一息ついたが休めない
縁者である雌青陛紳に温かく迎え入れた玲祈は、雌青城の広間にて、改めて陛紳に謁見した。
「久方ぶりに御座います、陛紳殿。」
三指を突き、深々と頭を下げる玲祈に、陛紳は悲哀を含んだ微笑を浮かべて返答した。
「うむ。さぞ辛い思いをなされたであろう。 当面は傷を癒し、それから今後の身の振り方を考えなされ。」
「ご高恩、感謝致します。」
謁見が終わると、陛紳自ら玲祈と影晶を部屋に案内した。だが、陛紳は少し困った顔をしている。
「まことに相部屋でよいのか?」
「はい。お世話になっている身ですので、一部屋で構いません。」
「そなたがそう言うならば、それでよかろう。 なにか不便があれば、何でも申されよ。」
「はい。 お気遣いくださり、ありがとうございます。」
挨拶を交わし終わると陛紳は広間へ戻っていき、玲祈と影晶は部屋に入る。
部屋に入るなり、玲祈は座布団に腰掛けて深く息を吐いた。その隣では、影晶が神妙な面持ちで玲祈を見詰めている。
「どうかした?」
「今の内にはっきりさせておきたいことがあります。」
真剣な影晶に影響され、玲祈も背筋を伸ばして向かい合う。
「はっきりさせたいことって?」
「姫様の今後の目標、それをお伺いしたいのです。」
「……」
この問い掛けに、玲祈は口ごもってしまった。眞との決戦前、玲祈は国を守ることを目標としていた。そして戦に敗れた後は、生き残ることを目標としてきた。だが、生き残った今、玲祈に確たる目標はない。
長い沈黙が続く。玲祈はうつむいて考え込み、影晶はそれをじっと見ている。そして遂に、玲祈が口を開いた。
「分からない。」
その返答に、影晶は少し残念そうな顔をする。
「そうですか。」
だが、まだ玲祈の言いたいことは残っていた。影晶が、そうですか、と、言い終えた直後、残っていた言葉をぶつける。
「最終目標はまだ分からないけど、目の前の目標ならあるよ。 基盤を得て、自立すること。 それが当面の目標。……こんな感じで大丈夫かな?」
きりっ、と自立すると言い切った玲祈だったが、最後はふにゃあっとした上目遣いで尋ねてきた。
頼もしいのか、頼り無いのか微妙ではあるが、影晶は笑みを浮かべた。
「最初の一歩にしては上々です。」
「!」
その優しげな笑みを見て安心したのか、玲祈も笑みを浮かべる。
「姫様の目標が定まっているとあれば、私ものうのうとしてはいられませんね。」
そう言うと、影晶は玲祈から二メートル程距離をとり、指を鳴らした。次の瞬間、畳いっぱいに魔方陣が敷かれ、その中から地図と書物が出現する。
「なにこれ?」
「東大陸の文化、歴史、作法の記された書と、勢力図です。 今夜からみっちり学んでいただきますから、そのつもりでいてください。」
影晶の口から語られた衝撃の予定に、玲祈は冷や汗をかいた。すぐに逃げようと身を翻すが、そんなことは全てお見通し。影晶に取り押さえられてしまう。
「ま、待って!」
「逃げようなどと考えないでください。」
「厠!厠にいきたいの(汗)!」
「ご安心を。魔導で排泄物は消滅させてあります。 さぁ、勉強を始めましょう。ひ・め・さ・ま」
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
玲祈の苦労は、まだまだ続くのであった。
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雌青国の東に、准救国という大国があった。この国は雌青国の主家であり、東大陸でも有数の領土を有している。
その准救国の中心である璃都に、面白い話が舞い込んできた。
“西大陸から姫君が逃れてきた”
その話を聞いた准救の当主は、不適な笑みを浮かべたという。




