お願い、私も混ぜてよね
数年前、大陸の大半を統べる准救国から独立した三つの勢力があった。
一つは中央平原を統べる銀鼠一党。精強な騎馬隊を有する戦闘民族である。
二つ目は大陸北西部の北方六国。小国の集まりながら、高い結束と戦力を有している。雌青国とは細々と交易を通じており、他の勢力と比べると准救国に対する敵意は低い。とは言え、中には反准救派がおり、油断のできない存在だ。
最後は、東方七国。白緑一族とその縁者によって固められた連合国。険しい山脈と、独自の精練された戦闘方により、准救国からの侵攻をはねのけてきた。
そして遂に、貞孫がその一つ、東方七国への侵攻を宣言した。この戦にはなんと二十万もの兵が動員されることとなった。これは、准救国の兵力の四分の三に相当する。そしてその中には、玲祈の姿もあった。
「誰かおらぬかぁぁぁぁっ! 我が君をお止めせよぉぉぉぉっ!」
宮殿の牢獄から、徳壁の声が響き渡った。徳壁は今回の侵攻に反対し、全軍の士気を乱した咎で拘留されていたのだ。
わめき散らす徳壁に頭を悩ませた看守は、意を決して徳壁に掛け合ってみることにした。
「宰相、この戦はもう止められません。 どうかお気を静めて下さい。」
「何を申す! そなたは我が軍の行軍を見なかったのか!わしは見ておらぬが、見ずとも分かるっ! 皆飢餓に苦しみ、活力のかの字も見えぬ有り様であろうっ!」
徳壁の言っていることは全て当たっていた。それが、なおさら看守を困らせる。
「確かにそうかもしれませんが、我が君がお決めになったことです。臣下はそれに従うしかないのです。」
「この不忠者めがっ! 仮にこの遠征が失敗すればどうなるっ!賊に再起の時間を与えるようなものだぞっ!」
一向に進まない言い争いに、徳壁も看守も嫌気が差してきた。すると入り口の方から、誰かの足音が聞こえてきた。薄暗い地下牢の中、看守が目をこらして見てみると、それは影晶だった。
「確か、玲祈様の側近の……。如何なさいましたか?」
「徳壁殿に是非お話ししたいことがありまして。 よろしいですか?」
「今は誰もいませんので構いませんよ。」
眼前に影晶がやって来るのを知ると、徳壁は柵と柵の間から顔を出し、怒鳴り付けた。
「この流れ者がっ! 若君に言われて様子を見に来たのだろう! わしの無様を笑いに行ってこいとでも言われたかっ!」
「違います。そもそも、姫様は若君と癒着しているわけではありません。」
「では何だと言うのだ?」
「徳壁様の謀に、我々も一枚噛ませていただこうかと思いまして。」
その瞬間、徳壁の口角が上がった。
「何のことかの?」
「惚けないでください。姫様は全てお見通しですよ?」
「はて、何のことやら。」
そう言った徳壁の顔は、何故か笑っていた。




