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(6)キラキラお嬢様のクレームと白いリボン

 翌日。


 アイヴィは早退で上がるべく、竜王都スタッフとしての業務をテキパキと済ませた。


 昨夜の事件の報告書に目を通していた上司が、苦笑いをしながら声を掛けて来る。ルシュド隊長と同年代の、気の良い中年オッサンという風だ。


「見事な『自動トラブル吸引機』ぶりだなぁ、アイヴィ嬢。お蔭で公安部や軍部は大喜びだよ。ドラゴンパワー不足で、竜隊士としての採用は不可だが、特例メンバーとして引っこ抜きたいという話が来てるんだよね」


 アイヴィはフンと鼻を鳴らした。


「今の品質管理局の受付と調査の業務だけで手いっぱいですよ、ボス。雷電シーズン中は、設備メンテナンス案件が激増するんですから」


 書類の山の間をクルクル回り続けるアイヴィに、上司がさらに声を掛ける。


「そう言えば、あれからお友達とはどうした? リリー嬢。あんなに仲良く一緒に行動してたのに、今ほとんど上層回廊から降りて来てないね?」


「今の『本人』、それどころじゃないんです」


 気の合う同僚の女子スタッフたちが口を挟んで来る。


「そう言えば髪の色、変わってるって噂ね。淡いミントグリーン系なのに、最近は濃いアッシュグリーン系とか。あの子の虚弱体質、改善したって事?」


「性格も派手になったとか。中の人が別人みたい」


 アイヴィは沈黙を守りながらも、確信していた。


 今、上層回廊からほとんど降りて来ていない『噂のリリー嬢』こそが、《化けの皮》をかぶった偽物。


 本当のリリーは、大変な怖がりで、引っ込み思案なのだ。


 大型竜体だらけの上層回廊に積極的に通い、そのうえ、そこに平然と居座るという事は、絶対に有り得ない。


 リリーの魔法の杖をスリ替え、さらに姿形をも《化けの皮》でリリーに似せた犯人が、本当のリリーの身を、あんな状況に追い込んだ張本人。ないしは、その一味。


 だが、その張本人は、『何をしたのか』という事は、決して自分からはバラさないだろう。魔法の杖のスリ替えだけでも、立派に重犯罪なのだから。


(リリーの杖を取り戻したアカツキには、覚悟しとけよ、真犯人とその一味!)


 アイヴィは怒りと気合を込めて、文書の山をドスンと棚に押し込んだのだった。


 その時。


 仕事場に面する宮殿スタイルのアーチ回廊から、高価なアクセサリー満載のキラキラお嬢様が現れた。ユレイシア嬢の取り巻きの一人。


「何て荒っぽい。これだから卑しい奴隷竜人は」


「大型タンク満杯の血液を軽く浴びせて来た腕力お嬢様が、言ってくれるじゃない。で、何の用よ」


「これ以上、セフィル様を縛らないでいただきたいの! あんたが足手まといだから、セフィル様が苦労してるのよ。そんなセフィル様を心配してるユレイシア様がお可哀想で、見てられなくて」


「は?」


 何処をどう見たら、そんな見解が出て来る?


 珍しくも、真剣に検討した後。


 ――足手まとい。


 一瞬、目の前が暗くなった。思い当たり、あり過ぎる。


 ――合点は、いった。いったけど。セフィルも、迷惑だと思ったなら思ったで、放っておいてくれれば良かったのに。


 アイヴィは早速、襟元を開いた。立ち襟の陰になっていた白いリボンが現れる。


 お嬢様が、ギンッと目を光らせる。


「な、何なの、その《風》のリボン、まさか……!」


「セフィルが巻いてったヤツだと思う。怪我してないから包帯だって要らないんだけど、そっちの方で必要なら持ってってよ」


「セフィル様の《宝珠》でもない出しゃばり女が、持つべきモノじゃ無いわ! ユレイシア様のモノよ!」


 お嬢様は急に激怒し、アイヴィの首から乱暴にリボンをむしり取り。


 御礼も言わず、サーッと走り去って行った。


 *****


「宮廷の、ほのめかし社交とか、まったく訳分からんわ。結局、あのリボンは《宝珠》に関わる暗号か何かって事?」


「逆鱗パーツの位置だから、意味はあるのかもね」


 アイヴィは予定通り実家の錠前屋に帰宅し、早くも秘密作戦の準備に取り掛かっていた。アレコレとボヤキながら。


 リリーは寝込んではいたが、これから例の尖塔に殴り込むアイヴィを心配し、そのボヤキに生真面目に応じていた。


 窓の外では、雷雨が続いている。一気に気温が上昇したため、氷柱つらら落下の警報が出たけれど、雪嵐よりは動きやすい。


 忍者の扮装をまとったアイヴィの足元では、クラウントカゲ幼体が落ち着かなげに、クルクルと回り続けている。


 業務の合間に山ほど取り寄せた『毒ムカデの尖塔44番3号』資料に、目を通す。


「典型的な作業塔ね。最上階は、ムカデ毒エキス抽出のための蒸留装置が、雷電エネルギーで稼働中。魔法の杖を隠すとしたら……パイプラインの隙間かな」


 クラウントカゲ幼体がアイヴィの足元にヒシッとしがみつき、鳴き始めた。


「きゅうきゅう、きゅう!」


「あー、分かってるわよ、一緒に連れてってあげる。双子も見つける。だけど危険だから、ちゃんと言うこと聞くのよ、ベイビー」


 アイヴィはクラウントカゲ幼体をヒョイと摘まみ上げ、忍者の扮装をまとったばかりの肩に乗せる。


 幼体はスンスン言いながらも、静かになった。リリーが苦笑しながら、ベッドから、そんな幼体に話しかける。


「双子を救出したら、一緒に厩舎へ行って、ちゃんと治療を受けてね」


「きゅう」


 そして、忍者姿のアイヴィは、遂に本番の殴り込みをかけるべく、雷雨の中へ走り出たのだった。


「いざ出陣!」


「きゅう!」

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