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3話


 「寄って集って何してる」



 茂みから現れたのは一人の男。


 装いは旅人。


 リュックサックのような大きい鞄にその上には寝袋らしきものを携え、その下には体を覆いフードさえ身に着けた黒に近い藍色のローブ。


 腰には何かの工芸品かと思うくらいの見事な拵えをした短刀。


 左わき腹の下あたりには二つの目を引く剣を持っている。


 二つは対になっているようで長さは柄から剣先まで約1mくらいの赤色と灰色の両刃剣。


 どちらも鞘に入っていて剣身は見えないが素人目に見てもそれが名剣であることが分かる。


 布で鼻から下を隠しているため、目元しか判断できないが、その顔は不細工ではないだろう。


 眠たそうにも見えるし、何かを諦めたようにも見えるその目にはこの惨状がどう映っているのだろうか。



「少女一人に六人か?」


「う、ああ……」



 隊長の頭を吹っ飛ばされ、剣も失くなった今、騎士たちは腰が引けていた。


 話すこともままならない様だ。


 こんな緊急事態に冷静なのはトラブル慣れをしているであろう姫側の方だった。



「旅のお方、お礼は致しますので助けては下さいませんか!!」


「まあさっきから見てたし知ってんだが……」


「ぐっ!!くそっこうなりゃやけだ!!」


「くそっ!」


「相手は一人だろ!こっちは五人もいるんだ!やっちまえ!!」



 三人は剣を掲げて、一人は先ほど隊長が持っていたミスリルの短剣を向けて男に向かってくる。



「…抜くまでもないか」



 男は五人の猛攻をひらりひらりと躱し続ける。


 よほどいい目を持っているのだろうか。


 それとも動きを読んでいるのだろうか。


 なんにせよ、重装備という程ではないが旅の荷物を背負ったまま騎士たちの剣を躱していく。



「くそっ何で当たらねえんだよ!!」


「こっちは五人だぞ!」


「魔法でも使ってんのかよ!!」


「…すごい」



 しかし、男は手を出さない。


 相手が諦めるのを待っているようだ。


 そんなに世は甘くない。



「…お前らじゃあ俺には一生当てられない」


「なっ舐めるなぁ……はぁ、はぁ」


「くっそが!!こうなったら……」


「え、きゃぁ!!」


「おらあ!動くなよ!この女を殺すぞ!!」



 姫を人質にするようだ。


 砂埃がついた髪を左手で握り少女の首筋に剣先を這わせる。


 姫を殺す為に追っていたはずが男を止めるために人質として生かすとは、これ如何に。


 この騎士は動転し男を止められるなら何でもよかった。



「お前ら、俺に向かってくるなら別にいいが、それは違うだろう…――『一閃(いっせん)』」


「え?」



 その漏れた声は誰からかは分からない。


 だが、ここにいる者達には共通した言葉だっただろう。


 今まで躱すだけだったはずの男は、右手で赤色の柄と鞘である剣を抜き、姫とその後ろにいる騎士に向かって踏み込み、真一文字に薙いだ。


 誰もが共倒れだと思ったが、胴を斬られ口から血を吐いて倒れていくのは騎士の身体のみ。


 姫丸ごと切ったはずだが、姫の服にも身体にも傷は一つとして付いていないが、騎士の甲冑とその中身は真っ二つに分かれている。



「な、なにが……」


「お前に教える義理はない」


「こ、こいつも斬られてなければおかしいだろう!!」



 普通は斬り分けられることなどできない。


 森の剣王に育てられ、二十歳になるまで剣を振り続ければ成せる所業なのだろうか。



「で、どうする?まだやるか?」


「く、くそがああ!!」


「まだやるのか…」



 四人の騎士は一斉に男へ向かう。


 先ほどの剣技を見ても立ち向かってくるところを見ると、この者達にも訳がありそうだ。



「じゃ、さいなら二断(ふたつ)



 男は先ほどと同じくして剣を縦に構えて振り下ろす。


 振ったのは一度だけだが、騎士にはそれぞれ身体を二等分された。


 即死である。



「な、なにが……」


「さて、お嬢ちゃん。お前にはどんな価値がある?」



 男の呼びかけにびくりと反応する身体。


 あの惨劇を見れば身体が強張るのも無理もない。


 助けを求めたとはいえ、理外の技を魅せられては自分が悪魔か何かと契約してしまったようにも感じる。


 男の言う価値とは何だろうか?


 全てを失った姫には何が出来るのか。



 全てはここから始まったのである。


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