第7話 元凶の捜索
私たちはここ一週間ほど、お兄と殆ど関わりがない。
それ自体はとても悲しいことだけど、今はそれどころじゃない。
私たちはとある人物を探している。
私たちがお兄から離れるキッカケを作った人物だ。
その人を見つけないと、私たちはこのままお兄との関わりがなくなってしまう。
どうにかそれを阻止しなきゃ行けない。
そもそもなんでその人を探し始めたのか。
それは、一週間ほど前の事だった。
*****☆*****
「ふーっ、これで終わりかなぁ」
私は目の前に積まれていた書類が無くなって、やっと仕事が終わった事を実感する。
朝からする仕事の量じゃないと思うのだけれど、頼まれた以上はやるしかない。
「天羽さんはよく働くねー。
そのまま生徒会長に立候補しなよ」
現生徒会長の如月華先輩だ。
内面も外面もとても美しい方で、私の憧れだ。
「いえいえ、私のような一年生が立候補したところで、どうにもなりませんよ」
私は笑って返す。
「そんな自分を卑下しなくても…
そもそもね、担任から直接推薦されるなんて異常な事なんだよ?
もっと誇りなさい」
「いえいえ、先輩からそう言って頂けるだけでも光栄です」
「ほんと良い後輩だわ…先生が君を推薦した理由もわかるよ。
お、あれは天羽さんの御客人じゃないかな?」
先輩が目をやった方向には、すりガラス越しに、見覚えのあるアホ毛がフワフワと蠢いていた。
「あ、すみません。多分私の兄妹です」
「今日はもう上がっていいよ。
それに、忙しいなら一週間ぐらい休んだっていいんだからね」
「お気遣いありがとうございます
では、失礼します」
私は生徒会室を後にした。
扉の先には、やはりいつもの二人がいた。
ただ、とても不安そうな顔をしている。
何かあったのだろうか。
「冬海。ちょっと相談があるんだけど。
今日の放課後、集まれそう? 集合場所はLINEするから」
「あたしからも頼むよ。
内容はまだ秋音から聞いてないんだけどさ、とても大事な要件ぽいし」
私はすぐにOKした。
生徒会運営よりも、家族の方が圧倒的に優先順位が高い。
「じゃあ頼むね」
「うん」
彼女たちは教室へと戻って行った。
あ、私も同じ教室なんだから一緒に行けばよかった…
*****
教室へと帰った私はまずお兄の方を見る。
席替えしてから結構離れてしまったけど、見るぐらいなら問題ないでしょ。
-目が合ってしまった
お兄は何も思っていないのか、そのままスマホに目をやる。
私ばかり意識していてバカみたいだ。
まぁ、昨日はあんな事があったから仕方ないか…
ちゃんとお兄には約束通り説明しなきゃな。
お兄は何故かずっとスマホとにらめっこしていた。
なんだろう…
「ふゆみっちー。生徒会どうー?」
「冬海さん、お仕事の調子はどうですか?」
こうなり始めたらもうお兄の方は見れない。
彼女達の相手を適当にして、学校が終わるのを待った。
適当にって言っても嫌いなわけじゃないよ?
諸々、優先順位の問題。
*****
空は淡い赤に包まれる。
「ふゆみっちー。またねー!」
「冬海さん、さようなら」
彼女達に別れを告げ、私は集合場所へと向かった。
通学路にある小さなファミレスだ。
私が入店した時、既に二人は席に座って待っていた。
「遅いよ、冬海」
「ごめんごめん、友達の相手してた」
「なら仕方ないけど…」
秋音は少し不満げに答える。
「早速本題に入るね」
「「うん」」
私と夏鈴は口を揃えて答えた。
「結論から言うと、私たちは楠木朱里を探さなきゃいけない」
「「誰?それ」」
またまた夏鈴と被った。
本当に誰だそれ。
でも、名前を聞いただけでムカつくのは何でだろう。
「あなた達本当に忘れたの?
私たちが兄さんから離れるキッカケになった人間よ?」
「「あ!」」
夏鈴も思い出したようだった。
『なんで冬海ちゃん達っていつも春樹くんにくっついているの? 春樹くん兄妹なんでしょ? ブラコンなの?』
あいつか…
私は秋音に問う。
「でもさ、秋音。
なんで今更楠木を探すの?」
秋音は少し間をおいて更に質問をしてきた。
「私たちが兄さんから離れた、明確な理由ってなんだっけ?」
「それは…兄さんが私たちを嫌って言った…あ!」
「そうだよ。そこだよ、そこからおかしいんだよ」
兄さんが私たちを嫌って言った、そのショックが強すぎて、その部分以外まともに記憶が残っていなかった。
良く考えれば兄さんが私たちを嫌と言っていた、そう伝えて来たのも楠木朱里だった。
私たちは兄さんから一言も言われていない。
「でも、兄ちゃんが本当に楠木に言った可能性もあるよね?私たちが嫌だって…」
「それはないと思う。
今日の朝、私は兄さんに好きだと言ったの。
そしたら兄さんは私に、私たちに大好きだと言ってくれたから…」
「「「はぁ」」」
私たちは三人ともため息をつく。
お兄は本当に勘が鈍くてやりにくい。
「確かにそうだね。
今でも好きって言ってくれるシスコンのお兄が、あの一番ベタベタ私たちがくっ付いていた時期に、嫌いになる訳が無いもんね」
「じゃあ、楠木はあたし達に嘘を伝えたって事?」
「そうよ、まぁ確定って訳じゃないけどね…」
秋音が答える。
「でも、楠木は何でそんなことをしたのか、何てのは言わなくても分かるでしょ?」
「そりゃあね」
「流石にそれくらい、あたしも分かるよ」
私たちは顔を突き合わせ、ニッコリと笑った。
「私たちは今丁度、それぞれ違うグループに属している、これを上手く利用して楠木を見つけ出そう」
「私は唯一自由に動けるし、後一応学級委員だから、その辺に聞いてみるよ。
夏鈴は部活の先輩とかに聞いてみて欲しい。
冬海は生徒会で少し頑張ってみて、多分本気出せば冬海の所が一番人脈広げれるから」
いつものように秋音が指示をくれた。
私たち三人は手を重ねる。
「絶対見つけて、兄さんにちゃんと謝ろう」
「そうだね兄ちゃんにはちゃんと謝ろう」
「お兄には謝らなきゃいけないね」
「「「でも」」」
「兄ちゃん
「兄さん は、私のものだから!」」」
「お兄
*****☆*****
私たちはこうして楠木朱里を探すことになった。
結局一週間経っても見つからなかった訳だけど…
楠木は住所を転々として、しかも学校もコロコロ変わってるから全然特定出来ない。
そもそも同じグループでもかなり嫌われてたみたいで、楠木の過去の友人に当たっても、皆連絡先を知らないという。
本当に困った。
夏鈴も秋音も私も使えるだけの物は全て使った。
あまり長引くと、兄さんとの約束を守れなくなる。
このままじゃまずい。
-プルルル
非通知?
私は無視しようとした。
でも、もしかしたら…
『おっ!出てくれたねぇ!』
「誰ですか…」
私は、急に馴れ馴れしく話してくるその人が、少し怖かった。
『そうだね…先輩とでもしておこうかな』