第1話 父は語る 妹は変わる
少し間をおいて、父さんがやわらかな表情で話し始めた。
「お前たちが高校生になってからこの事は話そう、そう母さんと決めてたんだ。今まで黙ってて本当にすまなかった」
父さんと母さんは深く頭を下げた。
また一呼吸おいて口を開いた。
「父さんと母さんが大学生の時の話だ。
父さんたちはあるサークルで出会ったんだ。
たちっていうのは母さんと俺だけじゃなく、春樹の実の親にあたる二人ともそこで出会った。
名前は、春川冬華、秋山夏哉。
大学生のほとんどの時間をその四人ですごした。
本当に楽しかったよ。付き合い自体は大学卒業後も続いた。
就職してから暫くして、連絡があった。
二人が結婚するとの事だった。
父さんと母さんはよく相談に乗っていて、その報告を受けた時、はねて喜んだよ。
ただ、少しだけ不安があった。
二人自体はとても仲が良く、とても相性が良かったんだ。
だけど、周りがそれを許さなかった。
夏哉の両親がとても厳しくてな、結婚に猛反対したんだ。
『私たちが決めた相手と結婚しろ』って。
それでも夏哉は冬華さんと添い遂げる事を選んだ。
冬華さんには両親が居なかった。既に亡くなられてたんだ。このまま冬華さんを一人には出来ないと、夏哉はそう言っていたよ....
二人の結婚の報告を受けてから父さんと母さんもほぼ同時期に結婚した。
結婚から暫くして俺たちに子供が出来た。それがお前ら三人だ。
3つ子だと言われたよ。とても嬉しかった」
父さんは今日初めて泣いた。とても静かに。
どこか寂しげな笑みを浮かべ、声を震わせながらまた、口を開く。
「俺たちに子供が出来た時、ほとんど同じタイミングで二人にも子供が出来たんだ。それが春樹だよ。
そんな報告を受けてすぐだった。
夏哉が交通事故で亡くなったんだ。不慮の事故だった。
本当に悲しくて苦しかった。だけど、冬華さんの気持ちを考えると胸が痛くて仕方がない。
傷心中の冬華さんを、夏哉の両親が酷く罵ったらしい。
『お前のせいで夏哉が死んだ。あの子は幸せになるはずだった。』と。
冬華さんはみるみるうちに窶れていった。
それでも、お腹の子だけは必ず産むと、夏哉が最後に残した宝だからって。
出産の前日、冬華さんは俺と母さんに話があると俺たちを二人を病室に呼んだんだ。母さんはベッドから動けないから電話を繋げてね。
『もし、私に何かあったらこの子の事をよろしくお願いします。頼れる方がもう居ないんです』
寧ろ頼ってくれ。と何度も言ったよ。
彼女は、ありがとう、ありがとう、と子供のように泣いていた。 本当に辛かったと思う。
母さんと冬華さんは同じ病院で、同じ日に子供を出産した。
-冬華さんは亡くなった。
出産に耐えきれる程の体力が残っていなかったそうだ。
でも最後の最後まで頑張っていたと、担当医さんからそう説明されたよ。
そして彼女から春樹へ渡すようにと、預かった物があるんだ」
そうして父さんは小さなカセットテープを取り出し、僕に渡した。
「春樹が、大きくなったら渡してくれと頼まれたものだ。勿論、父さんも母さんも聞いていない」
もう涙は出なかった。
だけど、胸の奥がじわじわと熱くなるのを感じた。
「こうして、夏哉と冬華さんから託されたお前を、父さんと母さんが引き取ったんだ。
俺たちは4つ子として育てる事にした。
冬華さんと夏哉の想いを無くさないために、二人の名前から少しずつとって、お前たちに付けたんだ。
春樹、夏鈴、秋音、冬海」
暫く沈黙が続いた。
俺は深呼吸して、嘘偽り無い気持ちを二人に話した。
「俺は二人の子供で、冬華さんと夏哉さんの子で、本当に良かったと思ってる。嘘は一つもない。
これからも、今も、この先も父さんと母さんのことを愛しているし、勿論、夏鈴も秋音も冬海も。
だけど、今まで何度か思う事はあったんだ。
もしかしたら、本当の家族じゃないんじゃないか。
俺だけ血が繋がってないんじゃないかって。
見た目もそうだけど、性格とかも含めて。
でも今日の話を聞いて俺は、二人の子供で、お前ら三人の兄ちゃんで居られて、心から良かったと思う。
だから、これからもよろしくお願いします」
俺は深々と頭を下げた。心から感謝を込めて。
ここまで育ててくれた二人に、俺を産んでくれたあの二人に。
そこからは家族6人で抱き合ってワンワン泣いた。
もう兄妹不仲がどうとかじゃなかった。
そうして誕生日が終わって父と母はまた飛び立って行った。
それからすぐの話だった。
妹たちの態度が豹変した。