第0話 俺だけ血の繋がりがない
俺には兄妹がいる、俺を含めて四人兄妹だ。
とはいっても全員歳は同じ。つまり4つ子だ。
俺だけ男で他はみんな女。
どうやら俺が最初に取り出されたから長男らしい。
妹三人はほんとによく似ている。
まあ皆可愛い顔してるよ。
性格はバラバラだけどね。
でも昔は本当に可愛かった。
『お兄遊んで〜』×3
どこに行くにも引っ付いてきて困ったもんだ。
「昔は」というのでお気づきの方もいるだろう。
お察しの通り、あの可愛い妹達の姿はもう見当たらない。
いや見えるし居るんだけど。
見えない方が俺にとって楽かもしれない。
そう思ってしまうぐらい、俺には家に居場所がない。
盛りすぎだろ?いやいや全然盛ってない。
試しにリビングに顔出してみようか。
「あ、居たんだ。私の視界からきえて」
「兄さん、呼吸やめて貰えません?肺が腐ります」
「兄ちゃん、死ね」
こんな具合だ。
ん?今、二人ぐらい俺に死ねって言ってなかった?
こえーよ殺されるよ。
俺は部屋に籠るしかない。
だけれど、中学生までは割と普通だった。
その辺の兄妹と一緒。話す必要があれば話すぐらい。
家の近くにそこそこの進学校があって四人ともそこに進学を決めた。本当に安易だったと思う。
まあこの時はこんな事になると思ってなかったし。
仕方ない。よね?
ただ、こいつらがこうなったのは高校に入学してからだった。
何が原因かは全くわからない。反抗期かな?
タイミングもうちょい早めだったら、行く学校変えたのに。
-神はいなかった。
何とも不運な事に、俺たち四人は同じクラスになってしまった。
そんなクソみたいな奇跡が起きるだけで終わっていたならば、どれ程良かっただろう。
弱り目に祟り目とはこう言う事を言うんだろな。
その事実を知る事になるのは今から1週間後、4月24日。
俺たちの誕生日。
*****
俺たちの両親は海外に居る。
父親は銀行員で海外赴任、母親はITコンサルタントで海外勤務。
エリートまじ凄い。尊敬する
ただ、おかげさまで家には俺たち4人だけ。
毎月定期的に送られてくる仕送りでやりくりしている。
そんな父と母だが、イベント事にはやたらうるさく、誕生日は絶対に祝うスタンスらしい。
今日は俺たちの誕生日って事で、アメリカからわざわざ帰ってきた。
「「春樹、夏鈴、秋音、冬海ただいま!」」
母さんと父さんが嬉しそうな顔で俺たちを呼ぶ。
「「おかえり!ママ!パパ!」」
妹たちもめちゃくちゃ嬉しそうだ。
正直俺も、二人の顔が見れて安心した。
「どうしたー?春樹、元気ないな?」
「おかえり父さん、俺は大丈夫だよ」
「ならいいんだ!ハッハッハ!」
なんでこいつこんなに元気なんだよ。
しばらくすると机の上にご馳走が並び始めた。
バカでかい誕生日ケーキに、鳥の丸焼き、ピザetc..
本当に美味そうだ。
それにしても、今日は妹たちがおとなしい。
いつもならマシンガンのような罵倒が飛んでくるのに。
流石に両親の前では、抑えているようだ。
「じゃ!はじめるぞ!」
「ハッピーバースデートゥーユー•*¨*•.¸¸♬︎」
父の掛け声に合わせて母が共に歌い出す。
なんか恥ずかしいな。
「おめでとう!春樹、夏鈴、秋音、冬海!」
「「ありがとう!」」
フーっ
ケーキの上に刺さっている4本のロウソクを妹たちが消す。
「春樹は吹かないの?あなたロウソクの火消すの大好きだったじゃない」
母さんが小さく微笑んだ。
「もうそんな歳じゃないよ、子供でもあるまいし」
あ、まずい。もう手遅れだった。
冷たい視線を四方から感じる。いや三方か。
そうして始まった誕生日会は滞りなく進み、閉幕の雰囲気を漂わせ始めた。その時だった。
「大事な話がある」
あのいつもふざけている父親が、深刻そうな面持ちで俺たちにそう言った。
なんだ?離婚か?最初はそう思った。
ただ、今日見た感じ二人の仲は円満だ。
「お前たち四人のことだ」
父親は言うのを少し躊躇ったのか、かなりの間を開けて、重い口を開いた。
「今から話すことで俺たち家族が崩れるなんてことは無い。それに、俺と母さんがお前たちを愛している事には嘘はないし、これからも愛している」
父親は続けて言った。とても苦しそうに。
「・・・春樹、お前は俺たちと血が繋がってないんだ」
俺はその事実を聞かされた時に、不思議と驚きはなく、寧ろどこか安堵してしまった。
(やっぱりか・・・・)
十六年共に彼等と過ごしてきて、違和感を感じていた理由が分かって嬉しかった。
-だけど
-涙が止まらなかった。
分かっていたはずだった。きっと俺はこの人たちと違うんだろうな。って。
それでも、どこかで期待してしまっていた。
-本当の家族でありますように。
-自分が大好きなこの人たちと血が繋がっていますように。
そんなささやかな期待は無様に打ち砕かれてしまった。
母さんは号泣しながら俺に言った。
「ごめんねぇ春樹、ごめんね」
俺は涙を拭い、できる限りの笑顔をつくった。
「大丈夫だよ。正直、そうなんじゃないかと思ってたから」
上手く笑えているだろうか。声は震えてないだろうか。それだけが心配だった。