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絶滅危惧種わたし  作者: 赤浪
第1章
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序章-3

 ダンジョンの大きな空間で相対していた事が幸いしたのだろう。ケンタウロスはすぐに飛び掛かるような事はしなかった。手狭な空間であれば逃げられる心配をせずに斬りつかれていたかもしれない。しかし、状況が最悪な事には変わりない。

 

 覚醒したばかりの私に攻撃手段は存在しない。この場を逃げる事すらままならないだろう。ハードダイスが相対していたままだったならば、生存の可能性はほぼ無かったと言ってよい。しかし、二匹の獣が睨みを効かせている今ならば逃げおおせる事も出来るかもしれない。


 そろそろと後退する構えをした時、ケンタウロスが跳躍した。


 重力を感じさせない跳躍で巨体を跳躍させ、前腕を振り回す。人の背丈から採寸したかの如き大剣が宙を斬る。


 ハードダイスは身をよじり最低限の動作で身を交わした。


 大剣が地を削り、凄まじい轟音と共に地面がえぐれた。あの直撃を受けては生きていられまい。ハードダイスが凶刃に倒れるのも遠くない未来の事になるだろう。


 ふと冷静になる。


 私はどうやら心の中でハードダイスに少なからぬ声援を送っていたようだ。劣勢を応援したくなるのが心理と言えばそうなのだが、それ以上に満身創痍の獣と五体満足の獣のどちらが生き残る方が、私の生存に寄与するのか考えたからだ。


 答えは考えるまでも無かった。私の生存本能が理性を抑えた。

 しかし、私には彼(何故か私はその獣を雄だと認識していた)を助力する術が無い。

 手も足も出ないとは良く言ったもので私には醜い触手しかないのだ。 


 ケンタウロスが後脚を踏み鳴らす。

 丸盾を全面に押し出す。

 大剣を槍のように突き出し、彼、ハードダイスへと向ける。

 

 突進するつもりだ。

 

 対する手負いの彼は低い唸り声を挙げて構えるが、足元がふら付いている。激しい動きで更に血を失ったのだ。私に相対した時点で限界だったのだろう。突進を避けられるとは思えない。このままでは彼を切り伏せそのまま私も蹂躙されてしまう。

 

 躊躇の時間は無かった。

 心臓が有るのか無いのか、鼓動が早くなり、物事の流れが遅くなる、

 

 と言うのはもちろん錯覚で、

 がむしゃらにハードダイスに駆け寄り彼を押し倒した私の鼻先には、既に大剣が到達していたのだった。

 

 ちょうど彼を押し倒したタイミングだったのだ。

 

 ああ。また、死んでしまう。


 しかも、今度は前世の仇を庇っての死だ。

 両親に顔向け出来ない。


 しかし、こんな姿形になったのだから元から見せる顔等無いか。


 皮肉を考え、そして大剣は、私を斬りつけなかった。


 「ーーーーガィィーーーー」


 ケンタウロスは声にならない唸りを挙げながら地を滑った。ハードダイスの失血が突進してきたケンタウロスを滑らせたのだ。これはチャンスだ!しかし、どうすればいい!


 捨て身の突進をするか迷っている内にケンタウロスは態勢を改めた。

 流石はダンジョンの彷徨う剣士、隙を見せる事無く再度剣を構える。


 しかし、ケンタウロスが滑った事により、地煙が巻き起こっていた。数秒だったのですぐに私はケンタウロスに捉えられてしまう。万事休すか。幸運も長くは続かないものだ。


 諦めかけたその時、風を斬る音がした。

 

 地煙に隠れていつの間にかケンタウロスの後背に移動していたハードダイスは一瞬の静寂を縫って飛び掛かった。


 大剣を素早く後背に回し振りかぶるケンタウロス。並みの獣の動きではない。私などが飛び掛かっては一瞬でやられてしまうだろう。




 剣士と狩人、戦いの後に息をしていたのは手負いの彼だった。

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