近くて遠い、お隣さん
玲祈と影晶の正面にそびえる山には、周りの山と違い桜が咲いていた。それを見た玲祈は、影晶の手を引き駆け出す。
「もしかしたら、あの山にいるかも!」
「姫様!?」
「いいから着いてきて!」
三十分も走ると、山の麓に到着した。そこは実に美しい場所で、青く透き通るような小さな湖を取り囲むように、満開の桜が咲き誇っている。
その湖の畔に白い陣幕が張られており、中では数人の公家が俳句を詠んでいた。その中に、一際柔和な雰囲気を漂わせる公家がいる。その公家は短冊と筆を手に、陣幕のすぐ近くの枯れ木に駆け寄っていく。
「花なくも、若葉おいたる、枯れ木かな」
枯れ木の根本から生えた小さな新芽を詠んだ一句に、他の公家達は称賛を送っている。句を詠んだ公家は笑みを浮かべて頭をぽりぽりと掻く。すると、偶然にも玲祈と目が合った。
その瞬間、二人は駆け出し手を取り合って再会を喜び合う。
「お久し振りです! 陛紳殿!」
「おぉ、久しいな玲祈殿! 見ぬ間に麗しくなられた!
……だが、何故この時期に? 陸は繋がっていないはずだが?」
「実は……」
玲祈の悲しげな表情を見た陛紳は、大方のことを察した。
「あ……、今はその話はよい。 長旅で疲れたであろう。 すぐに城へ参ろうではないか。」
「ありがとうございます。」
温かく迎え入れてもらい、仮の住まいを得た玲祈。だが、この西大陸から姫君が逃れてきた、という噂は瞬く間に東大陸の西部に広がった。そしてこの噂が、玲祈を更に苦しめることとなる。
次回より新章、准救編開始。




