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第十話 大司祭マルセリナ

2025.11.9 全体的に文章を見直しました。

 今日はパティが通う学校が休みだ。

 彼女から必ずデートをしますよと念入りに言われている。


 日課であるスサナさんたちとの訓練は早朝だけにして、朝食をとる。

 パティはニコニコ顔でとても機嫌が良さそうだが、期待に応えなければいけないというプレッシャーもあって悩むところだ。


---


 私たちは九時頃に出かける。

 パティは白いひらひらのブラウスに白と水色を基調とした膝が隠れる丈のスカート。

 今日は少し暑いのでリボンが着いた麦わら帽子を被り、爽やかで派手すぎずとても可愛らしい格好だ。

 私は白い長袖シャツにスラックスの軽装。

 地域で一番偉い人の令嬢がドヤドヤと脇目も振らずに動くのは良くない。

 従って、目立たない格好で移動は徒歩か賃走の辻馬車にする。

 ここは漏れなく褒めておかないとまた膨れてしまうだろう。


「パティ、今日のコーディネートは爽やかでとても可愛い。お似合いですよ」


 彼女はにっこり笑う。

 うーん、笑顔がめちゃくちゃ可愛い。

 同年代の女の子に慣れていない男の子だったら、ハートがズッキューンだろう。


 今日は、先日スサナさんに案内してもらった時と別の方向の街案内をしてもらうことになった。

 最初は屋敷からすぐ近所の大聖堂へ初めて行ってみる。

 私は根っからの仏教徒だったけれど、私は一回死んじゃって地球にはいないし、何より女神様本人に会ってしまったからもう神様は何だっていいやという気分だ。

 十分ほど歩くと大聖堂に着いた。


「ここはサリ教の教会なんです。建物は歴史的には勿論美術的にも価値が高くて、信者の方以外に観光客も大勢訪れるんですよ」


「パティ、ちょっと待って。サリ…… 今サリ教って言わなかったかい?」

「マヤ様はご存じなのですか? 愛の女神であるサリ様を信仰する、この国や周辺国では標準的な宗教なんですよ」

「そうだったのか……」


 なんてこった…… 完全に盲点だった。

 何故私がこの世界に来たのかやっと納得できたよ。

 まさかサリ様自身を信仰している世界に落とされたとは思わなかった。

 サリ様は何も言わないし、自分が(まつ)られている世界に異変が起きているのは何か困るんだろうが……

 あの神様はやっぱりどこか抜けてるんじゃないかね?


「さあ、中へ入りましょう。ここは光属性の魔法の権威でもある大司祭様がいらっしゃいます」


 中はステンドグラスで装飾され、見た目はカトリック教会の聖堂に近い。

 礼拝堂へ行くと女神像があり、大勢の信徒さんたちが座席に座って熱心にお祈りをしている。

 申し訳ない。私はあなたたちの神様のセクシーぱんつを見てしまいました。


 女神像は本人に似ておらず、やや年増に見える。

 パティは近くにいた神父さんに声をかけた。


「すみません。大司祭様にお取り次ぎをお願いできますでしょうか?」

「あっ パトリシア様。かしこまりました。確認して参りますので少々お待ちください」


 領主の娘なうえ、パティはよくこの教会へ来ているらしいので顔パスだ。

 大司祭って説教臭いシワシワ爺さんのイメージがあるから、なんだか面倒くさそうだな。

 ――しばらくすると神父さんが戻ってきて、大司祭様は奥の部屋でお会いになるとのこと。

 私たちはそこへ向かった。


---


 大聖堂内の小部屋はテーブルと数人分の椅子があり、食事が出来そうな来客用の食堂なのだろうか。

 美術的価値がありそうな、綺麗な部屋だった。

 予想に反し、椅子に掛けて待ったいたのは、白く立派な祭服を(まと)った、若くて大変綺麗な女性が一人。

 銀髪ロングヘアーで前髪パッツン。

 肌はとても白く、なんと(あお)と灰色のオッドアイ。

 見た目からするに、この国の人じゃないのかな。

 歳は二十代前半といったところか。

 大司祭様が立ち上がると、パティは軽くカーテシーで彼女に挨拶をする。


「マルセリナ様、今日は急なことで失礼しました」

「パトリシアさん。お会いするのは久しぶりですね。あら、そちらの方は?」


 大司祭様はパティに向かってニッコリ微笑むと、すぐに私に目を向けた。


「マヤ・モーリ様です。お祖父様のところから帰る途中で強い魔物に襲われたのですが、偶然通りかかったマヤ様が助けてくださったんです。外国から旅をされてとてもお強い方なんですよ」

「それはそれは。初めまして、マヤ様。私はマカレーナ大聖堂の大司祭、マルセリナ・アルマハーノと申します」

「初めまして。マヤ・モーリと申します、マルセリナ様」


 格好を付けてボウ・アンド・スクレープで挨拶してみた。

後でパティに言われたが、男性の場合は普通に頭を下げるお辞儀で良いそうだ。

 恥ずかしい……

(※英王室に対する場合もそうらしいです)


「コホン。それでマルセリナ様。お母様にマヤ様をエクスプロレーションで見てもらったのですが、まだ他に強い力をお持ちなのに目覚めていないそうなんです。どうかマルセリナ様のお力でもう一度マヤ様を見て頂けませんか?」


「そういうことでしたか。わかりました。ではマヤ様、早速両手を出して頂けますか?」


 うっ 大司祭様に対してエッチなことは絶対考えちゃいかん。

 頭を空っぽにしなければ……

 私の両手はマルセリナ様の白絹のような美しい手に握られた。

 そして二、三分後……


「終わりました…… 何と言いましょうか、大いなる加護と潜在的な力を感じます。確かに今は魔法が使えないようですが、あなたは一体…… あなたはサリ教を信仰なさっているのですか?」

「いえ、違います。先日遠い外国からここへ来たもので…… お恥ずかしながら、サリ教を今日初めて知りました」

「そうですか…… まるで女神サリ様に護られているようなふわっとするオーラを感じましたので……」


 マルセリナ様は興味深そうな表情で私を見つめたが、美しいオッドアイのうえに美人過ぎるので、ドキッとする。

 そりゃまあ直接サリ様本人にお願いされて身体能力が飛躍的に上がっていたり。

 話がうますぎるくらい進んでいくのは女神サリ様のご加護なんだろうから、本当にそういうオーラがあるのか。


「パトリシアさん、マヤ様は大きな愛もお持ちです。彼を大事になさって下さいね」

「は、はい! マルセリナ様!」


 パティの目はキラキラだ。

 アマリアさんの時といい、中身をパティにいろいろ聞かれてしまい恥ずかしい。


「もう他に用はございませんか?」

「いいえ。ありがとうございました、マルセリナ様」

「何も無ければ私はこれで。お二人ともごゆっくり……」


 パティが応えると、マルセリナ様は軽く会釈をして部屋を退出した。

 綺麗だったなあ。彼女の方が女神っぽく見えてしまった。

 マルセリナ様はどんなぱんつを履いているのだろう。

 いやいや、神職の女性に対して(よこしま)な感情はいけない。


 パティの話では、彼女は光属性魔法である回復術の中でも、最高の回復魔法【フルリカバリー】が使えるそうだ。

 瀕死の怪我でも治せるが、かなりの魔力が必要で自分の命を縮めることもあるから滅多に使うことは無いらしい。

 金さえ積めば治すというわけでなく、社会の中で重要な人物が大怪我をすれば使うことがあり得るとか。

 ガルシア侯爵がそうなったら使うことになるかも知れないな。


 パティやアマリアさんは【ミディアムリカバリー】まで使うことが出来て、身体が切断されない程度の切り傷ならば治せるという。

 私は使えないけれど、後でパティに魔法書を見せて貰おう。

 私たちは大聖堂内の回廊を通り、美しいステンドグラスやサリ様の絵画を見ながら歩く。


「やっぱり本物のサリ様が可愛いよな」

「え? 本物って?」

「あいや、前に見た夢に現れたサリ様がもしかしたら本物かなって話で」

「まあ! サリ様が夢にまでいらっしゃるなんて、マヤ様はきっとすごいご加護をお持ちだと思いますよ!」

「そ、そうかな」


 つい口に出てしまったので適当に誤魔化したが、パティはキラキラとした目で私を見つめた。

 まあ、実際にサリ様と会ったのだから、夢を見たより本当のことである。


「さあ、次は東の街へ行きますよ。大衆向けの市場があって、とても賑やかなんです。耳族が多い場所でもあるんですよ」

「おおっ それは楽しみだ」


 猫みたいな耳がついている耳族の話は、前にパティからチラッと聞いた。

 アニメでもよく出てくる、あんな感じの猫耳娘がいるのだろうか。

 女だけ人間顔で、男は何故か本当の猫顔という謎の法則があったが、実際はそんなことないだろう。

 この目で現実に見られるなんて、ワクワクしてきたなあ。



(女神サリ視点)


 マヤさん、私のこと可愛いだなんて、えへへ。

 まあ私が可愛いのは当然なんですけれどね。

 それはそうと、私のあの不細工な像はなんとかならないかしらね。

 あの大司祭とはマヤさんの活動が進めば、いずれまた接触する機会が出てきそうよ。


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