てーぱうぜ ・ 本多 恵の め
てーぱうぜ ・ 本多 恵の め
高岡高校の合否発表。
私、本多 恵の番号は………。
あった。
一応、自己採点の結果、大丈夫だろうと思ってはいた。
でも、やっぱり結果が目の前にあると嬉しい。
「やった……。」
「無かっ、た………。」
ふと、私と被さったその言葉に隣を見ると………。
…………。
えっと……。
目に飛び込んだのは……。
ばいーん。
………。
胸?
視線を上に…。
おっきい…………。
身長は軽く180は超えてる。
あ、見たことある人だ。
確か……。
由良…アンフィトリテ……。
去年の大会で弱小の筑間中学を県大会まで導いたエース。
「びーーー………。」
何より……。
あのアリウープ。…私は見ていた。
息をのんだ。
時が止まった。
美しかった。
鳥肌が立った。
その彼女が、まさかこの高校を受けていたなんて……。
勉強もできる子だったんだ……。
てっきり推薦で有名私学に行くものと思っていたのだけど…………。
もっとも、どうやら不合格だったようで………。
「テルーー……。」
テル?…親?名前呼びって……さすが外人さん……。
ってか親より頭一つは大きいんだけど……。
………。
不合格の時。
普通なら父親の胸で泣く少女の図。
しかしこの一家では父親を巨大な双丘で窒息させてる図?
あの、そろそろヤバげ…。
「ぶはっ!」
あ、生還。
父親に全然似てない。…母親が外人さんなのかな?
「…………。」
泣くアンフィトリテさんの頭を黙ってナデナデするお父さん。
「帰ろ。」
「うん。」
「婆ちゃんに餃子つくってもらおか。」
「うん。」
……。
声を掛けたい。
私もバスケしてたから…。
サイン欲しい……。
けど、やっぱりこんな状況でそんな事、無神経だよね。
「ちょっと、フィッテ!!」
フィッテ?
声の方向を見ると………。
息を飲んだ。
すごい美人さんだったから。
アンフィトリテさんも美人だ。
でもどちらかと言うと隣のほんわかお姉さん的な………。身近に感じる人だ。
声の、この人は何と言うか……。国を傾けそうな………。
「あったよ!!貴女の番号!」
「……え?」
「補欠合格!!」
駆け出すアンフィトリテさん。
はやっ!!地面えぐれたし。
思わず私も追いかけてしまった。
「……121310……あった。」
「…………。」
「あったよーーー!!」
お父さんと、姉?妹?に抱き着くアンフィトリテさん。
そして二人を凶悪な双丘で再度圧迫する。
…………。
ペタペタ………。
私の胸って……。
「やったよーーー……。」
びーーー……。
受かっても泣くのね…。
……。
…え?…合格?
彼女と同じ高校に行ける……?
「良かったねー。」
「ありがとう、ルネ。」
ルネさん?
「婆ちゃんに赤飯炊いといてもらおうか。」
「うん。ありがとう、テル。」
そっか。
「おめでとう。由良さん。」
つい、つぶやいてしまった。
聞かれたのか、くりんと二人がこちらに顔を向けた。
ひにゃーー。美人ー!!
すっごい、圧力……。
お父さんには聞こえなかったようだ。
「ありがとう。えっと、本多さん。」
にぱー、と、アンフィトリテさんが笑いかけてくれた。
「何で、…私の名前……。」
アンフィトリテさんは私の胸に付けてある名札を指す。
ああ、そっか。
「あの、えっと、……。」
「恥ずかしいトコ、見られちゃったね。」
まだ涙のあとが………。
「そんな……。」
「貴女も、この学校に?」
「あ、はい。合格しました。その…、通うつもりです。」
「じゃ、仲良くしてね。」
言ってアンフィトリテさんは手を出す。
握手って、きゃー。
仲良くって、キャーキャー!
「じゃあね。」
嬉しさのあまりか、思いっきりジャンプするアンフィトリテさん。
たっっかっ!!
1m以上ジャンプしてない??
あ…、ぱんつ……。
今日の日を私は脳髄にハッキリクッキリ刻み込んだ!
今日の日を私は絶対に忘れない!!
入学式。
私のクラスは……8組。
…………。
あ、アンフィトリテさんと一緒のクラスだ!
思わず握りこぶし。
教室に向かう足が自然と駆け足になる。
そして、教室に入ると……。
目立つわー。
ほとんどの男子より大きいし。
「あっ!」
アンフィトリテさんが私を見て声を上げる。
そして囲みをするりと突破して私の前に来た。
何というか、トリプルチームのディフェンス3人をかわした時がフラッシュバックされる。
「一緒の、クラス、だね。」
「あ、…はい。」
うん。わかってる。あまり気の利いた受け答えじゃないのは。
でも、無理でしょ?
いきなり、普通に………すらすら気の利いた言葉が出るなんて。
だって私にとってのアイドルなんだよ。
「あれ?もしかして、私のこと、忘れちゃった?ほら、あの、合否発表の時………。」
ちょっとのんびりした話し方。どこか、貴族とかお嬢様めいた……。
このほんわかした人があの素早い動きを………。
「あ、その、見た瞬間、その、気付いています。」
てか、この人と会って、忘れるような人がいるか?
「ごめんね。えーと……教室、入ったら、突然…囲まれちゃって……。」
あー、何か状況が目に浮かぶ…。
で、私は蚊帳にされたと……。
「初めて、ルネと、別のクラスに…なっちゃったから……。」
「ルネさん…?」
一緒にいたご家族?
「私の妹。」
全然似てなかったけど……。
ああ、確かにあの人が隣にいたら近付き難くなるわ。
「はい、着席ー!!」
担任の先生が現れた。
アンフィトリテさんと何を話していたか忘れたけど、余裕を持って入室した15分は既に過ぎてしまったようだ。
「私の席は……。」
机の上に張ってある番号と一緒の席に座る。
アンフィトリテさんとは結構な距離…。後ろの席を見ると…。
やっぱり目立つ。
つか、机ちっさ!!
「さて、皆さん、高岡高校入学おめでとうございます。」
「「「ありがとうございます!!!」」」
何というか、この学校の校風というか………。
普通の学校なら、おめでとうなんて先生から言われても無反応だろう。
しかし明治時代からあるこの進学校はこういう生徒達がそろう。
「私、担任の桐ヶ丘です。担当教科は数学。」
そして担任はそれが普通の事と……。
しばし桐ヶ丘先生の自己紹介が続く。
「……えー、では、皆さんの自己紹介もお願いしようか。同時に出席もとっていきます。」
きた!
私にとっては初日第一の鬼門。
自己紹介が中程を過ぎて私の番。
「初めまして。本多といいます。五中出身です。よろしくお願いします。」
簡単にそれで済まそうと思ったんだけど………。
「ホンダの、ケイ、さん?」
静まり返っていた教室で響くアンフィトリテさんの独り言。
…………………。
「「「「「うわはははは……!!!」」」」」
…………。
「ご、ごめ………。また、やっちゃった?」
何をやっちゃったんだ?
私のあだ名はホンダの軽に決まりました…………。
力強そうな機能性ばっちりの…………。
なわけあるか!!
まあ、おかげで私はおとなし過ぎてクラスに溶け込めなかった小学校時代の悪夢を再来させることはなくなったわけだけど………。
アンフィトリテさんのあの焦り具合から、多分悪気はなかったんだろう。
……………。
だけど何だろう?このやるせなさ………。
ちなみにこの後の7〜8人は笑いを取ろうとして滑るパターンが相次いで………。
そして、アンフィトリテさんの番になった。
「由良、アンフィトリテです。筑間中学、出身。出自は、リリア、らしいです。」
…………え??
これは全員が思っただろう。
純血大和民族とは思わなかったけど………。アメリカとか……ヨーロッパとか…。まさかあの紛争地域とは………。
らしいと言うところが……また、らしいというか……。
「1組に、妹がいます。共々、仲良くしてやって、ください。」
そして最後に締めの言葉。
「あ、こう見えて、身長は、169cmです。」
「「「「「「ウソだ!!!!!」」」」」
クラスメイトほぼ全員が口に出した。
「ひーーん………。」
普通の学校なら、おそらく腹にとどめておくことだろうが………。
かく言う私も心ではウソだと思った。
いやだって………。ありえないって………。
でも何か……。雲の上の人から、ちょっと近付いた感じがするのだった。