眞の都はいと凄し 上
朝がきた。南の空から日が差し込み、雄黄の山々を照らす。そしてその光は、障子の隙間から玲祈に降り注いだ。
「んん……、あっ!見送り!」
玲祈は、眞へと向かう影奏を見送るために、日の出前から起きようとしていた。だが、玲祈が目覚めたときには既に日が出てしまっているではないか。
急いで飛び起きた玲祈だったが、その視線の先では影奏が旅支度を進めている。玲祈が起きたことを知ると、影奏は玲祈に笑みを向けた。
「まだ出立には早いですから、もう少し寝てても大丈夫ですよ。」
まだ影奏が近くにいると確認できたからなのか、玲祈は安堵の表情を浮かべた。
「今更寝てられないよ。 すぐに朝御飯持ってこさせるね。」
それだけ言い残すと、玲祈は犬のように厨房の方へかけていった。
数分後、二人は共に朝食を摂った。貝の味噌汁に玄米ご飯と焼き魚、平凡な品だけだが、当分の間故郷を離れる影奏には嬉しいようで、
「はぁ、染み渡る。」
目を閉じ、味噌汁を味わう影奏の姿は、なんとも年寄り染みている。
「なにお婆ちゃんみたいなこと言ってるの(笑)」
「そうですか?」
「うん。」
「うふふ。でしたら、姫様に養っていただかねばなりませんね。」
「安心して。いくらでもお世話して上げるから。」
微笑ましい会話に包まれた食卓。そんな楽しい時間は鉄砲玉の様に過ぎ去り、遂に影奏が出立する時間となってしまった。
門を境に、玲祈と影奏は向き合う。互いに笑みを向け合うが、玲祈の笑顔はどことなくぎこちない。
「体には気を付けてね。」
「はい。姫様こそ、無理をし過ぎないように。」
「うん。 行ってらっしゃい。」
「はい。では、行って参ります。」
お供を数人引き連れ、影奏は街道を西へと向かった。
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雄黄国の西、江喜国。その主府、圏府。多くの人々が行き交う中、影奏とそのお供の一行がやってきた。
目的は、西大陸最大の勢力、眞との国交を開く為である。
「雄宰殿、此方です。」
役所の前にて、江喜家の家老が手をあげ影奏を誘導する。
ちなみに、“雄宰”とは影奏のことである。連合国の家老達は、それぞれの主家の姓の一字の後に“宰”をつけて呼ぶのが通例である。なので、
江喜の家老→江宰
苑儒の家老→苑宰
金統の家老→金宰
と呼ぶ。
さて、影奏が到着したことで、四家老が揃った。四人は最終確認を済ませると、眞の主府“帝都”へと向かった。