二人で仲良く半分こ
東大陸の大陸の最西端、雌青半島。数年に一度、雄黄半島と陸続きになるこの半島に、玲祈と影晶は降り立った。
中空にぽっかりとできた穴から這い出し、玲祈は砂浜に降り立つ。月明かりが辺りを照らし、背後には穏やかな波の音が響く。
「わぁ、懐かしい。」
そう玲祈は呟いた。実は、この雌青半島を治めている雌青家の開祖は、雄黄家の開祖の弟である。その為陸続きになる年には、必ず挨拶をしに行き来する仲だった。
「今夜はどこかで体を休めて、明日の朝に出発しましょう。」
「うん。」
それから二人は、浜辺の近くにあった大木の根本に身を寄せ合い、朝が来るのを待った。
ぐぅ~
と言った具合に、どこからか腹の虫の鳴き声が響いた。その瞬間、玲祈は自分の腹を押さえる。
「うぅ……」
「うふふ、可愛らしいですね。」
その隣にいた影晶は袖で口元を隠して微笑んでいた。
「わ、笑わないでよ……丸一日何も食べてなかったんだから……」
「も、申し訳……くくくっ」
「もうっ! 笑わないでって……」
ぐぅ~
玲祈の言葉を遮るように、また腹の虫が騒ぎだした。
「まぁまぁ、怒ってばかりではまたお腹の虫が騒ぎますよ。 はい、どうぞ。」
そう言って影晶は、小さな握り飯を差し出した。すると玲祈の脳裡に、数日前のあの光景が甦る。眞に敗れて逃亡する途中、影奏が握り飯を差し出したあの時の記憶が。
目を潤ませ、玲祈は握り飯を見つめ続けた。
「……」
「姫様?」
「え?」
「どうかなさいましたか?」
声をかけられ、玲祈は我に帰る。
「な、何でもないよ。」
握り飯を受け取るものの、玲祈はすぐに口に運ばなかった。半分こにすると、影晶に手渡す。
「よろしいのですか?」
「うん。」
「では、有り難くいただきます。」
一つの握り飯を分け合うという貧しい夕食だったが、それでも二人は幸せそうだった。
夜が明けると、早速二人は動き始める。まずは雌青家の当主、雌青陛紳に会わなければならない。二人は雌青半島の中心、雌青城へ向かった。
「へぇ、五歳から東大陸で暮らしてたんだ。」
「はい。軍配者になるため修行に出されました。 ご存知ないかもしれませんが、出発の五日前に姫様がお生まれになられたんですよ。」
「そうなの!」
「はい。 小さくて、とても可愛らしかったです。」
他愛ない会話をしながら歩いていると、正面から桜の花びらが舞ってきた。その花びらを掴んだ玲祈は、正面に見える山を見つめる。不思議なことにその山は、周りの山と違い桜が咲いていた。
「もしかしたら、あの山にいるかも。」




