悪いけれども行ってきて
庭園に咲く大きな梅の木。そこからはらはらと梅の花びらが舞い落ちる。その花びらを手に乗せ、玲祈は風流を満喫していた。
「姫様。」
影晶がやって来た。だがその顔は、なにやら不安を抱いているように見える。
「なにかあったの?」
「それが……」
「玲祈殿。」
影晶の言葉を遮り、陛紳がやって来た。これを見た影晶は、気まずそうに口を閉ざす。一方の陛紳は、気まずそうに口を開いた。
「少し、歩きながら話したいのだが、よいか?」
「はい。」
庭園を歩く二人だったが、中々話は始まらない。気まずい空気が漂ってくる。それに耐えかねたのか、陛紳がやっと口を開いた。
「今後の身の振り方は決まり申したか?」
「まだ具体的には決まっていません。」
それを聞き、陛紳は少しばかり安堵した顔を見せる。
「そうか。ならば、准救国へ参る気はおありか?」
「……考えても見ませんでした。 ですが、何故そんなことを?」
「実は、先日准救国へ行った折り、当主の貞孫様直々に、そなたを客将として迎え入れたいと申し出があったのだ。」
「え……」
この瞬間、玲祈は思考が停止したかのように固まってしまう。准救国といえば、東大陸でも有数の大勢力。しかし、内情は悲惨な有り様だった。山賊が続出し、農地は荒れ、一揆を起こした民は問答無用で切られる。そんな所には、頼まれても行きたくないだろう。
「どうであろうか?」
だが、そんな場所へ行くことを玲祈は迫られていた。陛紳の様子から見ても、玲祈を准救国には向かわせたくないというのが、ひしひしと伝わってくる。
果たして、玲祈の返答やいかに。
「喜んで、准救国へ参りましょう。」
「っすまぬ……」
玲祈の手を握り、陛紳は膝から崩れ落ちた。そして、何度も何度も謝罪を繰り返す。
「あたしは大丈夫です。ですから、頭をお上げください。」
陛紳を慰める玲祈だったが、その胸中には何が宿っているのだろうか。




