第百話 シルビアさんの過去
2024.5.29 軽微な修正を行いました。
引き続き、シルビアさんの私室にて。
美味しいラベンダーティーを入れてもらって、二人で飲んでいるところだ。
「シルビアさん、今晩はお互い腹を割って話しましょう」
「あの…… どうしてですか?」
「どうしても何も、びっくりしましたよ。
昨日のあれは女王陛下のいいなりになっているんですか?」
私に対して身体を求めてきたこともだが、女王に対してもシルビアさんは性的にご奉仕をしていた。
見ている分には凄かったが、もし強制なら問題だろう。
「いいえ、私の意思です。
私の全てを掛けて大恩ある陛下に尽くしております。
結婚はしておりませんし、子供もおりません」
「昔、何かあったんですか?」
「はい。訳あって悪い貴族から家族と私の命を助けて頂きましたから……」
「それにしても、結婚もしないなんて……」
「マヤ様、少し古いお話をします。
私はエスカランテ子爵家の生まれで、家族と一緒にマドリガルタの南の屋敷で暮らしていました。
父はマドリガルタから少し南へ行ったバルデという街の近くで、農園を経営していました。
それで祖父の代からやってきた新しいオレンジの品種開発で二十年近く前にようやく実らせることが出来て、美味しいオレンジだと評判になり私たちの家は大変な利益を得ました。
王宮の食事でもよく出ているあのオレンジです」
「なるほど! あれは確かに美味しいオレンジでしたね」
リーナ嬢が好物になるのもわかる。
甘みと酸味のバランスが絶妙で、日本でも食べたことがないくらい美味しかった。
「十五年くらい前でしょうか。
ベラスケス伯爵という大貴族が利権を横取りしようと、やつが開いたパーティーを見立てて、祖父は毒を盛られ殺されてしまいました。
その後、私たちの屋敷に夜中放火しようと企んでいた実行犯をつけていて直前で捕らえたのが、マドリガルタへ赴任していた騎士の、マヤ様のご主人と申し上げて良いのでしょうか、若きガルシア侯爵だったんです。
それどころかガルシア侯爵は、ベラスケス伯爵が女王陛下に対し弑逆しようとした大変な謀反者だと突き止めることが出来ました。
私はガルシア侯爵と直接面識がありませんが、こうしてマヤ様と知り合えたことはご縁だったのでしょう」
「へぇ! まさかガルシア侯爵とそこで繋がりがあるとは思いませんでした」
前にパティからチラッと聞いていたが、そういうことだったのか!
それは女王に気に入られて当然だろう。
私にエステを頼んだりちょっと変な人だけれど、正義感あふれ頭の回転がすごく良く、温情あるのでとても尊敬している。
「ガルシア侯爵は陛下の命令によって動いていたので、それで私は陛下に恩義があるということです。
ベラスケス伯爵は陛下から名誉ある自裁を告げられ、毒を飲んで死にました。
陛下は祖父の敵を討って下さったんです」
ひぇぇ…… 実質死刑だったんだな。
この国に死刑制度があるのは前にパティから聞いたことがあったけれど、一人殺し、国王弑逆未遂ともなるとそうなるんだなあ。
私は女王の信頼を得たと思うからそんなことにはならないと思うけれど、ガルベス公爵一味に無実の罪を着せられるようなことにならないように気を付けよう。
「そのきっかけがあってか、私は王宮で執事職のお誘いがあって研修を受けました。
その後陛下の執事になってもう十四年になり、女王陛下への恩返しを努めて参りました。」
「そうだったんですか…… 大変な過去があったんですね……
それで…… あの…… 何故シルビアさんと私はエッチなことをしたんでしょう?」
壮絶な過去といい話なんだけれど、ここでエッチな本題に流れを変えた。
今までの話からはガルシア侯爵について以外、私と接点が無い。
馬鹿げているかも知れないが、真実を知りたい。
「ええと、私は女王陛下一筋で十四年間お仕えしてきたのは先程お話しした通りです。
王配であるフェリペ様が十年前に病死され、女王陛下は大変悲しまれました。
ある晩に私は陛下を慰めにお部屋へ伺いました。
陛下は元々性欲の強い方ですから、私は男っぽい身なりのせいかその時陛下は私を求められ、お相手をして差し上げました。
お仕えする前は殿方とのお付き合いが多少なりともあったのですが、王宮に来てからは全く無くなってしまいまして……
私にも多少は性欲はありますので、その欲求解消のためにそのままずるずるとのめり込んでしまったわけです……」
シルビアさんは恥ずかしくてずっと私と目を合わせなかったが、大人で真面目な気質のせいか淡々と話してくれた。
ここまで来るのに長い話だったけれど、そのオチかい!
女王は近くにいる手頃なシルビアさんの気持ちに甘えて、いつまでも利用しているようにも思える。
シルビアさん自身に結婚願望があるのか知らないが、この国の人は婚姻率は高めで平均初婚年齢も低いので、三十代の女性が未婚なのは稀有だ。
シルビアさんの希望でも、女王は無理にでも解放させてあげるべきではないのか。
「私はもう三十四歳になりますが、殿方と行為に及んだのは十八歳当時の恋人との僅かな機会だけでした。
それでその…… 陛下とマヤ様が行為をされている時に私は我慢出来なくて……
昨日は陛下からお話があり、マヤ様にお相手をさせるということでした……
男性とはマヤ様がずいぶん久しぶりだったので、つい……
昨夜は驚かせてしまい、大変申し訳ありませんでした!」
シルビアさんは立ち上がり、深々と頭を下げた。
彼女が悪いわけじゃない。
女王が意地悪なだけで、真面目な彼女の態度を見るといたたまれない。
だが今晩の女王は何かを察したように、シルビアさんと私を二人にしてくれた。
どういう意図なのかわからないが、シルビアさんが私と話すことによって何かアクションを期待しているのかも知れない。
しかしシルビアさんがあれほど乱れたのは、女王の調教、いや教育の賜物だね。
女王がエッチなのは、亡くなった王配がそういう人だったと推測する。
夫婦でどんなマニアックなプレイをしていたんだよ。
「シルビアさん、頭を上げて下さい。
私は驚きましたが、何も怒ったり嫌な気分になった訳では無いんです。
それどころか、私はシルビアさんのこと格好良くて、真面目で、尊敬してました。
だから昨夜は愛し合うことが出来て嬉しかったんです」
「そんな…… 十五もお若いマヤ様にそのようなことをおっしゃられると恐縮です。
でも……この歳になってもう男性と愛し合うことは無いと思っていました。
私も嬉しかったです……」
シルビアさんは顔を赤らめ、少し涙ぐむ。
いつも凜々しいなあと思っていても、今は女の人だなあという表情だ。
「シルビアさん、私は十九歳ではないんですよ」
「え……? それはどういうことでしょうか?」
私は別の世界で事故死して若くなって生き返ったこと、女神サリ様からの願いで魔物退治をしていること、それらは女王陛下やガルシア侯爵、パティら一部の仲間にはすでに話してあると、包み隠さず伝えた。
「そんなことって……
ですがマヤ様の十九歳とは思えない雰囲気、常識外れの力、信じるべきでしょうか……」
私のことを話したら、だいたいこのような反応が返ってくる。
あれ? 誰と誰に話したのかわからなくなってきたぞ。
ガルシア家では、ローサさんとジュリアさんには話してなかったかな。
まあ、帰った時にそれとなく鎌掛けて反応を見よう。
「シルビアさん、今晩は…… 二人だけですから…… いいですか?」
「――はい……」
彼女もそのつもりだったんだろうか。
顔を真っ赤にし俯き、返事をしてくれた。
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私とシルビアさんは、彼女のベッドに並んで腰掛ける。
そして手は恋人繋ぎ。
「マヤ様とこうしていると若返った気分になりますね」
シルビアさんは頬を赤らめ微笑んだ。
私はシルビアさんの肩を抱いて、ゆっくりキスをする。
ぺろぺろ、はむはむ、そしてすぐに舌が絡み合う大人のキス。
女王に教育されているからキスは彼女の方が断然上手い。
あぁ…… とろける……
もう止まらなくなり、二人で大急ぎに服と下着を脱いだ。
彼女の胸は小ぶりだがとても綺麗。
私は唇で体中を愛撫し、そしてシルビアさんは私を受け止めた。
エリカさんに教えてもらった避妊の魔法は昨日のうちにかけておいたから、今日はかけなくても大丈夫だろう。
彼女は昨夜のことがまだ足りなかったかのように、大きな声をあげて乱れる。
本当に、いつものシルビアさんとは別人のようだ。
丸みをおびつつ締まりがあるお尻を突き出し、きゅっとくびれたウエストが美しいお尻をさらに引き立てている。
三十代半ばでこの形を維持しているのは大変素晴らしい。
私はそんな美味しそうな桃をしっかり味わった。
――昨夜もだったが、シルビアさんの性欲がここまで強いとは。
私は寝転ぶだけで好きなようにしてもらった。
さっき女王の魔力を察知したが、もしや魔法で覗いていないだろうな?
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部屋が明るい。朝か……
結局シルビアさんは夜更けまで楽しみ、私もそもままシルビアさんのベッドで寝た。
はっ!? いかん!
ルナちゃんが私の部屋へ来る前に戻らないと、先日パティといちゃラブした時みたいに面倒なことになるといけない。
まだ朝早いようで、シルビアさんはスヤスヤと寝ている。
着替えてそっと部屋を出た。
自室へ戻るが、シーツが綺麗なままだと疑われそうなので、また上着とズボンを脱いで布団へ入り、ルナちゃんが起こしに来るまで寝たふりをしていよう。
お、パタパタといつもの足音がするからルナちゃんだ。
さあ一日の始まりだ。
ついに第100話まで迎えることが出来ました。
ひとえに読者の皆様のおかげです。
これからも頑張って書きます。
2022.7.23