プロローグ
──身体が熱いよぉ
黒く燃え上がる炎。それは人を一瞬にして灰にする程であり、煙を体内に取り込むだけでも身体が焼けるような感覚に襲われる。既に室内には煙が充満しており、部屋の片隅に座り込む少女の身体をむしばむ。
そんな時、大きな扉が重々しく開かれた。その扉からは数人の漆黒の兵が現れ、少女へと歩み寄る。
「ぃやっ」
刹那、漆黒の兵の一人が前へと倒れこむ。その兵の背は赤くにじみ出す。兵の後ろからは小さな人影が現れた。その者は少女へと手を差し伸べる。
「逃げるぞ!」
周りにいた兵を薙ぎ払い、門へと急ぐが、先程よりも数多の兵が待ち構えていた。その者は数人の兵を薙刀で払い避け少女を森へと逃す。
森の中は黒く燃え上がる炎と悲嘆の声で満ちていた。
その光景は灼熱の中、森を駆け抜ける少女の網膜の奥底に焼きつく。血濡れた少女を数人の漆黒の兵が追う。
──熱い、痛い、苦しいっ
「誰か……誰かっ」
呼吸を荒くし、震える少女の声は誰にも届くことなく叫びとうめき声にかき消される。
やがて、少女は力なく木にもたれかかる様に倒れこみ、漆黒の兵達は少女を囲い不気味な笑みを浮かべる。
──どこで間違えてしまったの?
「ぃや、いゃっ」
──運命の流れが狂い始めてしまった
追い詰められた少女は兵達を拒む様に後ずさり、空色の瞳に涙を浮かべる。
──この世から光の灯火が消えてしまうっ
「助けてっ」
少女は、誰にも届くことのない森の中で、ただひたすらに──助けを求めた。