまして、ガルベス家に目を掛けて頂き光栄の至りに存じます。」
パティはカーテシーで挨拶をした。
スカートではないので、手を前に組んで膝を折るだけだ。
「パトリシア、そんな堅苦しい挨拶はしなくてもよいぞ。
今日は二人と友達になりたいのじゃ。
友達とは対等の立場じゃ。
だから、様もいらぬ。リーナと呼べ。」
リーナ嬢はニコニコ顔で元気よく答えた。
パティは少し戸惑ったが、彼女もニコニコして返答する。
「じゃあリーナ、今日はよろしくね。」
「うむ!」
リーナ嬢はこれでもかというくらいの笑顔で返した。
友達が出来たことがよほど嬉しかったのだろう。
控えているメイドたちも、こんな笑顔を初めて見たのごとく、びっくりした表情だ。
十歳といえば人格形成期の終わり頃だから、リーナ嬢にとって大事な時だ。
大人として一人の少女を見守る義務があるだろう。
今日は彼女にとって思い出に残る日にしてあげたい。
評価の伸びが以前と比べて少しずつですが上がってきています。
今年からラノベを書き始めた素人ですが、読者の皆様のおかげで自信がついてきます。
どうもありがとうございます。