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(4)店前の前哨戦、近所迷惑トラブル男との対決!

 治安の悪くなりやすい下町界隈、アイヴィも、タダでは挑発に乗らない。


 町内紛争の対策用の特別な錠前を、所定の配線が走っている場所に連結しておく。かねてから兄バジルや、町内の店主たちや職人たちと相談して、仕掛けておいてあるものだ。


 手持ちの魔法の杖を使って試験用エーテルをコッソリと流し、問題なく稼働することを確認した後。


「こちとら、今日の営業は終わってるのよ、オラ! 騒音を止めんかい、近所迷惑ヤロウ!」


「オラ、ごるぁ! トカゲ泥棒、とっとと扉を開けねぇと、このチンケな店ごと城壁の外の魔境に放り出してやるぜ、ごるぁ!!」


「言い掛かり付けるんじゃないわよ、オラ!」


 ガンガンと続く破城槌のような衝撃音が途切れた。窓の外を、《風魔法》の白いエーテル光が閃く。


「我が《風雷》アタック食らいやがれ、ごるぁ」


 ドドドドガーン!


 想定外の威力。


 白い風エーテルで出来た強烈な攻撃魔法の爆発は、ガレージ扉を一瞬で粉砕し、店頭の壁がめくれ上がった。


 天然の建材を多く使っている下町建築は、《地魔法》のすいを尽くした富裕層の建築ほどの堅牢さは無い。


 カウンターの後ろまで吹っ飛ばされるアイヴィ。竜王都スタッフとして訓練された受け身を取り、シュバッと起き上がる。


「近衛隊から横流しした魔法道具でも使ってんの!?」


「ギャハハ! その青いドレスのエフェメラル、現実に居たとはな! 手錠ハメて、天井からフックで吊るして、亀甲縛りを」


「その薄汚い口を縫うわよ」


 アイヴィは魔法の杖を振り、仕掛けを起動させた。


 町内紛争の対策用の特別な錠前が、青白く光る。電撃ロック用の放電が爆発し、出入口ラインに踏み込んだ瞬間の、隊士姿の大男を取り巻く。


「ぎゃあ! シビレル!」


 大男の緑髪をまとめていた髪留めが弾け、髪の毛がバリバリ言いながら逆立った。ご自慢の悪趣味な刺青さながらの、見事なトリプルトサカ髪型だ。


 アイヴィはすかさず、首輪タイプ錠前を得意の《水砲》魔法に包み、発射する。それは正確な軌道を描き、青いエーテル飛沫を散らしながら、手品のように男の首にガチャリとハマった。


 が。


 攻撃態勢のトリプルトサカ男は歯を剥き、頭のてっぺんから雷粒と湯気を出しながら、なおも踏み込んで来る。首にハマった錠前が、電撃ロックに反応しない。


 アイヴィは間違いに気づいた。


 ――故障中の方の錠前だった! 出入口ラインで電磁的に拘束できてない!


「ヒャッハー!」


 トリプルトサカ男は、魔法の杖を、投げ縄タイプのムチに変形し。


 満を持したかのように襲い掛かって来た。


 絶体絶命……!


 *****


 次の瞬間。


 どたーん!


 トリプルトサカ男は、猛然と床面に叩き付けられていたのだった。


 床面がめり込んでいて、ヒビ割れも出来ている。恐るべき勢い。


「……なッ?!」


 トリプルトサカ男は、その後ろから出て来た謎のブーツ足に踏みつけられている。


 軽く踏みつけられただけの状況のようなのだが……そのまま、身を起こせていない。平均以上にゴツイ筋骨なのに。


 アイヴィは、頭部をガードする腕の間から、確認した。


 恐るべき対戦相手だったトリプルトサカ男を、あっさりと踏みつけて動けなくしている、謎のブーツ足の主を。


 この下町では場違いな程の、上等な……宮廷を闊歩する貴公子そのもの。


 その辺の令嬢などよりもはるかに艶やかに流れる緑髪は、今しがた手入れされセットされたばかりであるかのように、乱れが無い。竜人男性にしては線の細い印象のある美麗な面差しの中で、銀灰色を帯びたヘーゼルアイが、不機嫌そうに据わっている。


 ――風のセフィル卿。


 アイヴィは一気にむくれた。


 正直このような赤面モノの失敗は、セフィルだけには見られたくなかった。かえって、ツッケンドンになってしまうアイヴィ。


「何で、セフィルが居るのよ」


「今を時めく竜隊士の首に、電撃ロック用の錠前をハメて、この雷電の夕べに熱くやり合ってる理由は、聞かせてもらえるだろうね?」


「近所迷惑ヤロウを撃退してたのよ。茶々を入れないでくれるかしら」


「……近所迷惑ヤロウ?」


 何故か、セフィルは急に呆気に取られたような顔になっている。


「酔っ払いタップダンスの近所迷惑ヤロウ、何をどう見たら『今を時めく竜隊士』になるのよ。このトリプルトサカ、天下の禁制ビール『トキメキ』キメ過ぎて頭おかしくなってるわよ」


「トリプルトサカ?」


「そういう悪趣味な刺青してるからよ。あ、いま髪型も、そうなってる。ピョンピョコ踊りながら泡吹いてたし、美的感覚どころか社会常識さえも真剣に疑うわ」


 兄バジルが、ひょっこりと顔を出した。


「完全スルーかぁ」


「何のことよ、お兄ちゃん」


「ロリコン事件あっただろ。あの時もアイヴィ、ロリコン男の刺青のアレ、完全スルーして、一発で『あんなの、趣味じゃない』と返してさ」


「そんな事あった?」


「覚えてないだろ妹よ。トラウマ後遺症の治療で処置済みだから」


 続いて、馴染みの機動隊がドヤドヤとやって来た。近所の野次馬も加わっている。


「ややッ! もう拘束済みか! ありゃ話題の『今を時めく竜隊士』だぞ!」


「現行犯逮捕だぜ、乱暴狼藉の余罪も追加で」


「あー、あの『自動トラブル吸引機』と『不機嫌な御曹司』の二人組か、なら納得だわ」


 錠前屋の店頭の壊れっぷりを見て楽し気に笑う中年ベテラン、ルシュド隊長は、かつて近所の武官寮に住んでいた、古い知り合いだ。今は結婚し昇進もして、別の所で家を構えて住んでいる。


「おー、こりゃ『求愛の叫び』と称して、盛大にやりまくったねぇ。お年頃だねぇ」


「手錠ハメて、天井からフックで吊るした亀の背に縛り付ける、と脅して来たのよ。何処が『求愛の叫び』よ」


「それでこそ我らがアイヴィちゃんだ、イヒヒ。セフィル君のバディは、いつも予想もつかないところで、予想のつかない戦果を挙げて来るな」


 馴染みの隊長の軽口を振りかけられたセフィルは、不機嫌そうに、チラリと銀灰色の視線を返す。


 そして。


 セフィルは、大男の身体から、ようやくにして足をどけた。すっかり恐れ入った顔つきになっている大男の胸倉をつかみ、気だるげな様子で、何かをささやく。


 真面目にしていれば、それなりに好青年に見えるトリプルトサカ男の顔色が……何故か、一気に蒼白になった。


 傍で立ち会っていたルシュド隊長の口端も、ピキッと引きつっている。


 セフィルは、よほどの何かを口にしたらしいが……大型竜体ほどの鋭い聴力を持たないアイヴィには、何が何だかだ。


(どうせ、またチャランポラン言ってるんじゃないの。仲良しのユレイシア嬢との夜を邪魔しやがって、もげろ、とかさ)

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