アンフィトリテのシンクロ
アンフィトリテのシンクロ
アルゼンチンクラブチーム戦。
14対71。
ドイツクラブチーム戦。
23対59。
アメリカクラブチーム戦。
3対92。
…………。
しかもアメリカに至っては、後半は補欠を出された上、ほぼアップと言うか……屈辱の手抜き。
ホント、コテンパンだった。
まあ、ウチの高校がここに来ること自体あり得ない事だから自然な結果と言うか………。
ケド……ものすごく悔しい。
ちなみに日本からもう1チームエントリーしている高校はいい勝負をしている。
さすが前回大会の優勝校だ。
「△〇×kす&+……。」
さっきから、と言うか付いてきて以降、ライラがうるさい。
夜なんか歌を歌ってくれて……。
よく眠れるんだコレが。
しかしこいつはホントお喋りなのだけど、ドイツ語だから一切分からない。
今も…まったく何を興奮してるんだか……。
球技はサッカーくらいしか知らないみたいだけれど、勝敗とか、得点とかの概念は分かっているらしく、私達が負けると一緒になって悔しがって…。
何か、カワイイ。
…………。
全員テンションだだ下がりでホテルに入る。
荷物を部屋に置いて、それでもミーティングを開く。
「さて、今日は散々だったわけだけど………。」
キャプテンが神妙に話始める。
「…で、意見のある者?!」
「はい。」
恵が手を挙げ発言する。
「アメリカ!アレは無理です。ハッキリ言って別次元です。数日では足元に近づくこともできません。」
始めは大人しかった恵だけど、試合に出れるようになってから、自信をもちはじめた。
特に3ポイントをごそごそ決められるようになってからは1年生のリーダー的存在になっている。
「ですから、ドイツとかアルゼンチンに勝つ……、勝てないまでも、いい勝負が出来るようになったら、この海外遠征は成功だと思います。」
「そうだな。アレは……何と言うか、無理だな。すると本多、明日からはアメリカ相手は断る事にするか?」
「そうですね。我々は自信と尊厳を失うだけですし、相手チームにも申し訳ありません。」
で、翌日からアメリカさんは2チームともご勘弁をと言ったら、何だか相手チームのコーチが慌ててた……。
お互い得るものが無いのだからむしろ喜ぶものかと思ってたのだけど……。
相手選手は鼻で笑ってシッシッて感じだったし……。
「じゃあ、対ドイツ戦だけど、由良!」
「はい?」
「お前には二人ディフェンスがついていたな。」
「はい。」
「今まではリバウンドを由良がほぼキープできたのだけれど……。」
「はい。私より、大きい人が、3人は、いますし……。」
「そうだよな、今までお前よりデカイ対戦相手は一人か二人くらいしか……。」
「って、いえ、私、大きくないですし!!」
「「「「「デカいよ!色々!!」」」」」
「デカイ!」
ライラ、お前もか!!?
ていうか変な日本語覚えるな!!
「マネージャー。リバウンド取得率は?」
「防87%、攻41%です。」
「数字自体は悪くないんだけどなー………。」
その日、対策を延々2時間位話し合った。
日が変わって。
今日は昨日と違うドイツのクラブチームが相手。
ビーーー……。
38対51。
私は直ぐにベルタの元へ向かう。
「ベルタベルタ!!さっきの人達が手抜きしてなかったか、調べてくれない?」
ベルタは笑って走っていくと、相手コーチと2〜3言葉を交わす。
手抜きはしてないと合図をくれる。
よしっ!
ベルタはさらに話し込んで、相手コーチからタブレットを借りてきた。
「皆さーん、相手コーチの寸評が入ってるタブレットを借りてきました。聞きたい人は?」
凄いな、ベルタ……。
相手のコーチさんも太っ腹!
手を挙げたのはキャプテン、私、恵、副キャプテンの4人だけだった。
「じゃあ、まずキャプテンさん。
えー……。基礎がしっかりできてる、良くも悪くも典型的日本人プレイヤー。
視野が広く、全体を見れている。昨日の惨敗から立て直す、指揮官として素晴らしいポテンシャルを持っている。惜しむらくは身長が無い。」
キャプテンは褒められていたところは少女のように素直に喜んでいたのに、最後でズーンとなった……。
「副キャプテンさん。
えーと、6番でしたよね……。
まだまだ荒削りな部分が多く、読まれやすいが、小技は磨けば武器になる。
スピードの無さを緩急で補うのが上手いトリックスター。
いかんせん身長が無い。」
同じく最初は喜んでいたのに最後でズーンとなる副キャプテン。
「次はケイ。」
「メグミです!」
「ああ、そう、それ。
チームメイトのメンタルケアを忘れない気の利くプレイヤー。
ボールコントロールがピカイチ。どこからでも3Pが狙えるが、フィジカルコンタクトに難あり。
パワーを付けて、ドリブルで斬り込んで行くことが出来るようになったら無視できない手強いSGになるだろう。」
「そ、それだけですか?身長は?」
「特に言われてませんよ。」
恵が拳を握って喜んでいたら後ろから二人に睨まれる。
「私、私は?」
「えーと、フィッテ……。
とても楽しそうにプレーしている。」
「うんうん。それから、それから?」
「それだけ。」
…………。
それだけ………。
……ズーン。orz
他に聞いていたチームメイト達も興味を持ったか、ベルタに集り始める。
このコーチが特別に凄いのか、一人一人細かいところまでチェックされている。
さらに凄いのがこれを練習試合中に編集まで済ませていること。ちなみにちゃんとマル秘部分はロックされてる。
昨日のアメリカ人のコーチの指導も凄かったけど、このドイツ人コーチは理詰めで長所短所が分かりやすい。私以外は……。
急きょ、私達はベルタにドイツ語を教えてもらう。そして全員でそのドイツ人コーチの元へ行って礼を言う。
「ヘル・メラー!ヴィア・ダンケン・イーネン・ヘルツリヒ!(メラーさん、ありがとうございました。)」
ドイツ人コーチは嬉しそうに両手を広げ、代表してキャプテンと握手をする。
肩を叩いて何かをまくしたてているのだが………。
「ベルタベルタ!」
呼ばれて慌てて翻訳するベルタ。
「えっと、君達は昨日より確実に強くなっている。伸びしろで言えば一番だよ。だから、負けても下を向かず、がんばりたまえ。それに、完成されているちょっと傲慢なアメリカチームより君達に教えている方が楽しいしね。」
後半を英語からドイツ語に変えてウィンクするヘル・メラー。
「今日はもう一試合あるんだったね。観戦させてもらうよ。………ラフなチームだから、ケガには気を付けて。」
去って行くドイツ人コーチに私達は90度のおじぎで見送ったのだった。
何と言うか、素敵な髭のおじ様だった。
チームメイトの中には一目ぼれになったのも……。
柔軟体操中にキャッキャウフフしているのでキャプテンが何度も怒鳴りつけている。
「ラフなチーム、か……。」
「何?」
ポツリと出た恵の独り言に、柔軟体操を中断して聞く。
「いや、これ言っていいのか……あの国ってさ……。あまり良い噂聞かないって言うか……。特に日本……。……何でもない。」
「えー、歯切れ、悪いなぁ。」
「ああ、うん……。とにかく、ケガには気を付けて。練習でケガって、ほんと、馬鹿らしいから。」
「……うん。」
まあ、私にケガは無いけどね。
本日二回目の練習試合が始まる。
ジャンプボール。
楽勝。
あ痛っ!早速着地で足踏まれた。
偶然?
あ、魂がいやらしく揺らめいてる。
わざとだ……。
しかも全員、何だこれ……。魂の色が形が…いびつ過ぎる。
なるほどねー……。
キモチワルイ…。
スポーツマンは綺麗な魂をしている人が多いのに…。そろいもそろって……。
でもまあこんなんで私がケガなんて……。
ん?
誰か倒れてる?
「ケイ!!」
私とキャプテンが恵の方へ向かった為、相手方に楽に2点が入った。
しかしそんな事はどうでも良い。
「大丈夫?!」
上体を起こさせ、たずねる。
「だ、大丈夫。」
「何が、あったの?」
と、キャプテン。
「肘が、みぞおちに……。」
言って喘ぐ恵。
「本多、交代だ!練習試合だ、無理はしなくて良い。」
「大丈夫です。出来ます。」
キャプテンは顔をしかめて相手方を見回す。
「いや、こいつらはスマートじゃない。無理をしたらケガをする。いいから休んどけ。」
「……はい。」
キモチワルイ笑顔……。
相手選手 ―ベンチも含めて― 全員が不気味な笑い…いや、笑顔と言っていいのか?
試合自体は我々が圧していた。
しかし……。
インターバルの間に、全員にキャプテンが聞く。
全員が2〜3回は打撃を喰らっていた。
しかしファールが取れたのは3回のみ。
このチームのウリは……ファールを取らせないのが上手い事?
なんてチームだ!!!
「どうする、キャプテン?」
自身も膝に青タンを作って聞く副キャプテン。
「普通にできれば勝てそうなんだが……、ケガはさせたくないな…。」
「日本国内じゃこんなチームにあたる事はまずないからね…。」
「しょうがない、この試合は捨てるぞ。全員ケガをしない事!!」
第二クウォーターが始まる。
日本で試合をする限りではこんなチームはまずない。
世界で活躍するチームを目指すならこんなのも経験しておかなければいけないのだろうが………。
自分がやられるだけなら良い。
でも、仲間がやられていくのをただ見ているのは……。
中盤、恵が再投入された。
恵は、こうなる事を予測していたんだね…。
どうか、ケガの無いように……。
フラストレーションが溜まる。
「ヴァルーム??!」
今まで黙っていたライラが突然そう怒鳴った。
「うっさい!何言ってんのか、分からないけど。」
私もイライラで乱暴な言葉使いになってしまう。
「ヴィゾーファゲルテストドゥニヒト!!?」
魂が繋がっているから仕返ししろと理解できるけど……。
「同じ土俵に、上ったら……。」
相手が10悪いことをして、こちらが頭にきて一回でも反撃したら、こちらが悪くなってしまう。
だから…。
我慢した。
審判に隠れてやるから、私達サイドから見ると丸見えだ。
あ、他の娘ばかり気にしてたら私のアキレス腱蹴られた……。
まったく……。
しかし、他の娘だったら……。
思うとゾッとする。
次の瞬間。
ジャンプしていた恵が、襟首を捕まれ引き釣り落とされた。
……………。
恵が後頭部から落ちていく。
………。
間一髪、私の手が恵のユニフォームを掴んだ。
床に激突するのが頭から肩に変わった。
ドスン!
…………。
「あぅっ!!」
肩を抑えて床を転げまわる恵。
………。
プッチン!!
「ヴァスゾルダスハイセン!!ファッダムノッホマーゥ!!」
ライラの怒りと私の怒りが全く同質同量であったため、ライラと魂がシンクロしてしまった……。
結果、身体がライラに乗っ取られてしまう。
『なんのつもりだ、こんちくしょう!!』
をもうちょっと下品に言った感じだろうか?
私の身体が件の選手の胸倉をつかんだ。いや、半分は私の意思か……。
「シュティアプ ウント ヴェルデ!!(死ねや!!)」
殴りつける前に、キャプテンに取り押さえられた。
ピピーーーー!!
「ディスクォリファイング・ファール!」
……え?
「退場。……だってさ。」
私の肩を叩くキャプテン。
「………退場……。」
うう………。
情けない…。
ジーグルーネがいたら
『1400歳、しょぼーん。』
とか、言うんだろうな…。
とりあえず冷えた頭で周りを見回す。
観客席含めた皆固まっていた。
私は先ず手を上げた選手に頭を下げた。
「そ、そーりー。」
フンと鼻息が聞こえる……。
続いて相手チーム。
そして審判団。
「ベリー・ソーリー。」
最後にチームメイト。
「すみません。」
「カッコ良かったゼ。」
サムズアップするキャプテン。
「アンタがやんなかったら私がやってたよ。」
言って肩を叩く副キャプテン。
「後は私達に任せなさい!」
「帰ったら米研いどいてね。」
最後に……。
「肩、大丈夫?ごめんね。」
「バカ。ありがとう。バカ。」
私は肩を痛めた恵と一緒に退場した。
と、観客席のドイツチームとフランスチームから拍手が上がる。
驚いて見てみればあのドイツ人コーチが手を振っていた。
私と恵は彼等に最敬礼をするのだった。