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4つ子の中で俺だけ血の繋がりがなかった件  作者: あーりす
第一章 妹たちの暴走が始まる?
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第11話 本当にありがとう

私は月見里さんから言われた事を、そのまま二人に伝えた。


「ごめん、明日試合なんだよね。

あたしは行けそうにないから、二人に任せてもいいかな?」


夏鈴は手を合わせて頭を下げてきた。


「私は全然問題ないよ。

秋音、どうする? 月見里さんは、出来れば一人で行った方がいいって言ってたんだけど…」


それを聞いた秋音は申し訳なさそうに私の方を見てきた。


「…っと。うーん。

私ってかなり口下手だから、楠木と会っても上手く話せないと思うの。

だから冬海、お願いしてもいい?」


こうなる事は何となく分かっていた。


「分かった。

じゃあ明日、楠木と話をつけてくるね。

何で、私たちからお兄を遠ざけようとしたのか。

どうして私たちにあんな事を言ったのか。

しっかり、彼女の口から聞いてくるよ」


「ありがとう。あたし、何も出来なくてごめん」


「冬海、本当にありがとね」


私は二人の手を取った。


「必ずお兄と仲直りしよう」



*****



雲一つない青空の下を私は歩く。


「ふーっ。暑いなぁ」


五月の初めにもなれば、そこそこ気温も高い。

頬を伝って流れる汗が鬱陶しい。


宗凛病院まではそこそこ距離があって、電車で二駅は移動する必要がある。


私はスマホで時刻表を確認する。

あと五分後に目的の電車が来るようだった。


この調子なら問題なく電車に乗れそうだ。

私は改札を抜けて、駅のホームへと向かった。




電車の中には、私以外殆ど人がいなかった。


こうして電車に乗るのもいつ以来だろうか。


昔、4人でおばあちゃん家にいったのが最後だったっけ。あの時は楽しかったなぁ。


いつもお兄が行く所について行ってたな。

また、あの頃のように仲良くなれるかな。

今日で私たちの関係は変わるのかな。


やっぱり不安は拭えない。


でも、昔以上の関係を私はお兄と築きたい。

この気持ちに嘘は一つも無い。

私は再度決心を固めた。



電車に十五分程揺られ、目的地へと着いた。


私は汗を拭って、また歩き出す。

五分ほど歩くと件の病院が見えてきた。


スマホで時間を確認する。


12時45分


私は自分を奮い立たせ、病院に入った。


カウンターの看護師さんに面会だと伝えると、すんなり通して貰えた。


月見里さんは一体どんな手を使ったんだろうか。

考えるだけ無駄だろうけど。


二階まで階段を使って上がる。

304号室と書かれた病室がすぐに目に入った。

ネームプレートには天羽春樹と書かれている。



私は意を決して病室の戸を開けた。


そこには…誰もいない?


綺麗さっぱりもぬけの殻だった。


空いた窓から気持ちのいい風が吹き込んでくる。


私は誰もいないベットに座って時間を確認する。


12時56分


一時まではあと四分か…


心臓の鼓動が速まったのが自分でも分かった。


そこから私はスマホをボーッと眺めていた。



12時57分


後三分


12時58分


後二分


12時59分


後、いっぷ…


-ガラガラッ



「春樹くん!? 大丈夫?」


顔面蒼白で病室に駆け込んで来たのは、私たちが探しに探した人物だった。


「…春樹くんは…? どうして…あなたが?」


私しか居ないことに気づいたのか、彼女は動揺を隠せない様だった。


「久しぶり。朱里ちゃん」


私がそう言うと、楠木は黙りこんでしまった。


静寂が病室を包み込む。


まるでその場の空気が凍ったかの様だった。


「…たの?」


楠木が口を開いた。

でも、声が小さくてよく聞き取れない。


「ごめん。聞こえなかった」


「騙したの?」


楠木は目に涙を浮かべていた。

思っていた反応と違って、私は声が出なかった。


「春樹くんは元気にしてるの?」


声を震わせながら楠木は言った。


「元気だよ。騙しちゃってごめんね。

どうしてもあなたに聞きたい事があったんだ」


私がそう言うと、楠木はその場で泣き崩れた。


「よかったぁ。はるきくん、しんじゃうかとおもったよぉ」


まるで子供のように泣く彼女を見て、私は罪悪感でいっぱいになってしまった。

このままじゃ聞きたい事が聞けない。


どうしたものか…


「ちょっと飲み物でも飲まない?」


私がそう言うと、彼女は少しだけ頭を縦に振った。


「ちょっとそこのベッドに座っててね」


私は急いで購買へと向かい、手頃な飲み物を二つ買った。


病室へ戻ると、彼女はベッドに座り、窓の外を眺めていた。


「はい、気に入るかは分からないけど」


私は後ろから声をかける。


「ありがとう」


彼女は笑って飲み物を受け取った。

こんな笑顔で笑う子だったんだ。


何故か少しだけ胸が痛む。


「ごめんね。騙す事になっちゃって。

でも、どうしても、あなたに聞かなければいけないことがあるの」


彼女は何も言わずに頷く。


「中学生の時の事、覚えてる?」


再び彼女は頷いた。


「じゃあ、あなたが私たちに言った事、覚えてる?」


彼女はただ一点を見つめて、動かなくなってしまった。


「別に責めている訳じゃないの。

ただ、教えて欲しいだけ」


「…った」


小さな声で囁くように何かを言っている。


「なに?」


「私は、あなた達三人が羨ましかった!」


彼女は、はっきりと、病室に響き渡る程の大きな声で叫んだ。


そのまま彼女は続ける。


「私はあなた達三人が羨ましくて仕方がなかった。

いつも側にいて、近くで笑って話して…

私には春樹くんとの繋がりが何も無かった。

あなた達のように、家族でも兄妹でもない。

血も繋がっていない」


楠木の目からは、大粒の涙が零れ落ちていた。


「私の両親は男の子が欲しかったんだって。

跡を継ぐには男の方が都合が良いって。

両親はとても厳しくて、私が何かを失敗する度にいつも言うの。


お前なんか産むんじゃなかった。

お前はウチの恥だ。って


だから私の両親は養子をとった。

一応、私の兄にあたる人物。

結局、私をののしる人が増えただけだったけど。

私には本当の兄妹が居ない。

甘えられる親も兄も姉も弟も妹もいなかった。

心から友達と言えるような人だっていない。


そんな私に声をかけてくれたのが春樹くんだった。


私が忘れ物をして困っていた時に、春樹くんだけはそれに気づいてくれて、黙って教科書を貸してくれたの。


それだけ?って思うでしょ。

私にはそれで充分だったの。

誰かが何かを私にしてくれた。その事実が本当に嬉しかった。


それから私は春樹くんの事を知りたいと思うようになった。

ただ純粋にどんな人か気になったの。


知れば知る程、本当に良い人だと言う事が分かったわ。

私以外の人が困っていても、必ず助けようとしてたから。


だから、そんな春樹くんのそば居る、あなた達三人が羨ましくて、憎くて、仕方なかった。

私にはない繋がりを持つあなた達に嫉妬した。

私が兄妹だったら…あなた達の代わりにそこに居られたら…

何度も思った。


だから私は嘘をついた。

最低な嘘をついた。


私は知っていた。

春樹くんがどんな時でも、あなた達の事を一番に考えている事を。

あなた達が、春樹くんの事を大好きな事を。


だからその信頼を利用した。


春樹くんが嫌がっているとあなた達に言えば、必ずあなた達は春樹くんから離れる。


あなた達は、春樹くんが嫌がる事を絶対にしないから。

私はあなた達4人を引き離せば、春樹くんに近づけると思っていたの。


浅はかだった。

あなた達が春樹くんから離れて、春樹くんは明らかに元気が無くなった。


全部私のせいだった。

私がつまらない嫉妬をしたせいで、全部を狂わせてしまった。


私は親の都合で、すぐにその学校を離れる事になった。


結局あなた達に謝る事もできないままに、私はその学校を去った。


高校に入学してからも、一週間も経たないうちに学校を変えられた。

殆ど親の嫌がらせだったと思う。


そんな中、春樹くんが事故にあったと連絡が入った。

昨日の事だったけどね。


だから私は今日ここに来たの。

長くなってごめんなさい」



私は、思っていたよりも驚くことは無かった。

寧ろ、少しばかり彼女に同情してしまう。


「ありがとう。ちゃんと話してくれて」


私は出来る限りの笑顔を作った。


「どうして怒らないの? 私、取り返しのつかない事をしたんだよ?」


楠木はまた涙を流す。


「泣かないで。私は、私たちは、怒ったりなんかしないよ」



「本当にごめんなさい。謝って許される事じゃないってのは分かってます。

でも、本当にすみませんでした。

一生をかけて償わせてください」


彼女は地に頭をつけて、床を涙で濡らしながら謝ってきた。


そんな彼女の頭を私は優しく撫でた。


何が正解なのか、分からなかったから。



暫くして彼女が泣き止んでから、また私は質問した。


「お兄の事、好き?」


答えはすぐに返ってきた。


「好きだよ。

でも、これが異性としてなのかは分からない。

人として、とても魅力的に思えるの」


彼女は笑っていた。

その横顔はとても儚げで、綺麗だった。

彼女はこちらを見て口を開いた。


「私、春樹くんと、夏鈴さんと秋音さんにも謝らなきゃ。

冬海さん、会わせて貰えない?」


「大丈夫。私からちゃんと伝えるよ。

だからもう気にしないで。

これは私たちの問題でもあるから」


「そっか。

本当にごめんね、もう二度とあなた達には近づかないから…

約束する」


彼女は声を震わせていた。


本当にこれでいいんだろうか…


ここまま終わっていいのかな。


私は…私は…




「朱里ちゃん。友達になろう」


「…え?」


本当に驚いたのか、彼女は声が出ていなかった。


「私たち、同じ人を好きになったんでしょ?

きっと仲良くなれるよ」


「そんなの……でも…許されないよ」


俯いたまま顔を上げない彼女に私は言う。


「私が許すよ。だから、友達になろうよ。

私とあなたは、確かに血は繋がっていないし、家族でも、兄妹でもない。

でもね、繋がりがなくても、新しい関係を築く事はできるんだよ。

血が繋がっていてもいなくても、人は繋がれるよ。

私はそう信じてる」


彼女はまた声をあげて泣き始めた。


「本当にいいの?」


「いいよ。だから、もう泣かないで」


きっと今まで辛かったんだろう。

誰にも頼れなくて一人で苦しんできたのだろう。


彼女はもう充分苦しんだ。

だからもう前を向いてもいいと思う。


「改めて、私は天羽冬海。

よろしくね、朱里ちゃん」


「…わたしは、楠木朱里。

最低でクズでどうしようもないけど、それでもいいの?」


「だから、いいって! ほら!」


私は右手を差し出す。


「…なに?」


「握手だよ。握手。友好の証ってやつ?」


頭には月見里さんの笑顔が浮かぶ。


膝の上に置かれたままの朱里の手を無理やり掴んだ。


「今日からよろしくね。朱里」


「本当に、ごめんね。でも、本当にありがとう」










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[一言] 自分が性格悪いのかもしれないけどさ、こういう女の人は人前では明るく振る舞ってるけど裏では絶対ユルサナイ…!とか言ってそう
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