第百二話 骸骨巨人で、夫婦の共同作業
魔物がいると思われる方向へ少し進んだところで、セルギウスが声を掛ける。
『マヤ、ここで停まれ。俺様がここで片付ける。』
「またコンティヌイフルガル(稲妻連撃)かい?」
『ご名答だ。二人とも、雷が落ちるから耳を塞いでおけよ!』
セルギウスはブツブツと魔神語で古代魔法を唱えている。
ヴェロニカはセルギウスの背に乗ったまま耳を塞ぎ、目を瞑って震えている。
雷が怖いのかな?
急に真っ黒な雲が現れて、稲妻が三つ連続で向こうに落ちて、一秒ほど遅れてすごい雷鳴が響く。
パァァァァァン!! パァァァァァン!! パァァァァァン!!
「キャーーーーーーーーーーーー!!」
ヴェロニカは耳を塞ぎながらセルギウスの背に伏せている。
態度がデカい彼女がキャーなんて、ちょっと可愛い。むふ
『おい、もう終わったぞ。確認しに行くから身体を起こせ。』
「あ、あぁ…。取り乱して済まない…。」
彼女はプライドが高そうだから私はからかうことをせず、見なかったことにした。
大人であれはそういうものなんだよ。
私たちは魔物がいたところへ近づいて行った。
『何だいありゃあ!!』
それらは顔が骸骨っぽくて黒い幽霊か思念体のような物質を持たない魔物が三体、ゆらゆらと蠢いていた。
背は三メートルはあろうか。遠くから見える大きさではない。
そして魔物の真後ろには魔物と同じくらいの大きさのデモンズゲートが存在している。
「あれでは雷の攻撃が効かないわけだ。
ヴェロニカ、あれでは物理攻撃も効きそうにないから君は手を出したらダメだぞ。」
「わかった…。クッ」
黒い幽霊の魔物は声とも音とも言えないような、文字に表すならば「むぇうわあうぉぃえうぉ」みたいなすごく気持ち悪い声を出している。
それにしてもこんな荒野にポツンとデモンズゲートをがあるのを見たのは初めてだ。
本来魔素を発する植物の近くに発生するものだが…。
少し横に動いて方向を変えてよく見ると、デモンズゲートの後ろに大きなアロエのようなサボテン類がいくつか見える。
あんなものまで濃い魔素を発生させていたのか。
いつも森林を中心に偵察をしてきたが、この先荒野でも注視しなければいけなくなると、本当に切りが無い。
『だが正体がわかれば心配はいらん。
幽霊の類いは闇属性の魔法でもとっくに対策積みだ。
【ファントム イクスティンクション】
使用魔力量が多いからエリカは使えない。
マヤ、おまえも闇属性の魔法が使えるんだからよく見ていろ。』
セルギウスはそういうと、魔力を集中している。
昔のエリカさんの話だろうから、魔力量が増えた今なら研究してるかもしれないな。
『ブヒヒーン!!』
あ、また馬みたいに鳴いた。
王都へ着いた時に、パティにキスされた時以来だな。
セルギウスがブヒヒンと鳴いたら大きな魔力が爆発し、幽霊の魔物は三体まとまって黒い渦状に変形し、それから小さくボール状になり霧散していった。
実にあっけない幽霊退治だった。
しかしセルギウスが発した魔力量はかなり燃費が悪そうで、数千から一万くらいの魔力量を使ったみたいだから、エリカさんでも難儀かも知れない。
「さて、クローデポルタムでデモンズゲートを消さないとな。」
「待て! 何か出てくるぞ!」
ヴェロニカがそう叫ぶと、デモンズゲートから高さ四、五メートルはあろう、骸骨の巨人がぞろぞろと出てきた。
一、二…、五体いる。
「物理攻撃は出来そうだな。ならば私から行くぞ!」
ヴェロニカはセルギウスから飛び降り、骸骨巨人に向かっていく。
「うぉぉぉぉぉ!!」
そして背の鞘から剣を抜いて、【地衝裂斬】の技を繰り返し発した。
なんと猛々しい。
地面を衝撃の縦筋が何本も骸骨巨人に向かい、足下に当たっている。
だがあまり効いていないようだ。
私も、背の「八重桜」を抜いて刀にライトニングカッターの魔法を込めて、【雨燕】の型で骸骨巨人に向けて高速移動し、刀から発する光の刃が足下を斬りつける。
骨が硬い。だが少し欠けているようだ。
ヴェロニカが攻撃した跡と思われる傷も見えた。
攻撃をした一体の骸骨巨人が私に向かってパンチをしてくるので、さっと避ける。
思っていたより動きが速い。
「ヴェロニカ! 足下へ集中して連続攻撃を仕掛けるんだ!
硬い物は脆い。そこをつくんだ!」
「わかった!」
硬い物でも一カ所に集中して連続で叩けば傷が付くというのをいろんなアニメや漫画を見ていて常套になっていたから、それに倣ってみた。
ヴェロニカは自前の剣の地衝裂斬で、私は八重桜に掛けたライトニングカッターの魔法刀術で、それぞれ一体ずつ連続攻撃をする。
残った三体がパンチや踏みつけで攻撃してくるので、それを避けながらだからなかなか大変だ。
ヴェロニカは動体視力強化されたエルミラさんとの訓練が効果を発揮しており、ちょこまかと攻撃を避けている。
セルギウスは、師匠が弟子達を見守るように堂々と静観していた。
ヴェロニカが討っていた骸骨巨人の一体が足下を崩し倒れた。
そこへすかさず頭へ連続攻撃し、頭が割れたら動かなくなった。
脳みそ空っぽなのに頭を破壊すると機能停止するなんて不思議だな。
私も攻撃を続け、足首が砕けたので倒れた。
続けて頭を連続打撃し、動かなくなった。
これで残りは三体。ヴェロニカはすでに二体目を倒しかけている。
私も二体目を同じように攻撃した。
二人とも二体目を倒し、あと残り一体だ!
「ヴェロニカ! 一気に行くぞ!」
「おう!」
私は骸骨巨人の左足首を魔法刀術、ヴェロニカは右足首を地衝裂斬で連続攻撃した。
骸骨巨人は足が破壊する前にバランスを崩し倒れ、私たちは頭を集中攻撃しすぐに破壊することが出来た。
これで戦闘終了。
デモンズゲートからまた魔物が出てきてはいけないので、急いでクローデポルタムを掛けて穴を閉じることに成功した。
「やったなマヤ! これは夫婦で初めての共同作業だな。はっはっは!」
「お、おぅ…。」
結婚披露宴のケーキ入刀が夫婦で初めての共同作業とよく聞くが、まさかヴェロニカの口から出るとは思わなかった。
ヴェロニカはあまり冗談を言う性格ではなさそうだし、これは本気だな…。
『マヤ、終わったな。俺が手を出すまでも無かったか。
このまま進むか? もう帰るか?』
「セルギウスに騎乗するのが思っていたより負担だったみたいだね。
だからこれで終わりにして、ヴェロニカは俺がなんとかして連れて帰るよ。」
『わかった。もうすぐ王都を発つんだろ?
その時にまた美味いものを食わしてくれよ。
じゃあまたな。』
セルギウスはポムッと小さな煙を上げて消えた。
そうだ。帰る前にまたリンゴを買い占めに市場へ行かないといかんなあ。
「マヤ、いいのか? 私が鎧を着たままだと背負いにくいだろう?」
「鎧の上だけ脱いでもらって、剣と鎧は俺が持つよ。」
「そうか、わかった。
さっきから暑くて仕方がないから、もう脱ぐぞ。」
ヴェロニカはまたゴソゴソと鎧を脱ぎ出す。
私の女神革ジャンは何故か通気性も良くて暑くならないという不思議。
「ヴェロニカ待って! シャツが!」
彼女のシャツ…ではなくタンクトップなんだが、鎧に引っ掛かって、なんと鎧と一緒に脱げてしまった。
そして白くて大きくて綺麗な胸がぷりんと現れる。
女王譲りの胸だが、やっぱり若いと張りがあるな。
「キャーーーー!!」
ヴェロニカは可愛く叫び、両腕で胸を隠す。
叫ぶのを聞いたのはこれで二回目だが、やっぱり女の子だねえ。
「いくら将来の婿でも…、ま…、まだ見せないぞ。」
ヴェロニカは顔を赤くしてそっぽを向いた。
私が思うに、彼女はハッハッハと言いながら堂々と見せるものとばかり。
それでも隠している腕から溢れるような、美味しそうな胸である。
私は下に落ちている彼女の鎧の中から引っ掛かったシャツを取り出す。
汗でびしょびしょ、いい匂いなのか、なかなか香ばしい女の子の香りがする。
「な、何をするのだ?」
「簡単に洗うからちょっと待っててよ。」
私は魔法で水玉を作って浮かせ、タンクトップをその中に入れる。
乾燥している場所だからなかなか大きな水玉は作れないが、タンクトップ一枚くらいならなんとかなる。
そして水玉の中で洗濯機のように回し、時々逆にして洗う。
三分ほどしたら取り出し、魔法でタンクトップの水分のほとんどを抜いてしまう。
これが水属性の便利な生活魔法だ。
出来たらヴェロニカのぱんつも洗ってやりたいが、ぶちのめされるかもしれないので黙っておこう。
「はい、出来たよ。」
「あ、ありがとう…。あっちを向いていてくれ…。」
ヴェロニカはタンクトップを手に取り、私は背を向けた。
これは今晩のおかず…、としたいところだが、女王といつもよりたっぷりの命令が下されてしまっているから、それどころではない。
「もういいぞ。」
私はヴェロニカの方へ向き直した。
タンクトップを着ても谷間がくっきり見え、どうしてもそこに目が行く。
「私の胸がそんなに気になるか?
もう少し待て…。結婚前でも愛し合う者同士は……
何を言わせるんだ! もう帰るぞ!」
ヴェロニカが言いかけた部分を実行してしまったら、絶対逃れることは出来ないだろう。
女王みたいに誘惑してくることはないだろうが、私に対して性的にまんざらでも無さそうなので、私自身が衝動的にならないように気を付けないと。
私はヴェロニカを背負い、右手に八重桜とヴェロニカの剣、左手にヴェロニカの鎧を持つ。
そして彼女と持ち物にも全体的にグラヴィティを掛けて、自分の負担を少なくする。
革ジャン越しだけれど、ふにょんとした胸の感触がわかる。
後ろから呼吸音が聞こえ、気のせいか妙に色っぽい。
ヴェロニカに対して性的な魅力は闘技場の時から感じることはあったが、感情的にドキドキと思うのは今が初めてだ。
私はヴェロニカのことが好きになってきているのだろうか。
今日で彼女のことがいろいろわかってきた。
一緒に戦っている時の呼吸も合っていた。
パートナーとして申し分ない。
あと数日で別れるのが寂しい感じがしてきた。
私はグラヴィティの力を強めて宙に浮き、ヴェロニカを背負っても何事もなくマドリガルタへ帰った。
最初からこうすれば良かったな。