お手紙渡しに行ってきます
「はい、お願いね。」
「確かに承りました。」
眞に宛てた書状を影奏に渡すと、玲祈は壁に寄りかかり目を閉じた。
「あぁ……疲れたぁ……」
「そうでしょう。今夜はゆっくり休んでください。」
「うん。で、明日にはもう行っちゃうの?」
「はい。三家の家老との待ち合わせ時間もありますから。」
「そう。」
そう言った玲祈は、物悲しそうな目で影奏を見つめる。これに影奏は何かを察知したらしく、玲祈に問いかける。
「なんですか?その目は?」
「別に。」
やけに態度が素っ気ない。
「そうですか。 では、私は自分の家に帰りますので、これにて。」
影奏は立ち上がり、部屋を後にしようとする。その袖を、玲祈が掴んだ。視線は影奏からそらし、頬を赤く染めてもじもじしている。
「……」
なにも言わずに袖を掴み続ける玲祈の姿は、意地らしくて何とも言えない可愛さを醸し出している。
「どうかなさいましたか?」
影奏は意地の悪い笑みを見せ、主君の反応を見て面白がっている。
「当分会えなくなるわけだし、今夜は泊まってって……」
もじもじしながらねだられては、影奏も断ることなどできない。むしろ、そんな玲祈の仕草を見ることができてご満悦のようだ。
「分かりました。では、今夜は姫様の側にいさせていただきますね。」
「うん!」
黒い空に白い湯気が昇る。城の露天風呂にて、玲祈と影奏の裸の付き合いが始まった。
玲祈の背中を流しながら、影奏は笑みをこぼす。
「どうかしたの?」
「いえ、先程の姫様を思い出してしまって。」
「もぉ、思い出さなくていいのに。」
「あれを忘れるのは無理です。 なにしろ、愛らしかったですから。」
白紙に赤い墨を垂らしたように、玲祈の顔が真っ赤になる。
「か、からかわないで!」
「うふふ、すみません。」
普段は堅物の影奏も、玲祈と二人きりの時は顔を緩ませる。この光景だけ見ていると、主従と言うよりも姉妹のようだ。
風呂から上がり、二人は寝室に入った。女中が気を効かせたらしく、部屋には二人分の布団が敷かれている。
「今夜はぐっすり眠れそ~」
玲祈は布団の上で大の字になり、そんなことを口走った。
「はしたないですよ。」
「二人きりだからでしょ?」
「駄目です。普段の行いが重要な場で出ることもあるんですから。」
気が緩んでいても、やはり影奏は影奏であった。だが、そんなお小言はお構いなしに、玲祈は影奏にすり寄り、甘え始めた。
「今夜だけはお小言は無しで。ね?」
「まったく。今夜だけですからね。」
その後、二人が何をしたのかはご想像にお任せします。