眞の都はいと凄し 中
江喜国の主府、圏府にて、他家の家老達と合流した影奏は、眞の主府、帝都へと脚を踏み入れた。
「……」
帝都を目にした影奏は、言葉を失った。道には大小問わず石畳が敷かれ、建物には全て漆や瓦が施されている。加えて、帝都は連合国最大の都市である圏府の十倍の面積を誇り、周囲は高い壁に覆われた鉄壁の防備。国力の差は歴然であった。
「やはり、眞と和するのは正解であったな。」
苑儒家の家老(以後、苑宰)が、開いた口を何とか動かしてそう呟いた。他の家老も呟きはしなかったものの、一様に首を縦に振る。
「東国諸国の皆様ですか?」
呆気にとられる影奏達に、一人の少女が覗き込むようにして声をかけてきた。綸巾と言う、側面に渦巻き模様の書かれた帽子を被った、毛扇を持った小柄な少女だ。気の抜けたような表情をしているものの、どこか怪しい雰囲気をまとっている。
少女の問いに、影奏が答える。
「はい。雄黄国の家老、月白影奏と申します。」
その他の家老達も、影奏に続き自己紹介をする。一方、少女は愛想笑いの一つも見せず、淡々と自己紹介をした。
「大眞帝国丞相、紫音暁権です。 では、早速参りましょう。」
一行が大通りを北へ進むと、帝国の中心、帝宮が見えてきた。黒を基調とした建物の数々は、夕日が沈みきる寸前の様な、重々しい恐怖感を感じさせる。
正門を潜り、帝宮に足を踏み入れた。まずは控え室に通され、その後に帝に謁見。それが普通だ。だが、影奏達が通されたのは控え室ではなく、宿泊部屋であった。
これに疑問を覚えた影奏は、暁権に問いかける。
「紫音殿、何故いきなり此方に?」
問われた暁権は、表情一つ変えずに答えた。
「本日、帝は体調が優れません。 ですので、謁見は明日と言うことでよろしいですか?」
「分かりました。でしたら、お見舞いに上がってもよろしいですか?」
ここで、暁権が始めて笑みを見せる。だが、その笑みはどこか無機質で、とても冷たく見える。
「いえ、それには及びません。 皆様も長旅でお疲れでしょう。 ささやかですが、宴の席を設けてあります。今宵は存分にお楽しみください。」
そう言い残すと、暁権は部屋を後にした。その背中を眺めながら、影奏は首を小さく傾げる。
(何かおかしいような気が、)
影奏は口元に手を当て考え込む。
「深読みし過ぎか。」
両の頬を軽く叩き、影奏は翌日の謁見への気合いを新たにした。
だが、それから数日経っても、帝との謁見は叶わなかった。