ここまで来たらやっちまえ
「……」
璃都の外れに集められた百人の兵を見て、玲祈は絶句していた。集められた兵は皆痩せこけており、明らかに生気がない。
「姫様、姫様?」
「あ、ごめん。」
「お気持ちはお察ししますが、ここはしゃきっとしてください。」
影晶に背中を押され、玲祈は兵の前に躍り出た。
「皆の者、これより、民を苦しめる賊を征伐する!」
「「「お~」」」
やはり返事にも力がない。初端から絶望的な状況の中、玲祈の二度目の戦が幕を開けた。
出発から一時間。目的の賊の拠点に程近い平地に到着した玲祈は、そこに陣を張った。とは言え、兵の士気は最悪。道中の役所で兵糧を支給してもらえなかったため、兵糧は相変わらず一日分しかない。
「……」
着陣からかなりの時間が経っている。その間、玲祈は一言も発さずにいた。初陣が初陣というだけもあり、戦に対する抵抗があるのかもしれない。
「お茶でも飲んで、心を落ち着けて下さい。(あら?)」
玲祈の不安を除こうと、影晶はそっとお茶を差し出す。お茶を出す瞬間、うつむき加減の玲祈の顔を覗きこんだ。その時の玲祈の顔に、不安はない。これを見た影晶は、考えを改める。
「姫様。」
「ん?」
「よい策は思い付きましたか?」
「うん、一つだけだけど……」
「でしたら、その策で行ってみましょう。」
迷うことなくそう言い放った影晶に、玲祈は驚きを見せた。
「何も言ってないのに分かるの?」
「はい。姫様は聡明なお方。最善の道を見つけておられるはずです。」
ここで、玲祈はつい不安を口にしてしまう。
「本当に大丈夫かな?」
今の玲祈の心中には、前へ進もうとする玲祈と、昔の敗戦を引きずる玲祈がいる。状況の悪さもあり、どうしても一歩踏み出せずにいるのだろう。だが、そんな不安は、影晶が振り払ってしまう。
「大丈夫です。この私が保証いたします。」
「分かったっ! すぐに始めるよ!」
「御意!」
そこからの玲祈の行動は早かった。近場の漁師から魚や※ほう肉を譲り受けると、すぐさまそれを調理し始めた。
※ほう肉……ぬっぺぽうという妖怪の肉。この世界では安価に手にはいる。




