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エイルトロイデ海中紀行

エイルトロイデ海中紀行



 あれから太陽が3回正中した。

 距離は5〜600km位泳いだろうか?

 この身体にも慣れた。


 この世界は面白い。

 空気は私の世界に比べれば綺麗だ。

 豊かな世界。

 海には大量の魚が生息している。

 しかも美味しいものばかり。

 種類も豊富だ。

 小型から中型、大型……大型と言えば……。

 どこからか、グゥグゥ可愛い鳴き声が聞こえてきて、そちらへ向かったらドデカい魚が居た。

 慌てて逃げた。

 ……食われるかと思った。

 地上にもあんな巨大な生き物が居るのだろうか?

「まあ、グリムゲルデが普通に暮らしているようだし、私が全く敵わない敵がいる可能性はないだろう…………。」

 …………。

『油断しちゃダメだよ。あはー。』

 グリムゲルデの声が聞こえた気がした……。

「それに、この世界には私が敵わないアンフィトリテ姉が居る。」

 それだけじゃない。

 ジーグルーネ。

 普通に戦えば後れを取る事は無いだろうが………。

 あの娘は天才だ。そして抜群の運の良さ。

 姉妹達が何度となく暗殺しようとしたその全てを無意識のうちに躱していた。

 アルフィルがよく言っていた。計算できないと。

 …………。


 ん?

 何か聞こえる?また巨大な魚か?

 シャンシャンシャンシャン………。

 この音は一体………。

 何だろう?心が躍るリズムと言うか………。

 この魚の身体が高揚しているのだろうか?

 ふらふらと引きずられてしまう。


 水上に顔を出し、絶句。

「……………。」

 さっきの巨大な魚を数倍する超巨大な……………。

「生き物、なのか?」

 魂が宿っていない…。

 しかし、確実に動いている。

 近づいてみる。

「いくつか魂を感じる。」

 一つ二つ…………。

 全部で16。

「魂の集合体、なのか?」

 そう言う生き物はいる。

 主に原始的な生物だが……。

「……まずは全体把握をしてみるか。」

 巨大な身体は全長200m位。

 時速40km位で泳いでいる。筋力アップのブーストをかけても、ついて行くのがやっとの速さだ。

 肌は………。やたら硬い。しかし石系ではない。金属としか思えない。

「ヨロイ、なのか?…っ!うくっ!」

 水流に巻き込まれた。

 吸い込まれる?

 何か、やばい予感がする。

 私は力を振り絞ってその水流から逃れる。

 ……………。

 何とか、脱出。

 体の後ろの方に何か、回転する足?ヒレ?尻尾?

 とにかく何かがついていた。

 恐らくアレに巻き込まれたら私はバラバラになっていただろう。

 …………汗、汗、汗。

 音はアレから発されていたみたいだ。

 どうやら向かう先は私と同じ。

 ……………。

 しばらくついて行ったが……疲れた。

 再度水上に頭を出す。

 ………。

「何だったんだ?」

 ふと視界を何かがよぎった。

「トリ……?」

 しばらくその飛行物体を追っていると、目の前に島が見えてきた。

「フム、夜になったら上陸してみるか……。」

 私は小魚を探して、食べながら夜になるのを待った。


 辺りが暗くなるのを確認し、遠浅の湾を探す。

「これは………。」

 昼間見た超巨大な何か。

 アレのミニチュア版が7〜8個。

「すべて、魂が無い。入る隙間もない。」

 あるいは魂が入るにはあれだけ巨大に成長しないといけないのか?

 いや、その一つに魂を感じる。

 私はソレに近づく。

 獣だ。陸上の獣らしい。

 大きくはない。しかし、ハンターの匂いを感じる。

 足が4つ。尻尾と、まだらの模様。

 寝ている今がチャンス。

 …………。

 私の身長位近づいたところで身体を入れ替える。

 抵抗は受けなかった。

 私は新しい身体を操作し、頭を海面に向ける。

「ここまで済まなかったな。感謝する。」

 私は魚、…今までの身体に礼を言う。

 キュキュと、鳴き声を上げ、私の周りをクルクル回る魚。

「何だ?」

 どうやら私に礼を言っているみたいだ。

 長い間同一化していたから魂が鍛えられたか……。意思を感じ取ることができる。

 美味しいご飯をお腹いっぱいありがとう。ケンカに勝ったのは初めてだよ。色々面白い経験が出来て楽しかった。

 そんな感じだ。

 こいつ、私と一緒にいる間にどうやら知性と霊格を身に着けたようだな。

「ああ。こちらこそだ。」

 しばし名残惜しそうにしていたが、徐々に沖に向かっていく。

「少しばかりお前の身体から血肉をもらった。代わりに数年生き延びれば、進化できるようになるだろう。代価だと思ってくれ。」

「キュ!!」

 ………。

 見えなくなった。

 少し、寂寥感。

 グリムゲルデが私に植え付けた感覚。

 あいつは本当に余計な事をする。

 それまでは憑依した後は殺して終わりだった………。

 そこに何の感傷も無かった……。

 ……………。


「さて……。」

 私は先ず乗っている物を調べる。

「これは、戦車の水上版なのか?」

 にしては武器らしきものが無い。

 ハンドグリップから人間かそれに類するものの大きさが分かる。

 おいてあるものから大体の身体の構造が想像できる。

 技術知識は我々より上か。油断ならないな。

 結論。

 人間の道具だ。それも水上で使うもの。

 だったらこんなところに用はない。

 私は光が漏れるほうへ向かって歩く。

「さて、どんな人間や、霊が居るか……。」


 家。

 べトンでできた家?

 魚のいい匂いが染みついた家だ。

 中に入る……。

 何か小さい動物が逃げて行った。

 うずうずっ…。

 何だか追ってみたくなる。

 って言うか、追っていた。

 速い!

 なら…。

「加速!」

 捕まえた……。

 …………ゴクリ。

 美味しそう……。

「いただきまー……。」

 魚のたくさん入ったかごが見えた。

 家自体に魚の匂いが染みついているので見逃していた!

 ふらふらそっちへ向かう。

 小さい獣が逃げて行ったが、それ以上のごちそう。

「いただきます。」

 ぱくぱく……。

 うまうまぁ…。

 お腹いっぱい食べた。

 私の世界では魚はあまりおいしい食べ物ではなかった。この世界の魚が特別美味しいのか、今まで憑依してきた身体が魚を美味しく感じる個体だったのか…。

 ともかくお腹いっぱいになったせいか、眠くなってきた。

 隣に見える海岸。

 砂浜に下りて、中央で砂に潜って仮眠をとることにした。

 これなら空中以外どこから近づいてこられても、反応…できる。


 ZZZZZ………。




アンフィトリテ都市探訪


 退場処分をくらった私は負傷退場の恵を医務室に連れて行った。

 医務室前のベンチに座ってしばらくすると、チームメイトが戻ってきた。

「具合は如何かな?」

 心配そうなキャプテン。

「打ち身、らしいです。明日の試合には、出れそうです。」

「ああ、明日の午前、試合は断ったから。」

「へ?」

「さすがにね、…仲間を殺されそうになって皆激怒しててさ…。」

 明日の予定はさっき対戦したチームも含まれている。

 乱闘になるかもしれない。我々はこういう舞台に慣れていないのだから。

 という事らしい。

「一応、退場者を出したから、反省の為、午前は自粛するって言っておいたよ。何故か対戦相手のコーチががっかりしてたけど…。そんなにアタシ等とやりたかったんかね?」

「勝ち運でもつけたかったんじゃない?あのクソ野郎共は私達を叩きたいだけだろうしね。」

 と、副キャプテン。

「まあイイや。お前達は今日はストレッチしてから上がれ。帰ったら夕食作っておけよ。バツ当番な。」

「はい。」


 私達は体育館の隣のユースホステルへ戻り、1年生部屋に荷物を置く。

 すると、私の前にライラが仰向けに横たわった。

 どうやら煮るなり焼くなり好きにしてくれという事らしい。

「怒って、無いよ。」

 初めからね。

 むしろ、私が殴りかかったらあの選手、頭が吹っ飛んでたかもしれないし…。

 ライラが身体を乗っ取ってくれたおかげでキャプテンの力で抑えられることができた。

 それを説明する。

「エス、エス……。トゥット…ミア…。」

 だから分からないって。

 それでも謝ろうとしているんだろう……。知らんけど。

「まったく…。」

 頭を撫でてあげると、ちょっとびっくりしたようだったが嬉しそうなしぐさ。

「この部屋にある、盗聴器と、隠しカメラ。貴女の能力で、フェイク画像が、録画されてる。感謝してるよ。」

 と、入り口に掛かっているカーテンが開く。

「フィッテ、料理始めよ。」

 肩に包帯を巻いた恵が元気に入ってきた。

 このユースホステルは料理が出ない代わりに、キッチンが使える。

 本当なら3食ホスト側で用意してくれると言っていたのだけれど……。

 何故かグリムゲルデが…。


 さて、1階、フロント横にあるキッチンで…。

「あー……。」

 材料を吟味していた恵が絶望の声。

「どした?」

「持ってきた米、きれた。」

「えー…。もう?先輩方、怒るよー。」

「明日、買い出し行こ。」

「そうだね。」

 明日買い出しは良いとして、今日どうするか……。

「とりあえず、うーん…。今日はドイツ名物、黒パンと、ベーコンで……。」

 ベルタが案内してくれたスーパーで買った食材。

「いや、それ、昨日全員手を付けなかったから!」

 ベーコンはすぐ無くなったけど……。

「2年は米、1年はパンで……。」

「………非難ごうごう…。」

「どうしたの?」

 ひょこッとベルタが顔を出してきた。

「日本から持ってきた米がなくなっちゃって……。」

 恵が状況を説明する。

「パンじゃダメなの?」

「「日本人はダメなの!」」

「でも今から行っても店閉まってるし……。」

「まだ4時だよ?」

「今から繁華街へ行っても5時過ぎるから。」

「5時じゃん。」

 私の言葉に、“あー、知らないんだ”という顔をするベルタ。

「ドイツでは午後5時を過ぎたら全ての商店は時間きっちりで閉まるよ。」

 分、秒を違えず。と続ける。

「………そうなんだ。」

「えー材料見せてねー…。」

 言ってベルタは冷蔵庫と段ボールの中を見る。

「これならピザが焼けるね。あ、でもご飯じゃなきゃ……。」

「「ピザは別!」」

 ですです。

 ピザ最高。


 ユースホステルの中庭には窯があった。

 ベルタは本格的なピザを焼いた。さすが本場がお隣にある国。


 その日。

 我々は、

 コメの存在を…

 …忘れた……。



 翌日。

 私達は軽装で近郊電車(Sバーン)の駅へ向かう。

「買い物ってここから近いの?」

 駅へ向かう道すがら、ベルタにたずねる恵。

「繁華街まで5駅だから15分位かな?」

「ここは、ベルタの、地元なの?」

「ジモト?」

「ホームタウン。」

 と、英語にする恵。ああ、と頷くベルタ。

「近くはあるけど、ジモトじゃないよ。でもよく来るわ。大都会だからね。」

 早速その単語を使うベルタ。

「あ!電車、もう来てる!!」

 私達は切符を自販機で買って停まっていたいた電車に飛び乗る。

 しばらく車窓を流れる巨大な河を見ていたが電車は直ぐに地下に入って行った。

 これからしばらくは地下を走るらしい。


 目的地の駅で降りると、地上への階段を上がる。

「おおーーー………。」

 目の前の市庁舎広場を見た時の第一声。

 ザ・欧州、みたいな…日本ではありえない中世感。

 ストリートパフォーマーが、南米系の音楽を披露している。

 何もかもが目新しい。

「ねえ、ケイ、私、大きくないね。」

「……………。」

 広場にごった返している人は皆大きい。

 流石高身長の北欧圏。

「でも、私、迷子になったら多分埋もれる。ちょっと恐怖かな。」

 確かに外国で迷子になったらちょっと恐怖かも…。

「手。」

 …を繋いだ。

「HAHAHA…。」

 ベルタに笑われる。

「昔と違って携帯通じるから大丈夫。一応、はぐれたら内湖に集合。OK?」

 ベルタが指差す方向を見ると、小さな湖が見える。

「奥にカフェがあるでしょ?あそこでコーヒー飲んで待ってるから。」

 確かにはぐれてもここに来るのは容易いかも…。

「じゃ、行こうか。」

 先頭に立って歩くベルタ。

 歩いて程なく、

「あっ!」

 声を上げたのは恵。

 見れば日本とは毛色の違うブティック。

 カッコイイ系のシュッとした服飾店だ。

「ちょ、ちょっと、良いかな?」

 頷くと、恵はフラフラブティックに。

 ベルタも興味があったのか、一緒に入っていってしまった。

 …………。

 私には残念ながら興味のない分野だ。


 中に入って店員に絡まれるのもアレなので、私は植え込みに座って空を見上げる。

 と、ライラが私に特製の紙切れを渡してきた。

 会話用に私が用意した物。これならライラでも普通に触れる。

『16人、つけてくるのが居る。』

 早速翻訳機に掛けた。

「そうだね。これなら、迷子になっても、大丈夫だね。」

『邪魔?』

「ほっといていいよ。全員、眠らせても、多分、面倒になるから。」

 16人全員を一気に眠らせたりしたら……普通疑うよね。

 ん?

「〇×△□%&#$………。」

 見ず知らずの男が多分ドイツ語で話しかけてきた。

 首を傾げる。

 あ、英語に変わった。

 けど私にはまったく理解できない。

 私の英語力……。中学で3年勉強したというのに……。

 ……ぐっすん。

 じゃない、翻訳機、翻訳機……。

 また語調が変わった。フランス語?スペイン語?

 ペラペラしゃべるから翻訳機が追い付かない

『ナンパ。』

 どうやらライラはドイツ語だけじゃなく、スペイン語もある程度分かるらしい。

「ナンパかー…。めんどくさい。」

 なんて言ってたらわらわら人が集まり出した。

「うそ……。」

 ここはイタリアじゃないよね…。

 5〜6人集まり始めたところで……。

「あ、あいむ、ジャパニーズ。あい、すぴーく、おんりー、ジャパニーズ。」

 日本語しか喋れない日本人と言ってるのにむしろ人がもっと集まり始める。

 まあ、私の容姿、日本人には見えないよね。

 とか思ってる場合じゃなくて……。

 ブティックの中に逃げようとしたら………。


 突然悲鳴が聞こえ始めた。

 ギャギャ!!

 タイヤのきしむ音。

 目の前に灰色の車が停まった。

「ひゅ?」

 ドアが開いた瞬間、私は隣にいた男の服を掴んで引き寄せた。

「ヴァ!!?」

 悲鳴を上げて倒れるその男。盾の勇者、ありがとう、ごめんなさい。

 テーザーガンだった。

 直ぐに私は横に飛ぶ。

 私のいた空間に電極が2つ、かすめ飛ぶ。

「なになに??」

 何がどうなって………。

 でも身体が自然に反応する。

 何秒かしてようやく私の周りにいた男共も悲鳴を上げて散り始める。

 それらの行動が邪魔になって車から出てきた男3人と衝突。

 私は猫の様に四つん這いで車から距離を取る。

 壁を背に、立ち上がって横に移動…。

「後ろ!」

 ライラが日本語を使った。

 建物の隙間に男が居た。

 反転して伸びてきた手をひねり上げて、巴投げ。

「グヲ!!」

 思いっきり背中を石畳に打ち付ける。

「〇×□△&%$#!!」

 暴漢の一人が声を上げると、4人の男が車に跳び乗った。

 凄まじい勢いですっ飛んでいく車。

 最新鋭のローンチコントロールが付いた車なのだろう。

 あ、何人か撥ねてる。

 ……………。

「えーと…………。」

 車が停まってから何秒だった?

 …………。

 これは。

 拉致のプロ?

 …………。

「どしたの?」

 地べたにお姉さん座りをしている私にのんきに声をかけたのは恵だ。

 ブティックの袋を両手に………。

「えぇーー…………。」

 あの騒ぎに気付かなかったの?

 アナタ、大物だよ!

 うーん、こっちに警察官が走ってきてるんだけど………。


 やばいなぁ。先輩方、怒るんだろうなぁ………。

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